手紙を出したその後のはなし

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ずっと空室だった下の階の部屋に、新たに人が入居した。

しばらくしてテレビが導入された。


早朝の4時から、結構な音量で時代劇を見ているようで、その音で目が覚めてしまう。

時にはそんな早朝から、電動器具のインパクトで『ガガガガ…』と何やら作業を始めたこともあった。


その時は隣の部屋の人が、壁を『ドン!』と叩いて、うるさい!とアピールをしていた。

そりゃあそうだろう。

それから、早朝に工事のような音がすることはなくなったが、朝4時のテレビは毎朝ではなかったけれど、度々その音で目が覚めてしまい悩まされた。


その後、押し入れを開けると、何となく変な匂いがするような気がすることが度々あった。


ある日、仕事が終わって家に帰ると、部屋の中が明らかにタバコの匂いがするのに気づいた。

押し入れの匂いも、やはりタバコの匂いで、どうやら下の階の人が部屋でタバコを吸っていて、その煙がここに伝わってくるようだ。


その日の以来、ものすごく憂鬱な気分になってしまった。


そして、意を決して手紙を書くことにしたのだ。

結局は何事も、人生からの『行動しろ』というメッセージなのだと思った。





このアパートに越してきた当初、隣の部屋の人からクレームがきたことがあった。


古いアパートで、間取りに工夫もなく、壁一枚で隣の部屋に接しているようで、ちょっとした物音が、特に静かな夜にはダイレクトに響いてしまうのだ。


こっちは何の悪気もないのだけれど、いきなり隣の部屋から壁を『ガン!』と叩かれると、何事かとビックリする。


壁を叩かれると、すごい衝撃音がするのだ。

自分の耳元で、突然怒鳴られるような感じかもしれない。



時にはこっちも腹が立って、壁を叩き返してしまうこともあった。

すごく嫌な気持ちになるので、結局その小さな部屋は使わなくなり、隣と離れた方の部屋だけを使うようになった。



経験がないと、自分の何気ない行為が、床や壁に衝撃として伝わり、隣や下の部屋にすごい音を伝えてしまっていることに、全然気づかなかったりするのだ。


私もそうだったから分かるけれど、つまり本人は悪気などないのだ。


それでも、受ける側はとてもうるさいから、つい腹を立てて、壁や床を叩いてしまったりする。

手紙を渡すにしても、あなたの部屋の騒音で私は迷惑している、静かにしてくれ!という感じになってしまう。


でもそれは、相手にしてみたら、突然後ろから頭を叩かれるようなものだ。


だから、手紙を書く時にも出来るだけその点を注意した。


自分の立場から、相手を非難するような視点で書いてしまうと、どんなに表現を和らげようとも、相手の反発心を招いてしまうだろうから。



手紙を出した翌朝から、早朝のテレビの音がなくなった。

夕方や夜のテレビの音も、演歌の音楽の音もしなくなった。


タバコの匂いは残念ながら、そうはいかなかったけれど、静かになってとてもありがたく感じた。

同時に、これまでは普通に歩いていたり、時にはちょっとアテツケのように、乱暴にテーブルを移動したり、雨戸を閉めたりしていたのが、踵を浮かせて歩いたり、椅子を引くのも静かにするように、気をつけるようになった。



先日、ゴミ出しに行った時に、歳を召された女性と顔を合わせた。

そして名前を聞かれた。

その女性は、新しく越してきた一階の部屋の、その隣に住んでいる人のようだ。


やはり、隣の部屋のその女性もうるさく感じていたようで、どうやら直接文句を言いに行ったらしい。


だけど、『俺は何も悪くない』と言われたとか。


どういう経緯かは分からないが、私が下の階の人に出した手紙を見せられたのか、話しを聞いたのか、手紙のことを知っているようだった。


とにもかくにも、私の出した手紙で下の部屋の人が静かになってくれて、その隣の部屋の人もそれで少しでも快適になったのなら、とても良かったと思う。


隣や下の階の人と、なかなか話しをする機会もないから、こうしてちょっとでも会話すると、全然印象が違う。



やはり行動はしてみるものだと思った。

老人ホーム勤務時代 その11


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引き継ぎがなぜ心配だったかといえば、私自身がこの職場では、陰に隠れるように働いていたからだ。


