MUSICUS!のレビュー。
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各10段階評価
シナリオ…9
キャラクター…10
絵…8
エロ…4
音楽…8
システム・演出…5
総評…9

【感想】
MUSICUS!、正直に言うと不満点はあれどシナリオの良さで惹きつけられる作品と言った所でしょうか。
α版をプレイしてこれは化けると思ってCFに出資したのですが、予想通りにシナリオの出来が良かった。
今回はキラ☆キラ以来の瀬戸口廉也復帰作品且つ、オバドラ最終作という形で製品化されたのですが随所にキラ☆キラの要素が見受けられる所が特徴的ですね。
スタジェネの八木原に見初められてロックの世界に足を踏み入れる所なんかはキラ☆キラの序盤の流れを彷彿とさせる展開で色々と懐かしかった。
一方で、キラ☆キラから時代が進んで様々なインターネットサービスが普及したこともあって、今作ではそういう時代の変化を感じ取れる作品にもなっています。
ツイッターやインスタグラムでの宣伝や動画サービスでのライブ配信等、時代に合わせたバンド活動を上手く描いていました。
昨今ではエロゲでも珍しくなったビジュアルノベル形式を採用していますが、台詞や地の文が長い瀬戸口廉也氏の特徴を上手く活かす意味でもビジュアルノベル形式が一番合っていましたね。
キラ☆キラの時はそんなに感じなかったんですが、今見ると無駄に長文多くて難解になってるしくどい所も有るなと感じます。
それでも、妙に惹きつけられてしまう所は瀬戸口廉也氏の個性がよく表れていますね。
今回のMUSICUS!は発売前に瀬戸口廉也氏がキラ☆キラでやり残したことをやり遂げたいとかそういう事を開発日誌で語っていたのですが、キラ☆キラとはまた違う方向でバンド音楽モノとして上手く纏まっていたというのが個人的な印象でした。
キラ☆キラは最後の部活動の一環として始めたバンド活動から成り上がっていく物語な一方で、MUSICUS!は他所のバンドに所属してから改めて自分のバンドを立ち上げて仲間集めして知名度を上げていくという地道な物語というのが大きな違いでしょうか。
これまでのオバドラ作品の中でも、バンド活動を主軸とした作品の中では一番王道的な展開になっていると言ってもいいくらいでしょう。
また、元々定時制の学校に通う身分だったとは言え、基本的に主人公も既に成人しているのでライブ後の打ち上げも描かれているのが今作で良かった所。
これまでのオバドラの作品でも、酒が入った打ち上げの光景ってあまり描かれてなかった気がするので、今回はその部分も上手く描写していた感じです。
やっぱり、MUSICUS!をプレイしているとバンド活動って良いなと思いますね。
特に今回は最初の段階から徐々に築き上げていく展開なので、バンド仲間と一心同体になるような連帯感が良かったし、三日月ルートでようやくメジャーデビューした時は感慨深かった。
主人公の元に集まった個性的なバンド仲間が主人公と共に大きな目標を成し遂げていく展開は王道的であっても好きな展開ですね。
一方、死生観も上手く物語に絡ませていて、弥子ルート以外では物語の根幹を成していると言っても過言ではないでしょう。
キラ☆キラでも死生観を物語に絡ませていたのですが、今作ではそれ以上に死生観が大きく物語に関わってくるという感じですね。
人間としての生き方と音楽の在り方、この二つを問うような所もまた今作のメインテーマというべきしょうか。
だからこそ、より物語に入れ込みやすかった部分もあります。
中でもバッドエンドルートはある意味で作品でも最も強く印象に残った展開でした。
詳細は後述しますが、このルートだけはかなり入れ込みましたね。結末が分かっていてもクリックする手が止まらなかった。

