October 13, 2009

お誕生日でした。

はっ、ヴィンさんの誕生日だ!
いろいろ間に合わなかった、ごめんよぅ。続きを読む

laboratory1 at 22:03|PermalinkComments(7)TrackBack(0)この記事をクリップ!99:どうでもいいこと 

June 17, 2009

ちびたんセフィちゃんの動物園

 お久しぶりございます。
 リハビリ代わりにちびたんずで参ります。

【かつやくする おともだち】
ちびたん:変身と射的が上手だぞ、好きな動物は小骨が少ないの。
セフィちゃん:魔法と剣術のお稽古中だ、好きな動物はふわふわ系
宝条お父さん:管理職で板挟みで忙しいぞ、好きな動物はケージで飼える子。
ヴィンセント:睡眠学習は効果なし、好きな動物は回避率高い奴。

 神羅製作所科学部門宝条研究室は、忙しいです。
 もっとも、変に暇になると、隙を狙ってよそからぎっしり仕事押し込まれるので、
程良く忙し感を演出するのもプロのテクニックだとどこかの博士が言ってました。
 その博士は、いつ見ても演出で忙しいのか、本気で忙しいのか、さっぱり
見分けがつきません。
 見分けがつかないなら突進あるのみです。
 遠慮してたら残業して泊まり込んでいつまで研究室から出てこないのだから
仕方ありません、正当防衛です。
「おとーさーん」
「一緒に動物園行くー」
 セフィちゃんとちびたんに背中からのしかかられた宝条お父さんは、とっさに
机に肘を突いて堪えます。
 今はデスクワーク、貴重な書類に記載中。
 この書類を今日中に完成させて上に持っていかねば、素敵な機材を買うお金が
沸いてこないのです。
 ああ、でも、可愛い子供達もずいぶん大きくなりました。
 二人分臑かじらせるくらい何でもありませんが、背負うのは無理です、せめて
一人ずつ…
 歯を食いしばってサインを終えると、セフィちゃんが手を伸ばして書類を
受け取ってくれました。
 リレーでちびたんが秘書お姉さんに書類を渡すと、恭しくお姉さんは受領し、
見届けた宝条博士はがっくりと机に突っ伏したのでした。
「…なんだって?」
「動物園だよ」
 ちびたんは背中に貼り付き、セフィちゃんは膝の上に収まります。
 暑苦しいけど背中に二人まとめてくっついていられるよりましです。
「ウサギさわりに行きたーい」
「ムーの赤ちゃんもらいに行くー」
 早く、早く、とせかす子供たちに、博士は黙って奥の扉を指さします。
「うちにはウサギもムーもモルモットもネズミも売るほどいるだろ」
 奥の扉はサンプル飼育室。
 子供たちはじーっと見慣れた扉を見つめます。
 扉の向こうにいるのは、科学のため、未来のために体を張ってもらっている
サンプルたちです。
 ただし、博士が指さした向こうにいるのは、一軍で活躍しているサンプルさん。
 貴重な命を無駄にしないためにも、無菌室で完全管理された彼らは、子供たちの
遊び相手など務める暇はないのです。
 そこは科学部門を遊び場に育った子供たち、骨身に染みてわかってます。
 けど、研究は命を使うものだけではありません。
 一仕事終わって定年退職した内で、感染性の病気や毒を持っていない
サンプルさんは、余生をのんびりと飼育小屋で過ごします。
 そこは子供たちも入り放題触り放題です。
 社内保育園児、遊びに来た社員の子供たちだけではなく、新入社員から幹部社員、
強面の神羅兵も呼び寄せる癒しスポットになっています。
「サンプルさんたちに遊んでもらえ」
「ずーっと混んでて触れないの!」
「大人禁止にしてー」
 宝条お父さんは眉をひそめます。
 サンプル小屋が社員に人気なのは現代社会のストレス問題か、生物が少なく
ペットもあまり飼えないミッドガル市の事情か、深い社会問題を抱えているかも
しれません、そこをえぐる斬新な研究をしてみたいものですが、その前にそんなに
人気では定年退職したサンプルさんたちが疲れてしまいましょう。
 時間制にするか、数グループに分けて交代制にするか、どっちにしろ飼育小屋
スタッフと相談しなければなりません。
 博士が計画をまとめている間、ちびたんとセフィちゃんは科学部門の蔵書
「最新生物図譜」を熱心にめくって覗き込んでいます。
「ブラキオレイドスいるかな」
「アダマンタイマイと戦う?」
「戦うよ、すげーよ」
「かっこいー」
「ミドガルズオルムも入って乱戦ですっ、食らえ、ベータ!」
「アダマンタイマイは 亀の甲羅をつかった!ベータをはねかえした!」
「亀の甲羅じゃベータ跳ね返せないもんね」
 むーっとちびたんがふくれて身構えます。
 セフィちゃんも一歩下がって、最新生物図譜を両手持ちにして、上段に構えます。
 小さめの体をさらに低く構えた姿勢から飛び込んだなら、上段から
振り降ろすのが間に合う前に、セフィちゃんの間合いに潜り込めましょう、
けれど、今日の得物は重い重い生物図譜。
 重量が加われば振り降ろす早さもダメージも数倍増。
 二人は静かににらみ合います。
 重い最新生物図譜に、セフィちゃんの腕が震え始めた瞬間、ちびたんは床を
蹴って飛び出します。
 激突する寸前、ばしばしといい音を立てて、ちびたんとセフィちゃんの頭に
丸めた新聞紙が炸裂します。
 おや、と、見上げる前に、お父さんがセフィちゃんの手から最新生物図譜を
救い出していました。
「本で遊ぶな!」
「だってー」
 がーっと歯をむき出したお父さんは、重い本を片手で持ち、角を子供たちに
向けます。
 ハードカバーの分厚く重い本の角は、恐ろしい鈍器となって子供たちを
睨んでいました。
「角に重量と圧力と速度の全てを集約して叩きつける、また、鋭いが切り口が
不揃いの紙の断面を使って切りつける、小指の角を狙って落とすなど、確かに
武器としても優秀だが、学者は暴力で戦うのではない、知識で勝ち抜くのだ」
 ほー、と、子供たちは感心して拍手拍手。
 あの本の持ちっぷりからして、お父さんも若い頃は広辞苑とか電話帳使って
ばりばり最前線で戦っていたに違いありません。
 お父さんの勇姿の前では、何で睨み合ってたのかなんて、どうでもいいことでした。
「もう喧嘩しないから、動物園いこ」
「お仕事待ってるから」
 きゅー、と、子犬のようにしおらしくなった子供たちに、博士がかなう訳が
ありません。
「今日はもう遅いから、次のお休みにみんなで動物園に行こう。私もちょうど
見学する用事ができたところだ」
「やたーーー」
「ドラゴン触るー」
 ひゃっほぅ、と、子供たちは研究室から廊下へ飛び出していきました。
 やれやれ、お父さんは机に戻ります。
 さて、張り切って飼育小屋改善案をまとめて通常業務を片づけて休みをしっかり
確保しなければなりません。
 ふと、博士は首を傾げます。
 市立動物園に、ブラキオレイドスだのアダマンタイマイはいませんが、奴ら
満足するでしょうか。
 単に生物図譜を見て興奮してただけならいいんですけどね。

