福岡県弁護士会主催のシンポジウム「『自死』をなくすために〜自死を防ぐための気づき・つなぎ・見守りとは何かを考える〜」に参加して来ました。当事務所の緒方、高木が所属する弁護士会の委員会の催しでもあります。今年の10月に佐賀で開催される日弁連の人権擁護大会のプレシンポジウムとして開催されたものです。
日本で自死される方が後を絶たず、とりわけ1998年には年間の自死者が3万人を超え、それが14年間続いているという実に深刻な状況は、常に報じられ、対策の必要性が指摘されているところです。
今回の基調講演は、「長崎県こども・女性・障がい者支援センター」所長の大塚俊弘さん。もともと精神科医で、長崎市のお生まれです。長崎大学医学部を卒業してまさに地元で臨床医として活動される中で自死の問題に深く関わられるようになったのだろうと拝察しました。「みんなが知っておくべき自殺対策情報〜長崎県の自殺総合対策の実践から〜」と題されたその講演は、演者の実にわかりやすく耳に心地よいなめらかな日本語を駆使した語り口で、すっと頭に入ってくるものでした。
冒頭、大塚さんが強調されたのは、自殺にまつわる誤解や誤った社会通念を打破しなければならないということです。自殺とは「不名誉なもの」であるという社会通念を、私たちは幼少時からたたき込まれている。そのために、私たちは、無意識のうちに、自死者を全否定し、恥ずかしいことだと思い込み、本人の弱さやだらしなさが原因だと決めつけてしまう。
日本で自死される方が後を絶たず、とりわけ1998年には年間の自死者が3万人を超え、それが14年間続いているという実に深刻な状況は、常に報じられ、対策の必要性が指摘されているところです。
今回の基調講演は、「長崎県こども・女性・障がい者支援センター」所長の大塚俊弘さん。もともと精神科医で、長崎市のお生まれです。長崎大学医学部を卒業してまさに地元で臨床医として活動される中で自死の問題に深く関わられるようになったのだろうと拝察しました。「みんなが知っておくべき自殺対策情報〜長崎県の自殺総合対策の実践から〜」と題されたその講演は、演者の実にわかりやすく耳に心地よいなめらかな日本語を駆使した語り口で、すっと頭に入ってくるものでした。
冒頭、大塚さんが強調されたのは、自殺にまつわる誤解や誤った社会通念を打破しなければならないということです。自殺とは「不名誉なもの」であるという社会通念を、私たちは幼少時からたたき込まれている。そのために、私たちは、無意識のうちに、自死者を全否定し、恥ずかしいことだと思い込み、本人の弱さやだらしなさが原因だと決めつけてしまう。
そこからまず脱却しなければならない、というのです。
くりかえし用いられていたのが、携帯電話のバッテリーのたとえです。不安、悩み、ストレスなどにさらされたとき、「セロトニン」や「ノルアドレナリン」といった神経伝達物質が脳の中に分泌され、私たちは、それによって目の前の問題に適切に対処し、乗り越えることができる。けれど、問題が大きすぎたり、困難が重なったりすると、これらの物質を使い果たし、脳が機能しなくなる。
これがうつ病で、「脳のバッテリー切れ、エネルギー切れ」で、頑張りたくてもがんばれない状態であって、決して気合いが足りないとか怠けといったものではない、というものです。
携帯電話のバッテリーが切れたときに、「バッテリーが切れるなんて、不良品だ」と考える人はいない。「ちょっと使いすぎたんだな」と考え、しっかり充電するまでなるべく使わないようにする。
うつ病についても、同じように考え、まずはバッテリー切れととらえて、対処すべきなのだというのですが、これは、たしかに精神疾患に不案内な者にとっては、わかりやすいたとえです。
また、うつ病即ち自死ではなく、自死の背景には借金、生活苦、病気、失業、家族の不和、職場の人間関係など、様々な問題があり、単一の視点では対応しきれません。それぞれの問題にはそれぞれの専門窓口があって、解決のためにはそれらの窓口につながる必要があります。
