社会科授業が得意になる「社会科の授業ガイド」
土橋克彦著『見方・考え方を生かし「深い学び」を実現する授業づくり』―社会科の学び合いの実践を今後の授業のデザインに― (教育報道出版社)
❖どうも社会科の授業が・・・
「社会科の授業が苦手だ」という若い小学校教師の訴えを聞くことがある。「教える内容や領域が多岐にわたり、教えにくい」「覚えさえたり理解させたりする事項が多く時間に追われてしまう」「教科書や資料の内容を説明する伝達型に陥りやすい」など、いろいろな理由が挙がって来る。自分で受けて来た授業体験からだけではなかなか「質の高い授業観」を持つことは難しい。加えて、先輩教師による「優れた社会科授業」に接する時間的なゆとりも少ない。社会科の授業研究サークルなどに参加する機会も年々減少している様に感じる。では、このような環境の中で「優れた社会科の授業観」を構築し、洗練させて行くにはどの様な方法があるだろうか。それは、優れた先人の授業事例や教材の工夫を知り、自分の授業の中に取り入れて実践し、振り返って修正していく授業実践サイクルを回して行くことなのではないだろうか。
では、そんな時に助人になる資料や本はあるだろうか。それも、授業づくりの基本から、今後のアクティブ・ラーニング時代に対応した、今日的な授業づくりの要素を持った内容が望ましい。そんな欲張りな要求に応える「社会科授業実践の事例や素材が濃密に詰まった本」が間もなく刊行される。
❖授業実践に役立つ教材、情報、指導事例が満載
『見方・考え方を生かし「深い学び」を 実現する授業づくり』―社会科の学び合いの実践を今後の授業のデザインに― 土橋 克彦 著(教育報道出版社)がその本だ。
著者の土橋克彦氏は茨城県内の公立小学校で長年教壇に立ち、2018年に退職された。社会科の授業実践には定評があり、実践が新聞等で紹介され、多くの研究誌、専門書などへの寄稿歴を持つ。自分の授業実践の教材や代表的な単元の授業例(例えば三人の武将と天下統一など)をはじめ、郷土素材の教材化事例などを含め
Ⅰ 学習過程と評価の工夫
Ⅱ 体験活動の工夫
Ⅲ ディベート的学習
Ⅳ 思考の6段階
Ⅴ 未来志向の社会科(新聞教育)
Ⅵ 協働的な学習活動
Ⅶ 言語活動
Ⅷ ESD(持続可能な開発のための教育)
Ⅸ アクティブ・ラーニングの試み
など、多様な授業実践の教材、展開、評価、子どもの変容などを詳しく説明している。
こらからは,Ⅰ~Ⅸの視点に沿った実践をベースにした授業デザインを構想したい。
そして,Ⅰ~Ⅸのそれぞれの項目の最後の「これからの○○」として,授業改善に向けたポイントが示してある。こうした視点を授業デザインに取り込み,見方・考え方を働かせた「深い学び」を実現する授業づくりをめざしていきましょう。さらに、社会科の指導に必要な豆知識として、わかっていそうでわかっていない社会科用語の意味や,地図指導のポイント示されている。
こうしたことをを知っているか否かによって、確実に授業は変わって行くであろう。この本一冊に含まれている情報が触媒となり、頭の中の社会科的な知識内容が授業像となって浮かび上がって来る。
❖授業観を広げる
人は誰でも「授業観」を持っている。では、あなたの授業観では「どの様な社会科授業」が「よい授業」なのであろうか。上田薫は「未来志向で間接的であること」が授業の本質として重要だと指摘していたが、筆者はこれに加えて「切実な追求があること」ではないかとこの本を読んで感じた。
これからの変化の激しい社会の中で、社会の過去と未来を繋ぎ、間接的な現れを知的に捉え、知識の記憶を超えて物事の本質を看破していく能力を育てる社会科授業の在り方がこの本の根っこの部分に存在している。
そして、社会科を含み越えて「授業をつくる」ということが、どの様な営みであるのかも感じ取ることができる本だ。社会が苦手という若手先生は勿論、社会科好きな教師にもぜひ手にとって頂きたい。土橋克彦と言う授業づくりのメンターを手元に得ることができる様な一冊だ。
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