当事務所は、市民団体「患者の権利法をつくる会」の事務局であり、ここ数年、患者の権利擁護を中心とする医療基本法の制定に取り組んでいます。このテーマについては、このブログでも何度か取り上げてきました
 医療基本法の制定を 今こそ!〜三団体共同骨子
 医療基本法の制定を 今こそ!〜基本法と患者の権利
 患者の権利法をつくる会「医療基本法要綱案」案文と解説
 「医療基本法要綱案」市民向けパンフのご紹介
 
 一昨年は、各政党の国会議員を招いたシンポジウムを、昨年は院内集会を開催して、立法活動に向けた働きかけを強めていたところですが、さる2月6日、ついに医療基本法制定に向けての議連が発足しました。

医療基本法案 年内の国会提出目指す 超党派議連発足
2/6(水)20:17配信 毎日新聞

 国民の医療を受ける権利などを定めた「医療基本法」の制定に向けた超党派の議員連盟(会長・尾辻秀久参院議員)が、6日発足した。今年中の議員立法による法案提出を目指し、医療団体や患者団体へのヒアリングを今後進める。

 医療基本法は、医師法、医療法、医薬品医療機器法などを束ね、医療の基本理念や患者と医療提供者の関係などを定める。約半世紀前から日本医師会や患者団体、有識者らが必要性を訴えてきた。2000年代に入りハンセン病患者に対する人権侵害への反省から議論が本格化した。法制化により、患者本位の医療の推進や医師偏在是正の効果が期待される。

 6日に東京都内で開かれた設立総会で、日医の横倉義武会長は「医療界と患者の対立ではなく、協働で立法につなげたい」と意欲を示した。患者側の15団体の代表も出席し「患者の位置付けを、施しを受ける対象から人権を守られる主体に改めて」などと要望した。【清水健二】

 
 https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190206-00000069-mai-pol

 わたしはこの日、残念ながら以前から入っていた仕事の関係で参加することができなかったのですが、国会議員本人の参加者が48名、秘書の方の代理出席が33名だったと聞いています。インターネットで検索すると、羽生田たかし参議院議員石崎とおる衆議院議員堀内のり子衆議院議員中村裕之衆議院議員などが、ご自身のブログで、この設立総会への参加を報告しています。
 議連ができたからといって一足跳びに法制定が実現するわけではなく、まだまだ内容を詰めていく作業も必要です。ただ、医療基本法制定に向けて、新しい局面が開けたことは間違いありません。

 インターネット配信のこの記事に対するコメント欄には、医療現場での医療従事者の負担の重さを強調する内容のものが多く、患者の権利だけではなく義務も定めるべきだとの指摘もあります。

 わたしは、医療現場で働いたことはありませんが、複数の医療機関で倫理委員会の委員を務めている関係で、現場のみなさんのご苦労もいくらか知っています。医療問題や患者の権利について真剣に考えれば、この問題について知らないふりをすることはできません。
 だから、わたしたち患者の権利法をつくる会の医療基本法要綱案では、以下のような条項をおいています。

 医療施設の開設者は、雇用する医療従事者の労働者としての権利を侵害してはならない。(要綱案Ⅳ−1−ⅲ)

 ただ、この問題は、医療施設解説者と医療従事者との間の労働問題としてのみ捉えて済むものではありません。
 最近の「働き方改革」でも問題になっているところですが、この問題の背景には医療全体の容量の乏しさがあります。むしろ、医療に限らず、福祉全般の容量の乏しさというべきでしょうか。
 たとえば、わたしが委員として参加する倫理委員会でも、経済的に医療費が支払えないのに様々な事情で生活保護が受けられない患者さんや、行き先がないために退院できない社会的入院の患者さんへの対応が問題になることがよくあります。本来は公的に手当てされるべき問題が医療現場にしわよせされ、医療従事者に対する過剰な負担となっているように感じられます。

 このような問題は、患者に義務を科したり、その権利を制限したりする方向で解決されるべき問題なのでしょうか。
 医療費を支払えないものには医療を受ける権利はない。たとえ身体的状況が医療を必要としていたとしても。
 医療の必要がないと認められるものはすみやかに退院しなければならない。たとえ他に行き場がないとしても。
 そのような社会が望ましい、とはわたしは思いません。かといって、現状のように、その負担を医療施設や医療従事者にしわよせすべきでもありません。

 だからわたしたちは、医療基本法によって、まずは基本的な人権としての患者の権利と、それを保障すべき国、地方公共団体の責務を明らかにすべきだと考えています。

 国及び地方公共団体は、国民及び地域住民が、その居住する地域にかかわらず、等しく最善かつ安全な医療を享受するために、必要かつ十分な医療施設等の人的、物的体制を整備し、かつ医療水準の確保のために適切な措置を講じなければならない。(要綱案Ⅲ−2−ⅰ)

 国及び地方公共団体は、前項の目的を達するために必要かつ十分な医療従事者の養成及び確保に努めるとともに、それら医療従事者の資質の向上を図らねばならない。(同Ⅲ−2−ⅱ)

 国は、III1及び2の医療供給体制及び医療保障制度の整備を図るにあたって、医療と介護との連続性に十分配慮しなければならない(同Ⅲ−3−ⅰ)。

 国は、患者が安心して療養生活を送ることができるように、また、患者の家族が患者の療養生活に協力できるように、労働法制上の配慮を含む療養環境の整備に努めるものとする(同Ⅲ−3−ⅱ)。


 このような医療制度を、国民全体が、患者も医療従事者も一緒になって、国に求めて行く。それがわたしたちの考えている医療基本法であり、そこでは、患者の権利を保障することが、同時に医療従事者の権利の保障にもつながるという関係が想定されています。

 この医療基本法さえ制定すればすべての問題が解決するというものではありません。しかし、まずは医療制度の目指すべきものを明らかにすること、あるべき医療制度の姿を国民全体が共有すること、それがさまざまな問題を解決するための出発点になるはずです。

 ひとりでも多くの人に、わたしたちの医療基本法要綱案に賛同していただき、制定に向けての運動に参加してほしいと願っています。
(小林)