大塚さんは、自死のハイリスク者を早期に察知して、適切な情報を提供し、確実に支援につなげるための中心的役割を果たす人材である「ゲートキーパー」を養成することの大切さを訴えます。リスクに気づき、正しい情報をさりげなく伝える人材づくりが求められるのですが、いろんな相談窓口をつくっても、自死リスクの高い人の中で、その窓口に出向くのはほんの一握り。本来つながるべき多くのひとに、情報は届いていないと言います。
自死の危険が高まっている人、それは心理的に追い詰められ、「心理的視野狭窄」に陥っている、つまり、よく見れば、周りには家族や友人、少し視野を広げれば医療や様々な相談場所など、多くの支援があるのに、視野狭窄のために自殺という選択肢しか見えなくなっているのです。
長年自死対策に取り組み、さまざまな試みを経ながら、自死者数がいっこうに減らないのはそのためだと気づいた大塚さんは、自死ハイリスク者を専門機関につなぐための体制として、「誰でも(どこでも)ゲートキーパー作戦」を提唱します。いろんな分野の専門相談窓口においても、地域の様々な組織においても、自死ハイリスク者に対する初期対応ができて、専門機関に橋渡しできる体制です。
そのために「相談対応の手引き集」を作って配布するほか、ハイリスク者と接することが多いスナックのママやタクシー運転手にも、研修を受けてもらい、ゲートキーパーの役割を担ってもらう取り組みが始まっているのです。
はじまったばかりのこの取り組み、その具体的な効果はまだ明らかではありませんが、大きな希望につながる取り組みだと思いました。
続いてのパネルディスカッションでは、福岡いのちの電話副理事長濱生正直さん、リメンバー福岡自死遺族の集い代表小早川慶次さん、三次救急医療機関における救急での自死対策に取り組んでいる福大精神神経科衞藤暢明医師が加わり、自死へのそれぞれの取り組みと、会場に集まった方々に向けたメッセージが語られました。
いのちの電話とリメンバー福岡は、いずれも専門家ではない立場で、問題を抱えた人の声を傾聴し、共感する活動を行っています。前者は、当初キリスト教の牧師さんらが立ち上げた活動で、ボランティアの立場から悩みを聞き、後者は同じような体験をした者として、混乱の中にある遺族の話にじっと耳を傾ける。アドバイスはしないのが原則ですが、相談者は、語るうちに問題が整理されていき、自ら進むべき方向にたどりつくこともしばしばであるとのこと。リメンバー福岡代表小早川慶次さんの、配偶者を自死で失った体験から、自死問題は発生時にとどまらず、遺された家族がいかに孤立させられ、困難な立場におかれているかを訴える姿は、深く胸に刻まれました。
福大病院の取り組みでは、たしかに日本の救急医療の中で、自殺未遂者にどう適切に対応し、再度の企図の予防にどうつなげるかの取り組みは、これまで全くなされて来なかったのだろうと考えさせられました。特に自殺未遂者に関する情報を担当者に集中させ、継続的に相談に応じられるような関係をつくる取り組みが、全医療機関でできるようになれば、その果たす役割は大きいのではないでしょうか。
夏休み明けの月曜日、激しい夕立の中ではじまったシンポジウムでしたが、100名を超える方が参加、発言者がみなさん前を向いて、しっかりと地に足をつけた発言をされたからでしょうか。重たい問題ではありますが、会場はむしろ明るく、希望を見いだしたような共通の感慨につつまれていたようです。
ビルの外に出ると、雨は上がり、打ち水の後の涼やかな夜気が街中を覆っていました。
くりかえし用いられていたのが、携帯電話のバッテリーのたとえです。不安、悩み、ストレスなどにさらされたとき、「セロトニン」や「ノルアドレナリン」といった神経伝達物質が脳の中に分泌され、私たちは、それによって目の前の問題に適切に対処し、乗り越えることができる。けれど、問題が大きすぎたり、困難が重なったりすると、これらの物質を使い果たし、脳が機能しなくなる。
これがうつ病で、「脳のバッテリー切れ、エネルギー切れ」で、頑張りたくてもがんばれない状態であって、決して気合いが足りないとか怠けといったものではない、というものです。
携帯電話のバッテリーが切れたときに、「バッテリーが切れるなんて、不良品だ」と考える人はいない。「ちょっと使いすぎたんだな」と考え、しっかり充電するまでなるべく使わないようにする。