 日頃の行いがいいせいで、次のお休みは朝からピーカン。
 ミッドガル市立動物園入園ゲートでは、リュック背負って帽子かぶって水筒
ぶら下げて準備万端のちびたんとセフィちゃん。
 お父さんは行列してまでなんだか勉強中、まだ眠いのに子守を任されて
仏頂面のヴィンセントは防具を確認しています。
「じゃ、注意事項」
「わかりました!」
 ひゃっほぅといいお返事だけして走り出そうとする二人を、すかさず
ヴィンセントは捕まえます。
 むしろ、走る前に襟首を掴んでいました、さすがタークス先読みが早い。
「檻、柵、堀の中には入らないこと、隙間があっても指や顔を突っ込まないこと」
「えー」
「さわれないじゃーん」
 同時のブーイングに、ヴィンセントは顔をしかめます。
「動物園は柵の外から動物を見学するところです、触る所ではありません」
 ぶーぶー騒ぐ子供たちに一つずつチョップを食らわせてから、ヴィンセントは
動物園のパンフレットに戻ります。
「餌をやってはいけません、人間の食べ物で動物がおなか壊します」
 目を真ん丸くした子供たちが叫ぶ前に、両手を使ってそれぞれの口をふさぎます。
 ああ、口をふさげば手足が動くのです、走り回って転げまわって衝撃を伝えたい
彼らの気持ちは十分わかりますが、公共の場でやられるとうるさいのできちっと
押さえ込みます、それが子守の役目です。
「見学中は騒いだり暴れたり走ったりしないように。動物さんがびっくりします」
「踊るのはいいですかっ」
「踊るのも見学が終わってからにしてください」
 驚き疲れた子供たちは、もはや呆然としています。
 けれど慰めるのは説明が終わってからです、このままおとなしく注意事項を
聞いてください、お願いします。
「園内の動植物は捕まえたり手なづけて連れ帰ってはいけません」
 セフィちゃんは、よれよれと太刀代わりに背負っていた採集網を供出します。
 たすきがけにしていた虫かごを回収されても、ちびたんは抵抗しませんでした。
 しょんぼりきゅー、と、見上げる子供たちを見て、さすがにヴィンセントも心が
痛みます。
「オレたち何しにきたの?」
「私が聞きたい。お前達は何を期待して動物園に来たんだ」
 ちびたんとセフィちゃんは頭を寄せて作戦会議します。
 ヴィンセントが最終網を畳んで虫かごと一緒に頭陀袋にしまいこんだ頃、方針が
決定したらしく、元気にセフィちゃんから挙手します。
「ライオンの火の輪くぐり!」
「動物園ではやってません、動物曲芸しているサーカスが来たときまでお預け」
「ミドガルズオルムとガチンコ対決!」
 ちびたんが挙手即発言します。
「グラスランド行けばいくらでも対決してくれるから、動物園ではなし。他の
動物も対決してくれません」
「触って抱きついて連れて帰る!」
「お触りと抱きつきは子供動物園のみ、決められた時間内、指定の動物のみ可能」
 よれよれと子供たちは崩れ落ちます。
 そのほか、走り回るな迷子になるなPHSの電源切るなと御約束をヴィンセントが
説明しても、二人ともアスファルトに突っ伏したまま力なく聞きました。
 何かもうがっかりです、うち帰ってわんこ相手に戦ってた方が楽しそうです。
 さすがにヴィンセントも心配になったのか、しゃがみこんで子供たちの顔を
覗き込みます。
「期待は違ったかもしれないが、がっかりするのは見てからにしたらどうだ」
「見るだけなら写真とビデオでいいしー」
「触って匂いかいで味見したかったのにー」
 味見は駄目、と、ヴィンセントはちびたんを小突きます。
 今頃になって、勉強中だったお父さん、へばってる子供たちに気がつきました。
「私は飼育員さんに話を聞いて、最終的には子供動物園にいるからな。暴れすぎて
澱に収容されて展示されないようにしておくんだぞ」
「ゆーとーせいでおりこーさんで見学してるから平気」
 珍しくテンションの低い子供たちにお父さんは眉をひそめますが、軽く
ヴィンセントが手を振って笑って見せたので、気にしません。
 何、お利口さんに見学してくれるならしめたものです。
 さて、そろそろ入園時間、気合入れて行きますか。