以下、個別ルートの感想。
まずは弥子ルート。
弥子ルートは正しく青春群像劇という言葉が相応しい展開でした。
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全ルートの中で唯一主人公がDr.Flowerを立ち上げずに元の学校生活へと戻っていく展開なのですが、金田の一言によって何の因果か今度はクラスメイト全体でバンド活動することになったというのが主な展開ですね。
主人公以外は碌に経験の無いド素人集団という中で、唯一の経験者である主人公がリーダーとしてクラスメイトに指示を飛ばして文化祭に向けて練習を重ねていくという地道な展開。
年齢は勿論の事、それぞれが抱える事情も異なる中で、文化祭で全日制の学生を見返してやるという一つの目標に向かってクラスメイトが一体となっていく展開は第二文芸部結成の頃を彷彿とさせて胸が熱くなった。
最初の頃は仕方なく教えていた主人公も、いつしかクラスの中で一番熱心になっていくという所もまた主人公の変化を示していて良かったです。
特に象徴的なのがここかな。
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折角スタジオを借りて練習しようとしてたのに、徐々に集まりが悪くなって練習の意味がなくなった所で主人公がキレて他のバンドメンバーに課題を出した所は主人公が本気で取り組んでいることの証ですね。
主人公が本気の覚悟で挑んでいるのが他のバンドメンバーにも伝わって、ようやく全体が文化祭に向けて本気で取り組むようになっていく所も熱い。
こうやって蟠りも解けて学校での合宿という学生らしい展開も有って、アクシデントでボーカルが未来から弥子に変わっても無事に文化祭をやり遂げた所は感慨深かったですね。
その過程で主人公と弥子が付き合い始めて、皆が卒業してそれぞれの道を歩み始めるという〆で良い印象のまま終われた。
また、弥子ルート以外では主人公が定時制の学校を中退して金田と共にDr.Flowerを立ち上げる展開になっていくのですが、弥子との最後の別れのシーンは先に弥子ルートやっていた事もあって色々と切なかったですね。
主人公が退学の意思を学校側に伝えて、そこでばったりと弥子と出会ってしまいそのまま二人で最後の会話を交わすことになるんですね。
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そこで弥子が自分の想いを主人公に伝えるけど、主人公はその想いに応えられないと断って二人が別々の道を歩み始めるという最後の別れのシーン。
分かってはいたけど、弥子ルート以外ではもう弥子との接点は生まれないんだなとこの時点で認識しましたね。

次にめぐるルート。
花鳥風月のベーシストとして活躍し、Dr.Flowerへの移籍後も不動のベーシストとして存在している香坂めぐるのこれまでの生い立ちや朝川周との関わりがメインとなります。
アイドルとしてのめぐるの過去が掘り返されたこと、また朝川周の存在が主人公に知られたことでこれまで一斉明かさなかっためぐるの過去が明かされるようになるのがめぐるルートの主な展開ですね。
幼い頃にスカウトマンに誘われたことがきっかけでモデルをやるようになっためぐる。
しかし、母親の過剰な干渉と、本当は嫌だけどそれに応えようとするめぐるの建前と本音が見え隠れするようになって、徐々に仕事が辛くなっていっためぐるの過去が語られます。
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本当は自殺しようと考えていたという所にどれだけめぐるが追い詰められていたのがかよく分かります。
そんな追い詰められていためぐるを救ったのが朝川周という人物で、ここでようやく朝川周との接点が生まれてくるという感じでしょうか。
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朝川周が奏でるギターの音色に魅せられ、それから朝川周にギターとベースを教えてもらい自らの生きる道を見出しためぐる。
しかし、時が経ちガンを患い孤独のまま最期の時を迎えようとする朝川周の姿を見て時折姿を見せるようになったというのがこれまでめぐるの経緯。
これまでの人生全てを音楽に捧げ、偉大な音楽プロデューサーとして尊敬された人物でも最期は碌に看取ってもらえないという惨めな末路になってしまった朝川周の姿は色々と考えさせられるものがある。
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自らが起こした詐欺事件で家族や親しい人物は皆見限ったので自業自得な側面は強いんですが、こういう台詞を見ると全てを悟って諦めきってしまった寂しい老後を送る老人にしか見えないですね。
そして、ガンも進行していく中で認知症も起こすようになり、主人公は元よりめぐるの姿さえも分からなくなって只管家族を求め続ける朝川周の姿は最早普通の老人と変わらない。
音楽に捧げ続けてきた己の人生への後悔と、家族を第一に出来なかったのにそれでも尚最期は家族に看取ってほしいと願う心境は朝川周自身の本心を吐露したものでしょう。
そんな朝川周へ自分達の思いを伝えるためにネット中継されるライブ会場で朝川周の曲を演奏することになるのがめぐるルートの転機となる所でしょうか。
市民ホールでのライブで朝川周へと呼びかけ、朝川周の曲を自分達で演奏して朝川周唯一人に思いを伝え、それが朝川周本人にも伝わっていた所は本当に良かったなと思いました。
その後、朝川周が最後の輝きとばかりに元気を取り戻してバンドメンバーの演奏にケチをつけながら自身もまたライブをやりたいという台詞を残してゆっくりと眠りについた所がめぐるルート最後の締めくくりでしょう。
最早虫の息になっていたけど、最期の瞬間に絶交していた筈の家族も駆けつけて朝川周の最期を看取って遺骨を引き取った所はようやく朝川周の願いも叶えられたという所でしょうか。
めぐるルートは音楽に捧げ続けてきた人物の最期の瞬間と、これまで歩み続けてきた自分の人生を振り返る展開だったと言っても過言ではないでしょう。
このルートから死生観も大きく関わるようになり、人の死というものについても大きなテーマとなっています。

