2024/04/11&14 上野の東京文化会館に、東京春祭プッチーニ・シリーズ vol.5 「ラ・ボエーム」(演奏会形式/字幕付)を聴きに行きました。その感想・レビュー。
<目次>
【1】衝動買い
【2】当日の公演の感想・レビュー
【3】曲目と演奏者
※ ※ ※
できれば、1回がD席、1回がE席が希望だったのですが、ドイツ系とイタリア系の発売が同日だったので、「エレクトラ」はE+Dに出来ましたが、「トリスタン」はE席取得できず、D席2枚。 イタリア系は、確か「ボエーム」は、E+Dでとれそうだったのですが、「アイーダ」がE席取れずD席が2枚になりました。「アイーダ」でD席が取れない時、DとEの差が、5000円と大きいため、予算上、この中で、一番あきらめやすい、「ボエーム」は1日はあきらめることにしていたので、泣く泣く?「ボエーム」は1回のみ聴くことにしました。
それでもかなりの贅沢で、この東京・春・音楽祭だけでも10万円以上使っています。
ただ、チケットを取得したのが、たしか11月ごろで、それはボーナスを見込んだ予算で、一応それでおさまりをつけました。
さて、3月になって、「トリスタンとイゾルデ」の初日を聞きに行き、最初の休み時間に、5階から1階のロビーに降りてうろうろしていたのですが、そこで「運よく?(運悪く?)」この東京・春・音楽祭の他公演のチケットの販売があり、丁度、私が求めなかった4月11日の公演に、1枚だけ、E席の販売があるのを見つけてしまいました。
最近の物価高で相変わらず予算は、厳しいのですが、ここでたまたま見つけたのは何かの「運命」ではないか? と変な予感。 でもすぐには買わず、深呼吸をし、まず、日程を調べ、特別な用事がないことを確認。さらに、別の日に買ったのが余っているサイドのチケットと別サイドであることを確認。 ウーム、ピッタリとはまってしまったので、もしこの一呼吸している間に、売れていなければ買ってしまおうと、いい音楽を聴いたあとの休憩ということもあり、気が大きくなってしまい、戻ってみるとまだ残っていたので、ついに「衝動買い」してしまいました。
冷静に考えると、1日はネット配信でもよかったかな?などとも思ったのですが、生で聴く魅力には変えられないだろうとも思い返し、自分に言い聞かせています。
(まだ労働収入があるから何とかなりますが、もうすぐなくなってしまうと思い、国家のお世話になる時には、少ない予算で、いろいろやりくりをしないといけないと思っています。一度膨れ上がった生活は縮小しづらいといいますので、それそろ「縮活」をしないといけないと思っています。)
※ ※ ※
結局、予定では、このボエームも2回通うことになりましたが、正直私はプッチーニは、「トスカ」「三部作」「トゥーランドット」「西部の娘」等少し劇的なものが好きで、「蝶々夫人」「ボエーム」「マノン・レスコー」はそれほどでも、というのが正直なところです。
追加で買った1枚を後悔しないといいけど、などと思いながら会場に向かいました。
4月11日と14日に訪問したのですが、まずは休日の午後14日の桜の様子から。
さすがにもう盛りは過ぎ、人も少なかったのですが、まだある程度は楽しめる状況でした。
葉桜なのかもしれませんが、でもまだ結構見られる感じでした。
ただ、これが最後の週末でしょう。
休日ということもあり、最後の桜を見ながら楽しむ方々も結構いました。
さて、会場の東京文化会館へ戻ります。これは4月14日の13:30頃です。
こちらは、4月11時の18:00過ぎ。
この日は18:30からの公演です。
予定は、1・2幕が18:30から55分、25分の休憩後の3幕は30分。再度20分の休憩があり、4幕も30分。全部で、2時間40分の公演予定。 拍手の後の終演予定は21:20ですが、会場を後にしたのは、21:30頃だったと思います。
4月14日は、14:00開演なので、上記予定を平行移動。終演予定は16:50頃でしたが、やはり17:00頃に会場を後にしたと思います。
両日ともカーテンコールの写真が許可されていました。
4月11日は、5階Rサイド2列目です。
舞台が左手で演じられることが多かったので、これはRサイドが正解でした。
なお、この日は前も左右も人がおらず、かなり空いていました。が、そういう公演に限って当たりなところが、よくあることかもしれません。
