2000年05月30日

インタビュー[1] (9月第1週)

「小田選手、お時間少しよろしいでしょうか?」

私はモンペリエの練習場から出てくる小田選手に声をかけた。
「『サッカーダイレクト』編集部ですが、取材よろしいでしょうか?」

「ああ、いいよ」
小田選手はあっさりと了承してくれた。

「ありがとうございます。えっと、では……」
私はメモ(カンペ)と録音テープを取り出した。








==================================================================








今期からモンペリエのキャプテンになられたそうですね。おめでとうございます。
----ありがとうございます。
今のお気持ちを聞かせてもらえませんか?
----身が引き締まる思いだ。まだまだ若輩者なので。
練習とかでは、やはり自ら声を出したり?
----いやぁ、何をしていいか分からないと言うのが本音だね(笑)。今までのチームにいたキャプテンの人たちはどちらかというとプレーで引っ張るタイプだったが、俺はどちらかと言うと口うるさく言う方だから。
一昨年まで所属していたエスパニョールのマキシ選手とか?
----そうだね。まああの人はプレーだけではなく、適切な場面で適切な指示を与えていましたが。俺はまだその両方ができていません。
キャプテンとして望む、モンペリエの今シーズンの目標は?
----もちろんリーグ優勝だ。自分たちの実力はどうあれ、優勝を目指さない選手などいないだろう?(笑)。



話は変わりますが、最近はあなたをU-22日本代表に押す声も聞かれます。この点については?
----もちろん嬉しいよ。でも実際に呼ばれたことはないし、そんな話を日本サッカー協会の方から聞いたこともない(笑)。でも招集されたら命がけで戦う心構えだけは持っている。
呼ばれたら行く準備はできている?
----そりゃあもう。
ユース世代も含めて、日本代表の試合は見て研究したりしているのですか?
----いや、それがこちら(フランス)では日本代表の試合を(テレビで)やってくれなくて。スペイン時代もそうだったけど。もっぱら、ごくたまに代理人が撮っておいてくれたのをビデオで見る程度だね。
最近はユース代表も日本代表も苦戦しています。
----中田英寿選手を中心としたシドニー五輪世代の多くが代表を引退したのが大きいかもしらない。攻撃的な中盤の選手の世代交代が上手くいっていないようだ。そろそろ俺の出番かな(爆笑)。
今年はワールドカップ本大会も開かれますが、やはり出たいですか?
----いやぁ、サッカーやってる人でワールドカップに出たくない人なんていないでしょう(笑)。
それもそうですね(笑)
----記事に書いて置いてください。『小田は常に日本サッカー協会からの電話を待っています』って(笑)



話をモンペリエに戻しましょう。エスパニョールではあなたは3-3-2-2のトップ下で起用されていました。それに対し、モンペリエでは4-4-2のサイドハーフで起用されています。違いや戸惑いはありますか?
----まずはじめに言っておきたいのは、私は子供の頃からサイドアタッカーでだった。だからサイドの方がやりやすい。でも今の(SHで起用されている)モンペリエはもちろん、エスパニョールでもプレイはすごくやりやすかった。
と言うと?
----俺は守備能力に大きな欠陥がある。でも3-3-2-2のウイングバックだと、サイドの攻守を1人でカバーしないといけないから、必然的に守備におわれることが多くなる。これは俺自身にとってもチーム全体にとってもいいこととは思えない。(エスパニョールの)監督に一度、「俺をサイドで使ってください」と頼んだことがあるんだけど、そのときも守備のことを言われて、「お前をサイドで使うなら(FWの)タムードをサイドで使う」と言われて一蹴されたよ(笑)。
では、今のモンペリエは?
----別に守備をまかせっきりにしているわけじゃないけど、俺の後ろには守備能力に優れたサイドバックがいてくれるから安心してあがれるよ。
自分の持ち味が発揮できると言うわけですね?
----ああ。それに、ディフェンシブハーフに攻撃的なサイドアタッカーの広山先輩がいてくれると言うのも大きい。俺が上がりたい絶妙なタイミングで前方へのパスをくれるし、俺が中央よりのポジションを取ったときはサイドのフォローもしてくれるし、俺へのマークが厳しい時はポジションチェンジして自分でサイドを突破してくれる。お互いの呼吸があっているので、すごくやりやすい。
なるほど。では、広山選手以外にやりやすいチームメイトは?
----やっぱりアガホワかな。パスの出し手と受け手という違いはあるけど、プレイスタイルがよく似ているからどういうパスを欲しているかがよく分かるんだ。裏に走りこみたそうにしているときはアーリークロス出して走らせたり、ドリブルで突破したい時は下がって受けさせるパスを出したりね。



