1月31日、福岡地裁で第17回医療関係訴訟運営改善協議会が開催されました。この協議会の趣旨に、沿革については、こちらのエントリー(福岡地裁医療関係訴訟運営協議会)をご参照下さい。
 この協議会では、毎年、裁判所から、福岡地裁医療集中部での一審終局区分や記載事件平均審理期間といった統計的な数字が報告されます。
 過去10年間の一審終局区分については、2014年段階のものをこのブログにアップしたことがあります(第36回医療問題弁護団・研究会inつくば)。興味のある方は、今回のデータと、4年前のデータを見比べてみて下さい。
全国福岡
 和解による解決が全国的には約50%であるのに対し、福岡地裁では約70%であるというのは、4年前も、今回もほぼ同じです。つまり、判決で終わっている事件の割合もほぼ同じということですが、判決で終わっている事件の内訳は変わりました。特に福岡の場合、4年前は認容が9%、棄却が12%だったのに、今回は認容が5%、棄却が17%と、大幅に負けが込んでいます。

勝訴率 医療過誤の患者側勝訴率低下は全国的な傾向で、一昨年は約30年ぶりに20%を大きく割りこみました。そのような傾向が明らかになってきたのは2008年以降のことであり、「過去10年間」の範囲に、認容率の高い時期が含まれなくなりつつあります。一昔前、ということになりますね。
 わたし自身も、ここ数年、どうにも納得のできない棄却判決をもらうことが数回あり、また、医療機関側も責任を認めて示談に応じるのではないかと考えて損害賠償の請求書を送ったのに対し、思いがけず責任を否定する返事がかえってきて、訴訟せざるを得なくなるというケースが増えています。
 とはいえ、医療事故被害者救済のために全力を尽くすという当事務所の姿勢に揺るぎはありませんので、個別のケースについては、機会があるごとに報告していきたいと思います。
 もうひとつ、平成16年から平成28年までの既済事件の平均審理期間の推移をグラフにしてみました。
 従来、福岡地裁の平均審理期間は、全国平均に比較してかなり短く、それはおそらく鑑定率の低さ、和解率の高さによるものだろうと思われていました(第36回医療問題弁護団・研究会inつくば)。
 しかし、ここ数年の傾向をみると、福岡地裁の平均審理期間は、どうやら全国並みあるいは全国よりも長くなっています。それでいて、終局区分をみる限り和解率が減ったわけではないようです。
平均審理期間 もちろん、裁判は早く終わればいいというものではありません。特に、医療過誤訴訟のような専門的な分野の事件は、迅速さよりも丁寧さを重視すべきだとわたしは思います。しかし、早く解決できる事件を引き延ばす必要はないので、このような審理期間の推移は、やや気になります。

 さて、今回の協議のテーマは、高齢者医療。
 久留米大学病院の新山修平先生の「超高齢者にかかわる終末期医療」、石川千咲裁判官の「高齢者に対する医療に関する裁判例の紹介」という報告のあと、患者側弁護士として当事務所の久保井弁護士が、医療側弁護士として大神朋子弁護士がそれぞれの立場から高齢者医療についてコメントしました。

 確かに、高齢の患者さんに関する医療相談は増えているように思います。社会全体が高齢化していることからすれば、それは当然のことです。年老いた親が、医療機関あるいはスタッフから不当な仕打ちを受けて亡くなっていった悔しさを、涙ながらに語った方を、何人も思い出すことができます。
 ただ、そういった相談は、「何をしなければならなかったのか」、あるいは、「何をしてはならなかったのか」という医療側の注意義務を特定することが難しく、仮にその特定ができても、「その注意義務を果たしていれば結果が変わっていたのか」という因果関係を証明できそうにないケースが多く、あまりお役に立てていないのが実情です。

 久保井弁護士の発言は、高齢者を巡る医療トラブルの多くは、医療スタッフと家族とのコミュニケーションの問題に起因しているのではないか、それは、医療側の「インフォームド・コンセント」に関する理解が、「自らの選択の免罪符」というものにとどまっており、「患者・家族が最もいい選択を行うための情報提供」になっていないところに一因があるのではないか、というものでした。
 わたしも、相談を受けていて、「病院側がそういう方針をとったのは分かるけれど、家族の思いとは距離があったのだろうなあ」と思うことは多々あります。でも、弁護士から「病院側はおそらくこういう考えだったのではないでしょうか」と説明しても、傷ついている遺族にはなかなか受け止めてもらえません。結果が出る前に、もう少し辛抱強く話し合いを重ねる機会があればよかったのではないか、というのは、多忙な医療現場には難しい注文なのかもしれませんが。

 医療訴訟に関連する議論としては、結局のところ、年齢という要素だけで医療スタッフの注意義務が左右されることはなく、加齢の影響による身体条件が注意義務に影響するだけではないのかというごくあたりまえの話になりましたが、尊厳死、リビング・ウイル、DNRなど、医療機関の倫理委員会や日弁連の人権委員会で議論はしても、あまり裁判所で議論したことのないテーマが話題になり、それなりに有意義な協議会になったと思います。(小林)