4月14日は、逆に5階のLサイドの1列目。Lサイドでも私の位置からは、1・4幕に右に集まる人々が見えましたが、一番最後に、ミミがなくなったことを知ったロドルフォを、マルチェッロがCorragio!(勇気を出せ!)と励ますようなシーンは見えす。4/11に別サイドで見ていてよかったです。
この日は4/11よりは空席は少なかったですが、でも若干空きはあったよう。ちょっと知名度がそれほど高くない歌手と、「お手軽なイタリアオペラ」というのが「マニア」に受けが悪いのかもしれませんが、実にもったいなかったです。
※ ※ ※
前述のように、2024/4/11の初日公演を聞いた第一感想は、「衝動買いしてよかった!」というラッキーなものです。
申し訳ないのですが、個人的にも今回の4公演の中で一番期待値も低く、席の具合からしても、やはり一番空きのある公演日だったと思いますが、ふたを開けてみると、とてもイタリア・オペラチックに歌心にあふれた、素晴らしい公演でした。
かつ、E席、5階のサイド(右サイド)2列目というあまりよくない席だったのですが、左右や前がいないので、ゆっくり鑑賞できたし、1幕・4幕は舞台左サイドが中心で演じられていたので、これもよく見えて、とても満足でした。
<歌手について>
テノールのステファン・ポップとソプラノのセレーネ・ザネッティ以外名前を聞いたことがほぼ無い歌手でしたが、脇に至るまでとても充実した歌手たちであることが、この公演が素晴らしいものだった要因の一つでしょうか? 全員とてもはまっていました。
ロドルフォのステファン・ポップは初めて聞きました。入り口でもらったパンフレットに「パヴァロッティの再来」と書かれていましたが、確かに声の感じがとても似ています。とても開放的で広がる声で、サロン的に軽く、重みの少ないのびやかな声。ちょっと力むところもあったかもしれませんが、その声は5階にもビンビンととてもきれいに響いて伸びる声で本当に聞いていてすがすがしいです。
ミミのセレーネ・ザネッティも、ちょっとしっとりとした清涼なソプラノ。歌い方も安定していてフォルテやピアノがよくコントロールされていて、とても美しい歌、危なげない歌唱に聞こえます。個人的には、ちょっとミミにしては立派すぎるかも....と思うところもあったのですが、それは贅沢な話。非常に見事な歌唱でした。
もう一人のソプラノ、ムゼッタのマリアム・バッティステッリは、エチオピア系のイタリア人とのことですが、とてもピッチの高いよく響く声で、直線的に伸びる声。高音がきれいで強く決まる感じの声です。歌も軽やかながらもパワーがあり、2幕で発する「足が痛い」という時の悲鳴など、本当に絹を裂くような声。ミミのしっとり感のあるソプラノの声と本当に違っていてメリハリのある声の配役です。
マルチェッロのマルコ・カリアは、まずとても共鳴が深く、深くよく響く美声。響きがポップ等と対等に広がります。そして、やはりとてもコントロールされた、ツボを押さえた、ちょっと色気を感じる歌唱です。
そしてやはりもう一人のショナールのリヴュー・ホレンダーは、マルチェッロに比べると少し軽く明るめの声。はっきりした響きの歌唱でしっかり脇を固めていましたが、これもマルチェッロとショナールの役割をきちんと考えられた声の設定だと思います。声質が違い、同じバリトンでも、色男と実務者という区分けがなされていました。
哲学者コッリーネの ボグダン・タロシュは、深い声が素晴らしく、4幕の「外套の歌」も見事でした。声質は、ちょっとイタリアのベルカントよりは、「威圧系」かな?と思って聞いていましたが、名前からするとハンガリー系でしょうか? 力強い響きのバスで魅力的です。
この他、ベノアの畠山 茂も、人を食った感じの歌と表情がとても見事でした。町田イタリア歌劇団で活躍されている安保克則も、第2幕で合唱団のところからの歌唱でしょうか、きっちり響く歌唱でした。
アルチンドロの、イオアン・ホレンダーは、大分ご高齢ですが、パンフレットには、1935年生まれとあるので、御年89歳でしょうか? それで5階まで響く歌は見事です。
1988年ウィーン国立歌劇場の事務総長に任命され、1992 年-2010まで、同総裁となるとあり、その後2005年から、東京春音楽祭のアドバイザーを務めているそうです。