プレイスタイルの話が出ましたが、理想とするプレイスタイルを教えてもらえませんか?
----サイドライン際でドリブルで果敢に勝負を挑み、ドリブル一つでサイドの攻防を完全に制して味方や観客を勇気づけ勢いづけれるウイング、かな。
ドリブルにはこだわりがあるのですね。
----俺にはそれしかできないしね(笑)。
いえいえ、そんなことはないでしょう。では、理想とするチーム像を教えてもらえませんか?
----(少し考えて)ブラジルやレアル・マドリーみたいなチームかな。相手に最大限の力を出させた上で、それ以上の力を見せ付け粉砕する、みたいなチーム。
攻撃的なチームと言うことですか?
----いや、そうじゃない。ああ、もちろん攻撃的なチームと言うことは絶対条件だが……。例えば、アルゼンチンやオランダ、クラブチームならバルセロナなどのチームは、攻撃的なチームだけど俺は好きじゃない。90分間自分たちのペースでゲームを続け、相手に何もさせないようなサッカーは嫌いなんだ。頭では「上手い!」と分かっていても、本能的な部分が受け付けなくてね(笑)。
では、本能が受け付けるチームはどういうチームなのですか?(笑)
----そうだな(少し考えて)……自分の頬を相手に出して「思いっきり殴ってみろ!」とわざと殴らせる。そして相手のその渾身の一撃に耐えて、「そんなものか!」とこちらが思いっきり殴る。そういうのを何度も何度もやって、ボロボロになってはいるが最終的にはこちらが立っている……みたいな戦い方のチームが大好きなんだ。分かりにくいかい?(笑)
ニュアンスは伝わります。『蝶のように舞い蜂のように刺す』戦い方は好きではなくて、足を止めての打ち合いが好きというわけですね?
----その通り! 相手の良さを消しあう試合より、お互いに良さを出し合う試合のほうが見るほうもやるほうも楽しいしね。しかしサッカーのインタビューとは思えない台詞だな(笑)
たしかに(笑)。では、そのようなサッカーを目指すうえで、小田選手が目指す理想的なプレイ、役割は何になるのでしょう?
----これはあくまでも俺の持論なのだが、サッカーのチームは守備の中心の王様であるGKと、攻撃の中心の王様であるFWの2人からなっている。俺たちMFは2人の王様を繋ぐ家来だ。その中でも、サイドの選手は一番下っ端の足軽歩兵かな(笑)。
これはまた斬新な考えですね。
----そうかな。いや、そうなのだろうな。酒の席で酔っ払ってこの話をチームメイトとかにすると、みんな怪訝な顔をするから(笑)。
酒と言えば、昨年の事件が
----(記者の言葉をさえぎって)こないだ誕生日を迎えてもう20才になったから問題ないよ!(大笑)
お誕生日、おめでとうございます(笑)。話を元に戻しましょうか。
----そうだね(笑)。要するに、俺たちサイドアタッカーはチームの主役ではないし、ヒーローになれる機会も少ない。でも、足軽には足軽のプライドがあって、俺たちなしではチームの攻守は上手くいかないぞ、みたいな自負がある。ドリブルで相手のサイドを蹂躙することで敵の士気を下げ、応援してくれている観客の皆のボルテージを高める。スタジアムのメインスタンドから一番近いのは俺たちサイドの選手だからね。記録に残る仕事ではなく、記憶に残る仕事をするのが俺たちの役割だと思っている。
そのためにドリブルを果敢に仕掛ける、と?
----ああ。もちろん相手をぬいてセンタリングをピタリと上げて得点に結びつく記録にも残る仕事ができれば最高なのだけど、自分の能力を考えると毎回毎回そう上手くは行かないからね(笑)。でも「小田がボールを持つと何かが起こる」みたいに思ってくれると嬉しいね。たとえそれが『ありえない』プレイを期待するものであっても、応援や期待はチーム全体の勢いになるからさ(笑)。




