九州合同法律事務所

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医療事故の患者側代理人の仕事が中心です。
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医療事故調査制度

医療事故報告を条件に和解

先週、福岡地裁で和解した事件のご報告です。担当は久保井、小林。

09月02日17時43分

 久留米大学病院3年前、福岡県久留米市にある大学病院で手術を受けた後に死亡した男性の遺族が、「医療ミスがあった」として賠償を求めた裁判で、病院側が和解金の支払いに加え、医療事故として第三者機関に報告するという条件で和解が成立しました。
 遺族側によりますと、こうした条件が盛り込まれるのは異例だということです。
 3年前、久留米大学病院で食道がんの手術を受けた当時64歳の男性が、手術後に急性循環不全で死亡し、男性の遺族は手術後に血圧を上昇させる処置に過失があったとして病院に賠償を求める訴えを起こしました。
 福岡地方裁判所は「過失と死亡との間に因果関係がある」として和解勧告し、病院側が和解金4600万円あまりを支払うことできょう、和解が成立しました。
 遺族側の弁護士によりますと、和解には医療事故調査制度に基づき病院側が医療事故として第三者機関に報告することが盛り込まれていて、こうした条件は異例だということです。
 調査制度は全国の医療事故を分析し再発防止につなげるものですが、報告するかどうかは医療機関の判断に委ねられていて、必要な報告や調査が行われていないという指摘もあります。
 男性の妻は「病院の姿勢や説明の内容に納得できず裁判となりましたが、二度と同じことが起きることがないよう、再発防止にいかされることを強く希望します」とコメントしています。
 和解について、久留米大学病院は「本件を真摯に受け止め、重大なる教訓として体制を強化し、医療の安全確保により一層努めてまいります」とコメントしています。
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間もなく始動する医療事故調査制度を学ぶ講座のご紹介

 安全保障関連法案の審議の行方から目が離せず、メディアやSNSを通して入ってくる情報にどきどきしているここ数週間です。私たちも弁護士会主催のものをはじめ、集団的自衛権容認に反対する立場からデモや街宣に参加しています。先日の街宣では、小林がマイクをとり、このブログでもご紹介しているような集団的自衛権をめぐる問題について話しました。平易な言葉で分かりやすかったと好評だったようです。大変危機的な状況ですが、希望を捨てず、取り組んで行きたいと思います。

 さて、それはさりながら、本日は間もなく開催される医療講座について、ちょっと宣伝をさせていただきます。

 医療法の改正により来月10月より、医療事故調査制度が始動します。
 このブログでも隈本邦彦さんの講演のご報告などお知らせしてきたところですが、10月3日に東京の木下正一郎弁護士をお呼びして、九州・山口医療問題研究会とNPO法人患者の権利オンブズマンの共催による市民大学医療講座として講演会を開催することになりました。
 一般の方は参加費1000円となりますが、貴重な機会ですので、関心のある方はぜひお申込下さい。
 木下弁護士は、東京医療問題弁護団に所属し、私たちと同じく患者側で医療事故事件を担当されています。「医療に安全文化を」をスローガンに掲げて立ちあげた市民運動「医療版事故調推進フォーラム」の事務局を担い、何年間にもわたって、都立広尾病院消毒薬誤点滴事件の遺族永井さんを初めとする医療被害者や共感する市民たちと、定期的に街頭に立ち、医療版事故調を制度化する必要性を訴え、署名を募る活動を続けてきました。今もなお、始動する医療事故調査制度が、被害者や遺族たちが願うような、真に医療の安全に資するものとなるようにと、市民へのアピールのために署名活動を続けておられます。
 医療版事故調問題は、木下弁護士にとってライフワークのひとつといってもよいでしょう。続きを読む

医療と法律問題(第21回)〜医療法施行規則改正案にみる「医療事故」の定義

 九州医事新報に連載している「医療と法律問題」第21回です。例によって一月遅れなので、本文の内容は4月15日のエントリー「医療と法律問題(第20回)〜遺族への説明方法について」より古いものです。最新情報はその後に加えておりますのでそれもお読み下さい。

