九州合同法律事務所

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カルテ開示

主務大臣の勧告、発動なるか? あるカルテ開示請求顛末記

 先日担当した九州・山口医療問題研究会の医療事故相談で、ご親族の死に納得がいかないと訴える相談者に、まずはカルテ開示を請求してみて下さい、その上で、もう一度おいでになりませんか、とお勧めしました。
 カルテ開示を求めることは、患者の権利として確立している、と私たちはいうのですが、カルテの写しを請求できるとこと自体知らない方もいますし、実際請求してみると、断られたり、留保を付されたりすることもしばしばです。カルテが手許にないまま相談を受けても、なかなか問題の核心に触れることはできません。カルテを参照しながら、改めて不審に思っておられることをお聴きすると、それだけで事実関係や問題点が整理され、一定の見通しをつけることができます。
 少なくとも、調査として受任すべき事件かどうかの見分けをつけることが、ある程度可能になります。
 ですから、多くの場合、調査を受任する前に、カルテ開示を求めて、カルテを入手した上で、相談されるようにお勧めしています。
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医療分野に特化した個人情報保護法制定に向けて

 「個人情報保護法違反に対する主務大臣の勧告を求めて」で書いたとおり、現在の個人情報保護法制によるカルテ開示制度には、いくつかの問題が残されています。

 そのうちの一つが、医療機関によって適用される法令が異なることです。民間の医療機関であれば個人情報保護法が適用されますが、独立行政法人国立病院機構(要するに昔の国立病院)の医療機関であれば、独立行政法人の保有する個人情報の保護に関する法律が適用されることになりますし、自治体病院の場合には、各自治体の個人情報保護条例が適用されます。また、個人情報保護法は、保有する個人データが5000以下の小規模事業所には適用されませんので、小規模な医療機関は、個人情報保護法上のカルテ開示義務を免れることになります。
※ だからといってカルテ開示義務がないというわけではありません。後記のように、診療契約などを理由としてカルテ開示義務を認め、開示拒否に対する慰謝料請求を認容した裁判例が複数存在しますので、念のため。
 これらの法制度によって、代理が認められる範囲も異なります。個人情報保護法が委任による代理一般を認めているのに対し、独立行政法人の保有する個人情報の保護に関する法律では、法定代理人しか認めていません。

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個人情報保護法違反に対する主務大臣の勧告を求めて

 先日、医療事故調査を受任し、本人の委任状を付けて相手方の医療機関にカルテ開示を請求したところ、「代理人は親族しか認めていない、患者本人で手続をしてほしい」との返事が返ってきました。
 個人情報保護法29条3項は、
 開示等の求めは、政令で定めるところにより、代理人によってすることができる。
と定めています。ここでいう「政令」とは個人情報保護法施行令のことであり、その8条に以下のような定めがあります。
 法第29条第3項の規定により開示等の求めをすることができる代理人は、次に掲げる代理人とする。
一  未成年者又は成年被後見人の法定代理人
二  開示等の求めをすることにつき本人が委任した代理人

 したがって、この医療機関の対応は、明らかに個人情報保護法に違反しています。しかし、こちらがその旨を丁寧に説明しても、担当者は、「うちの扱いは日本医師会の指針や厚生労働省の定めのとおりであり、なにも問題ない!」と言い張って譲らないのでした。
 確かに、日本医師会の「診療情報の提供に関する指針(第2版)の、「診療記録の開示を求め得る者」の項目は、「患者から代理権を与えられた親族」となっており、委任による代理人の範囲を親族に限定しています。厚生労働省の「診療情報提供等に関する指針」も、「患者本人から代理権を与えられた親族及ひこれに準する者」となっており、一般的な任意代理を認めていません。
 しかし、その医療機関が個人情報保護法の適用される個人情報取扱事業者(事業のための個人情報データベースを構成する個人情報によって特定される個人の数が、過去6ヶ月のどの時点をとっても5000を超えない小規模事業者はこの「個人情報取扱事業者」の範囲から除かれますので、それ以外の事業者ということになります)である以上、法律の規定が優先するはずです。