 入園した途端、お父さんは用事があるから、と、行ってしまいました。
 ヴィンセントは萎れてる子供たちを引きずってゲートをくぐります。
 と、お掃除は行き届いているのだけど、でも、やっぱり生き物の匂い。
 ふっと萎びていたちびたんが顔を上げます。
 途端、歓声を上げ、すぐにヴィンセントに口を押さえられますが、その声を
聞き取ったセフィちゃんも瞬間復旧です。
 目の前にはどーんと園内地図、左からは怪鳥の雄叫び、右からは狼の遠吠えです。
 ついでに正面スピーカーからは園内放送、後ろからミッドガル市立第五小学校
遠足のお友達の歓声が聞こえますが、子供たちの耳には入りません。
「ゾウいる??」
「キリンさんは?」
「逃げないで待っててくれるから、順番に見学しよう」
 触れないし闘えないけど、実物は写真とは違いました。
 カメラマンの捕らえたベストショットじゃない、不細工顔をして、なんで
そうなるの、とびっくりする動きをしたりぐったり寝そべってお尻向けていたり。
 その度に絶叫しかけ、転げ回りかける子供たちをヴィンセントは回収して
なだめてから開放してやるのですが、三歩進むと子供たちは新発見に大興奮し
またヴィンセントにつかまるのです。
 やがて、ヴィンセントは立ち止まります。
 丁度子供たちは、ゾウさんの生産したてうんちについて熱く語り合っているところです。
 ああ、ミッドガル市立第五小学校のお友達も同じことについて大興奮中で、
たった二人の引率とは比べ物にならない阿鼻叫喚の最中のようです。
ヴィンセントは引率の先生と全てを理解した目配せを交し合えたのでした。
 さて、ヴィンセントは防具を確認し、子供たちの首根っこを捕まえました。
「聞け」
「うんちすげー」
「どさーって!!」
「次暴れたら二人まとめてグラビガ」
 ヴィンセントは防具を見せ付けます。
 銀の腕輪は自前ですが、鍛えこんだマテリアは神羅兵団からの借り物です。
 ずらりと並んだマテリアは、「じゅうりょく」以外にも「ふうじる」やら
「へんか」やら、穏やかじゃないものがそろってます、全部鍛えこんであります。
「非戦闘区域でマテリア使っちゃいけないんだー」
「非常事態だ、止むを得ない」
「…そんなに暴れてないもん」
「今のところはな。これ以上暴れて動物さんたちを脅かすようなことがあったら
遠慮なく実力行使する、覚悟しておけ」
 ヴィンセントの目は笑ってません。
 このままじゃ、グラビガはもとより、お財布係の機嫌を損ねておやつ買って
もらえません。
 子供たちはいいお返事をしておきます。
 …でも、次にカバのコーナーに行った時には、口開けて欲しくてついうっかり
大騒ぎしてしまい、二人まとめてグラビガ食らって地面に這い蹲ってたのですが。
 でも好奇心の塊小僧のバイタリティはグラビガ食らってよれよれになっても
衰えるどころか、ますます湧き上がり、サイレス、スロウと続けざまに魔法を
繰り出したヴィンセントのほうが疲れて息が上がってしまうのでしたが。

 激戦の果て、休戦したヴィンセントとセフィちゃんは、広場のベンチを確保し、
ぼーっと遠くのサル山を眺めていました。
 あんまりスタミナのないちびたんがまだ元気に檻にへばりついています。
 よれよれのヴィンセントがエーテルを出すと、セフィちゃんが恨めしげに
見上げます。
「エーテルとかポーションおやつにしちゃいけないんだー」
「…大人だからいいの」
「一口ちょうだーい」
 無言で渡すと、セフィちゃん一息で飲み干しやがりました。
 お互い補給済ませたところです、再戦と行きますか、と、ばちばち火花を
散らして二人は睨み合います、が、ちょっと物足りません。
 二人で騒いでるってのに、ちびたんはまだ檻にかぶりつきです。
 ヴィンセントはセフィちゃんを軽くなだめてちびたんを覗き込みます。
 じーっと見守る視線の先は大きなクジャク。
 接客慣れしているのか暇なのか、時々尾羽を広げてディスプレイしてくれます。
 にやーっとちびたんの口元が緩んでいました。
 さーてこんな人ごみの中で翼のディスプレイなんかしてくれても困ります。
 ひょいとヴィンセントはちびたんを回収し、ベンチまで戻ってきました。
 何かマントの中でごそごそやってますが、はみ出さなかったらOKです。
 ああ、でも、なんかあのディスプレイ見てたらヴィンセントまでなんかくらくら
してくるじゃないですか、自分は自在に変身できず、うまく制御も出来ないけれど、
素晴らしい翼だろう、と、見せびらかしたい気持ちも腹の底に渦巻いてるのです。
 きっと、日差しが強くてのぼせてきたからです。
 普段かぎなれない動物の匂いを体いっぱいに浴びたからです。
 エーテルで補給する以外にそろそろクールダウンが必要なんです。
「…アイス食べるか」
「ぼくガリガリ君!!!」
「オレアイスまんじゅう!!」
 売店には、「ご当地限定フレーバー 限定30」だの「こくリッチミルク」だの
素敵なソフトクリームのポップが下がっていますが、子供たちは見向きもしません。
 けど、お気に入りのアイスを驚く速さで食べ終えた子供たちは、のんびり
冷凍みかんをむいているヴィンセントに襲い掛かり、一口ちょうだい攻撃を
繰り返して瞬時に撃破し、同時に回復を済ませます。
 張り切ってサル山へ向かった子供たちを力なく見送ってから、ヴィンセントは
売店でフランクフルトを一本頼みます。
 こぼれるほどケチャップをかけてから、火を吹くほどのマスタードを添えて
一気に頬張り、気合を入れなおします。
 まだ走り回るあの子供たちが動物に迷惑かけないよう子守役を遂行するには
まだまだ寝ているわけには行きません。

