九州合同法律事務所

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医療事故の患者側代理人の仕事が中心です。
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医療

「小さな社会」で闘う難しさ〜和解解決事例から

 いまから約12年前、日本海側の小さな町で起きた医療過誤事件が、つい先日、裁判所の和解で解決しました。

 亡くなった方は当時79歳の男性。
 数年前から肺炎等で入通院を繰り返し、年末年始の一時退院中、自宅で血液混じりの嘔吐をして被告病院に搬送され、そのまま死亡しました。死亡診断書の直接死因は、「出血性ショック及び低酸素血症」、その原因は「消化管出血及び誤嚥」と記載されていました。

 遺族が主張した過失は、入院中に消化管出血を示唆する黒色便がたびたびみられていたにもかかわらず、
 ① 消化管内視鏡による精査を行わなかったこと
 ② 消化管出血の場合は禁忌とされている抗血小板薬プラビックスの投与を継続したこと

 の2点です。
 これに対して病院側は、過失の存否以外に、死亡原因は吐瀉物誤嚥による窒息であって出血は無関係であるとして因果関係を争いました。

 和解金は100万円です。死亡事案としては少額ですが、実は、原告は相続人のうちの1人だけで、法定相続分は6分の1でした。そのことからすれば、過失があることを前提とした金額であるというのが原告側の理解です。
 しかし、この和解で重要なのは、和解金額の多寡ではなく、

 被告は、原告に対し、患者死亡後の当時の病院長の対応に不適切な面があったことを認め、謝罪する。

 との謝罪条項が入っているところです。

 謝罪の対象となった、病院長の不適切な対応とはいったいどういうものであったか。

環境芸術の森


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医療事故紛争解決事例21〜分娩後蘇生措置の遅れで脳性麻痺

 気がつけばもう8月ではありませんか。
 なんと、今年に入って初めてのブログ更新です。もっとマメに情報発信すべきですね。大いに反省したいと思います。

 さて、ずいぶん間が空いてしまいましたが、周産期シリーズの第2弾です。

 出生時体重4526gと巨大児で、産声を上げることなく、重度新生児仮死の状態で生まれ、総合病院の新生児集中治療室の医師の応援を求めたものの、重度脳性麻痺が残った、というものです。

 産婦はちょっと肥満気味、これがはじめての妊娠出産。妊娠5週から定期的に相手方の産科医院を受診しました。毎回の超音波検査が行われ、妊娠34週の推定体重は2287g、37週3101g、38週3406g、39週2593g、40週5日で3903gと、かなり大きめです。
 分娩予定日を超過しても胎児の頭が下降せず、分娩が進まないため、40週6日に分娩誘導目的で入院となり、メトロ(子宮口を広げる水風船のようなもの)を挿入、分娩誘発剤(オキシトシン)の点滴投与も開始されましたが、子宮口は2cmまでしか開かず、翌日いったん退院となりました。

納涼船

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医療事故紛争解決事例20〜分娩監視義務違反による脳性麻痺

 2021年も残すところあと2日となりました。みなさまは、どのような年末をお過ごしでしょうか。

 年末年始の間に、これもしなければ、あれもしなければと思いながら、漠然とパソコンを開いて、久しくブログを更新していないことを思いだし、来年こそは、などといつもの先延ばしに陥りそうなところ、いやいや、あと2日ある、今できないことは年が明けてもできはしないと自らに言い聞かせ、前々から予定していた医療事故紛争解決事例の周産期シリーズを書き始めることにしました。