(了)  

Posted by kuro_yun at 00:00Comments(0)TrackBack(0)

2000年05月29日

バン○リンと中澤選手の活躍の因果関係について (10月第2週)

「そう言えば昨日、新たなオファーが来てましたよ」

それは9月の第2週だか第3週だかのことだった。
俺の部屋でせんべいをかじりながら、代理人のヴィンセントが言った。

「またか……俺は修行中の身だというのに」

オファーが来るのはありがたかった。とてもありがたかった。
しかしこちらは一念発起してスペインからフランスへ修行にきた身。たった1年やそこいらで修行を投げ出し、移籍しては男が廃る。

「悪いがゴメンナサイと断っておいてくれ」

「分かりました。時間がそれほどなく至急返事をとのことでしたので、すぐにお断りの返答をしておきます。」

ヴィンセントはビリッっと数枚の紙をまとめて破り捨てた。おそらくそれがオファーの書類だったのだろう。

「一応チーム名だけは聞いておこうかな。どこからのオファーだったんだ?」

オファーを断ると言うのは、いつも罪悪感を感じる。こちらは悪くないと言うのに、なぜだろう。この辛さに慣れていないのは、俺がまだオファーをされることに慣れていない未熟者であるが故にであろうか?

そんな俺の苦悩を無視するかのように、ヴィンセントは淡々と明るい声で答えた。

「破り捨てた今のオファーですか? ええと、ヨーロッパからすごく離れたところにあるチームですね」

「……もしかして南米のチームからとか?」

「いいえ、もっと遠いところにあるチームです」

ピッポパッポ、とヴィンセントは電話の番号をプッシュしていた。さっそく断るつもりなのだろう。

「南米よりも遠くにあるチーム……? まさかカタールか……?」

いや、カタールはヨーロッパから見ると距離的には近い。実力的にはかけ離れているが。

「もしもし。私、小田正男の代理人のジョージ・ヴィンセント二世と申します。はい、はい……ええ、そうです」

田舎のチームという時点で興味をなくしていた俺は、音量は小さくしていたが、テレビに集中しかけていた。




「はい、そうです。小田正男は 日 本 代 表 の練習を 辞 退 するとお伝」




ち ょ っ と 待 て い

ぐわし、と俺はヴィンセントをアイアンクローで締め上げた。

「い、いやっ! そ、そこはダメっ……!」

奇妙な声を上げるヴィンセントを無視し、俺は急いで受話器を取る。

「もしもし、お電話変わりました! 小田正男本人でございます! 私はいつだって日本代表万歳! 日本代表召集準備万端でございまする!」

「ああ、もしもし。小田君かね? 私は日本サッカー協会の川渕だが」

「きゃ、キャプテンでございますか! いつもテレビで拝見しております!」

「ありがとう。ところで、来年のワールドカップに向けてA代表は来月合宿を行うのだが、やはりクラブの方が忙しいかね?」

「そんなことありませんですますございます! 喜んで参加させてくださいませ!」

「それはよかった。ワールドカップへの隠し玉として楽しみにしているよ」

「ああああありがたきお言葉〜〜〜〜〜〜〜〜!」

「うむ。では、クラブで頑張ってくれよ、キャプテン!」

「は、ははぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」








==================================================================








とまあそんなことがあって、10月。

「おお、あれはイングランドで活躍中の大久保選手に、アーセナルの稲本選手! それにあちらはユベントスの守りの要、中澤選手までいるYO!」

それに加えてもちろん、今までにスペインやフランスで対戦した『顔見知りの』玉田選手や遠藤選手、中田浩二選手などがいた。

「うわぁめっちゃ場違い! でも頑張る!wwwwwwwwww」

俺は夢中になってチーム練習に参加した。
本来はローテーションで交代するのだが、他の選手と気合が違う俺は、ほとんど交代もせず足がつっても練習に参加し続けた。
周囲のレベルの高さに圧倒されながら。