 サル山で個体識別できるほど十分楽しんで、爬虫類館でミニアダマンタイマイや
ミニミドガルズオルムやミニブラキオレイドスの勇姿に大喜びして、巨大鳥かごで
綺麗な鳥を見つけては大興奮して、その度にヴィンセントに撃墜されはしたものの、
とりあえずは事故もなく、一通り見学が終わります
 まだお日様は頭の上。
 広場の向こうではミッドガル第五小学校のお友達や他の家族連れがお弁当中です。
 さすがに三人とも疲れ果て、確保したベンチから一歩も動けません。
 一分でも早くお父さんと合流して、お昼ご飯で午後の英気を養いたいのですが、
肝心のお父さんが待ち合わせ時間になってもまだ現れないのです。
 ヴィンセントが何回か電話をしましたが、出る気配がありません。
「…仕事が終わらないんだろうか」
「子供動物園でウサギさん触ってるんだよ、きっと」
 ぐー、と、ちびたんのおなかが鳴ります。
 いや、疲れておなか減って鳴っただけです。
 ウサギさんに反応したんじゃないです、だって、会社でサンプルさんと
遊んでる時にかじってしまったことなんか一度もなかったし。
 でもちょっと獣なちびたんがもし万が一間違えてしまったらいけません。
 先にお弁当広げてしまおうか、と、三人は顔を見合わせます。
 と、ヴィンセントの電話が鳴りました。
「今どこにいる」
「真ん中の広場。早く来ないと三人で泣いて迷子センターに行くぞ」
「動物病院のほうに来てくれ」
「腹減って動けないからその辺の生き物かじるぞ」
 おや、そんな時間だったか、と、電話の向こうで宝条お父さん笑ってます。
 園内地図には出ていない動物病院は、入り口ゲートで聞けばわかりました。
 三人は手をつないでよれよれ歩きます。
 途中、ちびたんがツツジの花をむしって蜜をちーちー吸ってましたが、お疲れ
ヴィンセントは怒りませんでした。
 動物病院は一般公開してませんでしたが、宝条博士に呼ばれたと伝えると中に
入れてもらえました。
 なんだか懐かしいような消毒薬の匂いがします。
 奥の部屋を覗き込むと、獣医さんと話し込んで大盛り上がり中のお父さんが
やっと気がついてくれました。
「腹減った…」
「そこのバケツにリンゴやバナナがあるから少しいただきなさい」
 ぶつ切りのフルーツは、多分どこかの動物さんの昼ごはんです。
 獣医さんは笑って、いろんなペレットを見せてくれました。
 ああもう、お父さんは並べたペレットお茶菓子にしてるらしいです、だから
おなか減らなくてみんなのこと忘れて話し込んでいたんです。
 バナナやげっ歯類用ペレットで頬袋が出来るほど口に詰め込んだちびたんと
セフィちゃんはお父さんを睨みますが、気にしないお父さんはやっと席を立ちます。
「きゃーきゃー言わないで、静かにするんだぞ、赤ちゃん見せてもらうからなー」
 目をぱちくりさせた子供たちに、静かに、と、指を口に当てて見せ、お父さんは
廊下を進みます。
 ああ、大変です。
 一部屋ごとに温かそうな籠の中に赤ちゃんがいます。
 もう大きくなって飼育員さんに甘えてるのもいれば、籠の中でもじもじしてて
まだ犬だか猫だかよくわからないのまで、いろんな動物の赤ちゃんです。
 さすがに部外者なので触らせてもらうのは無理ですが、子供たちはガラスに
貼り付いて夢中で眺めていたのでした。
 ええ、口の中のおやつがなくなっても、何とか騒がずに我慢できましたとも。

 一般客の来ない静かな動物病院の周りでみんなでお弁当を食べ、そのあと
動物病院の先生にゆっくりお話を聞くことが出来ました。
 まだ仕事が終わらないお父さんを放っておいて、子供動物園に向かいますが、
先生のお話を聞いたばかりです、おなかもいっぱいです。
 はしゃぎすぎず興奮しすぎず何より動物山に迷惑をかけず、ウサギさんとも
モルモットさんともヤギさんともヒツジさんともポニーさんとも、たっぷり
遊ぶことが出来たのでした。
 子供動物園の動物さんは、定年退職して余生を過ごしているた科学部門の
サンプルさんとは、どこか風格が違うのです。
 まだ若いこともあるのでしょうが、何より毎日知らない人たちに触りまくられ
世間ずれしているのでしょう。
『お前らが素手で俺たちの首を取れないのは十分承知しているぜ、触るくらい
許してやろう』と言いたげな余裕っぷりに、子供たちのほうが気おされてしまうのでした。

 子供動物園を堪能して、園内をもう一周して堪能し終わる頃には、日も随分
傾いていました。
「…オレここに住む」
 セフィちゃんが呟きます。
「テント張って?」
「ぼく鳥かごの中がいい!」
 止まり木の上で跳ね回ってね、鳥と挨拶してね、おいしいもの食べてね、と、
嬉しそうなちびたんをヴィンセントはなだめます。
 本気だか冗談だかわかりませんが、早めに止めておかないとちびたんは
実行してしまいます。
「ここに住んで、毎朝ゾウさんにご飯あげて、ライオンの髪とかして、そいで、
赤ちゃん触って、そいで、ウサギに埋まって…」
 ぽーっとセフィちゃんは語ります。
「なら、大人になってからここの飼育員さんとして就職しないとな」
「それでね、もっと広くしてミドガルズオルムもブラキオレイドスもドラゴンも
飼ってね、手乗りにするの」
「かっこいー」
「かっこいいよねー」
 夢見る子供たちは、熱く将来の動物園だかモンスターランドだかを語り合います。
 本当に就職する気なら、いろんな誤解を解いておいたほうがいいのですが、
夢を語るくらい好きにさせていいでしょう。
 小脇にこぼれそうなほどの資料、片手にダンボール箱を抱えてお父さんが来ます。
 落っことす前にヴィンセントが資料を受け取ると、お父さんはダンボール箱を
開けて中身を見せてくれました。
 中には白くふわふわのウサギの子が三羽。
 びっくりしたように子供たちを見上げています。
「科学部門に売るほどいるのに?」
 ヴィンセントが首を傾げると、宝条お父さんはにやっと笑います。
「ウサギはな。これは検疫でひっかかって没収されたジャンピングの」
 お父さんが言い終わる前に、生意気ジャンピングたちは覗き込んだ者にそれぞれ
頭突きを食らわします。
 まだ人参は持ってないので大して攻撃力はありませんが、なかなかむかつきます。
「…闘っていい?」
「一応保護したことになってるから、育てて野生に返さないとならん。最近は
間違えたとか何とか言って野生動物やらモンスターをしないに持ち込む不届き者が
増えて困ってるそうだよ、結局飼えずに捨てて、野良にするのだから手に負えん。
今後は検疫と動物園と科学部門で連携して」
 博士が長話している間に、ダンボール箱からジャンピングたちは飛び出し、
慌てて子供たちとヴィンセントが追いかけます。
 一日遊んで疲れ果てたけど、まだ闘争本能だけは有り余っている子供たちは
おおはしゃぎしながらジャンピングを追い掛け回し、ノルマの一羽を捕まえた
ヴィンセントは、もうそこから動かずしゃがみこみます。

 そろそろ、夕暮れ。
 夜行性の動物の声が、ゲートの奥から聞こえます。
 一日楽しかったね、と、語り合いながら、まだ全然懐かないジャンピングの子に
ごつんごつん頭突きを食らいながら、そろそろ帰りましょうかね。

 後日。
 神羅製作所本社ビルの一角を利用し、動物ふれあい広場が開設された。
 これは小動物と触れ合うことでの癒し効果を調べる実験施設で、今後
ボランティア社員の協力を得ながら小動物とのふれあいとストレス解消との
関連性を科学的に実証して行き、今後のマーケティング戦略に応用していく考え。
090527-141055

