チンチンチンチン。

それは、私の心の一番奥の、私の知らない、私にもっとも近い、はじめの私、

くすぐったい

ゆっくりと、丹念に、捏ねて、なまあたたかい、

チンチンチンチン。

埃や雑踏や排気ガスに塗れた、喧噪の私でない。

もっと、それは土埃で、光に透かされて舞う美しい埃で、氷砂糖で、甘露の甘み、

涙の意味を考えるとき、それは意味を持たない、きっと、

すべての溢れる感情をそなえているからだ、いや、

悦びや哀しみや怒りや喪失、それのどれもちがう、

すべての感情を含んだ涙、だと考えたことはそもそも間違いかもしれない、

まだその言葉は、人間が発明していない、

それに妄執し、答えを急ぎたせい、断定を欲してはいけない、

それは、ずっと分からず、死ぬそのときまで分からず、

それでいいのだ、その心は確かにここにあり、僕の感覚器官が掴んでいるのは、

まちがいないのだから、人に分かってもらえるだろうか?

チンチンチンチン。

根源は揺らがないだろう。

私のもっとも自信に満ちた感情なのかもしれない。

愛情?深い愛情に満たされている音?

私は守られている。原点はここなのだ。

私は独りでも、立ちあがることのできる音。

そうして、ずっと持ち続けるだろう、この筑豊電鉄の踏み切りの音が

私はまちがってはいないと、教えてくれる。

私はまちがっていない。

小さい私が、線路伝いの土埃の中を、音を響かせている空間を駈けてゆく、

まだ何も知らなかった、そうして世界が輝きで満ちていたあの頃に、

私は、なんて無垢な笑みを持って、駈けているのだろう。

チンチンチンチン。

旧家の並ぶ古い町の中を買ってもらったお菓子を提げて、駈けてゆく。

新築の鉄筋コンクリートの立派な家でなく、

錆びてつぎはぎだらけのトタン塀が、私の愛する場所です。

私はいつでも帰れるのです。

世界は悦びで満ちている。

チンチンチンチン。

僕が絶望しても、僕の感覚器官や神経は絶望しない。

 

 

なぜにこんなにふりしきる雪の中で、

私の身体はこんなにも火照っている?