20周年での記念出演だと思いますが、ムゼッタに振り回され、オロオロする老人役はまさにはまり役! こういう遊びごころ大好きです。(ちなみにショナールのリヴュー・ホレンダーとは、親子らしく、最後に二人で手をつないで登場していました)
長くなりました。歌が見事なほかに、ボエームの登場人物の役にもとてもぴったりと合った感じの声の配役で、とても見事な演奏でした。
<演奏について>
指揮のピエール・ジョルジョ・モランディは、昨年の東京春音楽祭で、「トゥーランドット」を振った方で、2015年には新国立劇場で、 「マノン・レスコー」も指揮されています。
昨年も書いていますが、やはりイタリアオペラ(特にプッチーニか?)が実に手慣れていて、オーケストラのまとめ方、鳴らし方、歌のサポートの仕方、強いては観客への拍手の求め方まで、実にてきぱきとまとめ、プッチーニの魅力をたっぷり聞かせてくれました。
このオペラ、私はいつも、第3幕が少し退屈するのですが、今回は、ポップとゼネッティという二人の歌手のおかげもあるのかもしれませんが、音楽が実に美しく鳴り響き、「プッチーニ節」満載で、感情移入して聴かせてもらいました。
それと、第4幕のミミの死の場面。オーケストラ、弦楽器が本当に「かそけき音」を奏で、ミミの呼吸と同期します。そしてその弱い音が完全に止んでしまってからの「間」。体感的にとても長い「間」があって、決定的に死が確定した、という金管の音が入る場面、実に巧みで聴かせてくれます。
指揮に応じつ管弦楽もとても巧みで、非常にすばらしい「劇」を見せてくれました。
第2幕の合唱も大人数で迫力ありましたし、逆に第3幕の合唱は少人数でもとてもしっかりしたもので、いつもながら優れた響きでした。
<演出・舞台について>
表題には、「演奏会形式」とありますが、最近、演奏会形式とセミステージ形式の区分がよくわかりません。今回の「ボエーム」など、(アルチンドロを除き)全員暗譜で、ある意味動きはきちんとついているので、装置がないだけの完全な「歌芝居=オペラ」ではないか、と思います。ロドルフォとミミは何回キスしているかわかりません? (遠目だからしたように見えたのかもしれませんが)
今回は、舞台の中心は、向かって左側。よって、基本Rサイドに座った方の方がお得だったと思います。(すくなくとも5階では)。1幕と4幕では、丸いテーブルを囲むように4つの椅子が舞台左側に置かれています。4幕では、ミミはその中の一つに腰かけ、息を引き取ります。
私は14日にL側に座りましたが、もちろんL側でも、私の位置からは見えましたが、舞台に近いほうに座った方は角度的に見えたでしょうか?
余談ですが、普通のオペラなら、オーケストラピットの奥が舞台なので、5階サイドでももっと広く舞台がみえるのですが、演奏会形式は、ピットの部分が舞台になり、舞台が前に出ています。その意味で、舞台に近いほうは死角が増えるので、次回からは正面席を買うべきか悩みます。
閑話休題、本当にきちんと演技や効果音までついた(1幕最後で、コッリーネが階段を転げ落ちる音が実に写実的)、少なくともセミステージ形式オペラ上演です。特にポップとザネッティ、ロドルフォとミミはとてもオペラに忠実な演技、ポップの、仲間には明るく軽く、しかしミミには、愛情深い表情の演技などはとても素晴らしいです。1幕のアリアの後のミミとロドルフォがおどけながら、愛を確かめる場面、終幕での息を引き取る前のミミのロドルフォに甘える仕草、そしてそれを優しく受け止めるロドルフォなども見事でした。
その他も、ショナールが1幕で意気揚々と登場する場面や、ベノアとのやり取り、ムゼッタの登場と前述アルチンドロのおどおどぶり、3幕でのロドルフォの強がりや、4幕前半のボヘミアン4人のふざけぶりなど、本当にこれは舞台付きオペラよりもオペラ的だったかもしれません。
優れた歌手と優れた指揮・演奏による優れた舞台で、本当に文句なく楽しめました。
いい意味でとても予想外で、「衝動買い」が吉と出て非常にうれしかったです。
