2007年11月06日

とりあえず……


つかってなかったので近況でも書いてみます。

新規に一本、書き始めました。
相変わらず超が付くほどのんびりと。
しかし、いきなり暗礁に。


私、最近やっていたkanonのアニメ見てないんですよね。

ゲームやったのも7年くらい前の話だし、
頭の中の街の景色と
作中の街の景色に整合が取れてないんですよ。

守口市駅前とかの景色とか、
学校の内部とか。
結構綺麗で大きい感じですが
私の頭の中のイメージだと随分寂れていたり。

一回整合とらないと妙な事になりそうです。
  

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2007年09月06日

世界は今日も平和 落書き(11)

(11)

「……美汐」
「違う、違うったら違うんです!」
祐一には美汐の後頭部しか見えなかったが
赤くなっているであろう事は容易に想像ができた。
「いや、うん……まぁいいんじゃないか?
 想像以上に、あまりにも少女趣味すぎるが。
 いや、むしろ想像通りなのかな。
 ま、俺は気にしない……って事にしておくからさ」
「しておく、って何ですかっ!?
 だから本当に違うんです!」
「でもさっちゃん、聞いたよ?」
「それは――つまり……
 私がさっちゃん位の頃の夢を、ですね?」
「ほぉ」
「信じてませんね!?」
「興奮するなよ。
 近所の迷惑になるぞ」
「お兄ちゃんがそんなに落ち着いているから!」
「いや、それは良い事なのでは」
「関係ありません!」
「言ってる事が支離滅裂だ。
 子供の頃の夢なんだろ?
 子供の夢としては可愛いって」
と、フォローするも美汐は顔をうずめたまま。
その両手はありったけの力でタオルケットを握り締めている。
「……なんか悶えてる?」
「知りません!」
「いいけどさ。
 ちなみに誰のお嫁さんになりたかったんだ?」
「そういう恥ずかしい過去を根掘り葉掘り聞かないでください」
「ぬぅ、それならお嫁さんが昔の夢で……今は?」
「い、今って……べっ、別に。
 今は……その――」
と、明らかに動揺し、どもる美汐を見て
祐一の中に悪戯心が芽生えはじめる。
「ふーん、教えてくれないなら……」
意地悪く笑い、脇腹をくすぐり始める。
「ひゃぅ!?」
祐一の行動に悲鳴を上げ思わず暴れる美汐だが、
足の上には祐一が乗っているので
寝返ることも、起き上がる事も出来ない。
「ふははっ、白状せいや!」
祐一はますます両手の動きを加速させる。
「ひっ、ふっ、ひゃぁ!?」
両手と上半身を賢明にバタつかせるも
60キロを超える祐一をどかす事は適わない。
祐一の両手を力ずくで引き離すという選択肢もあるのだろうが
残念ながら、まともな思考の出来る状況にはなかった。
「だめっ、ホントにっ、ひゃ、やめっ!」
「くくく、素直に白状すれば解放してやろう」
悪役気分で緩急をつけながら脇腹をくすぐり続ける祐一。
しかし美汐は一向にしゃべる気配がない。
そんなに嫌なものなのか、と
美汐を解放しようか考えていると
「お風呂、あがったわよー」
頭にはタオルを、両手の中には拓哉を。
風呂上りの椎名真琴は目を丸くした。
「……って何してるの?」
「あー、いやちょっと。
 意地悪というか……」
「そういう嗜好が?」
「無いから、違うから」
「冗談だけどね。
 ……でもそろそろやめてあげないと、美汐さん死んじゃうよ?」
「へ?」
椎名との会話中も無意識に指を動かしていたようである。
もはや美汐は身動きもとれず、体を強張らせながら
断続的に詰まったような息を吐く事しか出来ずに居る。
真っ赤な顔は呼吸困難と血管破裂、どちらが先かという状態。
まるで痙攣しているかのその様子は、傍目にもちょっと怖い。
「げっ、スマン!
 やりすぎた」
慌てて飛びのく祐一。
ようやく解放された美汐だが
暫らくは体を丸めたまま、動く事が出来ない。
「み、美汐さーん?大丈夫ですかー?」
慌てて背中をさするも、答える余裕もないらしい。
息を荒く、懸命に酸素を取り込んでいる。
「美汐さん、脇腹が相当弱いみたいね」
「いや、冷静な分析はいらない……」
「そう?
 さて、沙耶。帰るわよ」
「ちょっと!
 こ、この状態で俺と美汐だけになったら――」
自業自得とは言え、美汐が回復した後
何の歯止めもない状態での行動を考えると背筋が凍る。
「何言ってるのよ、だから、じゃない。
 子供に怖いもの見せたら、眠れなくなっちゃうでしょ?」
「あぁ、なるほど――って、えぇ!?」
子供が居ようが居まいが、怖い事が起こるのは確定事項らしい。
「真琴さん、助けて――」
立ち上がり、すがるように椎名を追うが
「ゴメンね、無理。
 だってほら」
言って、美汐の方に注意を促す。
先ほどまで荒かった呼吸も
徐々に落ち着きを取り戻しているのが分かる。
もう、残された時間は僅か。
「じゃね!」
歌いだしそうなほど軽やかな口調で別れを告げると
椎名は沙耶の手を引いて、さっさと家を後にする。
この家に残されたのは呆然とする祐一と
「相沢、さん?」
普段より3オクターブは低い声の美汐。
お兄ちゃん、とすら呼んでくれないところで怒りの程度が知れる。
「か、回復いたしましたか」
「おかげさまで」
「えっと……」
多分、走馬灯に歯車をつけるくらいの勢いで
頭を回転させてみたのに、何一つとして良策が浮かばない。
とりあえず、180度回転してみる。
「じゃ!」
このまま、何事もなく朝を迎えられたら幸せなのに。
一縷の望みと共に一歩前に踏み出してみるが
「どこに行かれるおつもりで?」
肩を掴む美汐の腕が外れない。
やむを得ず、再び回って美汐とご対面。
「お、お茶かな?……喉、渇かない?」
「うふふ、ご親切にどうも。
 相沢さんのおかげで非常に喉が渇いているんです」
渇望するはお茶よりも
祐一の血なのではないかとさえ思える妖しい笑顔。
何を言っても裏目に出そうである。
「今回ばかりは――」
「本当に、スマンっゴメン!
 俺はただ――そう、美汐の夢の手伝いを出来ればと!」
それはまさに、苦し紛れの言い訳である。
美汐にも当然、そんな事は分かっているはずだったのだが
「……え」
小さな呟きと共に、美汐の表情が僅かに緩む。
怒った美汐に関しては比類なき経験値を積んでいる祐一である。
ここを見逃すはずがない。
「本当にっ、俺のできる事なら何だってやるし!
 どんな夢か分からないけど、俺も共に見たいな、とかっ」
「何でも?」
「もう、何でも!」
「共に、ですか?」
「一緒も一緒だって!
 美汐の夢なら、是非!」
美汐は下唇に指を当て、小さく首を傾げる。
だが、その視線は祐一からは外れない。
「本当、ですか?」
「男に二言は無い!インディアン嘘つかない!」
「んー」
一度床に視線を落とし、次に美汐が顔を上げたとき。
その表情に浮かぶは、企みの笑み。
「分かりました、今回は許してあげます」
「え、マジで?」
「えぇ、その代わり――」
美汐は、一度深く息を吐き出すと
「さっき言ったことはずっと忘れてあげませんからね?」
「さっきって、夢を手伝うって?」
「はい。それと……一緒にって。
 あ、あと二言は無いと言った事もです」
「それは構わないが――って、
 その肝心の夢がなんだかまだ聞いてないんだが」
「さぁ、何でしょう?」
「何でしょうって……おい、どこ行くんだ?」
「お茶、入れてきます。
 喉が渇きましたので」
とぼけたまま、美汐はキッチンに向かう。
「おーい、なんだか分からないと手伝えないぞー?」
背から投げかけられる言葉に、
「覚悟してくださいね、相沢さん?」
美汐はくるりと振り返ると笑って返すのだった。

「……何か、早まったか?」
キッチンに消える美汐を見送りながら
祐一はどこか背筋に寒いものを感じるのだった。


そして時間の欠片の中で
小さな世界は今日も平和。

  

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2007年08月21日

世界は今日も平和 落書き(10)

(10)

