九州合同法律事務所

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九州医事新報連載「医療と法律問題」

医療と法律問題(第21回)〜医療法施行規則改正案にみる「医療事故」の定義

 九州医事新報に連載している「医療と法律問題」第21回です。例によって一月遅れなので、本文の内容は4月15日のエントリー「医療と法律問題(第20回)〜遺族への説明方法について」より古いものです。最新情報はその後に加えておりますのでそれもお読み下さい。

 厚労省は、3月20日付で「医療事故調査制度の施行に係る検討について」を発表しました。2月25日第6回検討会は議論の取りまとめに至ることなく終了しましたが、その後、事務局と座長とで調整した結果、取りまとめに至ったという形になっています。この取りまとめのうち、医療法施行規則の改正部分について、現在、パブリックコメントが募集されています。ただ、委員の間で意見が厳しく対立した部分は、ほぼ通知レベルの問題であり、規則レベルで問題になるのは、いかなる死亡を「予期しなかったもの」として調査の対象にするかという論点くらいだと思われます。
 規則案は、これを以下の三つのどれにも該当しないもの、としました。「管理者が、当該医療の提供前に、医療従事者等により、当該患者等に対して、当該死亡又は死産が予期されていることを説明していたと認めたもの」、「管理者が、当該医療の提供前に、医療従事者等により、当該死亡又は死産が予期されていることを診療録その他の文書等に記録していたと認めたもの」、「管理者が、当該医療の提供に係る医療従事者等からの事情の聴取及び、医療の安全管理のための委員会(当該委員会を開催している場合に限る)からの意見の聴取を行った上で、当該医療の提供前に、当該医療の提供に係る医療従事者等により、当該死亡又は死産が予期されていると認めたもの」。
 ここでいう「説明」や「記録」は、一般的な死亡の可能性についてのものではなく、当該患者個人の臨床経過等を踏まえて、当該死亡が起こりうることについての説明や記録であるという解釈は、通知で示されることが予定されています。

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医療と法律問題(第20回)〜遺族への説明方法について

 九州医事新報に連載している「医療と法律問題」の第20回です。例によって一月遅れの情報になりますが、その後に、現在募集中のパブリックコメントについて触れていますのでぜひお読みください。

 これまで何度かにわたってお伝えしてきた厚労省「医療事故調査制度の施行に係る検討会」の議論は、最終的に合意に至らないまま終了したようです。
 複数の報道によれば、最も紛糾したのは、遺族への説明方法でした。
 厚労省が提出した通知のイメージは、「遺族への説明については、口頭(説明内容をカルテに記載)又は書面(報告書又は説明用の資料)若しくはその双方の適切な方法により行う」、「調査の目的・結果について、遺族が納得する形で説明するよう努めなければならない」というものでした。一方、広尾病院事件の被害者遺族である永井委員からは、事故調査報告書を原則的に被害者・家族に手交して丁寧に説明すべきであるとの意見書が、他方、医法協派の田邊弁護士からは、「真に医療安全を願うのであれば、刑事手続への調査結果の利用などは絶対にあってはならないことであり、被害感情の強い遺族などが調査報告書を捜査機関に提出して告訴等に利用する事態は100%抑止する仕組みがなければ本制度は絶対に成り立たないと心得るべきである」との意見書が提出されています。
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医療と法律問題(第19回)〜調査・報告の対象は?

 九州医事新報に連載している「医療と法律問題」の第19回です。2月20日号に掲載されたものですので、情報としては例によって1月遅れのものになりますが、その後に現在の状況についても書いていますので、最後までお読みいただければ幸いです。
 
 引き続き、「医療事故調査制度の施行に係る検討会」の議論。前回まではどのような事例を報告・調査の対象とするかという問題でしたが、今回は、いったい何を報告・調査するのかという問題です。
 改正された医療法が求めているのは、「その原因を明らかにするために必要な調査」です。この法律の文言からして、調査の対象が、当該医療事故が発生するに至った診療経過のみならず医療事故の原因まで含むことは明らかです。また、いうまでもないことですが、医療事故調査制度は、再発防止を目的とした制度です。それは、この制度が医療法の「医療の安全の確保」の章に位置付けられていることからも明らかです。そのことからするならば、再発防止策まで検討してはじめて医療事故調査として完結するものといえます。
 ところが、一部の委員は、再発防止策を報告書に書くと、当該事故でそのような防止策を講じていなかったことを理由として責任追及される可能性があるとして、再発防止策はこの制度においては検討すべきではないとの考え方を表明しています。
 もちろん、この医療事故調査は責任追及のための調査ではありません。あくまでも再発防止を目的とするものです。しかし、調査の結果として責任追及が行われる可能性を排除することを最優先に考えていると、本来の目的である再発防止もできなくなってしまいます。このような考え方は、今回の医療法改正の趣旨に反するものと言わざるを得ません。
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医療と法律問題(第18回)〜管理に起因する医療事故

