かつて私が、婚約者に会いにイギリスに行くとき、
驚いたことに、父が私にこう言った。
「もしも彼が『どうしても欲しい』と言ったら、
 許してあげなさい。」

25年も前のことを、けさ急に思い出した。

結局何事もなく帰ってきて、父にそう報告すると、
父は彼のことを「偉い」とほめたが、
ひょっとしたらそのとき父は、私が相手を間違えたことを
うすうす感じ取ったのかもしれない。
会ったこともないあなたの名字に合わせて、
私の名前を「今日子」とつけたほどの人だからね。

「あなたのところに行ったら、
 僕はあなたを抱くことしか出来ない、
 無能な人間に成り下がってしまいます。
 だから、僕はあなたのところに行くことができない…」

とあなたは言うかもしれないが、
あなたが私を抱いて、本当に幸せになったら、
そのエネルギーで、私ばかりか全世界を幸せにできる。
それのどこが無能なの?
あなたが幸せでなければ、他のことをどんなに頑張ったって、
だれ一人幸せにできやしない。
そのほうがよっぽど無能だよ。

私の父が本当に待っていたのは、
まさにそんな男だったんだ…とけさ改めて思ったのでした。