「すげーすげー! さすが日本代表、レベルが違いすぎるぜーーーー!」








==================================================================








そして、フランスに帰ってきた翌週。

「マサは筋肉痛で試合出場不可能、と……」

体力がなくなり体が筋肉痛でガタガタの俺は、キャプテンであるにも関わらず試合を欠場してしまった。

監督、チームメイト、観客の方々、etc...
周りの目が、痛かった。  
Posted by kuro_yun at 00:00Comments(0)TrackBack(0)

2000年05月28日

日本代表でもスタメン狙うぜ![1] (11月第4週)

国際親善試合、日本vsコロンビア。
親善試合という名目ではあるが、日本にとっては来年6月の、つまり半年後のワールドカップに向けての大事なテストマッチだ。

日本の代表監督のジュニーロはこの試合の目的を「選手間の連携の向上」と「ジョーカー(切り札)の発掘」、そして「南米のサッカーに対する慣れと自信を得る」試合と位置づけた。

俺はこの試合に、「ジョーカー候補枠」で召集された。
しかし呼ばれたからには、狙うは日本代表のスタメンだ。

日本は3-4-1-2のシステムをとることが多い。よって右サイドの俺は、右のウイングバックの現レギュラーである加地とポジション争いをすることになるわけだ。

うむ、予定通り。

俺がサッカーを始めたときに日本代表で一番スタメンになりやすいとふんだのが右のSMF。その俺の慧眼は間違っていなかった!






そして試合前のミーティングで、監督が言った。

「今日もシステムは4-4-2でいくぞ」

……はい?
今ナントおっしゃいました?

「いつものように、ボランチとディフェンシブハーフ2人とオフェンシブハーフ2人の計4人でコンパクトな中盤を作る。いいな?」

あのお、俺(サイドハーフ)の居場所は?
って言うか、もしかして俺のポジション(くどいようだがSMF)は日本代表にはないのか!?
スタメンどころか、俺のポジション自体がないというオチなのか!?


「SMFのポジション? そんなものないよ」






















……次回につづく _| ̄|○|||  
Posted by kuro_yun at 00:00Comments(0)TrackBack(0)

2000年05月27日

日本代表でもスタメン狙うぜ![2] (11月第4週)

(前回のあらすじ)
加地とのポジション争いをする前に敗れ去った小田正男に、加地は冷たく「お前にはユーティリティーがかけている。それがお前の敗因だ」と言い放った。
己の弱点を克服するため、小田正男は自分の必殺技である「ブラックタイガーシュート」を超える必殺シュートを身につける旅に出た。

















日本、高野山。


ここにこもって早何年になるだろう。
俺は必殺シュートを身につけるために、数年前からこの霊峰で修行を積んでいた。

「だめだ! こんなシュートでは日本代表のスタメンは取れない!」

この旅の中で、俺は新たにネオ・ブラックタイガーシュートを身につけていた。
しかし。

「世界をなめるな小僧! たかだかゴールポスト数本をへし折るロングシュートなど、ちょっと筋トレして筋肉増強剤で強化しまくれば誰でも打てるわ!!!」
「くっ……!」

師匠の正論に、俺は二の句が出なかった。
たしかにネオ・ブラックタイガーシュートは背後に海老の文様が浮かび上がるだけの、ただのシュートだ。
DFの4人や5人を貫通する威力はあるが、たかがそれだけのシュート、打てる選手は世界中にごろごろいるだろう。

「人間の限界のとらわれるな! 限界を先に定義している者に柔軟な発想など生まれぬ! 柔軟な発想の生まれない者に必殺シュートなど生まれないわっ!」


ガーーーーン!


