昨日、広島高裁で言い渡しを受けた判決のご報告です。担当は緒方、久保井、小林。

医療過誤2審逆転 病院に支払い
山口 NEWS WEB 02月16日 20時40分
 7年前、腰の痛みなどを訴え、山口県立総合医療センターを受診した山口市の男性が帰宅後に腹部の大動脈瘤破裂が原因で死亡したのは、医師が必要な検査などを怠ったのが原因だとして遺族が賠償を求めた裁判で、広島高等裁判所は、1審の判決を変更して病院側の過失を認め、およそ3300万円の支払いを命じました。
 7年前、山口市の69歳の男性が腰の痛みや低血圧、それにおう吐などの症状を訴え山口県立総合医療センターを受診しましたが、帰宅後に症状が急変し、腹部の大動脈瘤破裂が原因で死亡しました。
 男性の妻ら遺族3人は医師が必要な検査などを怠ったのが原因だとして病院側に5700万円の賠償を求め、1審の山口地方裁判所はおととし、訴えを退ける判決を言い渡し、遺族が控訴していました。
 16日の2審の判決で、広島高等裁判所の野々上友之裁判長は「男性は、症状から、病院を受診した時点で腹部大動脈瘤が破裂していたと認めるのが合理的だ」と指摘しました。
 その上で「医師が症状を掘り下げて聞き取り、検討していれば、CT検査を行って発見することができた」などとして、1審の判決を変更して病院側の過失を認め、およそ3300万円の支払いを命じました。
 判決について山口県立総合医療センターは「敗訴したという連絡は受けたが、判決文が届いていないので内容を精査した上で今後の対応を検討したい」としています。
 原告の1人で、男性の次女は「いい判決が下り、本当によかったです。父は病院にとっては大勢いる患者の1人ですが、家族にとってはたった1人の人です。父は帰ってはきませんが、これを機に、病院は患者を大切にしてもらいたい」と話していました。
 大動脈瘤については、2013年7月のエントリー(鹿児島大学病院プルスルー事件の顛末)でも取り上げました。大動脈が瘤状に膨らんだ状態で、瘤径(瘤の大きさ)が一定以上の大きさになると破裂する危険が高くなります。破裂すれば、多くの場合、出血性ショックによって死亡します。
 しかし、腹部大動脈瘤破裂の場合、一時的に、クローズド・ラプチャーという状況が生じることがあります。これは大動脈瘤の壁破綻の部位の関係で、後腹膜腔に出血し、その血腫で破綻部位が覆われて出血が止まっている状態です。「今日の治療指針2013年版」では、「腹部大血管損傷での出血部位が腹腔内であれば短時間で死に至るが、後腹膜の場合は血腫によるタンポナーデ効果により,心停止を免れて医療機関に搬送されることがある」と説明されています。
 実際、腹部大動脈瘤に関する文献では、腹痛や腰痛を訴えて医療機関を受診し、腹部大動脈瘤破裂が発見されて手術に至った例が多数報告されています。つまり、このクローズド・ラプチャーの状態をきちんと把握できるかどうかが、患者を救命できるかどうかの鍵です(腹膜腔に出血するオープン・ラプチャーの場合、病院に辿りつく以前に死亡してしまう可能性が高いと思われますので)。
 
 2年前の山口地裁判決は、受診時に腹部大動脈瘤が破裂していたことを認めませんでした。つまり、患者がその朝に訴えていた腰背部痛は、その夜に死亡する原因になった腹部大動脈瘤とは無関係、ということになります。遺族側全面敗訴。あらためて、医療過誤訴訟の難しさ、自分たちの見通しの甘さを思い知らされたものでした。
 これに対し、今回の広島高裁判決は、腰背部痛がその朝に突然発症したものであること、体動によって影響を受けない安静時痛であったこと、受診前の一時的な血圧低下、嘔吐といった事実から、受診時にはクローズド・ラプチャーの状態であったと考えるのが合理的とし、腹部大動脈瘤破裂を疑ってCT検査を行わなかった医療機関側の過失を認めたものです。

 判決が確定して、事件が終了したら、改めて詳しく説明させていただくつもりです。
(小林)