『シェイクスピア日和』熊井明子著 千早書房 1500円＋税
『シェイクスピア日和』目次の一部
『ユリイカ』12月号 特集「母と娘の物語」
*この中に、「人生の夏の日のアイスクリーム」という母と娘についての文章を書きました。
今朝、ポストの中に入っていた本。『シェイクスピア日和』(熊井明子著・千早書房)。すてきなタイトルだなぁ･･･そう思ってしみじみとした。
○○日和という言葉の響きとそれに伴う気持の弾みが私は好きだ。フルーツケーキ日和、カンガルー日和、グレース･ケリー日和、カフェ日和、デート日和･･････そして、シェイクスピア日和。
琥珀色のあたたかい紅茶を淹れて、惜しむように、でもアッという間に読み終えた。私にとってそれは、十一月の終わりの熊井明子さんのシェイクスピア講義だった。
へんなところで不器用な私は、日常生活での様々な変化をすんなりと受け入れられなかったりする。そして、このところの身辺の変化を風合いとしてなじませることが出来ないでいる自分がいた。それがのっけから「” 変化 ” を受けいれなくては」という一文に出会って、そう、変化を受けいれなくては、という気持に、読みながらなっていった。それに、熊井明子さんの本は、文章そのものが香りである。薔薇の香り、ローズマリーの香り、ポマンダーの香り、薪の香り、庭の香り･･･ページを繰るごとに立ちのぼる言葉による香りが、私には「芳香療法」だったのだろう、と思う。
ところで、この本の中には「秋の七草」の香りが紹介されている。萩、尾花、葛、撫子、女郎花、藤袴、桔梗(万葉集では朝顔)のほとんどがそれなりに香り、特に葛と藤袴には芳香があるという。
葛が香るなんて知らなかった。だが、熊井さんによると、葛には甘くフルーティーな香りがあるという。ちなみに、藤袴は、すっきりとシャープな香り。
「ところが、葛の花の香ることはあまり知られていない。俳句ではもっぱら花の色や道端に咲く情景などに目が向けられ、その匂いをうたった作品はあまり見かけない。
一方、藤袴は、別名が香草・香水蘭で、昔はおふろに入れたり、お香がわりに用いたりした。葛と違って、庭に植えられたり、切り花として売られたりもしている。」
そして、葛を詠んだこんな歌が紹介されている。
あなたなる夜雨の葛のあなたなる ──芝不器男
何と胸に迫る歌だろう。
また、私はこの本の中で、こんな歌にも出会った。
奥知れぬ宇宙のはてに光りいる星の香想ふコスモスの花
ばらの花すばらしき香は永遠に科学の前に伏せて秘めおけ
薬学博士の故・諸江辰男氏によるもので、私は深く惹かれた。
「シェイクスピアに出会う旅」と帯に記され、『シェイクスピア日和』というタイトルでもあるこの本について書きながら、シェイクスピアについては触れずじまいになったが、熊井明子さんが綴る文章の縁の糸は深く、広く、豊かに広がり、シェイクスピアだけにとどまらない。シェイクスピアにはこの本を開いて出会っていただきたいと思う。
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