俺は稲妻に打たれたように固まった!
そうだ、俺は人間にできることを俺にできることをまず最初に決めていた。
これでは駄目だ!
誰にもできないことを想像し、それを実現させてこそはじめて必殺シュートになるのではないか!?




それ以来俺は修行に没頭した。
そしてついに昨日、必殺シュートが完成した!

「ほほう、できたと申すか。ならば見せてみい!」

師匠が吼えた。
全身からあふれ出るオーラで、地は割れ雷が落ちた。

「行きます!」
「むっ!?」

俺は高速のすり足で細かくステップを踏んだ。
俺の通り道の芝生がめくれ上がり、一つの形を成した!

「くわぁぁぁっっっしゃーーーーーぁっ!」

奇声を上げ、師匠はドリブルをしながらゴールに突き進む俺にタックルをした!
しかし。

「なにぃっ!?」

師匠の足は、いや体はドリブルをする俺の体をすり抜けた!

「師匠のタックル敗れたり!」

俺は敵ゴールの中から叫んだ。ボールを足元に置いて。

「むう、い、今のは幻影か!?」
「その通り! 土と芝を巻き上げ俺とボールの分身を作り出し、あたかもそいつがドリブルをしているように見せかけたのさっ! 巻き上げた芝にロナウジーニョのような動きをさせるのには多少苦労したが、昨日ようやくそのコツをつかんだのさ!」

本体の俺は空に舞わせた芝生の屈折光を利用して姿を消し、俺の分身に皆が気を取られている間にひっそりとゴールにボールを蹴りこむ!
これぞ俺の生み出した完璧な必殺シュートだ!

「むぅ、よもや芝生を利用して12人目の選手を作りおるとはな。なかなかやるではないか。だがしかし!」

師匠は気合を込めて脚を一閃させた!
次の瞬間、ピッチ上の芝生が全部めくれ上がり宙へと飛ぶ!
衝撃が通り抜けた後にはグラウンドの上には草一本残っておらず、ただ槌のグラウンドが残されているだけだった。

「芝生フェイント敗れたり! こうして芝生を全部消し飛ばしてしまえば、お前の技は使えまい!」

「くっ……!」
俺はがっくりと膝をついた。
3年がかりで編み出した必殺技が3分で敗れ去ってしまうとは……!

「己の未熟さにようやく気づいたか。お前のやっているのは必殺シュートでも必殺ドリブルでもない。ただの自然破壊じゃ!!!!」

ああ、そうだったのか!
たしかに、俺は芝生をフェイントの道具としか見ていなかった。俺には芝生に対する敬意が欠けていたのか……。

「引退しろ、正男。」

師匠は俺にやさしく語りかけた。

「引退してグラウンドキーパーになれ。芝生の友となり、今までの人生を悔い改めるがいい」

そう言って、師匠は一つのアドレスを俺に手渡してくれた。



「なぜに国立競技場の芝生は美しいのか?〜グラウンドキーパー汗と涙の奮闘記〜」



「芝生を守り、芝生を愛し、己を磨くのじゃ!」
「はい、分かりました! 師匠……今までありがとうございました!」

……こうして、俺は、引退を決意したのであった。






















「おい、小田。小田ってば!」
「……こうして、俺は、引退を決意したのであった」
「寝ぼけてないでさっさと目を覚ませ!」

がすっ! と。

殴られた俺の目に茸の形が見えた。
俺は中村俊輔さんに殴られ目を開けた。
そこはベンチだった。
目の前では試合が行われていた。
日本代表の試合だった。

「も、もしかして……全部俺の妄想だったのかっ!!!???」
「日本代表戦に初召集されてベンチで空想世界にトリプってる(トリップしているの略。旅立っているの意)奴なんかはじめて見たぞ……」
「いえいえ、寝てないですよ?」
「嘘付け。って、んなことよりも監督が呼んでるぞ!」

俺はその時、ようやく自分の置かれた状況を思い出した。
そうだ、俺はコロンビアとのテストマッチに日本代表の一員として召集されていたのだ。
しかし、自分のポジションが日本代表にはないことを知り、希望を失ってしまっていたのだ!