(嘘です、旭山動物園のモルモットさんの写真です)

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laboratory1 at 18:47|PermalinkComments(6)TrackBack(0)この記事をクリップ!11:おまけコーナー 

May 20, 2009

さぼりすぎ

 ※6/10
 お返事追記しました。


 大変長らくご無沙汰しました。
 あんまりご無沙汰しすぎて、このまま消滅しそうでしたが、がけっぷちで
戻ってまいりました。
 といっても、まだ生存報告のみ。

 さぼっている間、構想を練り上げて新展開、なんて殊勝な真似は
一切しておりません。
 近距離リーズナブル旅行して酒飲んで桜見て山菜堪能して、あとは仕事して
FFってなんだっけな日々を過ごしておりました。
 …ちょっと切り替えしようかとオリジナル書こうとして、まとまらなくて
のた打ち回ったりもしてます、ああ、なんて二次創作は楽なんだ。

 えーと、次の話が出来上がっているわけではないので、次の更新は未定です。
 さぼったのを逆手にとって、キングクリムゾンとっちゃいたいところですが
後で飛ばしたところのフォローするのが面倒なので、多分いつも通りになるんでは
ないか思われます。
 あと、月末に動物園に行く予定なので、ネタを仕込んでちびたんずで遊ぼうかと。

 現在創作意欲の半分を掻っ攫ったオリジナルを、とりあえず書き出しすことで
満足し、二次創作に戻ろうと思ったのですが、ええ、まとまらないったら。
 もう、あんたたちあっちで好き勝手してなさい、また思い出したら書くから!と
一度保留にしてあるのでした。
 …混ざりはしない、だろう、うん。
 FF7のほうも豪快に脱線してるもんね。

 Blogがあったことも意識に上らないくらい、ほったらかしていたのですが、
コメント入れたりメッセージくださる方、ありがとうございます、ごめんなさい。
 書き始めた当初から同じテンションで続けるのは難しくて、ガス欠起こしたり
寄り道したくなったり帰りたくなったり思わぬ発見に夢中になって長居したり。
 けど多分、戻ってきます。
 その時は、仕方ないなあ、と、がしがし苦情を入れてやってください。

 えーと、では、いろいろお返事させていただきます。
 「むるむるちゃんと」のほうにしようかと思ったんですが、めんどくさいよね。

>ちび蝙蝠様
ありがとうございます!まだ見ててくださるかどうか!
豪快にしょげたり落ち込んだりすぐに浮上したりしておりました。
あれですね、一度消えると、どこまで読んでいただいたかわからなくなりますよね。
しおり機能とかあったらいいのにねえ。
もうヴィンセント描いてらっしゃらないのですか。自分がさぼっているのを
棚に上げて、残念です、でも、ありますよね。
憑き物が落ちたというか、意欲がなくなったとか、はっきりした理由もないけど
何にもできなくなってしまう時って。
自分も結構波が激しいほうで、ああ、できない時は頑張っても駄目だからー、と、
豪快にさぼることにしています。
そして、ある日突然ふっと寂しくなって、戻ってくる、と。
きっとその放浪時期に充電したり体力回復したり我に返ったりしているんだと思います。

自分は特に病気したり身辺の変化があったわけじゃないので大丈夫です!
ちび蝙蝠様もどうぞ楽しい日々をお過ごしくださいませ!

>4/16 関西から拍手くれた方
ありがとうございましたー、先生、関西の端はどこまでですか!
神奈川県在住青春18きっぷ愛用者にとっては、関西は届きそうでなかなか
たどり着けない場所です、夏こそ夜行で関が原を越えてやるんだ!
…何の話しているやら。
ありがたいことに、かなり長い時間かけて書き溜めてきたので、短編連作で
量だけは充実していると思われます。
一本が短いので、休憩しながら、そして、あ、これ一回読んだよ、とか、
これ新作なのに展開同じじゃん、と、突っ込みつつ読んでやってくださいまし。
自分の中で、まだ終わっていないので、ペースを取り戻したらまた新作をお届け
出来るはずです、いや、します!
褒められて伸びる子じゃなくて、叩かれて発奮する子なので、気が向いたら
「いつまで待たせるんじゃー」と適宜喝入れてやってくださいませ。

>N様
ありがとうございましたー、一気読みなんてそんな体に悪い!
サイトの一気読みは、しおり挟めないのと、なによりごろ寝読みが出来ないのが
大変です、御疲れ様でございました。
ものすごく好いていただけて、どうしていいかわからず身悶えしております。
ちびたんずは、とことんおばかな小学生として暴れてるので、書くほうも楽しくて
仕方ありません。
大人たちの本編は、未来を変えられない分、多分に自分の趣味で、べったり幸せに
過ごしてもらいました。
大好きだから、許せなかったり、許せないけど好きなことは否定できなかったり。
酸いも甘いもかみ分けて、いい腐れ縁になるよう、書いていきたいと思います。

仕事以外では座敷犬以上に甘えんぼのヴィンセントです、男に興味ないはずの
博士がついうっかり可愛くてめろめろになってしまうような甘えんぼ振りを
これからも書けたら、それで喜んでいただければ幸いです!

>ryu様
ありがとうございましたー、戻ってくるといったものの、豪快にほったらかしておりました。
次が書けるのがいつかは未定ですが、気がついたら見てやってくださいませ。
私自身は…体積は大きいのですが容量は仰るほどないです、多分1MBくらい(こら)
醜さも残酷さも優しさも美しさも、それぞれが特別なものじゃなく、誰でも
持ち合わせているものだと思います、そして、両方併せ持ってることを知ることで、
親しみがわくのです、ほらほら、不良少年が席譲ってくれて感動したとか!
外国の超美人知性派女優が片言の日本語喋って可愛いとか(ちょっと違う)
で、完成された文章じゃないです、やっぱり。
もともとの世界観を読んでくださる方が知っているので、想像で補ってくださって
結果的に気持ちよく読んでいただけたんじゃないかなーと、思います。
って、そんなんじゃないよ、本当にいい文章だよ、なんて褒めちゃいけません。
褒められて浮かれてどこか飛んでいっていなくなってしまいます。

私こそ元気をいただきました、まだまだ吸い尽くさせていただきます。
たっぷり増幅してそのうち利息つけて返却できるよう、努力してまいります!