 九州医事新報に連載している「医療と法律問題」の第18回です。

 前月号に引き続き、「医療事故調査制度の施行に係る検討会」の議論です。
 報告・調査の対象となる範囲を狭いものに限定しようとする一部の委員たちは、このようなことを主張しています。
 医療事故に係る調査の仕組み等のあり方に関する検討部会の結論「医療事故に係る調査の仕組み等に関する基本的なありかた」で「行った医療又は管理に起因して患者が死亡した事例」となっていたのに、改正医療法が「…提供した医療に起因し」という文言になったのは、「管理に起因する死亡」は除外されたということを意味する。医療事故情報収集等事業に関する厚労省の平成16年の通知は、報告すべきケースを、①医療行為にかかる事例、②医薬品・医療用具の取扱いにかかる事例、③管理上の問題にかかる事例、④犯罪、その他に分類しており、今回の改正医療法で報告・調査の対象となるのは、そのうちの①に限定されたのだ。
 しかし、法律上同じ文言が使われていても、その言葉の意味内容は、立法内容等によって合理的に解釈されなければなりません。同じ文言だから同じ意味だと機械的に言えるようなものではないのです。ましてや、この委員たちが持ち出しているのは、法律ではなく「通知」です。しかも、「医療行為」や「管理」を定義するような性質のものでもありません。例えばこの通知が、「管理」の問題として挙げているものには、「熟練度の低い者が適切な指導なく行った医療行為による事故」という類型があります。これはおそらく平成14年に起こった慈恵医大青戸病院事件のような場合をおいたものでしょう。腹腔鏡下前立腺手術の執刀経験のない医師ばかりでそれをやってしまったというこの事案において、医療機関の管理体制の問題を指摘されるべきことは当然であり、通知がこれを「管理」の例として挙げていることは理解できます。しかし、それと同時に、この事案が、腹腔鏡下前立腺手術という医療に起因する死亡に該当することもまた明らかではないでしょうか。続きを読む

医療と法律問題(第17回)〜予期された「医療事故」とは?

 年明け早々仕事に追われ、新年の挨拶をする暇もなく1月下旬となってしまいましたが、今年もよろしくお願いいたします。

 今年最初のエントリーは、九州医事新報に連載している「医療と法律問題」の第17回です。内容的には、昨年11月15日のエントリー(厚労省「医療事故調査制度の施行に係る検討会」の議論始まる)とほぼ重なっていますが、後書きとして新しい情報も加えていますのでお見逃しなきよう。なお、記事としては昨年12月に掲載されたものなので、「来年」は「今年」と読み替えてくださいね。
 
 11月14日、厚労省の「医療事故調査制度の施行に係る検討会」の初会合が行われました。これは来年10月の医療事故調査制度発足に向けて、報告、調査の対象となる事故の範囲や、調査の方法等についてのガイドライン策定のために設置された諮問機関です。
 しかし、各種報道や傍聴した弁護士からの情報によれば、この検討会での議論は、初回から混迷気味のように思われます。その大きな原因は、私のみるところ、検討会の資料として提出された、「日本医療法人協会医療事故調ガイドライン」と、その内容を主張する一部の委員の存在にあります。
 日本医療法人協会という組織を私はよく知らないのですが、そのガイドラインの主眼は、この事故調査制度を医療提供者の責任追及のための制度にしない、というところにあるようです。おそらく、それに関して、異論のある人はいないでしょう。事故調査制度の目的が原因究明及び再発防止にあることは、法律の条文からも明らかです。しかし、このガイドラインは、責任追及を心配するあまり、報告・調査の対象となる事故の範囲を極めて狭いものに限定しようとします。
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