 電話では埒があかないので、こちらの主張を書面にして郵送しましたが、それでも応じない場合に備えて、個人情報保護法上の「主務大臣の勧告」という救済手段の利用を考えてみることにしました。

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カルテと現実との間

 さて、「私の虫垂炎〜ブルンベルグ徴候の思い出」の続きです。開示されたカルテには、わたしの診療経過はどのように記載されていたか。
 まずは8月13日午前中の外来。
 WBC14200↑という白血球数の表記以外と、A/Pという記号に続く、判読不能なアルファベット。A/PのAはアセスメント(評価)、Pはプラン(治療計画)のはずですが、なんだろう。infectious enterocolitis(感染性腸炎)と読んで読めないことはありません。
 次いで13日20時35分の記載。
 右下腹部痛に限局/BT38.1℃ fever up
 外来カルテはここまでです。
 
 時系列的にいえば、つぎは入院時所見。
腹部イラスト 上半身のイラストに、bowel sound normally audible。臍の右下あたり(つまりマックバーニー圧痛点周囲)に斜線を引いて、tenderness+/defense−/rebound−
「bowel sound normally audible」は、「腸音が正常に聴き取れる」、「tenderness+」は「圧痛あり」です。「defense−」は、この場合、「筋性防御」という所見がないことを意味します。「rebound−」というのは、「rebound tenderness(反跳痛」がないということだと思われます。例の「ブルンベルグ徴候」は「マックバーニー圧痛点に出てくる反跳痛」です。つまり、当直のDrは、ここではブルンベルグ徴候を採れなかったことを率直に記載しています。
 入院カルテ(2号用紙)の冒頭は、Today admission on foot。本日、歩いて入院。つまり、担架で担ぎ込まれたというようなことではなく、自分の足で歩けました、ということが書いてあります。
 ♯1 infectious colitis、診断名は感染性結腸炎。
 その次に、♯2 R/Oという記号に続いて記載されているアルファベットも、容易には判読できませんでした。「R/O」というのは、「鑑別が必要」、つまり、#1の「感染性結腸炎」と確定的に診断するためには、この2番目の病気ではないことを確認する必要がある、といった意味だと思われます。当直医はいったい何を疑ったのか。

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わたしの虫垂炎〜ブルンベルグ徴候の思い出

 小林が開示してもらったカルテ(わたしのカルテ開示経験)は、2002年8月に虫垂炎手術で入院した際のものです。
 腹痛が始まったのは、明日から盆休み、という8月12日の夜でした。経過を詳しく書くと尾籠な部分もありますのでそのあたりは大胆に省略しますが、12日の夜に福岡市立急患センターを受診、13日の午前中に、市内の総合病院を受診しています。診断はいずれも感染性腸炎。抗生剤と整腸剤を処方されました。
 感染性腸炎も、病原体によっては怖い病気ですが、単なる食あたりの場合もありますし、風邪による腹部症状もこれに含まれます。そういう意味ではこれまでに何度も経験した病気であり、このときも、しばらく何も食べずに寝ていればそのうちに治るだろうと思っていました。
 どうやらそういうものではなさそうだ、と気がついたのは、13日の夕方のことです。
 お腹を触ってみると、前夜とは、痛みの様子がちょっと違っています。前夜は、鳩尾からへそのあたりを中心に、腹部全体が痛かった印象でしたが、その時には、へその右下あたりの痛みが強くなっていました。いわゆるマックバーニー圧痛点という部分です。
 しかも、その部分を、右手中指と人差し指で静かに圧した後、パッと指を離すと、その瞬間にヒリリとした痛みを感じるではありませんか。
 医療訴訟の準備書面で何度も何度も書いたことのある「ブルンベルグ徴候」という言葉が頭に浮かびました。

ブルンベルグ徴候=虫垂炎による腹膜炎でマックバーニー圧痛点に出てくる反跳痛(腹壁を静かに圧迫し急に圧迫と解くと強く疼痛を感じる徴候)

 私は妻に、これから入院するのだと宣言し、再び病院に向かいました。既に時間外であり、診察にあたったのは、若い当直医でした。

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