>携帯用メールフォームから4/5に連絡くれた方
ありがとうございます、元気です、心身ともに問題ありません!
復帰宣言したらすぐ書こうと思ってたのですが、休みの都合が取れなかったり
あんまり花粉を意識せずに過ごせたのでアウトドアで気持ちよかったり、近距離
旅行に励んでいたり、相変わらずノートパソコンのタッチパッドと相性が悪く
闘っていたり、新規導入のポメラ可愛がっていたり、動画サイトに入り浸っていたりと
至極健全に過ごしておりました。
遊びほうけていて近況報告もせずにいて申し訳ありませんでした!

三日坊主体質で、さぼっては休んでたまに作業して、さぼっては寂しくなって、と
点滅を繰り返しているのですが、今回はさすがにさぼりすぎました。
ええもう、このままBlogなしで生きていける体質に戻ってしまってました。
依存しているのも困ったものですが、完全に絶ってしまうのも寂しいものです。
これから気を取り直して復旧しますので、新作でも出来たら、適宜突っ込んでやってくださいませ。

>携帯用フォームメールから5/20に連絡くれた方
ありがとうございます、すみませんお待たせしまして!
最初の頃は、本当にへばっていたり迷っていたりで身動き取れなかったのですが、
しばらくさぼることでそんな悩みはとっくに忘れ、むしろ書かない生活リズムに
慣れきってしまい、気持ちよく春を過ごしておりました。
…休養して気分転換、旅行して気分転換って、駄目です。少なくとも私にとっては。
休養したら休養することに全力を尽くし、旅行したら当然遊びほうけてしまい、
気分はきっちり転換しますが元の場所に戻ってこねえ!
Blogでしか生存確認できないのに、ご心配おかけして申し訳ありませんでした。
心身ともに普通に元気です。
はっ、一回腰が痛くて病院に行きましたよ。
朝目が覚めると、寝返りごろごろ打たないと起き上がれなかったんです。
なんだこりゃ、と、病院に行ったら、腰痛体操でもしとけば?で終わってしまい
つまんないよぅとふくれてるうちに、腰が痛かったことも忘れてるくらいの症状でしたが。
後は元気です、あなた様もどうぞ体調気をつけて!

>携帯用拍手から4/8にコメント入れてくれた方
ありがとうございました、まだ待ってていただけるでしょうか!
すっかり開店休業で、店番すらしておりませんでしたが、私自身は元気です。
書けなくて落ち込んでいるときは、本当に書けないんじゃなくて、書いてるものが
あっているのか方向を見失っているのか誰が喜ぶのかと自問自答してる時期。
前回そこでさぼらせていただいて、その後春先だ青春18きっぷで旅行だ山菜だと
たっぷりと浮かれ、さぼりついでにオリジナル書きたいなーと脱線して行き詰まり
そろそろ一年使ってるけど新しいパソコンと仲良くなりきれないよぅと機械のせいにし、
それはともかく少し肩の荷降ろしてゆっくり休むことにしたら、こんな時期になってしまいました!
とりあえず元気です。まだインフルエンザももらってないようです。
そろそろ自作を読み返し、何を書きたかったのかどっちに行きたかったのか
思い出して戻ってまいりますので、気がついたらまた見てやってくださいね。

>携帯用拍手から5/8にコメント入れてくれた方
ありがとうございましたー、コメントからすると初めて来てくださったのに
放置で申し訳ありませんでした。
圧倒的な文章力ってのが照れます。事実無根です。撤回してくださいお願いします。
なんだろう…美文ではないと思うのですよ、間違いなく。文法的、論理的にも
いろいろ変です、機械翻訳して再翻訳したら、すごいことになってましたが、まあ
これは外国語との文法が違うからどうでもいいのです。
頭の中から勢いで書き殴ってそのまままとめてしまうので、勢いだけは
新鮮なままお届けできるのでしょうか。産地直送泥付き大根みたいな!
元々がエロカワイイヴィンたんです、読んでくださる方の中で、ヴィンたんの魅力が
不動であれば、私がちょっと位崩して書いても大丈夫!、と根拠のない自信を
しっかり抱えていろいろ楽しく書いてきました。
また番外なんか書きながら、末永く続けていきたいなと思っております。
…当初の目標が、「男子諸君が違和感なく読める文章」だったのは内緒。


>ちび蝙蝠様
ありがとうございましたー、知る人ぞ知る開いてるのかどうだか行ってみないと
わからない店ですみません、今後とも謎の店でだらだら続いていきます!
どこまで読んだかわからない問題は難しいですよねえ、私もいろいろいろいろ
どこまで読んだかわからなくなって、ああもういいやと購読自体辞めてしまう
ところがありました、後、更新早い追いかけきれなくなって挫折するとか。
 オンラインでもオフラインでも、簡単なしおり機能ってないですかねえ…

 追いかけて追いつけなくて描けなくなっている過程、興味深く拝見しました。
 ちび蝙蝠さんはハンターだ…山の猟師だけじゃなくて海でも漁師、獲物を
追い求める努力を厭わず、むしろ追い求める過程を好んでさまよう旅人に違いない、
と、勝手に決め付けてわくわくしています。
 たまにはオアシスに立ち寄ってゆっくりして、獲物以外の素敵なものに
見とれながら、ついでに真の獲物情報をゲットしてまた立ち上がってください!
 私はハンターよりも鉱夫かな、井戸掘りかな。
 そこにあると見当がついているものをじわじわ探して行くのが好きです。
 掘り間違えると土砂崩れして岩盤崩落して埋まったりしております。

 L1ワールドは…楽しんでいただけるほど構築できているでしょうか。
 壁新聞くらいには頑張れてるかなあ…精力的な壁新聞にはかなわないので、
壁の落書きくらいにしておきましょう(そのうちペンキで消されてしまう!!)

 話につける色って、普段考えないのでイメージしていただけるとおおおおお、

びっくりして燃えます。
 ほんとに文字だけの情報しか提供しないので、いつもイメージはモノクロ、
たまに一色だけ塗りたくるけど、フルカラーなんて広告かお祭りだけ、な、夢の
ような週刊誌のような地味状態で普段営業しているので。
 どうぞいつでも好きなだけ色つけてやってください、そうだったのか、と、
初めて気がついて喜びます!