スコアボードを見る。
どうやら今は後半20分過ぎ、1-1の同点らしい。

「なんでしょうか、監督!?」

俺は大声で元気よく監督の指示を待った。
すると。

「加地に代わって右のサイドバックに入れ。4-2-2-2のサイドバックだから、守備だけでなくサイド攻撃の中心にもなる。できるか?」

後半。
同点。
点を取りたい。
攻撃的な選手を入れてサイド攻撃を活性化させる。

それらの単語を監督は立て続けに発した。

「わ、分かりました! やったことはないけど、やってみます!」
「うむ、頼んだ。同点だから勝ち越し点を入れられないように守備を大事に、しかし攻撃的にいけ」
「はい!」



……後半27分。



俺は始めて、日本代表のブルーのユニフォームを身にまとい、日本のA代表として、国立競技場のピッチに立った。






(次回に続く)  
Posted by kuro_yun at 00:00Comments(0)TrackBack(0)

2000年05月26日

日本代表でもスタメン狙うぜ![3] (12月第1週)

「と言うわけで、俺はサイドバックに転向します」

日本代表の試合が終わって、小田正男は所属クラブのモンペリエに帰ってきた。
そして監督や広山先生の前で、↑こう宣言したのだった。

「はぁ?」

案の定、皆は顔に?マークを浮かべて呆れ顔をした。
しかしそれはマサにとっては想定内の出来事だった。

「数ヵ月後、ワールドカップが開かれます。俺はそれに出たいんです!」
「まぁ、サッカー選手なら皆そう思うな」
「しかし現在の日本代表の中盤には、俺のポジションであるSMFは存在しません!」
「らしいな」
「だからと言って、俺がOMFやDMFで出場するのは不可能です!」



【豆知識/現在の日本代表の中盤】
右OMF:西    ←ウディネーゼのレギュラーで攻撃の中心
左OMF:本山   ←Bミュンヘンでバラックの後継者やっている
右DMF:遠藤   ←長年日本代表の中心選手でキャプテン
左DMF:中田(浩) ←CL常連のフランスの強豪マルセイユのキャプテン

(備考)小田正男  ←フランスの弱小チームでようやくスタメン



「俺は中盤ではポジション取れない! 勝てそうなのは、右サイドバックの加地しかいないんです!」
「いや、だからと言って君、サイドバックなんかやったことないじゃないか」
「だからこれからクラブでやりたいんです!」

キャプテン特権発動だ。
我侭といわれようがなんと言われようが、ワールドカップに出場できるならばどんな方法も使ってやる! という決意に満ちた言動だった。

この間のコロンビア戦。
マサは右のサイドバックとして加地に代わって途中出場したが、慣れないポジションのためか緊張のためか、何もできずに試合は終わった。
その悔しさと、サイドバックなら出場できるという希望からの行動だった。

「そもそも俺は、加地にポジション争いに勝ち、日本の右サイドを日本の武器にしたかったんです!」

(武器にならないから監督に使われないのでは?)
周りの皆は思った。

「それに……加地みたいな体力と身体能力にしか能のないヤツに負けたくありません!」

(身体能力しか取り柄がないのはお前もだろう!)
周りの皆は心の中で突っ込んだ。

「ううむ……ま、まあ、君はキャプテンだ、そこまで言うなら次節から右サイドバックで出場させるが……」

監督はしぶしぶokを出した。

ガッツポーズをしてにこやかに頭を下げる小田正男。
呆気に取られるチームメイト。









こうして。

小田正男は右のサイドバックに転向し、登録ポジションをディフェンダーに変更したのであった。  
Posted by kuro_yun at 00:00Comments(0)TrackBack(0)