帰りの電車の中で、たっぷりと睡眠をとっていた沙耶は
帰宅後、動物園のテンションのままにはしゃぎ回る。
一方、祐一達はというと、一気に疲れが体を襲い
沙耶と拓哉のために敷いた筈の布団に倒れこんでいた。
枕代わりのタオルケットに頭を預けていた祐一は
同じように寝転んでいる美汐に目を向ける。
「こんな風にヘバっている美汐を見るのは久しぶりだ」
「……流石に疲れました」
「美汐と真琴さんは弁当と朝飯の分だけ
 早くおきてたしなぁ」
ちなみに椎名は拓哉を連れて現在入浴中。
「それ自体はそんなに……。
 ただ、長時間歩いた事が堪えました」
「――沙耶、あまり飛び跳ねるな。
 下のお家に迷惑になるだろ。
 ……重い荷物もって、な」
「帰りはお弁当分軽かったですよ」
「お土産でその分相殺してるだろ」
「う……」
美汐が目を先にはペンギンのヌイグルミ。
そのほか、動物パズルやクッキー缶といった土産物が並ぶ。
「でも、可愛いからいいんです」
手を伸ばし、ペンギンを力いっぱい抱きしめる。
「はは、ペンギンが苦しそう――」
「あっ、ズルイ!」
沙耶の声が響く。
「見つかっちゃいました」
美汐はおどけながら
抱きかかえたヌイグルミを沙耶に手渡す。
「ペンギンさーん。
 こんにちはー!」
後ろから抱えながら、ヌイグルミの両手を上下に動かす沙耶。
「もうおやすみ、だぞ」
「もうちょっと」
沙耶は逃げるように布団から離れると
ヌイグルミを傍らに、画用紙を抱え込みお絵かきの時間。
「後、30分だけだからな」
「うんっ」
少しだけ譲歩してやると祐一は再びタオルケットに顔をうずめる。
「お兄ちゃんも疲れましたか」
「情けないけど」
「さっちゃん、ずっと背負ってたわけですから」
「重くはないんだが……
 電車も混んでたから朝から殆ど立ちっぱなしで」
「そうですよね、私も足が――」
美汐は自分の太ももの辺りを軽くもみつつ
「ちょっと痛いです」
「……マッサージしてやろうか?」
美汐は一瞬、期待に満ちた表情で祐一を見たが、
直ぐに表情を引き締めると
「変な事、しません?」
「信用ないのな、俺」
「冗談です、多分」
「……本当に信用無いのな」
「嘘ですよ、嘘。
 本当はちょっと恥ずかしいだけです」
「あー……、なんとなく分かるような。
 じゃ、やめるか」
「うつ伏せになりますので
 ふくらはぎの辺りからお願いします。
 土踏まずを踵で踏んでいただくのも気持ちが良くてですね」
「……おい」
祐一はため息交じりに起き上がると
美汐の足元で胡坐をかく。
「ふふ、ごめんなさい」
「んじゃ、まずここから――」

「パパッ、ママッ!
 見てみてっ」
マッサージ継続中の祐一と美汐の前に
画用紙に書かれた絵を披露する。
そこに描かれているのは
「……ペンギン?」
「うん!」
100%の確信があったわけではないが
青色のクレヨンで書かれたそれは確かにペンギンに見える。
「さっちゃんね、大人になったら動物園のお姉さんになるのっ」
昼間、ペンギンの餌をあげている飼育員が
よほど印象に残ったようである。
「将来の夢、ですね。
 えらいなぁ、さっちゃん」
子供の純粋な夢とはいえ、
まだ、明確な将来のビジョンが
見えていない美汐は羨ましげに呟く。
「美汐にはないのか?将来なりたいもの」
「あはは、私は――」
「さっちゃん、知ってるよ。
 ママはね――」
「え、あっ、さっちゃん!」
慌てて沙耶の口を押さえようとする美汐だが
マッサージのため、うつ伏せになった美汐の膝のあたりに
祐一が馬乗りになっているため体を起こす事ができない。
「お嫁さんなんだよね!
 この前聞いたんだっ」
「はうっ」
悪意のない、純粋な笑顔での暴露であった。  

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2007年07月30日

世界は今日も平和 落書き(9)

(9)

「ごっはん!ごっはん!」
「沙耶、後ろの人も居るんだからあんまり飛び跳ねるな」
ペンギンの食事タイム。
ちょっとしたショーという事で
女性の飼育員がペンギンと遊ぶようにしながら食事が進んでゆく。
芸というようなものではないのだが
ピョコピョコと歩みを進めながら餌をねだるその姿は
見るものの心を和ませていた。
「かわいいね!」
溢れんばかりの笑みが美汐に向けられ
美汐は沙耶に見とれたものか、ペンギンに見とれたものかと
しばし真剣に悩むほどであった。
「いいな、さっちゃんもペンギンさんにご飯あげたいな」
「あれはあのお姉さんのお仕事だから、ね?」
「うー」
少し悔しそうにする沙耶をなだめつつも、
実は美汐も少し羨ましく思う。
食事に満足したのか、数羽が水の中に飛び込むと
観客からは歓声や笑い声。
「……うぅ」
あまりの愛らしさに、頬が緩むのを必死で堪える美汐。
気を抜けば、きっとだらしないほど緩んでしまうから。
そして美汐は心に決める。
帰りに――
「ペンギンのぬいぐるみ、買おうとしてるだろ?」
「……な!?」
図星を突かれ、顔を引きつらせる。
慌てて頬をさすり、強張った部分がないか確かめる姿を見て
祐一は笑いを懸命にかみ殺す。
「分かりやす」
「なんで――」
「表情見てると分かるぞ?」
「祐一くんはペンギンより
 美汐さんの顔見てるほうが幸せ、と」
「ちょ、真琴さん――」
「まったく、この子達目の前にして
 ペンギンよりも美汐さんの横顔に見とれるなんて」
しみじみと語る。
「ちがっ」
「そーでもないと気付かないでしょ?」
「だから違う――」
「祐一くんも分かりやすいわねぇ」
相変わらず、意地の悪い笑いを浮かべる椎名である。


それからも園内を歩き回り、気付けば日はすっかり傾いている。
残念ながら帰り際の電車は非常に混んでおり
とてもでないが座れそうにない。
フルパワーで動き回った沙耶は
駅のホームで電車を待っている時に燃料切れ。
祐一の背中で眠る沙耶の頬は
夕日の赤みに照らされ林檎のようである。
「……楽しかったですね」
悪戯心から、沙耶の頬を指でやわらかく突きながら美汐は言った。
「あぁ、すごい楽しかった。
 お土産も一杯買えたしな?」
「……からかわないでください」
とは言え、美汐の両手には
沢山のお土産の入った手提げ袋がぶら下がっている。
なんといっても、かさばっているのは
拓哉ほどもあるペンギンのヌイグルミ。
「どうするんだ、そのペンギン」
「どう、って。
 お部屋に飾りますよ」
「沙耶が欲しがるかもしれないぞ」
「あ……」
美汐は袋の隙間からのぞく、ペンギンの愛くるしい瞳を見つめると
「もう一つ、買ってくればよかったでしょうか」
「誰が持って帰るんだ、誰が」
「相沢さん、前が開いていますし」
「……抱っこ?」
「抱っこです」
「ペンギンのヌイグルミを?」
「背中はさっちゃんですから」
「……絶対に、嫌だ」
「可愛いですよ?」
「否定まではしないが――」
「ペンギン抱えた相沢さん」
「俺がかよ!?」
「しっ、さっちゃん起きちゃいます。
 周りの方にも迷惑ですし」
「なんか、ずるい……」
周囲の人に一度頭を下げてから
美汐にふくれ面を向ける。
「それで……抱っこしてみますか?」
「しない!」

  

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2007年07月15日

世界は今日も平和 落書き(8)

(8)

「お昼の後の予定、どこだっけ?」
シートをたたみ終えた祐一が美汐に尋ねた。
「午前中に行けなかったところを
 どうしようかと考えているのですが」
予定の書かれた紙を眺めつつ答える。
午前中、予定外の場所を回ったため
事前に企画したスケジュールに狂いが生じている。
「仮に午前中に見れなかったところを午後に回っても
 結局午後に見ようと思ってたところを圧迫するんだろ?」
閉園時間が決まっている以上
見られる動物達には限りがある。
「急いでまわればまわれなくも無いとは思います。
 ただ――」
「俺達はいいけど、な」
「はい」
午前中からあれだけ飛ばしていた子供達の体力が
最後の最後まで持つとは思えなかった。
祐一は美汐からメモ紙を摘み取ると
「……っと、これ時間決まってるやつだろ?」
「え?」
祐一が一点を指して言う。
「ペンギンの餌やりって」
「あ、そうでした」
園に訪れた人が餌をあげている場面をみられるように
少し昼の時間を遅らせて、動物達の食事の時間が設定されている。
ペンギンのお昼の時間は人気が高いらしく
簡単なショーという扱いになっていた。
「これ見るんだと午前の予定のものは……なぁ?」
「ペンギンさんは是非見たいですね。
 惜しいですが、午後からは計画通りにまわることにしましょうか?」
「俺もそれが良いと思う」

「そう、それならそうしましょうか」
椎名の同意を得、午後のスケジュールが決定した。
「次、どこいくの?」
沙耶は美汐の服を引っ張りながら尋ねる。
「ペンギンさんのご飯、見に行きましょうか」
「いく!」
「13時半から?」
「はい」
「少し、急がないと間に合わないかもな」
祐一は携帯で時間を確認しながら言う。
「そう?まだ時間が結構あるような――」
と、椎名。
「人気あるんだし。
 人が多いと見えないかもよ」
「あぁ、なるほど」
「それでは、少し急いで行きましょうか」
美汐の声と共に、一行はペンギンの元へと向かう。「  

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2007年07月02日

世界は今日も平和 落書き(7)

(7)

少し休むつもりで立ち寄ったふれあいコーナーだったが
少々強引にでも切り上げなければ
一日中、そこで時間を費やしてしまいかねなかった。
「もっとウサギさんと一緒がよかったのに」
「もう、ご飯だから、ね?」
ふてくされる沙耶をなだめながら
少し離れた場所に再度、
レジャーシートを引きお弁当を広げる一行。
あたり一体は芝生が広がり、所々に銀杏の木。
周りを囲むように出展されている店を見る限り
昼食や休憩の用途で利用する事を
想定しているのだろう。
同様に、何組もの家族連れが昼食の時間を迎えている。
日中の日差しを銀杏の葉でさえぎりながら
秋の風で休むのはちょっとした贅沢とさえ思える。
「おぉ、すごい」
目の前のお弁当を眺め、祐一は思わず感嘆の声を上げる。
これほどお弁当らしいお弁当を広げたのは何時以来だろう?
レジャー用のお弁当とでも言うのだろうか。
おにぎり、鳥のから揚げ、玉子焼き。
ノリで鉢巻をしたタコさんウインナーもあれば
ミニトマトやブロッコリーもある。
彩りを考えたものである事もすごいとおもうが、
それ以上に昔ながらのお弁当構成に
食欲をそそられる。
「私と美汐さんの共同作品だからね。
 早起きの成果成果!」
と、胸を張る椎名。
その仕草はどこか可愛らしい。
「食べて良い?」
が、しかし、そんな椎名よりも
目の前のお弁当に興味を引かれている祐一。
「……どうぞ」
自分のお弁当に負けたことに切なさを感じつつも
彼女自身もそろそろ空腹感が極まっている。
そして賑やかな昼食が始まるのだった。