 墨汁なんて、しばらく嗅いでないなあ…
(そこで試してみて、床にひっくり返すL1でした)

>此方様
ありがとうございましたー、お互い生存していて何よりであります。
古来より、草葉の陰とか電信柱の陰は、よい見守り場所として存在し続けています。
私も草葉の陰で匍匐前進しながら偵察をしていることが多々あります。
ついつい手を貸したくなる見守りですが、どうぞ偉大なる愛情を持って自立に任せて
やってください。
手を貸してー、と、泣いて頼んだ時だけ助けに来るよ、と、0円のスマイルだけ
提供してやってください。スマイルがあるのだとわかっているだけで大丈夫!
すっかり旅癖がついてしまい(シフトの関係で無駄に連続休みが増えた)、ほんとに
貧乏旅行ばっかりしていて文章書くのを忘れてしまっていますが、…摂取した
アルコールとカロリーと駄目写真以外にも少しは何か掴んでいると思われますので
仕方ない放蕩娘だなあ、と、苦笑していてくださいませ。
(はっ、旅に出た放蕩娘を待っていてくださるのなら、お土産を買って帰らねば!)
ちゃんと帰ってきますので、はー、仕方ないなあ、と、見放して置いてくださいませ!

>記事下の拍手でコメントくれた方へ
ありがとうございました、ただいま、と帰ってきてごろごろしているL1であります。
ぃよし、次の休みで復旧しよう、短編でリハビリしてからあそこ書いて、と、
休み前に計画していながら、夜更かししてしまい、起きてからエンジンかかるまでに
昼過ぎてしまうという、だめな生活をしておりました。
…時間の使い方が下手というより、日々のリズムを崩すことで開放感を
味わっているようです。(どっちでも結果は同じ)
ゆるゆる遊んで、ある日突然寂しくなって書き始めて、サボりすぎて更に筆力が
落ちているのに気がついてのた打ち回って、でも、リハビリに書かなきゃ
いけないんだー、需要がなくてもいい、書きたいから書くんだ、と、再起するまで
もうちょっと知らん顔してやっててくださいませ。
いや、そこまで落ち込んでいるわけじゃないので、放っておいて大丈夫!
食いついてもらえるようなすっごい釣り針用意してますが、その前にこそっと
「なかよしザリガニつりキット」とか「金魚すくいのぽい」で様子見たりするかも
しれません、その時はこっそり笑っておいてくださいませ。



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March 05, 2009

恥ずかしながら戻ってまいりました

まだ新作書いてないけど、下げてた文書だけ復旧します。
…どこも直してないし(こら)

復旧しても無理にコメントつけていただかなくて大丈夫です、今回たくさんいただいた分で一年は問題なく生きていけます!
で、たまにつっこみ入れたくなったときにでも、声かけてやってください。
 すっごい喜びます。
「何の気なく読み始めたら一晩かかかったぞ金返せ」
「ご指導ご鞭撻で検索したら訳わからないサイトに来ちゃったぞ、訴えるぞ」
(↑…いや本気ですいません、後雑誌の縛り方とか定年退職とか休職とか…検索ロボット以外でたどり着いちゃってる方ごめんしてください)
「ここまで読んだ」
「宝条嫌い(以下熱く自説)」
「最近ね、子育てに自信がないんですよ、高校生になったら話もしてくれなくて」
「今日のランチでーす。写真貼り付けるとこないの?」
「おぃーっす!」
 ほかに書くところがなくて困ってることなんかあったら、コメントにしてもらえればうれしいです。
 批評や批判は「よし来い、正座してお茶出して待ってるぜ」なので、問題ありません。
 言いたいことがあるんだけど、感情的になってしまったり、整理しきれず誹謗中傷になってしまうかもしれないと心配になっても、気にしない気にしない。
 がっちり受け止める準備がございます。
 なんで…なんでヴィンセントは美人なんだろう、から、景気低迷の打開方法、果ては宇宙の真理まで、解明はできないけどおつきあいいたします!

 …何書いてるんだかわからなくなってきました。
 あれですね、フラワーロック。←再度登場した奴は、光ります(笑)。
(ちょっと違うけど音で光るルービックキューブがちょっとほしいかも)
 外部刺激がないと動いていられないの。
 いじりすぎるとハッスルしすぎて壊れちゃうんですけどね。

 今回は本当に申し訳ありませんでした。
 もう少し潜伏して根性たたき直してから全復旧する予定ですが、コンテンツを必要としていただけるようなので、まずそこから戻しておきます。
 公開し直してから少し動きがあるかもしれませんので、読みかけの話の名前だけ覚えて置いてくださいませ。

 …目次どうしようかなー


ということで、ほんとにお恥ずかしい限りなのですが、一週間も引きこもっていられず戻ってきてしまいました。
本当に本当にごめんなさいなのですが、二度としませんとは公約できません。
(…新管理画面だとまとめて下書きにできるんだわ、手間暇から考えたら、非公開にするのが前より200倍楽になっちゃった)
ですがしかし、「あー、またかい、仕方ないなあ」と笑ってるうちに知らん顔して戻ってくるので、心配なんかしたらもったいないです。
…また来年の春先あたりにぐずぐずやってたら、笑ってください。自分でも忘れないようスケジュール帳に入れときますわ。

ちょっと今月前半休みが少ないのと、休みがあれば電車乗りたい青春18きっぷ期間なので(4/10まで)、新作さっさと書かないかもしれませんが、ガス抜きして休ませていただいたおかげで、体力モチベーションヴィンセント欲その他元気に満タンですので、もう大丈夫であります、むしろ落ち込み期間が恥ずかしくていたたまれない状態であります。
その、なんだ、「復旧おめでとう」とか「頑張れ」とか「今休止期間に気づいたよ励ましに来たよ」あたりは勘弁してやってください。
こー、久しぶりに登校したクラスメートに対して、休んでた期間には触れずに何事もなかったように構ってやるような生暖かさでよろしくしてやってください。
(そこで、敢えていじってやるのもまた勇者ですな)



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February 24, 2009

しばらく休みます

さくさく続きを書きたいのだけど、気力切れみたいです。
自分の楽しみのためだけに書いたものを公開して、たまたま通りかかった誰かが
喜んでくれればそれでいい、と、自分に発破かけてきたのですが、ちょっと限界。