一つだけ言えば、その感動的な最後の場面、オーケストラが悲しみを鎮魂に変える余韻を奏で、ロドルフォがすすり泣くところ(実際にポップがっすすり泣きの演技をしていた)で終わるのですが、4/10はその感動をしっかりかみしめる余韻が味わえたのですが、4/14は、ちょっと拍手が速かったかな?というのが率直な感想。もちろん終わってすぐではないのですが、指揮者が棒を下ろしてはいなかった気がします。これは個人的にそう感じただけなのかもしれませんが
※ ※ ※
東京・春・音楽祭のプッチーニシリーズは、今回が5回目らしいですが、実際はまだ「トゥーランドット」「トスカ」とこの「ラ・ボエーム」の3作しか上演されていないと思います。第1回が「三部作」でしたが、コロナで延期になったはず。ぜひ来年は「三部作」か、上演機会の少ない「西部の娘」を上演してほしいです。
指揮:ピエール・ジョルジョ・モランディ
合唱指揮:仲田淳也
児童合唱指揮:長谷川久恵
<キャスト>
ロドルフォ(テノール):ステファン・ポップ
ミミ(ソプラノ):セレーネ・ザネッティ
マルチェッロ(バリトン):マルコ・カリア
ムゼッタ(ソプラノ):マリアム・バッティステッリ
ショナール(バリトン):リヴュー・ホレンダー
コッリーネ(バス): ボグダン・タロシュ
べノア(バス・バリトン):畠山 茂
パルピニョール(テノール):安保克則
アルチンドロ:イオアン・ホレンダー
管弦楽:東京交響楽団
合唱:東京オペラシンガーズ
児童合唱:東京少年少女合唱隊
/他
<目次>
【1】衝動買い
【2】当日の公演の感想・レビュー
【3】曲目と演奏者
※ ※ ※
【1】衝動買い
2024年の東京・春・音楽祭は、4つのオペラ公演と4つの歌曲リサイタルがあり、そのすべてに通わせてもらいました。歌曲リサイタルはお値段が1つなので、チョイスがない(実際は3公演をまとめて買うと早く予約でき、手数料が少し安くなる)のですが、オペラはお値段に差があり、一番安いE席は5階のサイド2列目、次がD席で5階のサイド1列目なので、オペラはそれを狙いました。(D席2回がS/A席と同じぐらいの値段です)できれば、1回がD席、1回がE席が希望だったのですが、ドイツ系とイタリア系の発売が同日だったので、「エレクトラ」はE+Dに出来ましたが、「トリスタン」はE席取得できず、D席2枚。 イタリア系は、確か「ボエーム」は、E+Dでとれそうだったのですが、「アイーダ」がE席取れずD席が2枚になりました。「アイーダ」でD席が取れない時、DとEの差が、5000円と大きいため、予算上、この中で、一番あきらめやすい、「ボエーム」は1日はあきらめることにしていたので、泣く泣く?「ボエーム」は1回のみ聴くことにしました。
それでもかなりの贅沢で、この東京・春・音楽祭だけでも10万円以上使っています。
ただ、チケットを取得したのが、たしか11月ごろで、それはボーナスを見込んだ予算で、一応それでおさまりをつけました。
さて、3月になって、「トリスタンとイゾルデ」の初日を聞きに行き、最初の休み時間に、5階から1階のロビーに降りてうろうろしていたのですが、そこで「運よく?(運悪く?)」この東京・春・音楽祭の他公演のチケットの販売があり、丁度、私が求めなかった4月11日の公演に、1枚だけ、E席の販売があるのを見つけてしまいました。
最近の物価高で相変わらず予算は、厳しいのですが、ここでたまたま見つけたのは何かの「運命」ではないか? と変な予感。 でもすぐには買わず、深呼吸をし、まず、日程を調べ、特別な用事がないことを確認。さらに、別の日に買ったのが余っているサイドのチケットと別サイドであることを確認。 ウーム、ピッタリとはまってしまったので、もしこの一呼吸している間に、売れていなければ買ってしまおうと、いい音楽を聴いたあとの休憩ということもあり、気が大きくなってしまい、戻ってみるとまだ残っていたので、ついに「衝動買い」してしまいました。
冷静に考えると、1日はネット配信でもよかったかな?などとも思ったのですが、生で聴く魅力には変えられないだろうとも思い返し、自分に言い聞かせています。
(まだ労働収入があるから何とかなりますが、もうすぐなくなってしまうと思い、国家のお世話になる時には、少ない予算で、いろいろやりくりをしないといけないと思っています。一度膨れ上がった生活は縮小しづらいといいますので、それそろ「縮活」をしないといけないと思っています。)
※ ※ ※