うつ病についても、同じように考え、まずはバッテリー切れととらえて、対処すべきなのだというのですが、これは、たしかに精神疾患に不案内な者にとっては、わかりやすいたとえです。
また、うつ病即ち自死ではなく、自死の背景には借金、生活苦、病気、失業、家族の不和、職場の人間関係など、様々な問題があり、単一の視点では対応しきれません。それぞれの問題にはそれぞれの専門窓口があって、解決のためにはそれらの窓口につながる必要があります。
大塚さんは、自死のハイリスク者を早期に察知して、適切な情報を提供し、確実に支援につなげるための中心的役割を果たす人材である「ゲートキーパー」を養成することの大切さを訴えます。リスクに気づき、正しい情報をさりげなく伝える人材づくりが求められるのですが、いろんな相談窓口をつくっても、自死リスクの高い人の中で、その窓口に出向くのはほんの一握り。本来つながるべき多くのひとに、情報は届いていないと言います。
自死の危険が高まっている人、それは心理的に追い詰められ、「心理的視野狭窄」に陥っている、つまり、よく見れば、周りには家族や友人、少し視野を広げれば医療や様々な相談場所など、多くの支援があるのに、視野狭窄のために自殺という選択肢しか見えなくなっているのです。
長年自死対策に取り組み、さまざまな試みを経ながら、自死者数がいっこうに減らないのはそのためだと気づいた大塚さんは、自死ハイリスク者を専門機関につなぐための体制として、「誰でも(どこでも)ゲートキーパー作戦」を提唱します。いろんな分野の専門相談窓口においても、地域の様々な組織においても、自死ハイリスク者に対する初期対応ができて、専門機関に橋渡しできる体制です。
そのために「相談対応の手引き集」を作って配布するほか、ハイリスク者と接することが多いスナックのママやタクシー運転手にも、研修を受けてもらい、ゲートキーパーの役割を担ってもらう取り組みが始まっているのです。
はじまったばかりのこの取り組み、その具体的な効果はまだ明らかではありませんが、大きな希望につながる取り組みだと思いました。
続いてのパネルディスカッションでは、福岡いのちの電話副理事長濱生正直さん、リメンバー福岡自死遺族の集い代表小早川慶次さん、三次救急医療機関における救急での自死対策に取り組んでいる福大精神神経科衞藤暢明医師が加わり、自死へのそれぞれの取り組みと、会場に集まった方々に向けたメッセージが語られました。
いのちの電話とリメンバー福岡は、いずれも専門家ではない立場で、問題を抱えた人の声を傾聴し、共感する活動を行っています。前者は、当初キリスト教の牧師さんらが立ち上げた活動で、ボランティアの立場から悩みを聞き、後者は同じような体験をした者として、混乱の中にある遺族の話にじっと耳を傾ける。アドバイスはしないのが原則ですが、相談者は、語るうちに問題が整理されていき、自ら進むべき方向にたどりつくこともしばしばであるとのこと。リメンバー福岡代表小早川慶次さんの、配偶者を自死で失った体験から、自死問題は発生時にとどまらず、遺された家族がいかに孤立させられ、困難な立場におかれているかを訴える姿は、深く胸に刻まれました。
福大病院の取り組みでは、たしかに日本の救急医療の中で、自殺未遂者にどう適切に対応し、再度の企図の予防にどうつなげるかの取り組みは、これまで全くなされて来なかったのだろうと考えさせられました。特に自殺未遂者に関する情報を担当者に集中させ、継続的に相談に応じられるような関係をつくる取り組みが、全医療機関でできるようになれば、その果たす役割は大きいのではないでしょうか。
夏休み明けの月曜日、激しい夕立の中ではじまったシンポジウムでしたが、100名を超える方が参加、発言者がみなさん前を向いて、しっかりと地に足をつけた発言をされたからでしょうか。重たい問題ではありますが、会場はむしろ明るく、希望を見いだしたような共通の感慨につつまれていたようです。
ビルの外に出ると、雨は上がり、打ち水の後の涼やかな夜気が街中を覆っていました。