最近、このブログでの事件報告が続いていますが、昨日も、福岡高裁で判決の言い渡しを受けました。
 この事件に関しては、控訴審段階で「福岡刑務所尿道カテーテル事件弁護団」が結成されており、控訴人代理人には21名の弁護士が名を連ねています。常任は、西新共同法律事務所の八尋光秀弁護士あかつき法律事務所の石田光史弁護士と、当事務所の久保井、高木、小林が務めました。

受刑者に尿道カテーテル使用、国に賠償命令 福岡高裁
朝日新聞デジタル 2014年09月19日 20時41分
 福岡刑務所(福岡県宇美町)で腰痛を訴えた男性受刑者(当時)が、医師の判断で尿道にカテーテルを入れられ精神的苦痛を受けたとして、国に約350万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が19日、福岡高裁であった。高野裕裁判長は「自力排尿が可能な状態で尿道カテーテルの使用は不適切だった」として、男性の請求を棄却した一審・福岡地裁判決を変更し、国に35万円の支払いを命じた。
 男性は40代。2008年4月、服役中に腰痛を訴えた際、医師の判断で尿道にカテーテルを挿入された。男性側は「標準的な医療水準にかなうものではない」などと主張したが、一審は「安静を保つ必要などを考慮したもので、医師の裁量を超えるものではない」と男性の主張を退けた。
 一方、二審は「尿瓶の使用など他の方法があり、カテーテル挿入は不適切」と判断。男性が痛みを訴え、精神的苦痛を受けたとして慰謝料の支払いを命じた。
 この問題をめぐっては、05~09年に腰痛を理由とした尿道へのカテーテル挿入が福岡刑務所で71件あり、男性を含む受刑者6人の申し立てを受けて県弁護士会は10年9月、人権侵害行為があったとして福岡刑務所に警告していた。
 報道にある2010年9月の福岡県弁護士会の警告は、当時、かなりの注目を集めました。いまでも「福岡刑務所」、「カテーテル」というキーワードで検索すると、昨日の判決を報じる記事のほか、2010年の警告に関する記事にヒットします。
 この警告は、カテーテル使用を人権侵害と認定した上、警告という重い措置を相当とした理由について以下のように述べています。

 そもそも、人が一般的医療水準に照らして必要かつ適切な医療行為を受ける権利は、人が、自らの生命や健康を維持するという最も根本的かつ基本的な人権であり、この享受を妨げられたという一事をもってしても、本件人権侵害の重大性は首肯できるものである。 
 加えて、社会から隔絶され、他の医療機関における代替的治療を選択することができない刑事収容施設内において、本来であれば当然に享受できるはずの医療行為の代償として、社会一般では到底適応が認められない導尿カテーテルの留置を強いられることによる申立人らの陵辱感や屈辱感たるや計り知れないものがある。
 このように、本件は、申立人らの個人としての尊厳を踏みにじるまことに悪質な事案というほかない。
 しかも、本件同様の人権侵害事案は、福岡刑務所の自己申告によっても多数存在しており、本件のような人権侵害行為が横行していることにより、被収容者全体に、腰痛を訴えて医務官の診察を希望すれば導尿カテーテルを挿入されるという重大な受診抑制効果をもたらしていることも容易に推察できるところである。また福岡刑務所がこのような措置を続けてきた理由として「医療措置の増加」を挙げていることからすれば、むしろその受診抑制効果を積極的に意図してこのような処置が続けられてきた疑いも払拭できない。
 以上を考慮し、警告の趣旨記載のとおり、福岡刑務所に対し、本件人権侵害に関与した医務官らに対し厳正な措置をとるとともに、直ちに福岡刑務所における施設内医療処遇に関する調査を実施し、適切な再発防止策を採るべく警告するのが相当であると判断した。


 この警告を読めば、本件がどれほど悪質な事案であるか、お分かりいただけるのではないでしょうか。
 今回の判決は、あくまでも控訴人の損害賠償請求権の存否に関する判断であり、この警告のようなレベルにまで踏み込むものではありません。しかし、刑事施設内医療のありかたや、腰痛に対する診療、尿道カテーテルの適応判断などについて、弁護団の主張をほぼ全面的に認めたものであり、高く評価できるものです。

 この判決を受け、弁護団は以下のような声明を発しました。

 福岡高等裁判所は、平成26年9月19日、福岡刑務所の受刑者であった被害男性が、刑務所内で行われた尿道カテーテル留置の違法性を主張して、国に慰謝料を求めた裁判において、同留置の違法性を認めず請求を棄却した一審の判決を取り消し、被害男性の請求を認める判決を言い渡した。
 福岡高等裁判所は、感染症等のリスクを有する尿道カテーテル留置はガイドライン等に従った運用がなされるべきであるところ、本件留置はこれを欠き、また、腰痛による尿道カテーテル留置は福岡矯正管区管内の刑事施設の中では福岡刑務所だけが行っていたという極めて特異な事案であることを前提に、一審の判決を取り消し、
① 腰痛に対する診断・診療が医療水準に従ったものではないこと、
② カテーテルの使用がCDCガイドラインの適応を満たさないこと、
③ 福岡刑務所を除く他の刑事施設では、腰痛患者に対して尿道カテーテルを使用することはなく、他の方法で対応していること、
を指摘して、被害男性の請求を認めたものである。
 本件に関しては、福岡県弁護士会が平成22年9月、被害男性を含む福岡刑務所内の受刑者による人権侵犯救済申し立てを受け、福岡刑務所長に対し、本件を含む腰痛患者に対する尿道カテーテル留置が憲法13条及び刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律56条に違反する重大な人権侵害であり再発の防止を徹底すべき旨の警告を発している。今回、福岡高等裁判所が、福岡地方裁判所の一審判決を取消し、被収容者の権利利益の保護を重視した適切な判断をしたことは、被収容者の人権が保障される刑事施設の実現に向けた新たな1歩を踏み出すという刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律の精神にのっとるものであり、高く評価するものである。
 他方、国は、上記のとおり既に刑務所内で行われた尿道カテーテル留置の違法性を指摘されていながら、訴訟において、適正な医療行為であったと言い逃れの主張を繰り返し、自身の責任を否定し続けた。
 その国の責任逃れの態度に対し、本判決はこれを断罪した。
 国は、上告することなく、みずから法的責任を認めて真摯に謝罪し、検証を行ったうえで再発防止を徹底すべきである。
2014年(平成26年)9月19日
福岡刑務所尿道カテーテル事件弁護団