結局、予定では、このボエームも2回通うことになりましたが、正直私はプッチーニは、「トスカ」「三部作」「トゥーランドット」「西部の娘」等少し劇的なものが好きで、「蝶々夫人」「ボエーム」「マノン・レスコー」はそれほどでも、というのが正直なところです。
追加で買った1枚を後悔しないといいけど、などと思いながら会場に向かいました。
【2】当日の公演の感想・レビュー
4月11日と14日に訪問したのですが、まずは休日の午後14日の桜の様子から。
さすがにもう盛りは過ぎ、人も少なかったのですが、まだある程度は楽しめる状況でした。
葉桜なのかもしれませんが、でもまだ結構見られる感じでした。
ただ、これが最後の週末でしょう。
休日ということもあり、最後の桜を見ながら楽しむ方々も結構いました。
さて、会場の東京文化会館へ戻ります。これは4月14日の13:30頃です。
こちらは、4月11時の18:00過ぎ。
この日は18:30からの公演です。
予定は、1・2幕が18:30から55分、25分の休憩後の3幕は30分。再度20分の休憩があり、4幕も30分。全部で、2時間40分の公演予定。 拍手の後の終演予定は21:20ですが、会場を後にしたのは、21:30頃だったと思います。
4月14日は、14:00開演なので、上記予定を平行移動。終演予定は16:50頃でしたが、やはり17:00頃に会場を後にしたと思います。
両日ともカーテンコールの写真が許可されていました。
4月11日は、5階Rサイド2列目です。
舞台が左手で演じられることが多かったので、これはRサイドが正解でした。
なお、この日は前も左右も人がおらず、かなり空いていました。が、そういう公演に限って当たりなところが、よくあることかもしれません。
4月14日は、逆に5階のLサイドの1列目。Lサイドでも私の位置からは、1・4幕に右に集まる人々が見えましたが、一番最後に、ミミがなくなったことを知ったロドルフォを、マルチェッロがCorragio!(勇気を出せ!)と励ますようなシーンは見えす。4/11に別サイドで見ていてよかったです。
この日は4/11よりは空席は少なかったですが、でも若干空きはあったよう。ちょっと知名度がそれほど高くない歌手と、「お手軽なイタリアオペラ」というのが「マニア」に受けが悪いのかもしれませんが、実にもったいなかったです。
※ ※ ※
前述のように、2024/4/11の初日公演を聞いた第一感想は、「衝動買いしてよかった!」というラッキーなものです。
申し訳ないのですが、個人的にも今回の4公演の中で一番期待値も低く、席の具合からしても、やはり一番空きのある公演日だったと思いますが、ふたを開けてみると、とてもイタリア・オペラチックに歌心にあふれた、素晴らしい公演でした。
かつ、E席、5階のサイド(右サイド)2列目というあまりよくない席だったのですが、左右や前がいないので、ゆっくり鑑賞できたし、1幕・4幕は舞台左サイドが中心で演じられていたので、これもよく見えて、とても満足でした。
<歌手について>
テノールのステファン・ポップとソプラノのセレーネ・ザネッティ以外名前を聞いたことがほぼ無い歌手でしたが、脇に至るまでとても充実した歌手たちであることが、この公演が素晴らしいものだった要因の一つでしょうか? 全員とてもはまっていました。
ロドルフォのステファン・ポップは初めて聞きました。入り口でもらったパンフレットに「パヴァロッティの再来」と書かれていましたが、確かに声の感じがとても似ています。とても開放的で広がる声で、サロン的に軽く、重みの少ないのびやかな声。ちょっと力むところもあったかもしれませんが、その声は5階にもビンビンととてもきれいに響いて伸びる声で本当に聞いていてすがすがしいです。
ミミのセレーネ・ザネッティも、ちょっとしっとりとした清涼なソプラノ。歌い方も安定していてフォルテやピアノがよくコントロールされていて、とても美しい歌、危なげない歌唱に聞こえます。個人的には、ちょっとミミにしては立派すぎるかも....と思うところもあったのですが、それは贅沢な話。非常に見事な歌唱でした。
もう一人のソプラノ、ムゼッタのマリアム・バッティステッリは、エチオピア系のイタリア人とのことですが、とてもピッチの高いよく響く声で、直線的に伸びる声。高音がきれいで強く決まる感じの声です。歌も軽やかながらもパワーがあり、2幕で発する「足が痛い」という時の悲鳴など、本当に絹を裂くような声。ミミのしっとり感のあるソプラノの声と本当に違っていてメリハリのある声の配役です。