 厚労省は、3月20日付で「医療事故調査制度の施行に係る検討について」を発表しました。2月25日第6回検討会は議論の取りまとめに至ることなく終了しましたが、その後、事務局と座長とで調整した結果、取りまとめに至ったという形になっています。この取りまとめのうち、医療法施行規則の改正部分について、現在、パブリックコメントが募集されています。ただ、委員の間で意見が厳しく対立した部分は、ほぼ通知レベルの問題であり、規則レベルで問題になるのは、いかなる死亡を「予期しなかったもの」として調査の対象にするかという論点くらいだと思われます。
 規則案は、これを以下の三つのどれにも該当しないもの、としました。「管理者が、当該医療の提供前に、医療従事者等により、当該患者等に対して、当該死亡又は死産が予期されていることを説明していたと認めたもの」、「管理者が、当該医療の提供前に、医療従事者等により、当該死亡又は死産が予期されていることを診療録その他の文書等に記録していたと認めたもの」、「管理者が、当該医療の提供に係る医療従事者等からの事情の聴取及び、医療の安全管理のための委員会(当該委員会を開催している場合に限る)からの意見の聴取を行った上で、当該医療の提供前に、当該医療の提供に係る医療従事者等により、当該死亡又は死産が予期されていると認めたもの」。
 ここでいう「説明」や「記録」は、一般的な死亡の可能性についてのものではなく、当該患者個人の臨床経過等を踏まえて、当該死亡が起こりうることについての説明や記録であるという解釈は、通知で示されることが予定されています。

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医療と法律問題(第20回)〜遺族への説明方法について

 九州医事新報に連載している「医療と法律問題」の第20回です。例によって一月遅れの情報になりますが、その後に、現在募集中のパブリックコメントについて触れていますのでぜひお読みください。

 これまで何度かにわたってお伝えしてきた厚労省「医療事故調査制度の施行に係る検討会」の議論は、最終的に合意に至らないまま終了したようです。
 複数の報道によれば、最も紛糾したのは、遺族への説明方法でした。
 厚労省が提出した通知のイメージは、「遺族への説明については、口頭(説明内容をカルテに記載)又は書面(報告書又は説明用の資料)若しくはその双方の適切な方法により行う」、「調査の目的・結果について、遺族が納得する形で説明するよう努めなければならない」というものでした。一方、広尾病院事件の被害者遺族である永井委員からは、事故調査報告書を原則的に被害者・家族に手交して丁寧に説明すべきであるとの意見書が、他方、医法協派の田邊弁護士からは、「真に医療安全を願うのであれば、刑事手続への調査結果の利用などは絶対にあってはならないことであり、被害感情の強い遺族などが調査報告書を捜査機関に提出して告訴等に利用する事態は100%抑止する仕組みがなければ本制度は絶対に成り立たないと心得るべきである」との意見書が提出されています。
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医療と法律問題(第19回)〜調査・報告の対象は?

 九州医事新報に連載している「医療と法律問題」の第19回です。2月20日号に掲載されたものですので、情報としては例によって1月遅れのものになりますが、その後に現在の状況についても書いていますので、最後までお読みいただければ幸いです。
 
 引き続き、「医療事故調査制度の施行に係る検討会」の議論。前回まではどのような事例を報告・調査の対象とするかという問題でしたが、今回は、いったい何を報告・調査するのかという問題です。
 改正された医療法が求めているのは、「その原因を明らかにするために必要な調査」です。この法律の文言からして、調査の対象が、当該医療事故が発生するに至った診療経過のみならず医療事故の原因まで含むことは明らかです。また、いうまでもないことですが、医療事故調査制度は、再発防止を目的とした制度です。それは、この制度が医療法の「医療の安全の確保」の章に位置付けられていることからも明らかです。そのことからするならば、再発防止策まで検討してはじめて医療事故調査として完結するものといえます。
 ところが、一部の委員は、再発防止策を報告書に書くと、当該事故でそのような防止策を講じていなかったことを理由として責任追及される可能性があるとして、再発防止策はこの制度においては検討すべきではないとの考え方を表明しています。
 もちろん、この医療事故調査は責任追及のための調査ではありません。あくまでも再発防止を目的とするものです。しかし、調査の結果として責任追及が行われる可能性を排除することを最優先に考えていると、本来の目的である再発防止もできなくなってしまいます。このような考え方は、今回の医療法改正の趣旨に反するものと言わざるを得ません。
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