次にバッドエンドルート、もしくは澄ルート。
このルートは作中でも最も強く心を揺さぶられる展開でしたね。
公式サイトでも一切告知していない隠しヒロイン、澄が登場してDr.Flower解散後の主人公を支えていく展開になります。
新たに風雅がドラマーとして仲間に加わり、インディーズバンドとして成長してきたDr.Flower。
そこに三日月へのソロデビューの話が舞い込んできて、主人公が三日月にソロデビューするように促した後の話がバッドエンドルートですね。
これまでずっと続けてきたDr.Flowerも解散し、主人公が駅前で弾き語りをするようになり澄と出会うという所でしょうか。
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貧乏生活で碌に金の無い主人公を心配して毎回のように弁当を差し入れするけど、主人公自身の事は聞いてこないから主人公も澄に対してだけは楽に接するようになります。
そうして二人の距離感が縮まり、主人公がこれまでの経緯を話して二人で同棲生活をするようになっていきますが、同時に破滅へと向けてひた走るようになる所がこのルートの恐ろしい所です。
最初の頃は様々な形でライブ出演してたけど、それも徐々に数を減らして碌に出ないで作曲活動に専念するようになり、澄ですらもぞんざいに扱うようになっていく主人公の姿が描かれています。
澄もまた主人公が作る曲が好きだから、ぞんざいに扱われても主人公を支え続けようとする所が最終的に悲劇に繋がったと言えるでしょう。
α版をプレイした当時から主人公が花井是清と同じ心境に至る展開が用意されているだろうなと思っていましたが、このルートが正しくそうですね。
花鳥風月の曲を聴いて涙を流していた程だったのに、同じ曲を聴いても感情が全く動かなくなった所は如実に主人公の変化を示しています。
だからこそ、自分以外のことには全く関心を寄せなくなり、澄が妊娠しても手間を考えて堕胎するように勧める所も真の意味で澄を愛していなかったことが分かります。
この時点でその後の結末がどうなるかある程度読めていたんですが、実際にその展開になると心臓が飛び出るくらいに衝撃を受けましたね。
主人公が自殺しようとした矢先に澄が交通事故で亡くなり、遺体と対面する場面から心臓の動悸が収まらなかった。
自分のことしか見えてなかった主人公の破滅の結末であり、一番エグい結末でもありました。
スタッフロールで澄が亡くなった後でも構わず作曲ばかり続けている主人公の姿が映し出されていて、死ぬまでこの光景は繰り返され続けるんだろうなとも思いましたね。
バッドエンドルートが終わった後、あまりにも衝撃的すぎて暫く動悸が収まらなくて、翌日まで憂鬱な気分を引き摺ってました。
分かっていてもどんな結末を辿るのか知りたくなってクリックし続けてましたが、これは間違いなくバッドエンドと呼べる展開でしたね。
キラ☆キラのきらりバッドも中々の鬱展開でしたが、今作のバッドエンドルートは個人的にそれ以上とも呼べるくらいにストレートに刺さる鬱展開でした。
ここまで心を揺さぶられたのは最近ではあまり無かったので、それだけこの作品にのめり込んでたんだなと実感しましね。

