2014年12月9日13時10分、福岡地方裁判所小倉支部(足立正佳裁判長)にて、医療過誤訴訟の勝訴判決を得ることができましたので、ご報告します。
 事案は、2010年4月から同年10月にかけて3回にわたり子宮頸がんウイルス予防ワクチンであるサーバリックスの接種を受けた当時40代の女性が、3回目の接種の際、薬液が肩峰下滑液包に浸入したため、肩峰下滑液包炎となり、後には肩関節の滑膜を切除する手術を受けたものの、肩関節に可動域障害が生じたというものです。
 肩峰下滑液包とは、上腕骨頭と肩峰の間に存在し、滑膜という膜に囲まれた数mmの細い筒状の組織で、中は滑液という液体に満たされており、肩関節のクッションの役割を果たしています。図をご参照ください。滑液包は三角筋で蔽われていて、肩峰という肩先の位置から4〜5cm下にその下端がありまkatsuekihoす。関節注射では、この滑液包内に麻酔薬を注入することもあります。しかし、サーバリックスはワクチンですから、元々炎症を引き起こす物質です。その上炎症反応を強化するアジュバントという成分が含まれています。ですから、その薬液が滑膜によって閉ざされた滑液包内に混入すれば、強い炎症が生じることは必至です。
 サーバリックスは筋肉注射するワクチンです。上腕の三角筋の中に針先を入れ、筋肉内に薬液をとどめるものです。そのため、添付文書では、肩峰三横指下の部分を指でつまみ、垂直に刺入することとされています。この位置であれば、肩峰下滑液包に達することはないと考えられるからです。
 相手方は北九州市立八幡病院でしたので、被告は北九州市です。
 経過は次のとおりです。
 2010年10月19日、産婦人科外来で3回目の接種を受けた3時間後、立っていられないほどの痛みが接種した左腕全体に生じました。原告は自宅に戻るも痛みのため服を脱ぐこともできない状態で3日間臥せっていましたが、痛みが治まらないため、3日後、相手方病院産婦人科を受診。しかし、医師は接種した痕を確認することもなく鎮痛剤のみ投与。
 鎮痛剤でも痛みに変化がなかったことから、原告は製薬会社であるグラクソスミスクラインの窓口に電話を入れて状況を説明したところ、整形外科受診を促され、接種4日後(10月23日)、整形外科を受診。
 その際、診察した医師が接種痕を確認、経過と症状から三角筋と腱板に炎症が生じている可能性があるとしてMRI検査を指示。
 10月25日に再度整形外科を受診し、MRI検査を受けたところ、左棘下筋、三角筋及び肩峰下滑液包に炎症所見を認めたことから、医師は、接種位置が高すぎたために肩峰下滑液包内にワクチンが混入したのではないかと述べ、相手方医師にもっと低い位置に接種するよう注意を促した方がよいと助言。
 そこで、原告は、その足で相手方病院に向かい、接種医師にその旨伝えましたが、何らの謝罪もなく、また被告病院の整形外科を紹介するなどの対応もなかったことから、釈然としない思いを抱え、相手方病院の苦情窓口に出向き事情を説明しました。すると、思いがけず病院管理部扱いとなり、接種医は原告が損害賠償を請求していると思い込んだようで、「そんな人とは思わんかった。裁判でもしろ!」などと怒鳴りつけました。原告は激しいショックを受け、涙を流し、「もういいです」と退席したところ、管理部の職員が追いかけてきて、「もういいんですね?」と念を押されて呆れてしまいます。
 その後、原告は長年信頼してきた相手方病院に誠意ある対応を求めたいと考え、院長にメールを送るなどして働きかけます。これを受けて相手方病院は本件につき事故調査委員会を開きますが、接種医師の意見を鵜呑みにして、早々に「注射手技(接種位置、刺入した針の深さ等)は適切に行っていると考えられるため、…本日の時点では、八幡病院としては過失を認めることはできないと考える」との結論を出しました。
