九州合同法律事務所

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事件報告

アブレーション中の心停止に対する胸骨圧迫の遅れ〜福岡高裁で逆転勝訴

 昨日、福岡高裁で言い渡しを受けた判決のご報告です。担当は久保井、小林。

NHK 福岡NEWSWEB 3月22日 19時41分

 国立病院機構九州医療センターで不整脈の手術を受けたあと寝たきりの状態になった60代の男性が、医療ミスがあったと賠償を求めた裁判で、2審の福岡高等裁判所は病院側の過失を認めおよそ2億円の賠償を命じる判決を言い渡しました。
 福岡県内の60代の男性は10年前、福岡市の「国立病院機構九州医療センター」でカテーテルと呼ばれる医療器具を血管に通して行う不整脈の手術を受けた際、心停止を起こしました。
 このときに発症した低酸素脳症の後遺症で意識が戻らず、寝たきりの状態が続いているということです。
 7年前男性と妻は病院側に賠償を求める訴えを起こしましたが、1審は医療ミスと認めず訴えを退けたため、控訴していました。
 22日の2審の判決で福岡高等裁判所の久保田浩史裁判長は、「担当した医師には胸骨圧迫による心肺蘇生の開始が遅れた過失が認められ、男性に残った意識障害は心停止から胸骨圧迫の開始までの間に脳への血流が停止したことが原因だ」と指摘しました。
 その上で「胸骨圧迫の開始が遅れていなければ脳への血流が維持されていた。過失と意識障害の間には因果関係が認められる」として1審とは逆に男性側の訴えを認め病院側におよそ2億円の賠償を命じる判決を言い渡しました。
 判決について男性の妻は「病院は過失を認めず、誠実さが感じられない。重篤な後遺症が残った理由を説明してほしい。二度とこんなことは起きてほしくないので、再発防止につなげてほしい」と話していました。
 一方、国立病院機構九州医療センターは「今後の対応は判決内容をよく見た上で病院として検討していく」としています。


コスモクロック

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「小さな社会」で闘う難しさ〜和解解決事例から

 いまから約12年前、日本海側の小さな町で起きた医療過誤事件が、つい先日、裁判所の和解で解決しました。

 亡くなった方は当時79歳の男性。
 数年前から肺炎等で入通院を繰り返し、年末年始の一時退院中、自宅で血液混じりの嘔吐をして被告病院に搬送され、そのまま死亡しました。死亡診断書の直接死因は、「出血性ショック及び低酸素血症」、その原因は「消化管出血及び誤嚥」と記載されていました。

 遺族が主張した過失は、入院中に消化管出血を示唆する黒色便がたびたびみられていたにもかかわらず、
 ① 消化管内視鏡による精査を行わなかったこと
 ② 消化管出血の場合は禁忌とされている抗血小板薬プラビックスの投与を継続したこと

 の2点です。
 これに対して病院側は、過失の存否以外に、死亡原因は吐瀉物誤嚥による窒息であって出血は無関係であるとして因果関係を争いました。

 和解金は100万円です。死亡事案としては少額ですが、実は、原告は相続人のうちの1人だけで、法定相続分は6分の1でした。そのことからすれば、過失があることを前提とした金額であるというのが原告側の理解です。
 しかし、この和解で重要なのは、和解金額の多寡ではなく、

 被告は、原告に対し、患者死亡後の当時の病院長の対応に不適切な面があったことを認め、謝罪する。

 との謝罪条項が入っているところです。

 謝罪の対象となった、病院長の不適切な対応とはいったいどういうものであったか。

環境芸術の森


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術後低血糖見逃し事件、双方控訴せず確定

 前回のエントリーで紹介した福岡大学病院の術後低血糖見逃し事件は、双方とも控訴せず、1審判決が確定しました。遅ればせながら、確定を機に事案の詳細を報告いたします。
 例によって、事実関係については当事者間に争いのあるものも含まれていること、その記述に含まれる医学的知見は、私たち弁護士がこの事件を扱う中で収集したものであり、専門的な意味での正確性が担保されているものではないことにご留意下さい。

事案の概要

 Aさんは、市内の産科クリニックで生まれ、出生後すぐに、喉頭の狭窄音と陥没呼吸が見られたために大学病院に緊急搬送されました。大学病院では、嚥下障害、低緊張、驚愕反応等から先天性代謝異常や神経伝達物質の異常を疑って各種検査が行われましたが、原因は特定できませんでした。
 生後8ヶ月目に、嚥下障害及び胃食道逆流症に対して、腹腔鏡下噴門造設術+胃瘻造設術が行われました。
 手術終了直後の午後2時40分に採取された血液は、血糖値14という著明な低血糖を示していましたが、病院スタッフはこの異常に気づかず、低血糖に対して何の処置も行ないませんでいた。
 手術の翌朝午前8時の採血では、血糖値は23であり、スタッフもこの時点で低血糖に気付きました。この時点からブドウ糖の補給が開始され、午前11時の採血では血糖値110にまで回復しました。
 しかし、この午前11時時点の血液生化学検査では、CK値3820という異常高値が示されていました。アイソザイムの結果は、CK-BB29%というちょっと見たことのないような異常を示しています。
 同日午後7時頃、スタッフが採血のためにAさんを観察したところ、自発呼吸がほぼ消失しており、気管内挿管が行われました。午後9時12分に撮影された頭部CTでは、基底核、視床の一部をのぞく脳全体のびまん性の低吸収、脳腫脹によるくも膜下腔の顕著な狭小化が認められ、急性低酸素脳症、急性虚血性変化が示唆される所見とされています。
 その後、Aさんはほぼ脳死状態となり、6年半後に亡くなりました。

