学ばせ上手な「熟達教師」を目指す【極意書】が登場

 

【授業が上手くなりたい。】今も昔も若手の教師からよく聞かれる言葉だ。事後研後の飲食の席上で、強い願いを込めた重い溜息の様にこの言葉を口にする若手教師の姿は、なんともいいものだ。なりたい教師への憧憬と、なりたい自分との矩を越えて行こうとする強い願いを感じ取ることができる。言葉となった情熱の迸りは、この教師が教師として「生きる力」を持つ現れなのだ。

 

しかし、である。「授業が上手くなる」ということは、一日にして成らぬ永遠の難題でもある。授業は不安定な要素を複数持ち、一回性が高い上に極めて流動的な要素を持つ現象だ。前のクラスで上手く行った指導案で同じ問いを使った授業をしても、その結果が大きく異なる事もある。子ども、教材、指導法、タイミングとタイムマネジメント等々が複雑に絡み合って進行する「授業」を的確に予測し、実行に移すには極めて高度な指導技能を必要とする。

 

では、高度な指導技能を身につけるにはどうしたら良いのか。指導のノウハウ本やネタ本を読んで情報を仕入れる。ベテランの教師に指導を仰ぐ等々、方法は沢山あるだろう。だが、実際に教師という仕事をしながら、誰から、何を、どの様に学び、教師自身が指導技能を高めつつ子どもにも成果を還元するのか。その術を見つけることは難しい。「授業が上手い教師」になるためには、読書や助言から学ぶ以上の「多様な体験と振り返り」が必要になる。では、どの様な「体験」を選び、どの様に「振り返り」を行って行けばいいのか。これまた難問である。この難問に答える本が近日刊行となる。

『主体的・対話的で深い学び』を実践する熟達教師の【実践知】(岩本宏幸 著 ・教育報道出版社刊)だ。

 

著者自ら実際に授業が上手い「熟達教師」から学び、自らが「熟達教師」を目指す過程の中で知り得たこと、身につけた技や視点や指導方法、子どもを洞察する方法や極意等を、余すところなく解説している。熟達教師が持つ「見方・考え方」とは何か、学習指導の要点はとは何か、生活指導の要点や「主体的・対話的で深い学び」を実現する研修や子どもの見取りをどの様に行うか等が、具体例と論理的な裏付けの両面から解説されている。

 

剣術の世界には達人の技や境地を後進の為に記した「極意書」なる書物がある。これは、達人・エキスパートが長い修行と工夫の過程で得た情報を言葉や図でまとめた書だ。ノービス(初心者)の剣士も、極意書を読みつつ試行錯誤を重ねることによって、より合理的にエキスパートを目指すことが可能となる。この本も「熟達教師」への道を、日常の授業や子どもとの対話から見出していく、授業名人への【極意書】だと言えるだろう。

著者は福島県二本松市立杉田小学校教頭、巻頭には藤井千春氏(早稲田大学大学院)の解説も入る。「実践家が書いた、実践家の為の授業上達極意書」が間もなく発刊となる。

 

                         (楽 学)