食後の麦茶で口をさっぱりさせつつ
軽くお腹をさすってみる。
残してしまうのも勿体ないので
少し無理やりお腹に詰め込んだのだ。
お弁当を全て片付けるのは
暗黙のうちに祐一の仕事になっていた。
昼食を終えた沙耶は既に辺りを走り回り、
拓哉はお昼寝、女性陣もどこか夢見心地だ。
「ふむ……」
シートの上から軽く手で地面を押してみる。
土と芝がクッションになっているので
思ったよりは硬くない。
子供が走り回ることを考慮してか、
石が転がっている様子も無かった。
これなら少し横になっても痛くないかもしれない。
横にいる美汐にぶつからないように、
体を倒そうとしたところで、不意に思いつく。
「……なぁ」
「なんですか?」
祐一に応える美汐の声も緩んでいる。
「ウサギ達はきっと居心地が良かったと思うんだ」
「……はい?」
「ピロが居座るくらいだしな、うん」
美汐は反射的に頭を抑える。
「こ、今度は何を載せるつもりですか!?
 まさか今度は自分が――」
「乗らないし、乗せないって」
自分の所業が原因としりつつも、苦笑を隠せない。
「いや、まぁ確かに乗ってみたい気持ちはあるが。
 あとは雛鳥を乗せてみたい欲求とか……」
「やっぱり!」
「だから違うって。
 つまり――」
そのまま体を倒し、美汐の膝に頭を乗せる。
「頭の上は知らないが、こっちが気持ち良いのは知ってる」
「……あのですね」
ため息交じりの美汐。
「お腹がちょっときついんだ。
 勘弁してくれ」
「それは、かまいませんが。
 ……一つきになるんですけど?」
「んー?」
「私の膝は柔らかいです?」
「うん。
 すごい気持ち良い」
「太ってますか、私?」
「……そう、捉えるか?」
「だって――」
やはり乙女としては少なからず気になるものである。
「比較対象がないから知らないけどさ。
 あー、そんな事どうでも良いくらい気持ち良いんだ」
「もう……」
再度ため息を漏らしながらも
美汐もそれ以上追求する事はしなかった。
そして、ゆっくりと目を瞑ろうかという祐一の耳に
「あー!パパっ、ずるい!」
2人の様子に気付いた沙耶の大声が届く。
「さっちゃんも、おやすみするー!」
「駄目だよー、さっちゃん。
 美汐さんのお膝は祐一くん専用。
 さっちゃんはこっちねー」
椎名は沙耶に手招きすると、自分の膝の上に座らせた。
「……いや、専用って。違うし」
「ふーん、祐一くんは他の人が
 美汐さんに膝枕されてても平気なんだ?」
「さ、沙耶と拓哉なら可」
「それ以前に誰のものでもないんですが。
 勝手に使われているだけですし」
困り顔の美汐である。
「う……スマン、不快だったなら謝る」
言って、体を起こそうとする祐一だったが
美汐に体を押さえられ、目的は達成できず。
「いくら、突然だったからって
 嫌だったら避けることくらい出来ます。
 立ち上がるなり、足をずらすなり」
「うん……」
「今だけですからね」
微笑みながら祐一の髪を梳く美汐を見て
沙耶は頬を膨らませた。
「いいもん!
 さっちゃんおかーさんのお膝好きだもん!」
「うーん!
 さっちゃん、可愛い!」
後ろから抱きかかえたまま、沙耶に頬擦りする椎名。
どこか穏やかに、どこか騒がしく
昼食後の時間が過ぎてゆく。
  

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2007年06月25日

世界は今日も平和 落書き(6)

(6)

広大な園内を時間をかけてゆっくりとまわる。
まだ午前中ではあるが、次から次に現れる動物達は
子供達にとって新鮮であり、
祐一たちにとっても楽しいものであった。
しかし、祐一たちも若いとはいえ
子供の無尽蔵なパワーの前には適わない。
間断なく動物達を見られるようにと、
園側の気の配られた配置は
子供に少し休もう、と提案するには最悪のものである。
秋という比較的すごしやすい時期ではあるのだが
立ちっぱなし、歩きっぱなしでは汗もでる。
「ちょっと疲れないか?」
祐一は隣を歩く美汐に声をかけた。
「はい。
 でもどんどん次を見ようと言われては
 断る事も忍びなく……」
「どこかちょっと座りたいわね。
 咽も渇いてきたし」
水筒は持参したものの、開く暇も無い。
「うーん……あ」
先頭を歩く沙耶の先に目を向けた祐一が
一枚の看板に気付く。
「なぁ、あそこだったら少し休めるんじゃないか?」
美汐と椎名は祐一に言われ、彼の指差す方を見ると
「……動物、ふれあいコーナー」
「原っぱになってるんだ。
 あ、そっか」
椎名は園のパンフレットを開き
「ウサギとか、羊とかポニーだって」
記載されている情報に目を通す。
「あ、モルモットも」
「遠目に見えるだけだけど、シートとか敷いてるみたいだし。
 子供は近くで遊んでもらって」
「それが良いかもしれませんね、
 さっちゃーん!」
前を行く沙耶に届くようにと、美汐は声を張り上げた。

一応、祐一たちのもくろみ通りに
広場ではビニールシートを敷き、休むスペースは確保できたのだが。
最初こそウサギを追いかける沙耶を眺めていたものの
間もなく祐一も沙耶と一緒にウサギを追いかけ駆け回っていた。
「……元気ですね」
「半分は沙耶に付き合ってるんだとおもうけど。
 美汐さんも行ってくれば?
 拓哉は私1人で見てられるし」
「いえ、私は……」
「おかーさん、ママー!
 見てっ。
 ウサギさん!」
ウサギを高々と抱えあげる沙耶。
ふわふわでコロコロとした小動物を眺めていると
自分も戯れたい衝動に駆られる。
「……ちょっとウズウズしてるでしょ?
 ウサギちゃん達と遊びたくて?」
「少し。
 でもまだ見るところが沢山ありますし……」
そろそろお昼という時間だが
午後も閉園一杯までは見てまわる事になるだろう。
少し体力を残しておかないと十分に楽しめないのではないだろうか。
そんな思いから、気持ちを押さえ自重する。
「そー言う考えだからオバサンくさいんだぞ」
と、背後から響く祐一の声。
「え?」
同時に、頭の上に暖かく、そして柔らかな重み。
この重みは――
「ピロ――」
「ウサギ。
 逃げないな」
「何してるんですか」
「ピロが好んで乗るくらいだからウサギもどうかなって。
 動物に好かれるのかな、この場所」
「あのですねぇ……」
「可愛いわよ?
 アクセサリーというか帽子みたいで」
「帽子としてはシュールだと思うけど」
「ですから」
「可愛いのは同感だな」
「……ウサギが、ですよね?」
「どっちが良い?」
「どっちって……その――」
口をモゴモゴとさせる美汐をよそに
祐一は2羽目のウサギを美汐の頭に載せる。
「3羽ならいけるか?」
「そうやって、人を困らせておいて」
頭の上のウサギは身じろぎもしない。
ピロもそうなのだが、美汐の頭上では
どの動物も行儀正しいようである。
「祐一くんってちょっとずるいよね」
「ちょっとですか?」
不満そうな美汐。
「美汐さんにはすごい意地悪だよね?」
「それなら同意しないでもないです」
「気のせいだろ」
言いながら、3羽目のウサギを美汐の頭に載せた。
美汐の頭の上に出来上がるウサギのピラミッド。
「……重いです」
「に、似合ってる!」
お腹を押さえる祐一は、どう見ても笑いを堪えているようだ。
「されるがままになっている美汐さんも可愛いというか」
椎名も笑いをかみ殺すのに必死である。
「もう……」
美汐は小さくため息をついて
頭上のウサギに手を伸ばそうとするが
「ちなみに」
祐一の言葉に手を止めた。
「可愛いのはウサギを頭に乗せた天野かな?」
「なっ」
冗談めかした祐一の言葉だったが、
瞬間、美汐が顔を赤くし体をこわばらせると
乗っていたウサギ達は一斉に散るように飛ぶ。
「……やっぱり可愛いのって美汐さん本人じゃない?」
「……沙耶の次って事なら認めるのもやぶさかじゃないというか」
「素直じゃないんだ」
祐一は逃げるように視線をそらせるのだった。  

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2007年06月18日

世界は今日も平和 落書き(5)

(5)