最後に三日月ルート。
バッドエンドルートとは正反対にDr.Flowerとしてメジャーデビューしてバンドメンバーと共に成功を手にする展開ですね。
同様にソロデビューの声がかかった三日月に対してバンドに残るようにように主人公が要請して、そのまま三日月がバンドに残ることになります。
そして、ホームにしていた阿呆船が閉店するということで閉店ライブの出演が決まったものの、閉店ライブからの流れでそのままワンマンライブの開催へと繋がる形なり、そのワンマンライブの成功が結果的にDr.Flowerのメジャーデビューを後押しする形になったという感じですね。
夢のメジャーデビューを果たし、インディーズ時代との勝手の違いに戸惑いつつも憧れの舞台に立つ昂揚感がそれぞれ描かれていたのが特徴的でした。
三日月ルートはメジャーデビューという夢が叶った瞬間と、そこからある事件によって活動休止に追い込まれてしまう悲劇、そして復活の武道館ライブという最後の締めくくりで二転三転するような波の有る展開でしたが正に三日月ルートに相応しい展開だったと思います。
何と言っても、三日月自身の危うさと、自身が傷ついても尚立ち上がる精神的な強さの双方が上手く描かれていたのが三日月ルートの特徴的な所でしょう。
メジャーデビューして、三日月自身の独特の容姿と言動が注目を集めてどんどんと仕事が舞い込んでくるようになったのとは対照的に、三日月自身の心は前よりも冷え切っていくようになっていきます。
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自身の歌で多くの人に伝えたかった筈なのに伝えられていない。それが三日月の心との矛盾を生んで、自殺すら考えるようになった事を考えれば如何に三日月自身の心に負荷がかかっていたかというのが分かります。
結果的に主人公が壊れかけた三日月の受け皿になることで三日月も新たな決意をして乗り越えたという所でしょう。
しかし、そんな新たな決意も三日月への傷害事件の発生でバンドとしての活動休止に追い込まれ、三日月自身も大きな傷を負うことに。
休止期間中、トラウマによって歌えなくなった三日月は主人公と共に音楽活動から離れて穏やかな時間を過ごすという展開に。
正直、三日月ルートはここで終わるのかと思ってたんですよね。メジャーデビューして一躍時の人となったけれども、結果的に三日月自身が望んでいたのはささやかながらも幸せな生活だったとかそういう展開で幕引きを図るのかと思っていました。
ここで終わらずに三日月の復活まで描ききったのが三日月ルートの上手い所なんですね。
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スタジェネ一夜限りの復活で心を動かされた三日月が自分も歌声だけで人の感情を動かしたいと思うようになり、自発的に駅前で歌うことで自身のトラウマを克服した所は三日月自身の心の強さを示しているのよう。
自身の歌声で皆を喜ばせたい。そういう三日月の純粋な思いが自身を縛り付けていた呪縛を解き放って、最後の武道館ライブでの締めくくりに繋がるので色々と感慨深いものがありました。
三日月ルートはこれまでの中で一番長かったんですが、だからこそ三日月の心境も克明に描かれていました。
三日月ルートの魅力は三日月自身の心の弱さを自分で乗り越えていくという展開にこそあるでしょう。

シナリオに関しては正しく期待通りの出来というべきでしょう。
キラ☆キラを踏まえた上で新たな時代に対応したバンド音楽メインの作品をよく書き上げたなと思いました。
その上で、死生観もキラ☆キラ以上に上手く織り交ぜているのでこれはもう褒めるしかないですね。
バンド活動がメインなので様々なキャラが出てくるんですが、出てくるキャラ皆独特の感性や信条を持っていて濃かったですね。
ヒロインとしてはやはり三日月が一番魅力的でしたね。
独特の容姿と、一見電波にしか思えない独特の信条が上手くかみ合わさって三日月の魅力に繋げている所が上手い。

絵に関しては、原画がすめらぎ琥珀なので、立ち絵とCGともに素晴らしい出来栄えで良かったです。
ただ、塗りは他社と比べるとちょっと劣るかなという感じ。

エロシーンに関しては、正に必要最低限でしたね。
三日月は2回ありますが、それ以外のヒロインは各1回ずつという仕様。
何年前のエロゲだよと言いたくなるくらいの回数の少なさに加えて、肝心のエロシーンも地の文が主体でヒロインの喘ぎが少ないので抜かせる気が徹底的にないね。
少なくともエロシーンに期待するような作品ではないでしょう。

音楽に関しては、BGMは折角のバンドモノなので、もう少し印象に残る曲が多ければという感じでした。
正直、BGMはそこまで予算かけてない感じがしてましたね。
ボーカル曲はDr.Flowerの曲はボーカルがかなり癖になる感じで、何度も聴いていると良さが分かってくる曲が多かった感じ。
ただ、それ以外の曲はあまりピンとこなかった曲が多かったですね。

システムはもうちょっと改善してほしかったね。
バックログジャンプも搭載してなかったし、何年前だよと言いたくなるくらいに古いシステムだったのもどうかと思う。

総合的に見ると、シナリオとキャラの良さで突き抜けた作品。
正直、エロシーンやシステムは期待外れもいい所でしたが、シナリオが面白かったので上手く相殺した形になりますね。
少なくともオバドラの最終作としては有終の美を飾れたという所でしょう。