昨年8月に、HIV感染:勤務先病院に「就労制限で不当」と賠償命令というエントリーで紹介した事件の、控訴審判決が、昨日、福岡高等裁判所で言い渡されました。担当は、久保井と小林。
HIV検査:「結果の労務管理利用は目的外」2審も認める
毎日新聞 2015年01月29日 21時14分
 HIV(ヒト免疫不全ウイルス)の検査をした大学病院から陽性結果が勤務先の病院に無断で伝わり退職を余儀なくされたとして、感染した看護師が勤務先病院に約1000万円の損害賠償を求めた訴訟で、福岡高裁(一志泰滋<いっし・やすじ>裁判長)は29日、病院に115万円の支払いを命じた福岡地裁久留米支部判決を変更し、病院に61万円の支払いを命じた。
 1審判決によると、看護師は2011年8月、勤務先病院の紹介で受診した大学病院で感染が判明。看護師が知らない間に大学病院から検査結果が勤務先に伝わり、勤務する診療部門から労務管理部門にも漏れた。病院幹部から仕事を休むよう言われ、看護師は休職、11年11月に退職した。
 病院側は控訴審でも1審と同様「感染情報は目的を特定せずに入手しており目的外利用にあたらない。体調を気遣い病休を提案しただけで就労制限ではない」と主張していた。
 看護師は退職後、医療現場を離れ別の職場で勤務。看護師は検査した大学病院にも賠償を求めたが、大学病院は診療情報の取り扱いについて意思確認が不十分だったと謝罪し、13年4月、和解が成立した。【山本太一】
 一審久留米支部判決に対しては、日本最大の看護職能団体である日本看護協会が、以下のような談話を発表しています。

 原告の主張を認めた今回の判決は、HIVに関する科学的な知見や、関係法令、厚生労働省の対策ガイドラインを踏まえた妥当なものであると考えます。HIV感染者/エイズ患者の治療にあたっては、医療の現場で感染者・患者のプライバシーと人権が守られ、互いの信頼関係のもとで安心して健康管理や治療が続けられることが大切であり、このことは感染者・患者が医療従事者であっても同様です。本会としては引き続き、看護職に対して医療・介護の現場で役立つ標準予防策(スタンダード・プリコーション)をはじめとする情報の提供に取り組みます。

 この談話の内容は、医療現場におけるこの事件の受け止め方として、ごく標準的なものではないかと思います。しかし、病院側は控訴しました。いささかでも院内感染の可能性がある以上、感染した医療従事者は臨床現場から排除されねばならないのであり、そのような医療従事者はプライバシーを侵害される不利益を甘受すべき立場にある、というのが一審以来の一貫した病院側の姿勢です。
 このような病院側の主張に対し、二審福岡高裁も、違法性の点については、一審久留米支部判決をそのまま維持しました。情報利用に関する「事後承諾」などを理由に賠償額を減額した部分には納得できませんが、不法行為の成否については、きわめて常識的な判決だと思います。
 
 日本にはかつて、病気の恐怖、感染の危険性を宣伝し、感染源たる患者を社会から排除することが最も確実な感染症対策であると考えられた時代がありました。「癩予防ニ関スル件」に始まり90年近くにわたって続いたハンセン病隔離政策がその典型であり、1980年代の「エイズ予防法」に代表されるHIV対策もその轍を踏むものでした。
 1998年に制定された「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」は、このような歴史の反省の上にたち、法制定の趣旨を、「感染症の患者等の人権を尊重しつつ、これらの者に対する良質かつ適切な医療の提供を確保し、感染症に迅速かつ適確に対応することが求められている」と謳っています。 
 病院の主張は、1980年代以前の意識にとどまり、1990年代以降に制定された感染症新法や、個人情報保護法、あるいは「職場におけるエイズ問題に関するガイドライン」の趣旨を全く理解しないものでした。昨日の判決を受けた病院が、自らの意識と,今日の社会的規範とのギャップを自覚してくれることを期待したいと思います。
(小林)