せせらぎ
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女児脳損傷で福岡大病院に賠償命令 術後の低血糖見逃す

 ひととせに ふたたびも来ぬ 春なれば いとなく今日は 花をこそみれ (平兼盛)

桜1

 春だというのに、新型コロナウイルスのお蔭で、鬱々とした日々が続きますね。

 この問題に関しては、マスメディアでもネットでも、ほんとうに多種多様な情報が飛び交っています。感染力はどのくらいなのか、致死率はどのくらいなのか、マスクに予防効果はあるのか、学校は再開すべきか、PCR検査の対象は広げるべきか、効果的な薬はあるのか、自粛による経済の打撃はいかほどか……なるほどと膝を打つものから、眉に唾をつけたくなるものまで。
 わたしには、お互いに矛盾するように思える医学的意見のどちらが正しいかを判断する知識はありませんし、この事態においてどのような経済施策をとるべきかについてコメントする立場にもありません。
 しかし、政府による強力な私権制限を求めるような論調が強まっているのは気になります。HIV問題やハンセン病問題に関わってきたわたしには、病気より怖ろしいのは、病気を過度に怖れる人間の心だという感覚が根深くあります。その怖れが権力を動かすこと、あるいは権力がその怖れに便乗することを、わたしは深く怖れます。
 このウイルスと社会との関係は、そう短期間に折り合いがつくものでなさそうです。さまざまな意見はありますが、その点については、おそらくコンセンサスが成立しているのではないでしょうか。であればなおさら、長いつきあいを見据えた冷静な議論が望まれます。

 さて、久しぶりの事件報告です。
 
女児脳損傷で福岡大病院に賠償命令 術後の低血糖見逃す 福岡地裁
2020/3/28 6:00 西日本新聞

 福岡大病院の術後ミスにより生後8カ月だった女児の脳が損傷したとして、両親らが病院側に計約6千万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、福岡地裁は27日、病院の過失と脳損傷との因果関係を認め、計880万円の賠償を命じた。続きを読む

控訴断念〜新しい段階に入ったハンセン病問題

 ハンセン病患者の家族に対する国の責任を認めた6月28日の熊本地裁判決は、国の控訴断念によって確定、本日、内閣総理大臣談話が発表されました。

「苦痛と苦難におわび」ハンセン病家族に首相談話 原告以外にも補償検討
毎日新聞2019年7月12日 11時00分
 政府は12日、ハンセン病元患者の家族への賠償を国に命じた熊本地裁判決の控訴見送りに関し、安倍晋三首相の談話と政府声明を持ち回り閣議で決定した。首相談話は、患者や元患者、家族への「おわび」を明記。確定判決に基づく賠償を速やかに履行し、訴訟への参加、不参加を問わず、家族を対象とした補償制度を早急に検討すると表明した。首相が家族と直接面会する方針も示した。
 首相談話は「かつてとられた施設入所政策の下で、患者・元患者のみならず、家族にも社会で極めて厳しい偏見、差別が存在したことは厳然たる事実」と表明。そのうえで「事実を深刻に受け止め、家族が強いられてきた苦痛と苦難に対し、政府として改めて深く反省し、心からおわび申し上げる」と述べた。今後の対応として「関係省庁が連携・協力し、人権啓発、人権教育などの普及啓発活動の強化に取り組む」とした。【髙橋克哉】


 前回のエントリー「熊本地裁、ハンセン病家族訴訟で国の責任を認める〜より一層のご支援を!」でも触れましたが、今回の判決は、国の作為義務が1996年3月のらい予防法法廃止のみによって果たされたとは言えないとして、2001年末までの作為義務違反を認めたこと、その義務違反の主体として、厚生大臣ないし厚生労働大臣のみならず法務大臣及び文部大臣ないし文部科学大臣の責任を認めたことは、2001年判決と比べても大きく踏み込んだものです。このあたりについては、国は政府声明で異論を表明していますが、なにはともあれ、家族の被害を認めて謝罪の意を表明したこと、未提訴の被害者をも対象者に含めた補償制度の創設及び関係省庁が連携した啓発活動の強化を謳ったこの首相談話を高く評価したいと思います。

厚労省前
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  • 「小さな社会」で闘う難しさ〜和解解決事例から
  • 報告を要する医療事故とは
  • 医療事故報告を条件に和解
  • 医療事故紛争解決事例21〜分娩後蘇生措置の遅れで脳性麻痺
  • 医療事故紛争解決事例20〜分娩監視義務違反による脳性麻痺
  • 医療事故紛争解決事例19〜大動脈解離の見逃し③
  • 医療事故紛争解決事例18〜大動脈解離の見逃し②
  • 感染症法改正問題に対する各団体の意見書をまとめました
  • 患者・感染者を処罰対象とすることに反対します
  • 医療事故紛争解決事例17〜大動脈解離の見逃し①
  • 医療事故紛争解決事例17〜大動脈解離の見逃し①
  • 術後低血糖見逃し事件、双方控訴せず確定
  • 女児脳損傷で福岡大病院に賠償命令 術後の低血糖見逃す
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