マルチェッロのマルコ・カリアは、まずとても共鳴が深く、深くよく響く美声。響きがポップ等と対等に広がります。そして、やはりとてもコントロールされた、ツボを押さえた、ちょっと色気を感じる歌唱です。
そしてやはりもう一人のショナールのリヴュー・ホレンダーは、マルチェッロに比べると少し軽く明るめの声。はっきりした響きの歌唱でしっかり脇を固めていましたが、これもマルチェッロとショナールの役割をきちんと考えられた声の設定だと思います。声質が違い、同じバリトンでも、色男と実務者という区分けがなされていました。
哲学者コッリーネの ボグダン・タロシュは、深い声が素晴らしく、4幕の「外套の歌」も見事でした。声質は、ちょっとイタリアのベルカントよりは、「威圧系」かな?と思って聞いていましたが、名前からするとハンガリー系でしょうか? 力強い響きのバスで魅力的です。
この他、ベノアの畠山 茂も、人を食った感じの歌と表情がとても見事でした。町田イタリア歌劇団で活躍されている安保克則も、第2幕で合唱団のところからの歌唱でしょうか、きっちり響く歌唱でした。
アルチンドロの、イオアン・ホレンダーは、大分ご高齢ですが、パンフレットには、1935年生まれとあるので、御年89歳でしょうか? それで5階まで響く歌は見事です。
1988年ウィーン国立歌劇場の事務総長に任命され、1992 年-2010まで、同総裁となるとあり、その後2005年から、東京春音楽祭のアドバイザーを務めているそうです。
20周年での記念出演だと思いますが、ムゼッタに振り回され、オロオロする老人役はまさにはまり役! こういう遊びごころ大好きです。(ちなみにショナールのリヴュー・ホレンダーとは、親子らしく、最後に二人で手をつないで登場していました)
長くなりました。歌が見事なほかに、ボエームの登場人物の役にもとてもぴったりと合った感じの声の配役で、とても見事な演奏でした。
<演奏について>
指揮のピエール・ジョルジョ・モランディは、昨年の東京春音楽祭で、「トゥーランドット」を振った方で、2015年には新国立劇場で、 「マノン・レスコー」も指揮されています。
昨年も書いていますが、やはりイタリアオペラ(特にプッチーニか?)が実に手慣れていて、オーケストラのまとめ方、鳴らし方、歌のサポートの仕方、強いては観客への拍手の求め方まで、実にてきぱきとまとめ、プッチーニの魅力をたっぷり聞かせてくれました。
このオペラ、私はいつも、第3幕が少し退屈するのですが、今回は、ポップとゼネッティという二人の歌手のおかげもあるのかもしれませんが、音楽が実に美しく鳴り響き、「プッチーニ節」満載で、感情移入して聴かせてもらいました。
それと、第4幕のミミの死の場面。オーケストラ、弦楽器が本当に「かそけき音」を奏で、ミミの呼吸と同期します。そしてその弱い音が完全に止んでしまってからの「間」。体感的にとても長い「間」があって、決定的に死が確定した、という金管の音が入る場面、実に巧みで聴かせてくれます。
指揮に応じつ管弦楽もとても巧みで、非常にすばらしい「劇」を見せてくれました。
第2幕の合唱も大人数で迫力ありましたし、逆に第3幕の合唱は少人数でもとてもしっかりしたもので、いつもながら優れた響きでした。
<演出・舞台について>
表題には、「演奏会形式」とありますが、最近、演奏会形式とセミステージ形式の区分がよくわかりません。今回の「ボエーム」など、(アルチンドロを除き)全員暗譜で、ある意味動きはきちんとついているので、装置がないだけの完全な「歌芝居=オペラ」ではないか、と思います。ロドルフォとミミは何回キスしているかわかりません? (遠目だからしたように見えたのかもしれませんが)
今回は、舞台の中心は、向かって左側。よって、基本Rサイドに座った方の方がお得だったと思います。(すくなくとも5階では)。1幕と4幕では、丸いテーブルを囲むように4つの椅子が舞台左側に置かれています。4幕では、ミミはその中の一つに腰かけ、息を引き取ります。
私は14日にL側に座りましたが、もちろんL側でも、私の位置からは見えましたが、舞台に近いほうに座った方は角度的に見えたでしょうか?
