ハンセン病患者の家族に対する国の責任を認めた6月28日の熊本地裁判決は、国の控訴断念によって確定、本日、内閣総理大臣談話が発表されました。

「苦痛と苦難におわび」ハンセン病家族に首相談話 原告以外にも補償検討
毎日新聞2019年7月12日 11時00分
 政府は12日、ハンセン病元患者の家族への賠償を国に命じた熊本地裁判決の控訴見送りに関し、安倍晋三首相の談話と政府声明を持ち回り閣議で決定した。首相談話は、患者や元患者、家族への「おわび」を明記。確定判決に基づく賠償を速やかに履行し、訴訟への参加、不参加を問わず、家族を対象とした補償制度を早急に検討すると表明した。首相が家族と直接面会する方針も示した。
 首相談話は「かつてとられた施設入所政策の下で、患者・元患者のみならず、家族にも社会で極めて厳しい偏見、差別が存在したことは厳然たる事実」と表明。そのうえで「事実を深刻に受け止め、家族が強いられてきた苦痛と苦難に対し、政府として改めて深く反省し、心からおわび申し上げる」と述べた。今後の対応として「関係省庁が連携・協力し、人権啓発、人権教育などの普及啓発活動の強化に取り組む」とした。【髙橋克哉】


 前回のエントリー「熊本地裁、ハンセン病家族訴訟で国の責任を認める〜より一層のご支援を!」でも触れましたが、今回の判決は、国の作為義務が1996年3月のらい予防法法廃止のみによって果たされたとは言えないとして、2001年末までの作為義務違反を認めたこと、その義務違反の主体として、厚生大臣ないし厚生労働大臣のみならず法務大臣及び文部大臣ないし文部科学大臣の責任を認めたことは、2001年判決と比べても大きく踏み込んだものです。このあたりについては、国は政府声明で異論を表明していますが、なにはともあれ、家族の被害を認めて謝罪の意を表明したこと、未提訴の被害者をも対象者に含めた補償制度の創設及び関係省庁が連携した啓発活動の強化を謳ったこの首相談話を高く評価したいと思います。

厚労省前
 なお、この判決及び控訴断念に関するネット上のコメントには、誤解に基づくものが多々見受けられます。

 もっとも大きな誤解は、この判決を、現在の医学的知見に基づいて過去の政策を裁いたものだとして批難するものです。当然ながら、判決は、その政策が行われた当時の医学的知見を前提としています。1960年当時の医学的知見によれば、すべてのハンセン病患者について隔離が不要であった、それにもかかわらず隔離政策を続けていたのは違法だというのが、2001年の熊本地裁判決であり、今回の裁判では、国もその点についてはまったく争いませんでした。
 これは、ハンセン病問題に対する無知に基づくものであり、まったく単純な誤解です。

 もうひとつの誤解、ある意味でより深刻な誤解は、ハンセン病患者は隔離政策の被害者であるとしても、その家族は、患者を差別して療養所に追いやった加害者ではないかというものです。
 今回の訴訟の最大の目的は、この誤解を解消するところにありました。
 なぜ、患者とその家族との絆が断たれねばならなかったのか。
 なぜ、家族たちは、患者との関係を誰にも語れない秘密にしなければならなかったのか。
 それは、絶対隔離政策、特に戦前戦後の無らい県運動によって、患者のみならずその家族も偏見差別の対象とする社会構造が築き上げられたからです。このような社会構造に抗うことは、一人の人間にとっては極めて困難であり、この困難さこそが、家族被害の本質です。
 本件判決及び首相談話の最大の意義は、その家族被害を正面から認めたところにあります。

 他にもさまざまな誤解がみられますが、最後にもうひとつ挙げると、過去の誤った政策についての謝罪を、その政策にかかわったわけではない現在の総理大臣に求めるのは筋違いではないかとの見解です。
 原告たちは、誰かの個人責任を追及しているわけではありません。国の政策が誤っていたということを認めてほしいだけです。その国の代表者が、総理大臣なのです。
 本日の首相談話も、過去から継続する日本という国の、現在の代表者として、謝罪の意を表明したものです。

判決報告集会


 この首相談話を受けて、原告団・弁護団は、以下の声明を発表しました。

 本日、内閣総理大臣は、ハンセン病問題について早期かつ全面的な解決を図るべく、去る6月28日言い渡された熊本地方裁判所のハンセン病歴者の家族に対する国の責任を認める判決に対し控訴せず、訴訟への参加不参加を問わず、ハンセン病患者家族を対象とする新たな補償措置を講じることとし、このための検討を早急に開始するとの談話を公表した。
 われわれ原告団・弁護団は、この談話によって、内閣総理大臣による心からのお詫びのもと、国がハンセン病患者家族について全員一律救済を目指すことが明らかにされ、ハンセン病患者家族が受けた被害を償うに足りる賠償が行なわれるための道筋が示されたものとして高く評価する。
 今後は、謝罪広告等による名誉回復措置とハンセン病患者家族全員を対象とする立法措置等による全員一律救済の実現はもとより、国の責任を踏まえたハンセン病問題の全面解決を図るために、厚生労働省、法務省および文部科学省による横断的かつ重層的な差別・偏見解消に向けた施策の実施等が実現される必要がある。
 これらの施策ないし措置は、ハンセン病患者家族の「人生被害」を回復することを目的とするものでなければならないし、何より原告団・弁護団との協議に基づき、その意向を十分に踏まえたものでなければならない。そのために、内閣総理大臣による原告団との面会を速やかに実現するとともに、原告団・弁護団との継続的な協議の場を早急に設定すべきである。
 なお、政府は、本判決の法律上の問題点として、消滅時効の起算点の認定が判例違反であるなどとする声明を公表しているが、こうした見解は、本判決の論旨を正しく理解しないものであり、本判決の法律的な判断は何ら揺らぐものではないし、本判決には政府の懸念するような国民の権利義務関係に影響を及ぼす内容は含まれていないものと考える。
 最後に、熊本地方裁判所における勝訴判決から本日まで絶大なる支援と協力をいただいた市民、国会議員、ハンセン病回復者のみなさまに心より御礼を申し上げるとともに、ひきつづき、ハンセン病問題の全面解決のためのご理解とご協力をお願いする次第である。


 ハンセン病問題は、今日から、新しい段階に入りました。
 今後とも、ご支援をよろしくお願いいたします。