昨日は、鹿児島地裁で、医療過誤事件の判決言い渡しでした。
 判決を聞く時にはほんとに緊張します。弁護士になってもう25年目ですが、いつまでたっても慣れません。やるだけのことはやった、勝っているはずだ、と思っていても、「被告は原告に対し〜」の「ひ」の音が聞こえるまでは不安です。特に、マスコミに取材案内を出して、法廷にテレビ撮影が入ったりすると、その緊張は倍加します。

鹿児島大に3800万円賠償命令=患者半身まひ、医師の過失認定―鹿児島地裁
時事通信社2013年06月18日18時22分

 鹿児島大病院(鹿児島市)で2006年、胸部大動脈瘤(りゅう)の人工血管置換手術を受けた男性=当時(71)=が半身まひとなり、その後死亡したのは、事前説明と異なる「プルスルー法」で手術をしたのが原因として、遺族が同病院に約7300万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が18日、鹿児島地裁であった。
 久保田浩史裁判長は「まひの危険性が高い手術を、患者への事前説明がない上に同意を得ずに行ったのは、医師の裁量の範囲を超え、不適切であって許されない」として、医師の過失と男性のまひの因果関係を認め、同病院に約3830万円の支払いを命じた。死亡との因果関係は認めなかった。

 
 大動脈瘤というのは、大動脈の一部が瘤のように膨れた状態です。一定以上膨れると、破裂の危険が大きいとして、その部位を人工血管に置換する手術が行われます。
 胸部大動脈は、心臓から上行大動脈として出て、大動脈弓という部分でUターンし、下行大動脈となります。この男性は、いわゆる遠位弓部(大動脈弓から左椎骨動脈を分岐したすぐ末梢側で解剖学的には下行大動脈の一部)と、胸椎7番〜9番レベルに動脈瘤がありました。
 胸椎7〜9番から、もう少し下のレベルの動脈瘤を人工血管に置換する場合には、脊髄虚血による対麻痺をいかに防止するかが問題になります。脊髄への血液供給に最も重要な役割を果たす動脈を、アダムキービッツ動脈(大前根動脈)といいますが、そのアダムキービッツ動脈が、このレベルで大動脈から分岐する肋間動脈(あるいは腰動脈)から分岐している場合が多いからです。本件でも、それを調べるために術前検査が行われました。その検査では、アダムキービッツ動脈は、第8肋間動脈から分岐していること、但し、第8肋間動脈は起始部で閉塞又は狭窄しており、第7や第9肋間動脈からの側副血行で栄養されている可能性があることが指摘されていました。これを受けて、術前には、第7〜9番の肋間動脈を再建する(これらの血管が分岐している動脈壁を人工血管に縫着する)という方法が、イラスト入りで説明されています。
 しかし、実際に行われたのは、プルスルー法という術式であり、第7〜9番肋間動脈は再建されませんでした。
 術後、患者さんの足は動きませんでした。怖れられていた対麻痺が発生したわけです。

 第7〜9胸椎レベルの動脈瘤の人工血管置換術は、通常は左肋間からアプローチしますが、このプルスルー法は正中切開によるものであり肋間動脈の再建はできません。そのため、本件でプルスルー法による人工血管置換術を行うのは対麻痺発生の危険が高かったというのが判決の認定です。

 肋間動脈を再建しないことによる対麻痺の危険性及び実際に発生した対麻痺の原因、このような術式に変更した理由などが主な争点でしたが、裁判所は基本的に原告側の主張を認め、報道のような判決になっています。

 この訴訟は、提訴から一審判決まで、まる5年かかりました。
 実は、約2年間で、執刀医及び第一助手の証人尋問、原告本人尋問といった基本的な証拠調べは終わっていたのです。その段階で、裁判所は双方に対し、3000万円の支払で和解するよう勧告しました。しかし被告側がこれを受け容れませんでした。そこから原告側の協力医の証人尋問が実施され、さらに被告申請の鑑定が採用され、出てきた鑑定書に対して補充質問を繰り返しているうちに、これだけの時間がかかってしまいました。
 今回の判決内容は、3年前の和解勧告とほぼ同じです。
 勝訴判決をもらうのは、なかなか楽なことではありません。
小林

 なお、この事件は鹿児島大学の控訴断念により確定しました。
 より詳しく知りたい方は、「鹿児島大学病院プルスルー事件の顛末」をご参照下さい。