余談ですが、普通のオペラなら、オーケストラピットの奥が舞台なので、5階サイドでももっと広く舞台がみえるのですが、演奏会形式は、ピットの部分が舞台になり、舞台が前に出ています。その意味で、舞台に近いほうは死角が増えるので、次回からは正面席を買うべきか悩みます。
閑話休題、本当にきちんと演技や効果音までついた(1幕最後で、コッリーネが階段を転げ落ちる音が実に写実的)、少なくともセミステージ形式オペラ上演です。特にポップとザネッティ、ロドルフォとミミはとてもオペラに忠実な演技、ポップの、仲間には明るく軽く、しかしミミには、愛情深い表情の演技などはとても素晴らしいです。1幕のアリアの後のミミとロドルフォがおどけながら、愛を確かめる場面、終幕での息を引き取る前のミミのロドルフォに甘える仕草、そしてそれを優しく受け止めるロドルフォなども見事でした。
その他も、ショナールが1幕で意気揚々と登場する場面や、ベノアとのやり取り、ムゼッタの登場と前述アルチンドロのおどおどぶり、3幕でのロドルフォの強がりや、4幕前半のボヘミアン4人のふざけぶりなど、本当にこれは舞台付きオペラよりもオペラ的だったかもしれません。
優れた歌手と優れた指揮・演奏による優れた舞台で、本当に文句なく楽しめました。
いい意味でとても予想外で、「衝動買い」が吉と出て非常にうれしかったです。
一つだけ言えば、その感動的な最後の場面、オーケストラが悲しみを鎮魂に変える余韻を奏で、ロドルフォがすすり泣くところ(実際にポップがっすすり泣きの演技をしていた)で終わるのですが、4/10はその感動をしっかりかみしめる余韻が味わえたのですが、4/14は、ちょっと拍手が速かったかな?というのが率直な感想。もちろん終わってすぐではないのですが、指揮者が棒を下ろしてはいなかった気がします。これは個人的にそう感じただけなのかもしれませんが
※ ※ ※
東京・春・音楽祭のプッチーニシリーズは、今回が5回目らしいですが、実際はまだ「トゥーランドット」「トスカ」とこの「ラ・ボエーム」の3作しか上演されていないと思います。第1回が「三部作」でしたが、コロナで延期になったはず。ぜひ来年は「三部作」か、上演機会の少ない「西部の娘」を上演してほしいです。
【3】曲目と演奏者
<スタッフ>指揮:ピエール・ジョルジョ・モランディ
合唱指揮:仲田淳也
児童合唱指揮:長谷川久恵
<キャスト>
ロドルフォ(テノール):ステファン・ポップ
ミミ(ソプラノ):セレーネ・ザネッティ
マルチェッロ(バリトン):マルコ・カリア
ムゼッタ(ソプラノ):マリアム・バッティステッリ
ショナール(バリトン):リヴュー・ホレンダー
コッリーネ(バス): ボグダン・タロシュ
べノア(バス・バリトン):畠山 茂
パルピニョール(テノール):安保克則
アルチンドロ:イオアン・ホレンダー
管弦楽:東京交響楽団
合唱:東京オペラシンガーズ
児童合唱:東京少年少女合唱隊
/他
いつもコンサートオペラで思うのですが、舞台装置や小道具がないから、話が知らない人はわからないのでは、と思うところと、今回も、歌だけだと、少しぎこちない感じがしたとこがありました。手が寒い、パフ、なんかのところ。
オペラシンガーズも、東京少年少女合唱団もオペラ慣れして、上手でしたね。
アイーダ、エレクトラのコメントお待ちしてます。私はポケット聴いてるので、LUNAさんみたいなコメントかけません。
それにしても、ボエームは、話も曲もオケもよくできたオペラで、アメリカ人が大好きな理由も納得です