「パパっ、あの動物さんは?
 なに、なーに!?」
「こら、沙耶っ、肩車してるときに暴れるな!」
少しでも良く見えるようにと
祐一の肩から動物を眺める沙耶。
珍しい動物達を前にして、
大人しくしろというのは無理な注文である。
「象さん?象さんの赤ちゃん?
 パンダさん!?」
「あれは象でもパンダでもなくて――」
沙耶が指差しているのはバクである。
「マレーバクですよ」
「マレーバクさん?」
「えぇ、さっちゃんも読めるかな?」
直ぐ傍に、動物の説明が書かれたパネルが置かれている。
子供でも読めるように、簡単にかかれているのだが
「……わかんない」
流石に4歳が1人で理解できる内容ではなかった。
「ふーん……この子は水浴びが好きなんだって」
椎名も興味深げに説明書きを眺める。
この動物がバクという名前である事くらいは知っているものの
細かい事については殆ど覚えていない。
「さっちゃんもプール好きだよ!
 一緒に泳げるかなっ」
「一緒には無理かなぁ」
と、苦笑いする美汐。
「おー……ここではこいつ
 ニンジンとかサツマイモ食べてるらしいぞ。
 沙耶も食べないとな」
「……ニンジン、嫌っ」
「写真、どうしよう?」
「あ、撮ろうか。
 今なら人も少ないし。
 沙耶、ちょっと降りて」
沙耶を肩から降ろし、デジカメと取り出した。
一方沙耶は降りると同時に、
哉の事を見ている美汐の元に駆けて行く。
「えっと……あ、あった」
「カメラあるんだ」
「北川……友達から借りた」
本当は、今日のためにデジカメの購入も検討していた祐一だが
美汐に止められたのだ。
祐一個人の貯金で、実は美汐には全く関係のない話なのだが
共通の家計以外の部分にまで関与される事を
気付けば何の疑問も無く受け入れている祐一がいた。
相沢ってヘソクリとか出来なさそうだよな、とは
祐一がカメラを借りたときの北川の言である。
もっとも、当の祐一は何の話だかさっぱり分からず
きょとんとした表情でいたのだが。
「……亭主関白は、無さそうねぇ」
「はい?」
「なんでもないわ」
「何をしてるんですかー?
 早く撮りましょう」
美汐の急かす声が届く。
「あ、おーう!」
小走りに美汐の元に向かう祐一をみて
「互いに、尻にしかれそうな関係って面白いわねぇ。
 どちらが主導権を握るのやら」
椎名は微笑みながら、小さく呟くのだった。  

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2007年06月12日

世界は今日も平和 落書き(4)

(4)

「パパっ、お店、お店!」
美汐と椎名がチケット購入に行っている間
手持ち無沙汰になった沙耶は
ひたすら目に映るものを祐一に報告していく。
沙耶の指す方を見ると、
なるほど、動物園の内と外の境界あたりに
一軒の店がある。
軒先に並べられているものを見る限り
どうやら動物園のグッズを扱った店だろう。
園の中からでも外からでも購入できるように
境界に店を建ててあるのだ。
「ねぇー、ねぇ!」
祐一の袖を引っ張りながら
沙耶は店を指差した。
「お土産買うのは帰りな」
「えぇー」
「荷物が増えちゃうだろ。
 荷物多いと疲れちゃうから
 動物さん沢山見れないぞ?」
「むー」
抗議の声を上げるものの、納得はしているのか
何度か店のほうを振り返った後
吹っ切るように祐一の腕に抱きつく。
「おかーさんとママ、遅い」
ぶら下がりながら、足をバタバタをさせる。
祐一も意識せずに腕を上下し
沙耶の遊びに付き合いつつも、チケット購入部隊に目を移す。
人の多さから、多少時間が掛かっているようだ。
「もう直ぐだからな」
「早くコアラちゃんみたい。
 キリンさん、象さん……」
「入ったら直ぐ見られるから」
と、なだめながらも祐一は
コアラやキリンや象が入り口付近に配置されていたかと
行きの電車で眺めていた園内マップを思い出す。
「……まぁ、大丈夫だよな」
この3種の動物は、いずれも園の中央から奥に配置されている。
もしかしたら『直ぐ』というのは語弊があるかもしれないが……
「クマさん、ワニさん、ライオンさーん」
楽しみなのはそれだけではなさそうだ。
「……まだかなぁ」
「ほら、アメ食べてていいから」
電車の中から、幾度となく沙耶が狙っていたお菓子だ。
「本当!?」
それを聞くと、沙耶はぴょんぴょんと
祐一の周りを跳ね回る。
祐一はそんな沙耶を見ながら
拓哉のベビーカーに掛けかれたカバンのポケットから
アメを一つ取り出して開封した。
「ほら、口開けて」
「あーん」
口に放り込んでやると
沙耶はもごもごと口の中で飴玉を転げまわす。
ぽこっと脹れる頬が、どこと無くハムスターを連想させた。
「いちごー!」
沙耶を微笑ましく眺めていると
「あ、さっちゃんいいなぁ」
背後から美汐の声が聞こえてきた。
「お、買えた?」
「はい」
「美味しいよっ」
「さっちゃんばっかりずるいなー」
「えへへー」
「……んー」
祐一は、少し考えた後
「ほら、あーん」
美汐に向けて、飴玉を差し出す。
「……公衆の面前でそういうことをやりますか?」
「うらやましいって言うから」
「それは――」
純粋に飴がうらやましかったのではなく
沙耶の愛らしい行動の前に、つい口に出た言葉である。
もちろん、祐一もそんな事は承知している。
「ほら、ほら」
「うぅー……」
困って顔を逸らすと
直ぐ傍で沙耶がつぶらな瞳で一部始終を見守っている。
「美味しいよ!」
「そ、そうですね」
「ママ食べないの?」
「え、えーっと」
再び祐一に視線を戻せば
飴をつまんだまま、意地悪く笑っている。
「あぁ、もう!」
美汐は目を瞑って、小さく口を開けた。
それから間もなく、舌の上に甘い宝石が転がる。
「……レモン」
「美味しいよな?」
「えぇ、おかげ様で!
 さぁ、混む前に行きますよっ」
赤面しながら、先陣をきる。
歓喜の声を上げながらその後に沙耶も続く。
「真琴さん、俺達も――って?」
振り返れば口を開けている椎名。
「あーん」
「……いや、ちょっとそれは」
「あら、私はダメなんだ?」
「こ、公衆の面前でそれは恥ずかし――」
「ふーん。
 美汐さんに愚痴っちゃおっかな。
 祐一くんがやってくれなかった理由を添えて」
「ぐぁ……。
 そ、それは勘弁」
たった今、自分が美汐に無理やりやった事を
同じ理由で拒否したとばれれば何を言われるか。
「ふふふ……逆境に弱いわねぇ」
 さ、私達も行きましょ。
 2人ともどんどん先に行っちゃってるわよ?」
拓哉のベビーカーを押しながら、歩き始める椎名。
「敵わないなぁ」
祐一は呟いて、一行の後を追うのだった。  

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2007年06月07日

世界は今日も平和 落書き(3)

(3)

辺りには、所狭しと動物の看板が掲げられ
その脇を通り抜ける度に気持ちが高揚していく。
そして、動物園の門が見えたとき
「到着ぅ!」
「着きましたね!」
溢れる期待感に押し出されるように声をだしたのは
椎名真琴と天野美汐だった。
「……元気だな、おい」
祐一といえば、2人に十数歩遅れる事、
拓哉のベビーカーを片手で押しつつ、
もう片手では沙耶の小さな手を包み込んでいる。
「パパ!おかーさんとママ楽しそうだね」
「沙耶もな」
「うん!もうすぐ動物園だもんっ。
 パパは?」
「どーみえる?」
「んー……とっても楽しそう!」
何のことは無い、祐一も先ほどから
だらしないほどに頬が緩みっぱなしなのだ。
「拓哉も楽しみか?」
ひさしの奥、拓哉の顔を覗き込むと
「あやぁー!」
文句なしの返事が返ってくる。

祐一と美汐、そして椎名一家。
かねてよりの計画通り、少し離れた動物園までやってきた一行。
朝が早かったにもかかわらず
誰一人眠そうにせず、
一年かかっても見きれないほどの要望が既に積み重ねられていた。

「チケット、買ってきますね」
いよいよ入り口そばに来ると
美汐はそれだけ言い残し軽い足取りで券売場所に向かう。
「あっ、美汐さん割引券!」
浮かれていた美汐は割引券の事をすっかり忘れているらしい。
慌てて椎名が割引券を取り出すが
既に行楽客が多く、椎名の声は美汐に届かない。
「ちょっと私も行って来るから!」
祐一に小さく手を振ってから、美汐の後を追う。
券売場所には既に行列ができていた。  

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2007年06月03日

世界は今日も平和 落書き(2)

(2)

「当日まで、黙ってれば良かったのに」
帰宅した椎名に休む暇は無い。
若い2人が、画用紙からはみ出したクレヨンと
賢明に格闘していれば、自分ひとりお茶する気にもなれなかった。
「どこかお散歩しようか、で
 動物園に連れて行っちゃうとか」
「後の祭り」
雑巾片手に、祐一はため息をつく。
クレヨンの汚れは頑固で
いくらふき取ろうとしてもなかなか落ちてくれない。
このままでは明日の朝食はカラフルな食卓で迎える事になる。
「それじゃ、落ちないでしょ」
椎名は洗面所へと向かう。
子供にうがい手洗いを徹底しているだけに
自分でも守るのかな。
椎名の行動を横目で見ながらも
祐一は手を休めない。
「祐一くん、この歯ブラシ
 もうブラシが開きかけてるけど……」
洗面所から椎名の声が響く。
「うん?」
「美汐さん、買い置きあるー?」
「大丈夫ですけどー!」
祐一の向かいで、やはり同じように手を動かしながら
声を張り上げて応える。
「貰うわね」
祐一と美汐は、なんだろうかと顔を見合わせる。
まもなく、リビングに現れた椎名の両手には
歯磨きセットが握られていた。
「これがねー、意外と落ちるのよ」
そして彼女は、歯を磨く代わりに
クレヨンで汚れた部分を磨き始める。
「おぉ」
「あとはこの洗剤と――」