 原告は、納得がいかないとして、更に調査を求め、相手方は追加調査を行ったものの、適切な接種であったことは間違いがないとして、見解をあらためることをしませんでした。そこで、原告はいったいどんな議論がされたのか知りたいと、個人情報開示請求を行いましたが、事故調査委員会の議事録は作成していないとの回答で、結論に至った経過を知ることはできませんでした。
 そこで、私たちが医療事故調査を受任し、調査結果を踏まえて2012年4月17日に提訴、2年8月を経て本日の判決となりました。
 争点は、1)接種位置が添付文書に記載されている「肩峰の三横指下」よりも高い位置であったか、2)そのために薬液が肩峰下滑液包内に侵入し、関節炎を生じたと言えるか、3)損害、となります。
 医療過誤訴訟としては、争点は比較的単純な事案でした。
 被告側は、訴訟においても肩峰の三横指下に正確に接種したとの主張を繰り返し、原告の肩峰下滑液包に炎症が生じているのは、三角筋内に接種した薬液による炎症が波及したからに過ぎない、また、現在原告に残っている肩関節障害はいわゆる五十肩であって、本件接種とは因果関係がないと争いました。
 こちらは、接種の4日後に接種痕を確認した整形外科医による証明書や陳述書、その後、原告が治療を受け、後に内視鏡による手術を受けた病院の主治医による陳述書、高い位置に行われたワクチン接種により肩関節障害が生じていることを紹介する外国文献等を提出、特に接種痕を確認したという整形外科医については証人尋問を実施しました。
 証拠調べを終えた後、裁判所から熱心な和解勧試が行われ、数回にわたって和解協議が行われました。そこで原告が希望したのは、誤った高い位置に接種したことを率直に認めて謝罪し、今後接種位置に気をつけること、被告病院を含む被告の設営する病院の医療事故調査委員会規約を見直し、医療事故について医療事故調査委員会を設置する場合は、当該事故の当事者及び病院管理者を委員から除外し、調査委員には公正な外部の専門家及び識者を加え、その議事録を作成し、審議資料と共に所定の期間保管し、調査結果について報告書を作成し、これを患者側に交付してその内容を懇切丁寧に説明することを和解条項に盛り込むことでした。
 しかし、被告は、接種医師が否定する以上、接種位置が高すぎたことを認めるわけにはいかないとし、事故調査の改善についても抽象的な提案にとどまったことから、原告は和解を拒否し、本日の判決となったわけです。
 内容は一部認容、認容額は762万円あまりです。請求額は最終的には1559万円でしたから約半額となりましたが、実質的には全面勝訴と評価できるものでした。
 まず、判決は、本件接種位置が肩峰の1横指程度下の高い位置であったことを明確に認めました。
 4日後に接種位置を直接確認した整形外科医の証言は信用できるとし、被告が主張するように肩峰の三横指下に接種されていたとすれば、肩峰下滑液包に薬液が注入される可能性は低いのに対し、原告の肩峰一横指下付近に注射針を垂直に刺入した場合には、肩峰下滑液包に針が到達し、薬液が注入する可能性があること、滑液包内の炎症が三角筋内の炎症から波及したものとは考えにくいこと、などを総合して、原告主張のとおりの事実を認定しました。
 そして、原告の左肩関節可動域障害は、この誤接種により生じたものとして、これも原告の主張どおり、後遺障害等級12級相当の障害に該当するとしました。
 それなのに、どうして請求額の約半額の認容になったか、ですが、これは、原告が接種当時は専業主婦だったのに、裁判中に親族の不動産会社の役員を引き受けることになり、当時より収入が増えてしまったため、逸失利益が認められなかったからです。
 他の部分については、概ねこちらの請求が認められました。