 入院は妊娠38週4日。5年前に同じ病院で長女の出産を経験しています。2年前の妊娠は流産してしまいました。今回も、妊娠がわかってしばらくして、頚管無力症との診断でシロッカー手術(子宮頸管縫縮術)をしています。
 入院当日にシロッカー糸の抜糸をして、翌日午前9時10分からオキシトシン(分娩誘発剤)点滴開始。毎分2.5㎜単位から開始して、以降、30分おきに、5㎜、10㎜、15㎜と増量を重ね、11時10分に20㎜単位まで増やしています。
 午前11時28分自然破水、以降、強い痛みの訴えあり。
 午前11時39分頃から変動一過性徐脈、同56分頃から遅発一過性徐脈。このあたりのCTGの読み方については、かなり争いがありました。
 午後0時15分頃、児心音70に低下。オキシトシン中止。
 午後0時23分頃、子宮口開大度8〜9、児頭位置−3。
 午後0時30分頃、ここではじめて主治医が診察し、急速遂娩を決定。

博多駅前


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医療事故紛争解決事例19〜大動脈解離の見逃し③

 医療過誤紛争の中には、たった1度だけの診察の機会に、ある疾患を見逃したことが死亡に繋がるというパターンのものがあります。その典型的な疾患の一つが大動脈解離であり、前回の大動脈解離の見逃し②で紹介したのがまさにそのようなケースでした。今回も、同様のケースを紹介したいと思います。
 
 Aさんは43歳の男性。奥さんと子ども3人を自宅において、単身赴任中でした。
 デスクワーク中、突然に腰背部痛を発症したAさんは、上司の判断でB病院に救急搬送されました。救急搬送に付き添った後輩の話では、Aさんは顔面蒼白で、脂汗を流し、身の置き所がない様子で、休憩室のソファーに腰掛けたり、横になったりしていたそうです。
 救急報告書によれば、収容時の血圧は167/145という高血圧でした。
 搬入されたB病院で診察したC医師も、Aさんが痛みでじっとしていられない状態であったことを記録しています。ボルタレン座薬を挿肛してもその痛みは治まらず、ペンタジン注射でいくらか痛みが緩和したようですが、それでも、Aさんは相変わらずじっとしていることができず、立ったり座ったりしていたようです。
 C医師は、痛みの原因として尿路結石を疑い、上腹部~骨盤の単純CT検査をオーダーしました。しかし、異常は見られませんでした。C医師は、Aさんに対して、痛みの原因は「急性腰痛症」である旨を告げたうえ、もし痛みが持続、繰り返すようなら、かかりつけの整形外科を受診するようにと勧め、Aさんに、「CTで大動脈解離など腹腔内の異常は認めない」との内容を含む紹介状を交付しました。
 AさんはB病院からタクシーでかかりつけの整形外科に向かい、そこで鎮痛剤ノイトロピンの注射を受けた後に後輩と別れ、社宅に戻りました。
 別れ際、後輩に対して、迷惑をかけたことを詫び、食事代を渡したそうです。

九大の森

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医療事故紛争解決事例18〜大動脈解離の見逃し②

 このシリーズで大動脈解離の見逃し①をアップしたのは、昨年の7月のことでした。ずいぶん間延びしてしまいましたが、それでも、継続は力なりと自分に言い聞かせつつ、②をアップします。
 
 Aさんは30歳の男性。ある日曜日の朝、奥さんの免許更新につきあうため外出の支度を始めたところ、突然の胸痛に襲われました。奥さんは、「立っていられない」と椅子にへたり込んだAさんに驚き、自家用車で近所のB病院に送っていきました。
 B病院で行われたのはまず心電図検査です。急性心筋梗塞が疑われたのでしょう。これは異常なし。それからしばらく待たされた後、単純及び造影CTが撮影され、これも異常なし。
 担当のC医師は、Aさんを胃もたれと診断しました。
 帰宅したAさんは、先に帰っていた奥さんにその旨を説明しました。しかし、Aさんの胸痛は続いています。奥さんは「大丈夫? 別の病院にいかなくてもいいの?」と心配しますが、Aさんは、「今日はもう疲れたよ、CTまで撮って、ちゃんとした先生が診てくれたんだから、何でもないんだろう、寝ていれば治るよ」と答えたそうです。「ただの胃もたれで1万5千円も使っちゃった」とぼやくAさんを、奥さんは「それで安心を買ったと思えばいいよ」と宥めました。

梅

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