芭蕉の視点 blog

松尾芭蕉の視点で現代のさまざまな事象を観ると、どうなるか・・・。

川畠成道コンサートを聴く 紀尾井ホール2015.9.13

2015年9月13日(日)、紀尾井ホールで開催された「川畠成道 ソナタシリーズ」コンサートに行った。毎年9月恒例となった感のあるこのコンサートも12回目。曲目は、以下の通りであった。
  1. バッハ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第3番ハ長調(未録音)
  2. ミルシティン:パガニーニアーナ(ヴァイオリン独奏のための変奏曲)(「無伴奏の世界」収録)
  3. イザイ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第4番(未録音)
  4. パガニーニ:うつろな心の主題による序奏と変奏曲(「無伴奏」の世界収録) 
  5. アンコール1)タレガ:アルハンブラの想い出(「無伴奏」の世界収録)
  6. アンコール2)エルンスト:「魔王」の主題による大奇想曲(「無伴奏の世界」収録)
  7. アンコール3)ムーンリヴァー(「川畠成道映画音楽を弾く」収録)
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 いつものように、ゆっくりステージに登場した川畠は、ヴァイオリンを僅かに調整すると、バッハの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第3番から始めた。ふくよかな風が会場全体を静かに渡っていくような気がした。難解な楽譜を微塵も感じさせない川畠の演奏は、円熟の域に達しているのだろう。様々な人生の紆余曲折をそれぞれの作曲家は、譜面に起こしている。音符と音符の行間に、作曲者の意図と人生観を感じながら、川畠は独自の解釈を加えながら全体の演奏を演出している。川畠はコンサートのプログラムに、バッハがこの曲を書いた当時のエピソードを添えている。

この無伴奏ヴァイオリンソナタのためのソナタとパルティータ(BWV1001-6)は1720年、バッハがケーテン宮廷楽長であった時代に作曲された。この頃バッハは13年間生活を共にした妻マリア・バルバラが急逝するという悲劇に直面している。一方創作活動においては多くの作品を手がけ、特に器楽曲作品の充実ぶりが際立っている。(後略) 
 バッハは、最愛の人(妻)を失うという悲しみを背負いながら、このような爽やかな曲調の作品を仕上げたことになる。川畠はバッハの苦悩を内に秘めて、音を紡ぎ出しているのである。

2曲目は、伝説のヴァイオリニスト、パガニーニ(1782-1840)のモチーフを、N.ミルシティン(1904-1992)が、パガニーニ演奏手法を様々に用いて創作したパガニーニへのオマージュのような作品である。確かにパガニーニは、ヴァイオリンの可能性を大きく広げた天才であった。川畠は、ミルシティンの思いを汲みながら、現代を生きるヴァイオリニストとして、並々ならぬ決意をもってこの作品に取り組んでいるのだろう。この作品は、最新CD「無伴奏の世界」に収録されている。

ここで休憩となる。休憩時間になった時、どこからか「私もバッハの3番演奏してみたい」という若い女性の声がした。きっとヴァイオリンを学んでいる学生だろうか。音楽は、このようにして未来に受け継がれていくのだろう。喫茶コーナーで、少し渋目のワインを飲んで第二部の開始を待つ。

第3曲目は、E.イザイ(1858-1931)の無伴奏ヴァイオリンソナタ第4番 ホ短調。川畠が、全曲無伴奏コンサートを始めたのが、2012年だから今年で4年目を数えることになった。川畠は、このコンサートを独特の緊張をもって取り組んでいることを隠さない。近ずいて来ると、緊張するという。3年前にイザイの難しい音楽を聴いた時、聞き馴染みのあるバッハと比べ少し違和感があった。しかし今日の曲には、そのような感じは微塵もない。

第4曲目は、やはりパガニーニの「うつろな心《ネル・コル・ピウ》の主題による序奏と変奏曲」。この曲は、最新アルバム「無伴奏の世界」の第1曲目に収録されている。オペラ「美しい水車小屋の娘
」のアリアを、パガニーニがヴァイオリン曲に編曲したものだという。ピチカートやハーモニクスなどの奏法を駆使した難曲だが、それを難なく弾きこなす川畠成道を空中ブランコを見守るように観ている自分がいた。

アンコールは三曲。最初は「アルハンブラの思い出」、二曲目は「エルンスト:「魔王」の主題による大奇想曲」このふたつは、いずれも最新アルバム「無伴奏の世界」に収録されている作品。最後の曲は、映画音楽「ムーンリヴァー」だった。

コンサート全体の感想は、閑静な部屋にいて芳醇なウイスキーを飲むがごとき印象だった。彼は演奏家としての絶頂期を迎えつつあるのだろう。今日のコンサートを聴いて、川畠成道というヴァイオリニストが、今後どんな方向を目指してゆくのか、少し明らかになったような気がした。それはヴァイオリンという楽器の可能性をどこまでも追求する技巧第一の演奏家である一方、あくまで歌心を忘れず人の心に優しく語りかける聴き手第一の演奏家であり続けるという相矛盾する二つの方向のように思われた。それはそのまま音楽家としての川畠成道自身の自己実現の道に他ならない。今後の川畠成通氏の活躍に期待したい。

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  最新アルバム「無伴奏の世界」

川畠成道X新垣隆 最新CD「無伴奏の世界」を語る

川畠成道の最新CD「無伴奏の世界」が、8月19日(2015)に発売された。

このアルバムには、古今東西の無伴奏ヴァイオリンソナタに混じって、話題沸騰の作曲家新垣隆が「無伴奏ヴァイオリンソナタ嬰ハ短調創造」を、かつて桐朋学園大学の一学年後輩にあたる川畠のために書き下ろした作品「無伴奏ヴァイオリンソナタ創造」が収録されている。第5楽章に及ぶこのヴァイオリンソナタ「創造」は、現代音楽を中心に作曲活動を続ける新垣隆が、自己の能力とその音楽の可能性を世に問う作品である。

本動画は、CDの発売直後の8月20日、三軒茶屋サロン・テッセラで、行われた記者会見の模様である。この中で、二人はこの問題作「創造」ができるまでの経緯を包み隠さずに語っている。

新垣は、「自分にとって、ソナタを創ることは交響曲を作曲するに等しく、ヴァイオリニストにとっては、交響曲をひとりで演奏するに等しい」と語った。

単なる友情で片付けられない二人の芸術家の魂のぶつかり合う音が、まさにこの楽曲からは聞こえてくるようだ。

 

泉岳寺市民講座NO2 五十嵐敬喜氏講演「真鶴・美の条例と泉岳寺」

2015年2月15日(日)、高輪泉岳寺で「第一回市民特別講座 泉岳寺から日本の風景・景観を考える」(主催:国指定史跡­・泉岳寺の歴史的文化財を守る会、後援:日本景観学会)が開催されました。

二人目の講­師は、法大名誉教授で景観学会会長の五十嵐敬喜氏。泉岳寺の中門脇に24mのマンションが建つ計画に対して、泉岳寺の価値というものは、ユネスコ世界遺産に登録可能なほどの価値がある。そのためにも、寺の入口にあたる中門脇のマンション建設は阻止しなければならないと終始一貫訴えてきた。

今回の講演では、立法学の専門家の立場から、神奈川県真鶴町まちづくり条例(通称:美の条例 1994)を作った経緯について説明した。考えてみれば、今から21年前、日本における景観法の先駈けとなった美の条例であるが、このエッセンスを各地域が学ぶことになれば、泉岳寺の門前に24mのマンションが計画されるような笑えない悲劇は、二度と起きることはないであろう。

 
ギャラリー
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