椎名が着替えを済ませ
3人はきれいになったテーブルでお茶をすすっていた。
「育児雑誌に載ってたかなぁ……」
先ほどまでクレヨンがこびり付いていた部分を
美汐が指先で撫でる。
既に跡も残っていない。
「保育所の、他のママさん情報」
「どこも共通なんだな、クレヨン被害って」
「沙耶は明日私が叱っておくから」
「俺と美汐も叱ったよ。
 明日は動物園だし――」
「悪い事すると、明日動物園にいけないよっって。
 ちょっとずるかったですけど」
「全然。
 効果はてき面だったでしょ?」
はい、と美汐は苦笑い。  

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2007年06月02日

世界は今日も平和 落書き(1)

(1)

確かに、祐一は諭すように言った事がある。
『沙耶、他人が定めた枠の中で収まっているようじゃいけないぞ。
 社会という決まりきった枠をぶち破るような生き方こそ――』
無論、4歳の沙耶にそんな難しい事を伝えようとしたわけではない。
受験勉強の事で美汐にせっつかれた際、
ささやかな抵抗として沙耶に語りかけたのだ。
美汐が聞いている事を承知した上で。
その後に続いた、祐一と美汐のやり取りは
仲が良いのか悪いのか。
いずれにせよ
彼らのコミュニケーションの一種であるのは間違いない。

「……お兄ちゃんが、あんな事言うから」
「……美汐だって否定しなかっただろ」
全く穏やかではない台風の中心が
今現在、2人の目の前に居た。
「アヒルさん!クマさん!ライオンさん!」
昨日から、消費された画用紙は
片手では数えられないほどの枚数に達している。
2進数で数えたとしても。
それほどの勢いで、次から次に動物の絵を描きあげてゆくのは沙耶画伯。
祐一が画用紙に描いた枠を元気良く突き破り
既にテーブルはクレヨンまみれだ。
「沙耶、もうちょっと大人しく――」
「ネコさん!ウサギさん!シマシマー!」
沙耶の周りに生まれる、独創的な動物園。
彼女が描いているのは、全て動物なのだ。
「さっちゃん、明日の動物園が楽しみなのは分かるけど……」
美汐も困り果てて制止するも、先ほどから全く効果が無い。
「美汐が動物園に行こうなんて言うからだぞ」
「お兄ちゃんが、動物カードをあげたからでしょう」
目の前の惨状はもはや諦め
責任の押し付け合いを始める2人。
もっとも、ここまでくれば責任云々を言い合ったところで
掃除は2人の共同作業になる事は疑う余地も無い。
「明日、動物園に行って満足してくれれば良いけどな」
「満足しすぎて、更にペースが上がるかもしれませんよ、お絵かきの」
「……怖い事言うなよ」
「楽観、出来ますか?」
「無理」
「出来たー!」
その叫びは産声か。
沙耶の手によって、また新たに1匹のパンダが生まれたのだった。


/****************************************************************
「世界は今日も平和」の落書き版です。
気が向いたときに続きを書き進めていく事にします。

色々ヌルイですが、ご容赦を。
****************************************************************/  

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2007年04月20日

あるいはそういう物語 その16(5)

(5)

それからの時間は、いつも通りの日々が
あっという間に過ぎていった。
皆が日常を取り戻し、日常に生きる。
真琴は保育所のアルバイトに一生懸命で
あゆもタイヤキ屋との競争に忙しい。
香里がテストでいい点を取ったかと思えば
名雪は今日も重役出勤。
舞と佐祐理はいつも通り一緒に居るし
栞もクラスで駆け回る。
祐一も北川も、漫才のようなやり取りを続ければ
美汐はクラスメイトとのやり取りに忙しく奔走する。
そんな少年少女を、笑みをもって見守る秋子。
気付けば、翌日には美汐の両親が帰宅する。
「……結局、ほとんど何も変わってない気がするよ」
最後の夜、祐一は美汐にぼやいてみせる。
「そうかもしれませんね」
確かに祐一に起こされなくても名雪の遅刻回数は減ったし
真琴は保育所の仕事に一層責任感を持ったようだ。
あゆも目標に向かってまい進しているのが分かる。
しかし、それは祐一が居ても居なくても
彼女達ならばきっとそこにたどり着いていただろう。
と、祐一は信じている。
祐一が水瀬家戻れば、最初はともかく
また前と同じような生活に戻るとその点についても疑っていない。
そして困った事に、祐一もまた、
その生活を心のどこかで望んでいた。
彼女達から離れた数週間、自覚したのは
祐一自身、思った以上に彼女達に依存していたという事。
ホームシックといえば祐一は否定するだろうが
時々寂しく思う日も確かにあったのだ。
「やっぱり、嬉しいですか?」
そんな祐一の心を読み取ってか、美汐が尋ねる。
「……別に。
 ただ、また元に戻るんだなって」
「そうですね、戻っちゃいますね」
しんみりとしたその口調に
「なんだ、俺が居なくなると寂しいか?」
ついからかいたくなる祐一である。
「知りませんよ。
 ……賑やかなのは確かでしたけど。
 家、学校を問わずに」
「まさか、清々してたり……する?」
「……うー、何でそうなるんですか」
不満そうな美汐の表情。
「いや、悪かった。
 少なくとも俺は楽しかったぞ、うん」
「私もですよ」
美汐は小声で言った。
「ははは、最後くらいお互い素直になっとくもんだな」
「私はいつも素直なんですけれど」
と、不服を申し立てる美汐だが
その表情は決して不快そうではない。
「水瀬家に帰るのを楽しみにしてるのは事実だよ。
 天野家を離れるのが寂しいのも事実だけどな」
「そう言ってもらえると」
美汐は微笑む。
「……さて、明日からはまた体力勝負だ。
 そろそろ寝るか?」
「はい」
2人は立ち上がり向かい合う。
「ぐっすり眠れるのも今日が最後かな?」
「え?」
「真琴の悪戯グセ、直るかな」
「……無理だとも思います」
「ってことは名雪を起こす日課も、相変わらずなんだろうな」
「ふふ……」
「本当に、前のまま――あぁ」
祐一は、軽く手を叩いた。
「一つ、変わったか」
「え?」
「呼び方。
 んじゃオヤスミな、美汐」
「そういえばそうでした。
 おやすみなさい、祐一さん」
2人は別れ、寝室へと向かう。
今日見る夢はどんな夢か。


いつも通りで、少しだけ変わった日々に。
あるいはそういう物語。



/**************************************************************

ここでひとまず、下書きは完了です。
後は手直しをして、掲載すればリメイクが完了。
たまりにたまってますけどね。

今回は毎日100行程度
継続して書くのが目標だったので
ある程度は達成できたかな、と。
一方、出来上がったものに対する評価は
100行のための水増しを含めて
自分の中で納得できてないところも多いので
掲載前にはもう少し煮詰めたいなと思っています。

これとは違うオチも、終了間際に思いついたので
何か出来るといいのですが……。

何はともあれ、毎日来てくださった方々には感謝の気持ちで一杯です。
ありがとうございました。

……さて、このスペースどうしよう?

**************************************************************/  

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2007年04月19日

あるいはそういう物語 その16(4)

(4)

「……本当に?」
「間違いありません。
 間違えるはず、ありません」
今度はしっかりとした足取りで狐に近づこうとする美汐だが
やはり、狐は美汐が近づくたびに、同じ距離離れていく。
これ以上、美汐が近づく事を拒むように。
「お願い、逃げないで。
 折角会えたのに」
美汐の瞳を真直ぐに見据えていた狐だったが、
次の瞬間、その視線は祐一に移る。
「……あ」
吸い込まれるように深く、どこまでも吸い込まれそうな瞳。
狐は、一つ鳴いた。
声が空気を揺らし、やがて天に吸い込まれる。
カサリ、と再び草の擦れる音が鳴り
現れたのは子連れの狐。
「……家族?」
それを肯定するかのように
仲むつまじく寄り添う狐たち。
「だから、無理なの?」
狐は答えず、祐一の瞳を見続ける。
「……分かったよ」
祐一は頬を掻くと、手の甲で美汐の頭を軽く叩く。
「相沢さん?」
狐は再び鳴く。
今度は小さな声で。
「バイバイ、って」
「え?」
「ほら」
狐たちは、既に林の方に向けて歩みを進めている。
あの子もまた、顔を2人の方に向けながらも、林へと帰っていく。
「私っ」
懸命に声に出して、何かを伝えようとする美汐だが
言葉が出てこない。
徐々に遠ざかる狐たち。
「大丈夫だろ。
 今度は会えるさ。
 ……多分いつでも」
「でも、ずっと……何度ここにきても……」
「だからさ。
 今の天野は大丈夫って事なんだろ」
「……今の?」
「そ」
既に体半分は林に隠れている。
名残を惜しむように、あの子は最後に美汐を一瞥すると
林の中に姿を消した。
「バイバイ!
 またね」
美汐も大きな声で、大きく手を振り別れを告げる。
また会えると信じて。
「あの子、待っていたのでしょうか?
 私が変わっていく事を?」
「あぁ」
「……なんで、そう思うんですか?」
「何でだろう?
 そう言ってた気がした」
「あの子たちの言葉が分かる、
 不思議な力でも持っているのでしょうかね?
 相沢さんは」
冗談めかして言う、美汐の表情は明るい。
「そういえば、さっきも『分かったよ』って。
 何が分かったんです?」
「あー」
祐一は視線を美汐からそらせ、空を仰ぐ。
「……うん、あれは良くわからなかった」
「何を言ってるんですか」
「いいだろ、分からないことだってあるさ」
「あの子のほうも納得していたみたいですが」
「あはははは、偶然ってすごいんだなー」
乾いた笑いを浮かべ、美汐に背を向けて歩き出す。
「よし、寒くなってきたから帰ろう!」
「ちょっと、相沢さん!?」
引き止める美汐もかまわず祐一はどんどん進む。
慌てて後を追う美汐が何度も声をかけるものの
逃げるように、歩みを止めることはない。
美汐は少し、悔しそうな表情を浮かべたが
直後に何かを思いついたのか、立ち止まると
「祐一さん!」
ズンズンと、先に進んでいた祐一は思わず小石に足をとられ
頭から地面に向かってダイブした。
受身も満足に取れなかったのか
鼻の先を赤くして。
「……すごい効き目」
「いきなり、何言いやがる!」
「嫌でしたか?」
「そーいう問題ではなくてだな……。
 つまり善悪ではなく、嬉しいより先に驚いたというか。
 慣れない上に意外なところからの――分かるだろ!?」
半ば自棄になりながら叫んだ祐一の言葉だが
「はい」
美汐はあっさりと同意する。
「昨日、それで捕まってしまいましたから」
「……あ」
昨日、美汐の事を咄嗟に名前で呼んだ事を思い出す。
「そういえば、何故あの時名前で呼ぼうと思ったんですか?」
「何故って……」
何故だろう?
相変わらず祐一の中でも答えは出ていない。
が、少なくとも。
「じー」
真正面から、美汐の目を見て答える事は
それがどんな答えであるにせよ、はっきり言える自信がない。
「……よし」
180度体を回転させ、再び駆け出す祐一。
「あっ、また逃げましたね!?」
「知らん!」
「祐一さん!」
「もう、効かんぞ!」
笑いながらかける祐一、後を負う美汐。
「それならっ。
 お兄ちゃん!」
今度は、昨日の降った雨のぬかるみに足を取られ
再び頭からダイブする祐一。
「……意外と、簡単に止められますね?」
地面で平べったくなっている祐一の傍に屈みながら
美汐は笑って言ったのだった。  

