サンフレッチェ広島がチャンピオンシリーズでガンバ大阪を倒しシリーズ優勝を決め、そして去年J1に居たはずの大分トリニータがまさかのJ3入れ替え戦で町田ゼルビアに敗れ来季のJ3降格が決まる。
今年のJリーグはドラマ性というところに関しては、かなりいいものを残したんじゃないかな、と思っている。
で、こういう事実から何を教訓として読み取ればいいのか、だ。

実はメディアや解説者、あるいはコラムニスト、あるいはブロガーなどなど、身近なスポーツの話題であるだけに百家争鳴状態でいろいろな意見を目にするものの、正直なところ、我が意を得たりと思えるものはほとんどない。

まあ、それは私の勉強不足であるところもあるだろうし、またそもそも事実誤認というような情報自体の齟齬みたいなところも結構混じっているなんていう理由もあるのかもしれない。どっちにしても、ホンの一部の人を除いた世の中の大半の人にとってはどうでもいい話にしかならないだろうから、気楽にモノが言えるっていうことがこの百家争鳴状態を作り出した真犯人であることは間違いない。ブラジルみたいなサッカー=人生みたいなところだったらこれで暴動みたいなところまでいくなんていう可能性もありそうだから、かえって無責任な発言は控えられそうな感じはする。そういう意味でも、今のところは日本は安心と見ていいだろう。

話が逸れたが、まずチームは監督と選手がすべてではなく、チームのあれこれを議論するならもっと大きなところを見ないとダメだよ、とは多くの人に言っておきたい。サッカーチームを組織的に論じた場合、最も類似した組織はおそらく軍の機構だと思う。つまり選手は兵器であり、監督は司令官だ。試合の結果を戦の勝敗と見立てるならば、そこで勝利を得ようとするなら、国家戦略を始め、兵站やら情報の収集と分析、組織としてはそれらを統合して扱う参謀本部のようなものも必要になるということも分かるだろう。そう、問題にすべきは個々の選手や監督の能力以前のところにあることが多いのである。運営会社の機構や統制ルールがちゃんとしてこそ、初めて司令官や兵器がその能力を発揮できるというものだと私は思うのである。

それを端的に示していたのが、サンフレッチェ広島と浦和レッドダイアモンズとの比較だ。表面に現われている部分、すなわち司令官や兵器は類似している。もちろん個々のスペック差はあるのは当然だとしても戦力として見たらむしろ浦和の方が優っている点も多い。
しかし一戦だけを戦うのではなく、長い時間戦い続けるという状態をどれだけ維持できていたかという点で浦和は広島にかなり劣っていたと言わざるを得ない。それは、戦略をサポートする体制が広島の方が浦和よりも優れていたという結果が、いわゆる「選手層の厚さ」の差につながったのである。
誤解をしないで欲しいのはこれは広島の方が金をかけていい選手をたくさん育てているという意味ではない。問題は育てる方向が初めから規定されていたかいなかったかの差なのだ。どういうことかというと、サンフレッチェ広島はトップチームの下に確か二つチームがあったと思うが、どちらもトップチームと全く同じ戦術のサッカーをやるのだ。つまり広島のサッカーに最適な選手に絞って育成するという思考とスタイルを実践しているわけで、これがトップチームの選手の不慮の事故などが発生した場合、コンティンジェンシーとして機能し、基本戦術が破綻しにくくなる理由になっていると考えられる。それに対し浦和はベストメンバーとベストコンディションを維持している時こそ強いが、それが崩れた時のバックアップが脆すぎたのである。が、これは監督の責任でもないし、選手の責任でもない。あえて言えば会社の経営戦略がなっていないのである。育成が明確な戦略に基づいて行われているから、スカウトもどういう選手が必要かが分かりやすくなる。つまり理想のイメージが組織全体で共有できている。これが今季の広島の強さの秘密だと思う。もちろんドウグラス選手や柏選手など移籍組の能力の高さや森保一監督が名将だったことは間違いないが、彼らがその実力を発揮できる環境が広島にはあったということは間違いないだろう。

J3転落に陥った大分、こっちはもう運営会社が全く機能していない見本のような状態だったらしい。兵站も何もかもバラバラではどんな名将、名監督に名選手を連れてきたって結果は同じだったろう。突き詰めて言えば、経営破綻の話が出てきた頃から今年の情況はある意味予想できたとも言える。経営トップもしくはそれに近い存在のところの人間が全く無能だったとしか評価できまい。決して監督選手の責任ではないと思う。
もう一度チームの原点から作り直さないと再浮上は難しいような気がする。