施術出来ない時間帯など、空白の時間ができたときに、その時間をどうしたらいいかと考えると、その気まずい雰囲気を想像して不安になってしまった。


どんな人が来るのかも、直前まで分からなかった。

後任の施術者は、資格を取ってまだ何年も経たない、30代の女性だった。


以前も一度、新人の研修をここでやったことがあった。

その時の新人さんも、私より若い女性だった。

研修は確か3日くらいだったが、一緒に施設内を周りながら、施術を見学してもらうばかりだった。

エレベーターを使わずに、施設内の階段を登ったり降りたりしていると、新人さんがバテて私について来れなくなってしまい、余計にやりづらかった。


教えることもなくなって、最後には時間が余ってしまい、何だか気まずいような状態になってしまった。

今回は5日間もあると思うと、憂鬱な気分になった。


そんな最後の難関に思われた引き継ぎだったが、そんな私の予想は大きく覆された。


当日やってきた新人さんは、顔立ちの整ったスタイルのいい女性で、見学の態度もとても熱心だった。

色んなことを積極的に質問してきて、熱心にメモを取った。


体育会系で体力には自信があるというだけあって、一日中施設内を歩き回っても、遅れることなくついてきた。

学生時代から武道をやっていて、私と話も合った。


施術が終わったあとの時間も、書類のことなどを教えると、分からないことを沢山質問をしてくれるので、教えがいがあったし、あっという間に時間が過ぎた。



利用者さんにはもちろんのこと、移動中に他のスタッフと顔を合わせると、『これからマッサージを担当する後任の○○です。宜しくお願いします』と、彼女を紹介した。


そんな風に声をかけると、実はみんなとても気さくで、いい感じに受け入れてくれた。


彼女が少しでも働きやすいように、他のスタッフに顔をつないで、話しやすい環境やきっかけをつくってあげることが、一番大事かもしれないと思った。


一通りの利用者さんの施術をすると、あとは彼女に施術をしてもらった。


5日間の引き継ぎは、そんな風にあっという間に過ぎていった。


これまでずっと一人で仕事をしてきたから、同じ立場の人がいて、思いを共有することができるのは本当に嬉しかった。


最後の日は、新人の彼女と一緒に駅まで帰った。


思いがけず、私にはとても楽しくて、充実した最後の1週間だった。


仕事はこの日までだったが、頼んでもいないのに、会社の方で残っていた有給休暇を消費してくれたので、翌月も12日分の給料がでたし、夏のボーナスも全額もらえた。


これまでの経験からして、あり得ないくらいの好待遇だと思った。


辞めるタイミングがもう少し早かったら、ボーナスも貰えなかったはずだし、引き継ぎの人がやる気のない人だったら、こんなに充実して楽しい1週間は送れなかったと思う。


こういうことは、自分でいくら計らっても、思うように出来るものでもない。


こんなことも、もしかしたらお祀りをした守護神のおかげかもしれない。


今振り返ってみると、そんな風に思えるのだ。


そう思うと、周りの人達にも自然と感謝の気持ちが湧いた。

老人ホーム勤務時代 その10

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私が最後までこの人の施術しようと思っていた人が、もう一人いた。


小柄で細身の女性の利用者さんで、たしか90代だったと思う。

とても品のある人で、穏やかな性格で言葉遣いも丁寧だった。


確か四国の方の生まれで、転倒して大腿骨を骨折し、歩いたりすることも不自由になって、一人での生活が難しくなり、息子さんのいるこっちのホームに入居することになったようだ。