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2007年04月18日

あるいはそういう物語 その15(3)

(3)

水瀬家を後にした祐一と美汐。
2人が歩くのは、自宅への帰路から少しずれた道。
少し、寄り道しませんか?
きっかけは美汐の一言。
夕暮れの中を、2人歩く。
「どこ行くんだ?」
「……そうですね、お散歩じゃ駄目ですか?
 なんとなく気が向いた、と」
「駄目じゃないけど」
この時間になると、冷える時期だ。
散歩をしたい陽気でもなければ、気分を明るくする昼間でもない。
気が向いた、では動機として弱い気がした。
「それなら――」
美汐はあごに指を当てて考える。
「相沢さんと一緒に、もう少し居たかったから。
 ……だったら嬉しいですか?」
「本音だったら嬉しいよ。
 考え込んで導き出した理由じゃなかったらな」
「残念です」
美汐は小さく笑いながら、歩き続ける。
「目的地は分かるんだけどさ」
「分かるんですか?」
「ここまで来て、わからんでか」
ものみの丘へと続く道。
「帰ろう、とは言い出さないんですね?
 乗り気じゃなさそうに見えますが」
「天野がそれを言うか?」
誘った張本人が自分で否定するなら世話が無い。
「それでもお散歩に行きたくなるように
 色々考えたんですよ?」
「ほぉ、例えば?」
「秋子さんに頂いた肉まん。
 少し寒いところで食べた方が美味しいですよ」
美汐の手には紙袋に入った肉まん。
秋子が作ったものをお土産にもらったのだ。
「……なるほど、それは魅力的だ」
「でしょう?」
ものみの丘に着くころには
紙袋の肉まんは冷めてしまっているだろうということを
当然のように2人は承知していた。
理由は何でも良かったのだ。

「到着、です」
ものみの丘というに相応しい場所。
丘の上でも開けており町を一望できる。
ポツリポツリと灯り始めた街の明かりが
まもなく夜であることを告げている。
「夜景、見たかったのか?」
「どうでしょう?
 もしかしたら、本当にお散歩したかっただけかもしれません」
「そうかもな」
「……相沢さんもですか?」
「天野ほど積極的じゃないけどさ」
祐一は水瀬家の辺りに視線を向けるが
残念ながらどの灯りが水瀬家のものか、分からなかった。
「真琴の事見てたらなんとなく」
「私もです」
風が吹き、草を揺らし、音が満ちる。
「……まだ、割り切れてないのか?」
景色に溶け込むように佇む美汐を見て、祐一はふと口にする。
昨日あれだけ号泣したにもかかわらず
今朝、ケロリとしていた事に少々違和感を感じていた祐一だ。
「いえ、昨日泣いたらスッキリしましたので。
 ただ、今日真琴に会って、相沢さんが居て。
 なんとなく、幸せだなって」
「……幸せの一因に含めてもらって嬉しいよ。
 もしかして、自分だけ幸せでいいのか、なんて考えてるか?」
美汐は少しだけ、驚いた表情を浮かべた。
「そういう気持ちは確かに、あります」
「でもさ――」
「納得も、理解もしてますよ。
 でも、心にひかっかる所って理屈じゃないですから」
「あぁ……」
どんなに理屈を並べても、
自分の心はごまかしようもないし、変えようもない。
「それでも私は――」
美汐が何か言いかけた時
風で揺れたのではない、
もっとはっきりと草を掻き分けるような物音が辺りに響く。
「何だ?」
「林の方――」
そして、目を向けた先。
そこに居たのは一匹の狐。
真直ぐと、2人のほうを見据えている狐の方耳は失われていた。
「狐……方耳?」
祐一は呆然としながら、隣の少女に視線を移す。
「おい、天野――」
だが、美汐は祐一の言葉に全く反応せず
立ち尽くしていた。
「天野、おい!」
「なんで?」
「天野?」
「生きてたの?無事だったの?」
祐一の言葉は全く耳に届いていないようである。
美汐は、誘われるように
おぼつかない足取りで狐に近づこうとする。
が、それを見た狐は背を向けて、美汐から距離をとる。
しかし逃げるというわけでもなく
一定の距離をとると、再び2人をじっと見つめている。
「……何で、逃げるの?」
「天野」
美汐の肩に、祐一が手を置くと
ようやく美汐は我に返ったように祐一の顔を見つめる。
「あの子、です」  

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2007年04月17日

あるいはそういう物語 その16(2)

(2)

祐一たちも驚きの表情を浮かべていたが
美汐の表情は驚愕といっても良い。
「はい、小学校までここでお世話になりました」
「久しぶりに顔を見れて嬉しいわ。
 お元気かしら?」
「は、はい」
まさか自分のことを覚えているとは思わず
言葉が続かない。
「あゆちゃんもこんにちは」
「こんにちは」
「なんだ、あゆは面識あるのか?」
「うん、時々ボクもお手伝いさせてもらってるから」
「あゆもか?」
「人手が足りないときに手伝ってもらってるのよね?
 2人とも秋子ちゃんからの紹介で。
 助かってるわ……あら、ごめんなさい」
真琴が横で、彼女の服を軽く引っ張る。
「つい、夢中になってしまったわ。
 言いたいことが、あるんでしょう?」
「あぅ……その……あのね」
なかなか言葉の出てこない真琴をみて
美汐が立ち上がり、真琴の正面へと近づく。
おびえたように俯いていた真琴だが
美汐が目の前に来ると、ゆっくりと顔を上げる。
上目で伺うように、ゆっくりと。
そして、美汐の表情が微笑で満たされている事を知ると
一気に美汐の胸に飛び込んだ。
「ごめんなさい!」
真琴をしっかりと抱きとめ、美汐はゆっくりと頭をなでる。
「真琴、美汐に会えてよかったから。
 保育所の皆に会えて嬉しかったから。
 祐一に会って楽しかったから」
「私もですよ」
「帰ってこなければ良かったなんて、もう言わないから」
「もう、怒ってません。
 大丈夫です。
 それよりも叩いてしまって、ごめんね」
「ううん。
 そっち、あんまり痛くなかったの」
真琴はこっち、といいながら自分の胸を指す。
「ずっと痛かった」
「そう」
「痛いの、もう嫌なのよぅ……」
「私も。
 慣れないし、慣れたくないです」
唇をかみ締めるように、美汐は言った。
「美汐も、痛かった?」
「えぇ」
「……今は?」
優しく、そして強く抱きしめる事で回答する。
痛みもまた、癒えてゆく。

「もう、大丈夫ね」
「うん。園長先生、ありがとう……ございました」
真琴は深々と頭を下げる。
祐一たちと一緒に保育所の入り口で
園長の見送りを受ける真琴。
「ん、いいのか真琴?
 仕事は」
「今日、お休み」
「へ?」
祐一は園長の方に顔を向ける。
園長は小さく頷くと
「来ないと皆が心配するからってね?」
クスクス、と本当に楽しそうに笑う。
「そりゃまぁ」
昨日の今日である。
確かに心配するかもしれない。
「お話も聞いてもらったんだ」
「そう――」
美汐の表情もまた、穏やかである。
「……ん、そっか。
 もう少しで終わるし、手伝っていこうかな」
帰宅の時間が近づくにつれ
徐々にあわただしくなる園内の様子を見て真琴が言った。
「大丈夫よ。
 今日はお帰りなさい。
 心配してくれたお姉さん達も居るのだから」
名雪とあゆの方を見る。
「あぅ」
「お母さんが、特製の肉まん作って待ってるって」
「……本当!?」
「うん、言ってたよ」
「そろそろ蒸し終わるんじゃないかな?」
「そうだと思うよ」
名雪とあゆは少々わざとらしく、時計を確認する。
「んっ」
待ちきれないとばかりに、体を小さく振るわせる。
今にも駆け出しそうな様子だったが
先ほど自分で言った言葉を思い出したらしい。
園長に様子を伺うように視線を向ける。
「早く行かないと冷めちゃうわよ?
 今日はゆっくり休んで
 また明日から頑張りましょう、ね?」
「……うん!
 また明日来るからっ」
大きく手を振ると、4人の背を押し、手を引いて。
「あの、お世話になりました」
美汐は背中を押される中で、首だけ懸命に捻る。
「また遊びにいらっしゃい」
「はい!」
「美汐っ早くいこ!」
「わっ、きゃ!
 押さないで、真琴」
桜の散りかけた木々に現れる新緑。
春の陽気は、すぐそこだ。  