 本件は、どちらかというと被告側の過失(接種位置が高かったこと)は、後医の意見やMRIに現れた炎症所見等に照らし、ほぼ明らかと思われた事案ですが、被告が接種医師が認めない限り接種位置の誤りを認めることはできないという頑なな態度をとり続けたために、訴訟提起せざるを得なくなり、判決を待たざるを得なかった事案です。
 原告の肩関節に激烈な炎症を引き起こしたサーバリックスのアジュバント成分。現在、日本ではサーバリックスのほか、ガーダシルという子宮頸がんウイルス予防ワクチンが承認され、2010年11月には公費助成により女子中学生が無料で受けられるようになり、2013年4月には予防接種法の改正により定期接種化され、厚労省により接種が「積極的勧奨」され、多くの女子中学生たちに接種されました。
 ところが、数多くの副反応報告が寄せられ、厚労省は定期接種化のわずか2ヶ月後の同年6月、積極的接種を一時中止しています。その後、厚労省は安全性を確認するための研究班を立ちあげるなどしましたが、今年の初夏には重大な副反応はない、寄せられている副反応事例は「心身の反応」というべきで、ワクチン自体の安全性に問題はないとして「積極的勧奨」を再開しようという動きがありました。しかし、被害者連絡会や薬害オンブズパースン会議、関わっている弁護士たちが、良心的な医師らの助言を得ながら、精力的にロビー活動を行った結果、どうにか現在に至るまで、積極的勧奨の再開を回避できています。
 しかし、状況は全く予断を許しません。様々な利権が絡み合って、予防接種を推し進めようという力が働いていることが感じられます。
 東京や大阪、愛知の弁護士たちがこの問題に取り組み、多様で深刻な少女たちの被害とワクチン接種との因果関係を明らかにし、有用性が低いことを証明し、ワクチン禍で苦しむ少女たちがこれ以上出ないようにと、活動しています。福岡でも、九州に多数いる被害者をサポートしようと、わが事務所の弁護士5名も参加する弁護士の取り組みが始まっています。何人かの被害者からお話を聞きましたが、本当に重篤で、言葉にならないような被害が明らかになっています。
 この問題については、私が理事長を務めているNPO法人患者の権利オンブズマンの主催する「市民大学」として、2015年1月25日に薬害オンブズパースン会議事務局長の水口真寿美弁護士による「子宮頸がんワクチンに関する本当のQ&A〜ワクチン被害少女たちの苦しみ」という講演会が福岡市天神において行われます。ぜひ沢山の方に、特に子宮頸がんワクチンの投与を受ける可能性の高い娘さんをお持ちの方や本人に参加いただきたいと思います。20141120151846

 また、今回の裁判、経過で示しているとおり、原告が裁判を決意したきっかけは、被告病院の事故調査に対する極めて不誠実な対応、議事録も残さず、院外の委員を入れることなく(被告代理人弁護士が最後の委員会には参加していたようですが、代理人ですから院外の第三者に数えることはできません)、しかも院長等の管理者がそのメンバーとなっていました。それでは客観的かつ公正な事故調査などできるはずもありません。病院は一貫して原告を「クレーマー」「モンスターペイシェント」として扱い、実際、証言に立った看護師は、まさにそのような評価を述べていました。
 形ばかりの院内事故調査委員会を設置しても、クローズドで、第三者、とりわけ患者側を代表するような委員が参加せず、議事録も残さない、報告書も一枚ぴらのもののような体制では、再発防止につながるような調査が不可能であることは、本件に照らしても明らかです。やはり、医療法の改正により来年から始まる医療事故調査制度が真に医療被害者たちの願いに沿うものになるために、これからのガイドライン策定に厳しい国民の眼差しを注ぐことが肝要だと思います。
 被告病院には、ぜひ、判決を重く受け止め、また原告が強く願う体質改善を図り、隠蔽体質から脱却し、医療事故に真摯に取り組む患者の権利に寄り添う病院として生まれ変わってほしいものです。
 
(久保井)