12月22日土曜日、日本医師会館で医療基本法制定に関するシンポジウムが開催されました。
 このブログでも何度かご紹介していますように、日本医師会は、今年3月に医事法関係検討委員会が「『医療基本法』の制定に向けた具体的提言」を発表しています。日医関係者がこの提言に触れるとき、あくまでも日医としてではなく、その一委員会としての「医事法関係件等委員会」の答申、との留保がついています。まだまだ日本医師会所属医師共通の認識には至っていないということでしょう。
 今回のシンポジウムは、会員に広く医療基本法とは何か、何を求めてこのような提言を始めているのかを知ってもらい、やがて日医として、医療基本法制定運動に積極的に関わっていくための足がかりとなるものと思われます。これから、全国の医師会で同様のシンポジウムが企画されるようです。
 さて、シンポジウムは、民主党の参議院議員で、東京大学医療政策人材養成講座(HSP)で医療基本法を研究提言している小西洋之さん、日本病院会の顧問で医事法関係検討委員会の副委員長でもある大井利夫さん、かつて医政局長を務めた社団法人全国社会保険協会連合会理事長で、患者の声を医療政策に反映させる患者団体協議会副代表の伊藤雅治さん、読売新聞社論説委員の田中秀一さんの各報告に続き、自民党の参議院議員で外科医であり法曹資格も持つ古川俊治さん、厚生労働省医政局総務課長の吉岡てつをさんの、各指定発言があったのち、全報告者が壇上に並んでの総合討論が行われました。
 司会は、11月10日の福岡での医療基本法シンポジウムで基調報告いただいた日医常任理事の今村定臣さん。
 小西さんは、憲法13条の定める個人の尊厳、25条を医療の根本理念としてつなげる医療基本法の必要性を、自身が政権与党において様々な法律案の作成にかかわった経験から報告し、大井さんは同じく憲法と医療関連諸法規をつなぐ親法としての医療基本法のあり方について触れながら、医療提供者と患者の信頼関係を構築することが医療基本法の目的であるという立場から、その必要性について報告されました。ishiki
 伊藤雅治さんは、医政局長として医療政策の決定に関わった経験から、患者・市民代表のかかわりがなかったこと、仮にあったとしたらどのように変わっていただろうか、という問題意識から、最大の課題は国民的な合意形成であり、医療政策の決定プロセスに患者=国民が参加していく仕組みをつくりあげる必要があると考え、患者の声を医療政策に反映させるあり方検討会を立ち上げたこと、医療制度の根幹について国民的合意を形成し、それに基づく医療基本法を制定することが、皆保険制度を基盤とした医療の再構築のためには必要であると報告し、今年4月に発表したあり方協議会、患者の権利法をつくる会、H−PACの共同骨子案を紹介しました。
 田中さんは、H−PACの一員として関わった立場から、深刻な医師不足の実態とその原因、フランスやドイツなど地域や診療科ごとに必要な医師数を国家が決めて適正配置をしている例を紹介し、医療供給体制の充実、医療の質と安全の確保のため、患者の権利を保障するため、そして国民皆保険制を維持するためにも、医療基本法は必要であると報告しました。
 古川さんは、既に医療法の改正により医療基本法として提言されている条項のうち、一定のものは法文化されているのではないか、と述べました。
 医政局総務課長の吉岡さんは、現在の医療基本法への関心が、ハンセン病問題に関する検証会議の提言に基づく再発防止検討会報告書を受けたものであることを紹介しながら、現在は厚労省のもとに設置した様々な問題に関する検討会において患者代表に参加してもらっており、一定は政策形成過程に患者が参加していることを紹介し、しかし医療の基本理念はきわめて幅広いので、関係者において議論を進めるべきで、議員立法により提案されることが適当ではないかと考えるが、国民的合意が形成されれば、医療基本法の制定に協力することはやぶさかではない旨を述べました。
 休憩をはさんでの公開討論では、会場からの質問が相次ぎました。
 医師には応召義務が課されている一方で、救急医療の場で高い注意義務が求められ、民事責任や場合によっては刑事責任まで問われるのはどうか、また、それに関する報道のあり方はどうかという質問に対し、大井さんは、医師の労働環境の保障は日医の法案にうたってあり、個別の問題は親法である基本法の下、個別法の中で議論していくことができると述べました。また、田中さんは、報道機関の立場から、医療事故の取材が、医療に詳しいとはいえない司法記者によっておこなわれていることも問題のひとつだと指摘し、刑事司法の介入は医療者にとっても患者にとっても幸せなことではないので、ぜひ新政権のもと、医療事故調の議論を進めてほしいとの期待を述べました。
 また、九州から参加した医師から、日医の法案には患者の責務も規定されているが、医師については責務だけあって権利はない、責務に権利はつきまとうものだから、医療側の権利も書いてもらいたいとの発言に対しては、大井さんから、気持ちは分かるが、医療の中において患者が弱者であることにかんがみると医師の権利を強調することはむしろ危険であり、相互参加型の医療の構築のためにも不適切である、医療は患者中心のものたるべきで、個人主義、民主主義の基本的理念、個人の権利を強くうたわざるを得ないという発言がありました。
 これに関連して、患者にも一定の義務が認められるべきではないか、という会場発言があり、大井さんから、日医の法案は「患者等の権利と責務」という項立てになっており、診療に協力する義務、秩序ある受療をする責務をうたいこんでいるとの説明がありました。
 司会の今村さんからの呼びかけに応えて、鈴木利廣弁護士がマイクを握り、今日の報告の中には明確には出ていなかったと思うが、医療基本法の提案の背景には、今までの医療感、医療価値観の転換が必要だという考えがある。医制発布以来、医療を民業に任せて、その民業を政府が規制するという民業規制型の法体系となっているが、そのひずみが生じている。公共性という観点から医療を再構築していくべきではないか。そうであれば患者も役割を果たすべきであり、公共の医療をつくりあげて行く中で果たすべき責務があると考える。医師と患者は対立関係ではなく協力関係に立つという価値観の転換が必要であり、そのことを前提に演者の話を聞くと共通理念が見いだせるとの発言がありました。
 これを受けて、伊藤さんが、全面的な賛意を示し、医療においては、患者と医師が一緒に病気と闘っているのであって、病気を真ん中において、医師と患者、コメディカルの人々も協力しあって、患者を支援していくものだ。従来の患者は受ける人、医師は提供する人ということではなく、そうしたものとして、基本法の中身を議論していくべきだと発言しました。
 また、小西さんも、総選挙で政治の枠組みが変わった、医療とは一体何のためにどうあるべきで、あるべき医療を支えるために、医療と患者のそれぞれが社会的資源としての医療をどう支えるかという観点から各党の議論をみていかなければならないと思う、具体的には、税と社会保障の一体改革において国民会議を設置しているが、高齢化等の難しい社会経済的条件の中でどういう医療を中長期的に作っていかなければならないか、それを実現するための手段が医療基本法であって、国民会議の議論において超党派で実現することが大切だと発言しました。
 何よりも日本医師会において、患者を中心においた医療基本法についてのシンポジウムが開催されたことそのこと自体が画期的なことだと思います。医療基本法において、何を重視するのか、各論者においてややニュアンスは異なり、細かい論点のすりあわせは難しいところもあるように思いましたが、健康と生命を守る大切な医療を、この国においてどう位置づけ、あるべき姿に育てていくのか、今後各地で開催される医師会主催のシンポジウムの動きにも注目したいと思います。