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2007年04月16日

あるいはそういう物語 その16(1)

(1)

「真琴が勤めてる保育所はね、私も通ってたんだ」
そう言った名雪の表情はどこか嬉しそうである。
名雪、あゆ、美汐の3人が並んで歩き
その少し後ろを祐一がついてゆく。
「そうなんだ。
 それじゃ名雪さん、懐かしいね」
「うん、そんなに遠くないんだけどね」
「秋子さんの知り合いの人がやっているんだよね?
 名雪さんが通ってたから知ってたのかな?」
「ううん」
名雪は首を横に振った。
「もっと昔から知ってたみたい」
「……多分、私も通っていました」
美汐の言葉に、名雪とあゆは目を丸くして美汐を見る。
「そっか、そうだよね。
 この辺りに保育所ってあんまりないし」
「幼稚園はあるんですけどね」
「ん?
 保育所と幼稚園って何が違うんだ?
 俺は幼稚園だったんだが」
「保育所はお父さんお母さんが仕事とかで
 保育できないお家の人が、子供を預ける
 児童福祉施設だよ」
と、答えたのはあゆ。
「幼稚園は小中高の学校とかとおんなじ、教育施設」
「……なんで知ってるんだ、あゆ」
「真琴さんから聞いたの。
 自分でも調べたし」
「あゆもそうだが、真琴が
 そういうことを知っている事が驚きだ」
「そんな事無いよ、真琴さん頑張ってるもん」
「うん、そうだよね」
名雪も同意する。
「夜中の悪戯が相変わらずだから
 気付かなかったのかもしれないな」
同じ家に住んでいるのに、気付かない事が少し悔しい。
「性格って人によって見え方が違いますからね」
祐一の知っている真琴が全てではない。
「……あまり、心配しなくても良かったのかな」
祐一は小声で呟いた。
「どうしたんですか。
 少し寂しそうな顔をして」
いつの間にか、美汐は祐一と並んで歩いていた。
「巣立つ小鳥、見守る母鳥。
 ヒナは気付いたら飛べるようになっていた、と」
「真琴の事ですか?」
「過度の心配は余計なおせっかいだったのかもしれないな。
 自分の事も満足に出来ていないのに」
「関係、ないと思いますけど。
 誰かが支えてくれるから強くなれるし
 誰かを支えるから強くなろうと思えるんですよ」
「……経験談?」
「どうでしょう?」
美汐は笑って見せると、歩みを速め
再び名雪とあゆに追いついた。
「あ、見えてきましたね」
名雪と美汐の通っていた保育所。
真琴の勤めている保育所。
グラウンドで駆け回っている子供の姿、
そして子供達の騒がしい声が次第に大きくなる。
駆け回る子供達の中に、真琴の姿もあった。

一行を出迎えたのは、真琴と白髪で老年の女性。
保母達が待機する部屋に4人は通され
机の椅子に座っていた。
「あぅー……」
真琴は立ったまま、隣の女性に目を向けた。
何を言っていいのか、戸惑っているのである。
「まずは、自己紹介しないと駄目かしらね?」
女性の声は非常に穏やかである。
「私は、ここの保育所の園長をしている小林というの。
 よろしくね」
「真琴がいつもお世話になってます。
 俺は――」
「相沢祐一さん、かしら?」
「へ?なんで……」
「真琴ちゃんからいつも聞いていますよ。
 それに、秋子ちゃんからも」
「あ、秋子ちゃん!?」
思わず声を出したのは名雪だ。
自分の母親が、ちゃん付けされるとは思ってもいなかった。
「あら、ごめんなさい。
 昔からの癖で、つい、ね。
 自分のお母さんにちゃんをつけられたら
 あまりいい気はしないわよね?」
「あっ、違います。
 ちょっとビックリしただけで。
 ……あれ、自分のお母さんって事は」
自分が秋子の娘だという事を
この人は知っているのだ。
「水瀬名雪ちゃんね。
 そちらが……」
美汐に目を向ける。
「はじめまして、私は――」
「天野美汐ちゃん。
 初めて、じゃないわよね?」  

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2007年04月13日

あるいはそういう物語 その15(5)

(5)

彩りも良いお弁当。
日頃の美汐の料理の腕を考えれば
味も十分に期待してよいだろう。
ご飯とおかずが一方に寄っている以外は
……いや、その事も含めて模範的なお弁当といえるだろう。
「ただ、殴る事は無いと思うぞ」
弁当も片寄ってしまうし、と。
「……ただの感謝の気持ちだとしても
 作ってきた以上、……その、少しは反応も楽しみだったのに」
消え入るような声で呟いたが
周囲の静けさも手伝って、祐一の耳にはしっかりと届く。
「照れ隠し、と。
 早めに渡してくれれば、素直に反応してたさ」
「知りません!
 ……大体、あんな大衆の面前で、お弁当なんて
 出せるわけ無いじゃないですか」
顔を赤くしながら抗議する美汐。
「確かにあのクラスだとな」
一度つかまったら、簡単には逃れられそうも無い。
「ウチのクラスに限らずですけれど」
美汐がカバンを持って出たのは
お弁当をぶら下げながら
祐一の教室に行くのが恥ずかしかったからだ。
「そうかもしれないが」
それでも、美汐のクラスは別格なのではないだろうか。
祐一にしても、今回は確かに美汐に用事があったものの
本当に、ただ通りがかっただけだとしても
同じような目にあったことだろう。
「あっ!」
そんな事を考えていると、
祐一は美汐に用事があったことを思い出す。
「何か、変なものが入っていましたか?」
びっくりした美汐は、自分のお弁当を開ける手を止めて尋ねる。
「いや、天野に用事があって
 そっちの教室にいったんだった。
 肝心の用事を忘れてた」
「……栞さんに会いに来たわけではないんですか」
「違うというのに。
 秋子さんからの言伝、名雪が伝えてくれたんだけど。
 真琴、今日はちゃんと保育所行ってるって」
「そうですか――」
美汐はほっと胸を撫で下ろし安堵の表情を浮かべた。
「行く気あるか?
 放課後」
愚問だといわんばかりの素早さで頷く美汐である。

「水瀬先輩も?」
一足先に、裏門前で待っていた美汐が聞きなおしたのは
別に祐一の言葉が分からなかったわけではない。
単なる形式的なやり取りだ。
「と、あゆも。
 あゆとは商店街のタイヤキ屋の前で待ち合わせらしいけど。
 そういうわけで、悪いんだけど名雪が来るまで
 保育所に行くのはもう少し待ってもらえるか?」
「それはかまいませんが……」
掃除当番も無く、美汐とのまちあわせ先、
裏門へ行こうとしていた祐一は名雪に呼び止められた。
曰く、一緒に保育所まで行って欲しいとの事。
「名雪も、お姉さんとしての責任感があるみたいだぞ」
「と、いいますと?」
「真琴がどれだけ落ち込んでたか
 気づけなかった事がショックだったみたいだ」
水瀬3姉妹。
水瀬名雪は自他共に認める、長女の位置にいるらしい。
「罪悪感……ですか?」
「はっきりそう言ったわけじゃないけど
 似たようなもんなんじゃないかな。
 意外と責任感強いからな」
「意外というほどではないと思いますが」
「そうか?」
「えぇ。
 あゆさんも同じですかね」
「保育所にちゃんと行ったといっても
 やっぱり心配みたいだよ」
祐一はしみじみと呟く。
「祐一〜、天野さん〜」
名雪が手を振りながら、2人の方に向かって歩いてくる。
「お待たせ」
「俺も今来たところだよ」
祐一は美汐に視線を向ける。
「私も殆ど変わりませんよ」
同じ学校なのだ、終了の時間はさほど変わらない。
名雪が少し遅れたのは部活の後輩に指示だけ出してきたためである。
「それじゃ、行くか」
3人はそろって歩き出す。
まずは、あゆとの待ち合わせの場所へと向かって。
「それにしても、どうして待ち合わせが裏門だったの?」
道すがら、名雪の至極もっともな疑問。
前回、祐一と美汐が正門で待ち合わせたとき
冷やかされた経験を元に
どちらとも無く決めたことだ。
名雪の問いに、祐一と美汐は顔を見合わせる。
が、結局どちらの口からも、
その理由は語られず、はぐらかされる。
そして、気付けばあゆとの待ち合わせ場所が見えてくる。  

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2007年04月12日

あるいはそういう物語 その15(4)

(4)

