93588 昨年9月に出版した、小林の著書「小説 医療裁判―ある野球少年の熱中症事件」です。 
 九大ロースクール「医療と法」や、司法修習生向けに医療訴訟の講義をする場合、概ね、前半は最高裁判例を解説して、後半では自分が実際に担当した医療訴訟の話をすることにしています。そういったときに、よく題材にしてきたのが、久保井、安倍とともに担当した、熱中症に関する事件(判例時報1853号、判例タイムズ1182号)でした。過失や因果関係に関する論点が典型的でしたし、熱中症という病気も比較的よく知られていて、説明がしやいからです。
 「患者のための医療法律相談 」という本で一緒に仕事をした法学書院の編集者の方から、「医療過誤についての本を一冊書いてみませんか」という話をいただいたのを受けて、ロースクール生や修習生に話している内容を下敷きにして書いたのがこの本です。はじめての医療相談から、一審判決までを物語風にまとめ、講義でとりあげる最高裁判例にも触れました。医療事故調査、証人尋問の準備、依頼者との接し方といったノウハウ的な部分に加え、私自身のささやかな入院体験(私の虫垂炎〜ブルンベルグ徴候の思い出)や、医療問題への思いも、いくらか書かせてもらいました。
 基本的には、ロースクール生、修習生、若手弁護士を読者に想定した本ではあるのですが、アマゾンにカスタマーレビューに寄せてくれた方の中には、お医者さんらしき方もおられますし、損保会社の医療調査専門職員の方もおられます。法律家、医療関係者はもとより、医療問題に関心のある方に広く読んでいただいて、私たち弁護士がどんなことを考えて医療過誤事件に取り組んでいるのかを知ってほしいというのが著者の願いです。

 参考までに目次を挙げておきます。

 新人弁護士各務一朗、初めての医療事故相談
 各務弁護士、法律相談のピンチヒッターに入る/黒田郁子、次男秀明の死を語る/先輩弁護士河本美佳に相談する/「事件入門」を読む

 過失論=医療水準論の判例研究会に参加する
 医療過誤における過失とは何か〜輸血梅毒事件/臨床医学の実践における医療水準とは〜二つの未熟児網膜症事件/医療慣行と医療水準は一致しない〜ペルカミンS事件

 医療事故調査を開始する
「熱中症」について下調べをする/医療事故調査を受任する/診療記録を検討する/注意義務違反と因果関係/被害者宅は訪ねてみるものだ/金もらってもしかたないんです/河本が医療問題に取り組む理由について/事例検討会に参加する/忘年会でも議論は続く

 因果関係論の判例研究会に参加する
 訴訟上の因果関係の証明は自然科学的証明ではない〜ルンバール事件/不作為の因果関係論〜肝がん見落としに関する平成11年最判/「高度の蓋然性」と「相当程度の可能性」〜最判平成12年9月22日/保護法益を巡る反対意見と補足意見〜最判平成17年12月8日

 事件処理方針を決定する
 N市立病院、金崎医師面談を断る/救命センター芳賀医師から事情を聴く/電車に揺られながら処理方針を議論する/調査結果を報告し、示談交渉を受任する

 各務一朗の入院と手術
 腹痛をこらえて乳房温存療法事件最判を読む/ブルンベルグ徴候を自ら体験する/医療とはいろいろな意味で侮りがたいものである/N市代理人からの回答書を病床で受け取る

 裁判を受任する
 ベテラン弁護士杉下真蔵を弁護団に加える/着地点をどこに定めるか/ライプニッツと新ホフマン/杉下弁護士、黒田夫妻に訴訟の見通しを説明する

 医療過誤訴訟序盤戦~弁論準備手続が進む
 裁判が始まる~第1回弁論/専門委員制度への疑問/被告の主張が明らかになる~被告第1準備書面/弁護士の仕事はある命題を医学的に論証することではありません/法律論と常識論で勝負~原告第1準備書面/医療水準と高度の蓋然性をめぐる応酬/序盤戦の終盤戦~立証計画に関する小競り合い/陳述書の目的は/協力医意見書の功罪/相手方医師を協力医にしてしまうのだ

 尋問特訓から居酒屋談義へ
 医師尋問に向けて特訓を重ねる/医療過誤訴訟における請求認容率の変遷/医療崩壊とは何か/医療安全と刑事責任/医療事故調査制度の行方

 裁判は佳境へ~集中証拠調べ
 医師証人金崎正典尋問/看護師証人鴨志田幸代尋問/原告本人黒田郁子尋問

 医療過誤訴訟終盤戦~鑑定をめぐる攻防
 足して二で割っただけでもない和解勧告/和解決裂、裁判長は転勤の気配/鉄仮面の悲憤慷慨~今日の鑑定事情/全ての鑑定事項に関して曖昧な鑑定書が提出される/鑑定人柿沼昌平尋問

 とりあえずのエピローグ~一審判決