「やー、真面目な話すると疲れて疲れて仕方ないよ」

 森でセツと合流したメリュは、近くの木に寄りかかるようにして座り込み、思いっきり伸びをした。
 時刻はすでに昼を回った頃だろうか。高く上がった太陽の木漏れ日が暖かい。分厚いコートのせいでむしろ暑い。高い気温と先ほどまでの緊張で浮かんだ汗を、メリュはコートの袖で拭った。

『その様子だと、上手く時間をもらえたようだな』
「一週間もらってこれた。成果としては上々でしょ」

 でも――と前置き、苦笑の中に真剣さを交えた複雑な表情でメリュは続ける。

「のんびり一週間使って対応はできないと思うよ。マルト国が何か動こうとしてるから、それまで何とか荷物届けないとね」
『具体的には?』
「オルトライ国がバーツ国領に入るまで。兵の準備と移動にかかる時間を考えると――今日入れてだいたい四日程度だと思う」

 セツは唸った。今日は既に半分が終わっているため、残された猶予はあと三日半。移動に要する時間を考慮すると、有効に動ける期間はもっと少ないだろう。

『策はあるんだろうな』
「今のところ無し」

 返答は予想出来ていたのだろうか。セツは何も言わなかった。ただ軽く息をつき、もたげていた首を地におろす。話を進めろという彼なりの合図だ。

「だけど安心して。やり遂げる見込みが全くないわけじゃないからさ」
『当然だ。そうでなくては困る』

 セツの素っ気ない返事にメリュは苦笑した。物事を真剣に考え始めると、途端に態度が刺々しくなってしまう。堅物な彼の悪い癖だ。
 それを指摘したい欲求に抗って、メリュは考えを口にした。

「今回の配達を成功させるうえで重要なのは、やっぱりこの木箱の中身を知ることだと思う。配達人として、頼まれた荷物に対して詮索するのは正直良くないと思うけど……二国の衝突をどうにかしようって言ってる段階で、もうこれ以上ないくらい踏み込んでるから」

 仕方ないな、と言ってセツは、頷く代わりに一度目を伏せた。

「マルト国側は、箱の中身を『向こうが必要な物』って言ってた。けど、受け取り先のオルトライ国は『ガラクタ』呼ばわり。この辺の食い違いを解消できれば、私達にチャンスが回ってくると思う」

 問題となるのは、中身を知るための方法だった。実物は手元にあるとはいえ、無くしたり壊れたりする可能性を考えると、扱いも知らない者が安易に触れるわけにはいかない。一度目にしてもピンと来なかった以上、外見から手がかりを探すのも難しいだろう。

『出処を突き止め、そこで用途を聞くのが現実的か』
「だね。そしてもう一つ、私達が絶対に知っておかなくちゃいけないことがある」
『何故それを贈ろうと思ったか、だな』

 メリュは無言で頷いた。
 今回の運搬は、国同士の関係に一石を投じる行動だ。何の理由もなく気軽に行えるものではない。この背景を知ることができれば、交渉に必要なものが自ずと見えてくる――かもしれない。

『やるべきことは決まったな……いや、最初からわかっていたと言うべきか』
「うん。まずは情報収集からだ。手持ちのカードが足りなきゃ増やせ、ってね」


続きは……