「相沢先輩、天野さん目の前にして
 それはまずいと思うっすよ」
彼の言葉は正解なのだろうか?
祐一は頭の片隅では、
美汐が怒っているのは、
性懲りも無く、祐一が美汐の教室を訪ねたからだ……
と、信じて疑わなかったのだが
美汐の反応を見る限り、そうとばかりも言えないかもしれない。
栞を尋ねる途中だと言ったにもかかわらず
不機嫌そうな顔をしているのだから。
「祐一さん、行かないんですか?ご飯」
「いや、俺……今日は購買で……」
「大丈夫です、ご弁当ありますから!」
ポケットの容積よりも明らかに大きいお弁当箱が
いつの間にか栞の手の中に納まっている。
それでも、いつもよりずっと控えめだが
確かに祐一が食べる分くらいの量はあるかもしれない。
「い、いつもそんなに大量に持ってきてるのか?」
「いえ、お姉ちゃんと2人分です」
「……俺は遠慮しておくよ」
「気にしなくてもって、あれ?
 美汐さん、何でカバンを持って――」
祐一の傍に近づく美汐に気付く。
最初に気付いたのは、美汐が通学用のカバンを持っている違和感。
次いで気付いたのが、美汐の周りを
クラスメイトが取り巻くように立っている異様な光景。
それは、彼女を前に押し立てているのではなく
怖くて近づけないだけである事を
栞はその事を、身をもって知る事になる。
「あ、……ごめんなさいっ。
 わたっ私お姉ちゃんが待ってますから!」
美汐のまとったオーラの前に
脱兎のごとく逃げ出す栞。
「おい、相沢先輩が振られたぞ?」
「ってことはアマノン、チャンス?」
「ばっか、元々は天野さんが――」
「そうだよ、昨日だって2人でエスケープしてたろ?」
「でも――」
「そうよ、二股とか」
「2、で済むのか?」
「わっ、最低……」
と、裏でのコソコソ話も全部祐一の耳に届くほど
辺りは静まり返っている状態。
抗議しようにも、美汐を目の前にして
身動きすら取れない状態である。
「相沢さん」
「すまん、とりあえず謝るから……」
「別に謝ってもらうような事はありません。
 まさか、栞さんの所に行くのに、
 遠回りして行けとは言いませんので」
「いや、それは言葉のあやと言うか」
「お約束、していたんでしょう?」
「悪かった、つい咄嗟に口に出ただけだ」
「そうですか」
どこまでいっても美汐の声は冷たい。
「は、ははは……、そうなんだよ。
 あぁ、そういえばどうしてカバンなんて持っているんだ?」
話を変えようと、手近な話題に飛びついてみたものの
美汐の眉が更に険しい角度に釣りあがった事を考えれば
その選択は間違いであった事は明白である。
「う……いや、別に引き止めないが。
 2日連続はまずいなー、なんて?」
様子を伺うように言葉をつなげるが
当然のように美汐は不機嫌のままである。
「そうか、うん、俺には関係ないもんな!
 口出しして悪かった。
 そんじゃ、俺は昼食わないといけないから――」
祐一が最後まで言い終える前に
美汐のカバンが綺麗な弧を描いて
祐一の側頭部に直撃したのだった。
ナイロン布地の向こう側に
妙に硬い物が入っている事に気付いたのはその時だった。

人気の少ない、後者の裏手。
一応ベンチも設置されているため穴場に見えなくも無いが
この時間帯は日の光が届かず薄暗い。
折角開放された時間に、好んでこの場に来る生徒が少ないのは
必然といえば必然である。
祐一と美汐は裏手側でも、更に目立たない端の方のベンチに
2人並んで座っていた。
「片寄ってる」
左手に持った弁当箱の中身を見て、祐一は思わず呟いた。
「……仕方ないじゃないですか」
「さっきカバンで殴ったときに寄ったんだろ。
 あれは仕方ないとは言わない」
美汐のカバンの中身。
それは2つのお弁当。
カバンの布地越しに祐一が頭をぶつけたのは
美汐の持ってきた弁当箱であった。
「……ごめんなさい」
「いや、むしろ弁当作ってきてくれたんだから
 俺がお礼言わなきゃいけない立場だ。
 それにしても急にどういう心境の変化だ?」
お弁当なんて、と。
「昨日、ご迷惑おかけしたので。
 せめてもの気持ちです」
「素直に言ってくれれば
 俺だって変な勘違いしないで済んだんだ」
「……変な?」
「いや、なんでもない。
 うん、美味そうだ。
 いただきます」
祐一は慌てたように、弁当箱に視線を戻した。  

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2007年04月11日

あるいはそういう物語 その15(3)

(3)

祐一は、階段の最後の一段を降りるとき
一瞬、目的の方向とは逆に進もうかとも考えた。
昼休み、真琴の事を美汐に伝えようと思ったのだ。
可能であるならば、2人で保育所に行きたいとも思っている。
放課後に何があるかわからない。
出来るなら昼休みのうちに話をつけておきたかった。
しかし、このところ、美汐の教室を訪れては
悲惨な結末ばかりを迎えている。
しかも美汐も祐一が来る事を歓迎していない。
「どうするかなぁ」
悩んでみたものの、即座に回答が得られるはずも無く
通りがかりを装って様子でも伺えばいいかと
軽い気持ちで美汐の教室へと向かう。
廊下も教室に近い側を歩きながら
後半歩で美汐の教室……というところで
祐一の視界に人影が飛び込んだ。
慌てて体を退けるも、
勢いのついた相手の方が止まらなかったらしい。
「っと!」
胸の辺りに衝撃を感じ、
咄嗟に後ろ足を支えに、体のバランスをとる。
一方で顔は正面を向いたまま。
相手が祐一にはじかれ、倒れそうになったのが目に留まる。
「――っぶね!」
バランスを取るために下げた足を素早く蹴って
慌てて腕を前に伸ばす。
「とっ」
幸い、相手の腕を取ることが出来た祐一は
自分の方に引っ張った。
咄嗟にとった行動の割には
的確に対応が出来たと、自己評価しても良かったのだが……。
一つの誤算は姿勢が悪く、思った以上に手に力が入った事。
もう一つの誤算は相手が思った以上に軽かった事。
「ひゃっ」
結果として、祐一は相手を抱きとめる形となった。
祐一の方に倒れこんだ相手の頭が
丁度みぞおちに当たるような形になり
少なからず痛みを覚える祐一。
わずかばかりの慰めは、相手が可愛い女の子であった事か。
「もう、トッコなにやってるのよ!」
直ぐ後に教室から出てきた女子生徒が声をかける。
「さやっぺが追っかけて来るからでしょ!」
トッコと呼ばれた少女は。
祐一の懐の中で、懸命に顔を捻り抗議の声を上げる。
2人の間で、押し問答が繰り広げられる中、
どうしたものかと、そのままの姿勢で経過を見守っていた。
「大体、いつまでその人に圧し掛かってるのよ。
 悲劇のヒロインでもあるまいし。
 あんたの体重じゃ……あ」
「あ?」
「いざわ先輩」
「井沢、先輩?」
トッコは改めて自分が人にもたれ掛かっている事を思い出し
慌てて体を起こす。
そして、祐一の顔を見たとたん、硬直した。
「い、井沢先輩って誰よ!
 相沢先輩じゃない!」
「言ったわよ!」
「聞いてない!」
「……おーい?」
再燃する2人を前に、戸惑うのは祐一だ。
「ち、違うんですからね!」
「何が?」
「違うんだからね、天野さん!」
と、叫んだ先には佇む天野美汐嬢の姿。
「ご、ご、誤解しないでねっ」
料亭を慌てる少女を見て、
「それは無いだろ」
思わずこぼれる一言。
途端に湧き上がる歓声と拍手。
「やはり、信頼しているという事ですか!」
「相沢先輩は天野さん一筋で――」
「アマノンはそれを疑っていない、と!」
アマノン、とはまた妙なあだ名をつけられているなぁ、と
盛り上がる美汐のクラスメイト達を他所に、美汐に視線を移す祐一。
そしてそこには、心底不機嫌そうな美汐が立っていた。
「……まずい」
やっぱり、美汐の教室に来たのは
間違いだったかもしれないと、後悔の念が過ぎる。
様子を見るだけのつもりが、何の因果か
しっかりと足止めを食ってしまった。
「相沢せんぱーい」
祐一以外にも、美汐の様子に気付いた人間が居たらしい。
1人の男子生徒が祐一の傍でささやく。
「天野さん、機嫌悪そうっすよ?」
「……お前もそう思うか」
「というか、それ以外には見えないっす」
「お前らがお祭り騒ぎするからだろ。
 そっとしておいてやれよ」
「……当事者の割には人事っすね」
「不機嫌な天野と親密になりたいのか、お前は」
「相沢先輩がいるから何の心配もしてないっすよ!」
「怒りの矛先は、俺に向けられる、と?」
「はい!」
そのさわやかな笑顔に思い切りゲンコツを落としたくなったのだが
下手に動くと美汐が爆発しそうで動けない祐一だったが
「怒りも全て恋人に向けてしまう。
 そんな甘え方も――
 うーん、青春っすねぇ」
このまま放っておいてもどうせ爆発するのだ。
だったらこいつを一発殴っても良いだろうと開き直り
拳を固めたところで美汐が動く。
体の底から吹き出るような威圧感。
祐一は拳を固めたまま、固まった。
蛇に睨まれた蛙がどのような心境であるのか、
非常に親身に理解できたのだが、当然のように嬉しくは無い。
「ち、違うぞっ。
 お、俺は天野に会いに来たのではなく!」
ブルブルと震えながら、懸命に釈明をする。
「そう、そうだ!
 ほら、この先の教室に居る栞にだなっ」
「あっ、祐一さーん!
 お昼、誘いに来てくれたんですか?」
すばらしいタイミングで栞が通りがかる。
いつもニコニコと楽しそうにしている栞。
その効能か、祐一の言葉は真実味を増して聞こえた。
途端に、美汐から吹き出る威圧感が
更に増した事を祐一は肌で直感した。  

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