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 最近「同性婚」ということばをよく耳にしませんか?
 いわゆる、戸籍上の男性と男性、戸籍上の女性と女性が結婚できるか、という問題です。
 LGBT、すなわちレズビアン(女性同性愛者:L)、ゲイ(男性同性愛者:G)、バイセクシュアル(両性愛者:B)、性別違和ないし性同一性障害(トランスジェンダー:T)などの性的マイノリティ(セクシュアルマイノリティ、略称で「セクマイ」と言ったりもします)の問題は、近頃、たびたび指摘され、耳にすることが増えてきました。

 この先駆けとなるのが「府中青年の家」事件です。
 1990年に「動くゲイとレズビアンの会」が、東京都の府中青年の家を利用したところ、同日利用していた他団体から差別的な言動や嫌がらせを受け、これに抗議しようとすると、職員から妨害された上、その後の利用について、「青少年の健全な育成にとって、正しいとはいえない影響を与える」と拒否された。そのため、東京都に対し、正当な理由によらない差別的な取り扱いであり人権侵害にあたるとして損害賠償を求めたという事案です。
 この裁判は、1審、2審とも、原告勝訴となりました。
 東京高裁は、都教育委員会など行政当局は、少数者である同性愛者をも視野に入れた、きめの細かな配慮をすることが必要、同性愛者の権利、利益を十分に擁護することが要請されている、無関心であったり知識がないということは公権力の行使に当たる者として許されない、行政側の処分は同性愛者という社会的地位に対し怠慢による無理解から、不合理な差別的取り扱いをしており違憲違法であった、として、原告の請求を認めました(1997年)。
 当時としては、非常に画期的な判決でした。
 けれど、振り返れば、判決が言い渡されたのは、らい予防法が廃止された翌年であり、ハンセン病当事者による国賠訴訟が提起される前年であるのですね。

 これまで様々な場面で、基本的人権や患者の権利についてお話しする機会をいただきました。
 あるときから、その際に、性的マイノリティのお話をさせていただくようになりました。
 それは、ハンセン病隔離政策被害者や薬害エイズ被害者のみなさんの持つ「秘密を否応なく抱え込まされる痛み」は、性的マイノリティのみなさんこそが抱え続けているのではないか、と思うようになったからでした。
 この社会には多くの性的マイノリティの方が生活しておられます。よく、「左利きの人」と同じくらいの割合でいらっしゃると言われます。つまり、かならず私達の周りには、そういう「当事者」の方がいらっしゃるはずです。
 なのに、なぜ、プライベートで、自分がそうです、と名乗る方に出会えていないのだろうか。
 恐らく、私自身が、そういうみなさんを「いないかのようにして」過ごしているからではないだろうか。

 ここ数年、弁護士会の取組などで、この問題にかかわり、複数の当事者の方と交流することができました。毎回、当事者の方のふとした言葉に、多くを学ばせていただいています。
 さて、8月6日広島原爆の日、アメリカから来日されている弁護士エヴァン・ウォルフソンさんに福岡においでいただき、お話を聞くことができました。
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 ご承知のように、アメリカでは、2015年に連邦最高裁が、同性婚を認めない複数の州法について、違憲である旨の判決を言い渡し、全米的に同性婚が可能になりました。エヴァンさんはその立役者とされている方です。台風8号の直撃が危ぶまれている中、前日は札幌で講演されていたエヴァンさん、何とか福岡にたどりつき、熱いお話をお聞きすることができました。
 エヴァンさんは、講演の中で、「同性婚」というフレーズはほとんど使いません。「婚姻の自由」は誰もが享有すべきである、ゲイだから、レズビアンだから、トランスジェンダーだからと言って、「婚姻」による利益を得られないことがどんな意味を持つのか、と訴えます。
 アメリカでは、1967年に異人種間の婚姻を禁じた州法を違憲とした判決をはじめ、いくつかの重要な婚姻の自由に関する判決がありますが、エヴァンさんはその中でも、1987年に、囚人(刑務所在監者)の結婚を原則禁止する州法を違憲とした連邦最高裁判決が「婚姻」に認めた価値について、強調しました。婚姻は、カップルの愛と結びつきを公証し、重要な精神的宗教的な側面を有するとともに、現実に生きる人にとって、公的にも私的にも、目に見えるものもそうでないものも、また法的にも経済的にも、実に重要な非常に多くの保護、責任、権利利益の入口であり前提条件となっていて、子育てなどの重要な局面において、家族を形成し統合するという目的や性質をもっている。
 だからこそ、この「婚姻」は、すべての人に間口が開かれるべきである、というのです。
 「婚姻の自由」を勝ち取るために必要な戦略として、エヴァンさんは、(1)目的を明確にすること、(2)戦略を明確にすること、(3)手段を明確にすること、(4)行動のステップを明確にすることだと語りました。そのために重要なことは「対話」だと言います。当事者が自らのストーリー(ものがたり)を語ること、その語りにアライ(支援者)たちが耳を傾けること。たくさんのアライの存在あって初めて、勝ち取ることのできる自由なのだということが、熱くあつく語られました。
 例として紹介されたのが、先頃最高裁判決で同性婚の合法性を勝ち取った台湾での動きです。
 高齢の女性が、自分の娘が同性パートナーを選び、幸せに生活していることを心から喜び、応援していること、自然なつながりとして受け入れている今を嬉しそうに語る姿。
 台湾でできて、どうして日本で、不可能ということがあるでしょうか。
 日本弁護士連合会は、先頃4年ほど前に当事者を中心とした方々が、同性婚を認めないのは違憲だとうったえた人権救済申立に対し、その主張の正当性を認める意見書を発表しました。
 エヴァンさんは、この意見書にも触れ、次に同性婚を可能とするアジアの国は、日本になるのではないか。オリンピックを控えた今だからこそ、かかる取組が必要だと述べて、講演を締めくくりました。

 この講演会には、間もなく九州で提訴する予定の、同性カップルが参加していましたが、講演後、前に出て、気持ちを語ってくれました。

マサヒロさん:福岡市のパートナーシップ宣誓制度は利用していて、それで保険などの優遇が得られたのでそれでいいかと思っていたけれど、事故に遭ったら、不慮の死を遂げたら、法的保護がなにもないと気づかされて、原告に立つ決心をした。幸いなことに、私達は理解のある家族、友人に恵まれているが、日本中に困っている人がたくさんいる。私達が前に出ることで、その人達の困難がいくらかでも解消されるのであればと願っている。

コウスケさん:原告になる予定だとの記者会見の席で、顔を出して語った翌日、仕事に行くのが怖かった。それまで、周りの人には自分のセクシュアリティについて話していなかった。けれど、職場で、ぽんと肩を叩いて、「見たよ、応援しているよ」と声をかけられた。そんな温かい言葉をもらえるとは思っていなかった。これは私にとっては人生の大きな転機となった。私だけではなく他の当事者にも感じて欲しい、感じられる日が来て欲しい。この話はタブーの話ではない、お互い様なのかな、これをきっかけに色んな人が沢山できる世の中になって欲しいと思っている。


 ああ、この原告達と、ともに、明日に向かって進みたい、心からそう思えた一日でした。
 間もなく始まる裁判を、私達は「結婚の自由を全ての人に訴訟 九州」と名付けています。
(久保井)