きょうです。
先日、根來秀樹先生の講演を聴いたので、内容をアップしたいと思います。
根來秀樹先生は、僕が児童精神科医になるきっかけを作ってくださった 僕の元指導医です。
現在は奈良教育大学で准教授をされています。
UCLAにも 留学された経験があり、ADHDの生物学的研究において、多くの実績を残されています。根來先生が何より素晴らしいのは、研究だけでなく、臨床においてもバランス感覚と技能に優れているところです。今も、多くのことを学ばせてもらっています。
ADHDが、親の育て方によらない生まれつきの生物学的疾患であることは、いまさら言うまでもありません。
生物学的疾患と言いますが、最新の知見としてどのようなことがわかっているのか。
非常にわかりやすい講演でしたので、まとめていきます。

まず、ADHDと遺伝性について。
両親ともADHDの場合、9割弱の割合で
    少なくとも1人のADHDの子どもを有している。

 小児ADHD患者の両親のADHD有病率は、
    一般の2~8倍の割合である。
こうしてみれば、ADHDにおいて遺伝的負因というのは無視できないものですね。ちょっと衝撃的なデータかもしれません。
子どもADHDにおける形態画像研究では、
皮質下領域及び前頭皮質の脳容量の低下が言われている。

これら容量の異常は年齢が経っても持続する、そして重症度と相関する ことが言われている。Castellanos先生の報告。
またdefault mode network という、興味深い知見が紹介されました。
これは、「アイドリング時の脳活動を支えている」ネットワークシステムです。
詳しく説明すると、特定の認知処理が行われているときに活動性が低く、休んでいる状態の時に活動性が高まるシステムらしいです。

注意課題に対しては、もうひとつのネットワークシステムが働きます。
fronto-parietal network
これは外的環境に注意を向け刺激に反応する回路のようです。

ADHDにおいて注意活動を行う時に、この二つのネットワークの切り替えがうまくいかない、ということが報告されている。Castellanos先生の報告。

単純に一つの回路の問題、というわけでなく、二つのネットワークのオンオフがうまくいかないがために、不注意症状が出現する、と僕は理解したのですがあっているのかな?
でも、面白い知見ですよね!

また、神経科学的な観点からも知見が提示されました。
ADHDにおいてドーパミンの機能不全があるという仮説は広く知られています。
実際、治療薬であるメチルフェニデート(コンサータ、リタリン)はドーパミンの再取り込み阻害によりドーパミンンを活性化させ、効果を発現させると言われています。

ただ、ドーパミンだけでなく、ノルアドレナリンも重要です。
ドーパミンもノルアドレナリンも、実行機能の働きに大切な役割を担います。
実行機能というのは、先を読んで順序良く物事を進める作業能力のことです。


前頭皮質においてはドーパミン神経とノルアドレナリン神経の投射があり、双方とも実行機能に非常に重要な役割を示しています。
ここで興味深いのは、前頭皮質ではドパミン神経の投射が少ないため、ドーパミントランスポーター(DAT)が極めて少ないのです。で、ノルアドレナリントランスポーター(NET)が、ノルアドレナリン(NE)はもちろんのこと、ドーパミン(DA)の再取り込みの役割も担っているのです。

一方、線条体では、ドーパミン神経が重要な役割をもっており、ここではドーパミントランスポーター(DAT)が高密度に存在します。NETは少ないです。

まとめると、こうなります。

前頭皮質   NET>DAT            NETがDAもNEも双方の取り込みを兼任している。
線条体     DAT>NET      DAが大いに働き、NEの活躍はすくない。

ADHDにおいては、前頭皮質のDA活性を高めることが大切です。
一方、側坐核や、線条体でDA活性が高まると、依存性やチックが問題になってしまいます。

ここで、治療薬のひとつであるアトモキセチン(ストラテラ)の薬理機序が大切になります。
アトモキセチンは、ドーパミン再取り込み作用に優れているメチルフェニデートと違い、ノルアドレナリンに主に働きます。

つまり、メチルフェニデートが、前頭皮質でも線条体でも側坐核でもDA活性を高めるということは、効果も強いが副作用もそれなりにあるということです。実際、チックが問題となりメチルフェニデートを中止せざるを得ない子どもが一定の割合でみられます。

一方、アトモキセチンは前頭皮質においては、NETに働き、実行機能の改善をもたらしますが、線条体や側坐核への作用はほとんど見られず、ゆえに副作用も少ない、ということが言えるのです。

このあたりは一長一短です。
やっぱり即効性があって作用が強烈なのはメチルフェニデートです。
アトモキセチンは、作用が見られるまでに時間もかかりますし、感覚的に言うと漢方薬みたいな雰囲気の薬かな、と僕は感じています。安全性には優れていると言えるでしょう。

さて根來先生の講演のまとめです。
・ADHDは、明確な神経生物学的基盤や遺伝要因と複雑な病因を持ちあわせた脳の障害である。

・遺伝的、環境的要因の組み合わせが脳の解剖学的・機能的脆弱性をもたらし、行動および認知の機能不全を引き起こし、これらの異常がADHDの症状を招くと考えられる。

・さまざまな研究結果からこれらの大部分は成人になっても残存するものである。
やはり、生物学的な観点から見ると、親の育て方によらないということは科学的に理解できますね。そして、薬物療法が一定の効果を持つ、ということも理解できるのではないでしょうか。

自分自身の頭の整理になりました。そして講演のあとも、懇切丁寧にスライドの解説もしてくださった根來先生、ありがとうございました!

根來先生の書籍はこちら!

非常にわかりやすいです!僕も勉強させていただきました!
本日はこの辺で、ではまた!
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