脚の痛みが結構強くて、施術中も脚を動かすとすごく痛がるので、施術にはとても神経を使った。

少しずつ可動域が広がったり筋力がついたり、ここまで脚を動かせるようになったと、喜んでくれた。


故郷で暮らしていた頃の話しもよくしてくれた。

自然が豊かで、庭の植物の手入れをしたり、料理を作ったりするのも好きだったようだ。


コーヒーの香りが好きだと言っていたので、自分で焙煎したコーヒー豆を小さな瓶に入れてプレゼントしたこともあった。


もともと食が細かったが、段々食べられなくなってきてしまい、病院を受診すると末期の癌が見つかった。


最後までここで過ごしたいという本人の要望で、私も痛みに対処することをメインに施術をするようになった。


とても気丈な人で、あまり取り乱すことはなかったが、最後の方は体がしんどそうで、見ているのも辛いものがあった。



この利用者さんも、年が明けてから亡くなったように思う。


この2人の利用者さんがいなくなったことが、辞めるきっかけとしては、結構大きかった。



一応、辞める意思は伝えてあったので、あとは会社側の調整で、結局7月一杯の勤務ということになった。


それまでの間、スタッフや話の通じる利用者さんに退職することを伝えるのも、なかなか大変な作業だった。


中には、些細なことにいちいち文句をつけてくる利用者さんもいるのだ。

それでも特にトラブルもなく話が進んだ。


最後の1週間で後任の施術者への引き継ぎをして、退職ということになった。


ただ、私にとっては、この最後の引き継ぎがとても心配だったのだ。



老人ホーム勤務時代 その9

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退職を決めたのには、もう一つの要因があった。


この職場に来て半年くらい経った頃に、90歳代の女性が入居してきた。


当時いたケアマネさんは、『すごい人が入ってきたよー』と言っていた。

耳はかなり遠いけれど頭はクリアで、話し好きでめちゃめちゃ元気な人だ。


リウマチを患っていて、手足にかなり痛みがあるようで、両膝とも人工関節が入っている。

サークル型歩行器を使えば自分で歩ける。


好奇心が旺盛な人で、健康情報が大好きで、テレビを見てはノートにメモをして、それを一生懸命に教えてくれる。


最初にマッサージをしに行ったら、その後トイレから立ち上がるのがすごく楽になったそうで、すっかり気に入られてしまった。


利用者さんの大半は認知症で、表面的な会話はできても、内容はデタラメで意味不明だったりする。

頭はクリアであっても、毎日退屈で愚痴ばかり言っていたり、無理もないが、目に輝きのない人ばかりだった。


そんな中で、彼女はいつも顔を合わせると笑顔で挨拶をしてくれ、目を輝かせてテレビの情報を教えてくれた。

そして、スタッフもいい人ばかりで、この施設に入れて自分は本当に幸せだと言うのだ。


息子さんが弁護士をしていて、欲しいものを色々と届けてもらっていた。

施術しに行くたびに、ペットボトルのお茶をくれたりした。



自己主張も強くてクセのある個性的な人ではあったが、この老人ホームの中では唯一、施術に行くのが楽しみな人だった。


リウマチの痛みはやはり強いようで、マッサージをしたあとしばらくは、痛みが和らぐのだそうだ。

夕方に施術すると、その日の夜は痛みが和らいで結構よく眠れるそうなので、一番最後の夕方に施術に行くようになった。

月に15回の目一杯の予定を組んで、施術の間隔がなるべく空かないようにもした。



私が自宅で『オランジェット』を作ったときに、手紙を添えてこの利用者さんにプレゼントしたことがある。


そうしたら、こんな美味しいものを食べたのははじめてだと、とても喜んでくれた。


これだけ頼りにされると、なんとなく、この人がいるうちはここを辞められないな、と思った。


子供の頃に上高地の帝国ホテルに連れて行ってもらい、自然が素晴らしくて、まるで天国のようなところだったと話しをしてくれたのも、この利用者さんだった。


結局、一年半くらいの付き合いだったろうか。


年末年始の休みを終えて、年明けの仕事始めにその利用者さんの部屋に行くと、なぜか部屋のドアにカギが掛かっていた。


鍵を開けて入ってみると、部屋の中はすっかり片づけられていた。


どうも、休みの間に部屋で転倒して骨折し、病院に入院したらしかった。


いずれ退院して戻ってくるかと思ったが、しばらくしてそのまま退去することになった。


後になって分かったのだが、入院先の病院でコロナに感染してしまい、亡くなったそうだ。


この利用者さんがいなくなったことは私も寂しかったけれど、最後まで施術の仕事を勤めることができて、私のここでの役割も終わったかなと思った。



固定電話を解約する

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殆ど使っていない『ひかり電話』を解約した。

月々550円で通話料も安いけど、実際には使うことは稀で、その時に携帯の通話料が500円かかったとしても、解約した方が私にはよっぽど安上がりだ。


最初は、固定電話を解約したら、家のネット回線が使えなくなるのではないかと思っていた。


本当はそんなことはなく、電話を使わなくても光回線を使ってネットは繋がるし、昔ながらの電話回線は近く終了するらしい。


ただ、ひかり電話を解約するとルーターが使えなくなって、ネットに繋がらなくなるケースもあるらしい。

ネットで調べた通りに、予めルーターの設定をしておいたせいか、電話が止まったあとも問題なくネットに接続できた。


これで一安心だ。


無駄な固定費を削減しようと、今見直しをしている。

こんなことをするのにも、色んなことを調べたり、ネットでの手続きも案外手間がかかったり、電話連絡が必要だったりもする。


わからないことを調べたりするのは、面倒でもあるから、時間と気持ちにゆとりがないと、なかなかやらなかったりするものだ。


前の職場で働いていた頃なら、面倒だし、時間ももったいないから、多分そんな話を聞いても、なかなかやろうとは思わなかったと思う。


でも今の時代は、ネットの情報のおかげで、家に居ながらにして、昔では考えられないほど、詳細な情報が得られるようになった。


だから、ちゃんと調べようという気力さえあれば、誰でも知識は得られるし、方法も知ることができる。


生活の為に自分の時間が確保できないほど働き、そんな生活パターンに流され、知識を得たり、調べたりする時間と気力を失ってしまうことの方が、ある意味危険なのかもしれない。


そんなことを感じた。
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