寂しくなって戻ってくるか、書けた書けたと喜んで投稿できるようになるまで、
しばらく休みます。

追記
浮上するまで愚痴書いてるかもしれません。
脊髄反射は旅日記になっちゃったから別のところに。
他人の愚痴マニア以外は見なくていいです。
むるむるちゃんと



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February 18, 2009

星の声 大地の歌

 こんばんはございます、生キル力参ります。
 今日は流れ的にはあってるのですがしかし宝条もヴィンさんもルクレツィアも
赤ちゃんも欠席です。
 だったら誰がいるのかというと、いるんだなあ。

注意:今日はこのBlogでは徹底的に悪役のガスト=ファレミスオンリーです。
彼のお嫁さんのトンデモ解釈があります。

 寂れた田舎町にしては案外にぎやかな酒場。
 地元の馴染み客は、賑やかに酒を飲み交わし、笑って怒鳴って周囲にくだをまく。
 喧噪に辟易したガストは、カウンターに頬杖をつき、埃をかぶった棚の酒瓶を
眺めていた。
 席に着いてから何度目かに確かめた手帳には、確かにこの酒場の名前。
 手帳には、この店の他にも、棒線で消された多数の名前が並ぶ。
 神羅での研究の傍ら、ガストは暇を見つけて、あるいは無理矢理ひねりだしては
フィールドワークに励んでいた。
 天才と称されるガストは、多数の分野で揺るぎない実績を残していたが、
彼自身にとってのライフワークは古代種の研究。
 他の実績など、副産物にすぎない。
 古代種を追い求めて文献を漁り、発掘調査に熱中してきたが、黴びた記憶を
たどるだけでは成果が出ないことが、最近になってわかってきた。
 発掘調査の末に得たジェノバを利用し、最新の科学を使って得たサンプルは…
 ガストは大きく頭を振る。
 あれから何らかの成果を見いだせるとしたら、5年、10年先だ。
 あれは、プロジェクトの勢いが生み出したサンプルであり、ガストとは
関わりない、はず。
 気の抜けた炭酸水をなめながら、ガストは酔っぱらい連中を眺める。
 最近、会社には行っていない。
 ジェノバプロジェクトを立ち上げ、多くの企業の協賛を得て大事業が
立ち上がった後は、プロジェクト自体が勝手に進んでいき、多くのスタッフが
動き出し、ガスト自身はイベントの挨拶要員くらいしかする事がなくなっていた。
 時々、ジェノバ細胞を使って生み出したサンプルを見ることがある。
 飲んで出して転がっては泣きわめくそれは、ただの赤ん坊で、古代種の知恵の
片鱗も感じさせない。
 古代種として育てたい、と、ガストは心から願っていたのだが、さて保育士に、
具体的な古代種の子育て方法を聞かれたところで、答えられなかった。
 だいたい、彼らについての文献も資料も遺跡もはっきり出てこないのに、
赤ん坊の育て方まで誰がわかるというのだ。
 いらいらしながらガストは炭酸水をあおる。
 別に酒を飲みたくて酒場にきたのではない。
 おとぎ話を聞ける酒場がある、と、フィールドワークの聞き取り中に
教えられたのだ。
 吟遊詩人なんて懐かしい存在は、もう古典芸能として舞台で芸を披露するように
なってしまったけれど、場末の酒場に行けば、弾き語りで珍しい話を聞かせる
ような連中がいるよ、学者さんや作家さんが面白がるような話でもないだろうけど。
 物憂げに語っていたのは、旅芝居の女芸人だったか。
 光の加減で緑に見える、淡い茶色の目をしていたっけ。
 ガストは、もう一度店内を見渡す。
 静かに飲んでる客、自宅の居間のようにくつろいでいる客、大声で誰にも
言えない内緒話をしあっている客。
 酒と食べ物とタバコの匂いが充満して、目眩がした。
 ガストは手帳を広げ、この店の名前に線を引く。
 こんな空気の悪い場所で、何か得られるはずはない。
 得られたとしても何の価値がある物か。
 立ち上がろうとしたときに、弦楽器の音がした。
 ガストは音の方向に振り返る。
 すぐ横に、ギターを抱えた女が一人。
 目が合うとにこっと笑い、ガストの袖を引く。
「素面みたいだね、旦那。お酒は苦手?」
 酒場女と話す義理はない。
 ガストは無視して行こうとするが、女の腕が絡みついていて、逃れられなかった。
「歌うなら、伴奏するよ。歌わないなら、適当に弾いてあげる」
「用はありません、離してください」
 喧噪の中、ほとんど耳に入らなかったが、かすかにギターの音は聞こえていた。
 レコードやラジオではなく、この女が弾いていたようだ。
 ランプの明かりで、きらきら光る目は、作り物のように緑に澄んでいた。
「じゃあ、一曲おごってあげる。元気ないから」
「結構です」
「そんなこと言わないの」
 図々しい、と、突き放す前に、柔らかい女の腕はガストから剥がれる。
 細い指の、わずかに染めた爪がたどたどしくギターの弦を弾く。
 聴いたことがない旋律に、やっぱあまりうまいとはいえない歌が乗るが、その
言葉はどこの地方の訛なのか、ガストにはさっぱり聞き取れない。
 迷惑だ、と押し退けることもできず、ガストは下手なのかどうかよくわからない
歌を、ただじっと聞いていた。
 やがて、女は手を止めて顔を上げる。
「元気、出た?」
「君の歌が、あまりに調子外れで目が覚めたところです」
「ご挨拶ね。目が覚めたんだから、一杯おごってね」
 何で、と、言い返す間もなく、女はミルクセーキを頼んでいた。
「もう一曲いかが?」
「私は、聞いていませんから、好きなようになさればよろしい」
「顔色悪いし、だるそうだから心配してあげてるのに」
 心配が、何で歌の押し売りにつながるのかとガストが女に向き直ると、にこっと
笑ってみせる。
「空気悪いから、雰囲気に酔ってるんだね。そんなときには治療の歌!」
 いらない、と止める前に、女はギターを爪弾く。
 やっぱり調子外れで、聞き取れない歌詞。
 けれど、今度はガストは息もせずに聞き入っていた。
 ギターのネックには、大きなガラス玉がいくつも埋め込まれ、ランプの明かりに
輝く。
 いや、ガラス玉ではない。
 いびつでひびが入ってはいるが、間違いなくマテリアだ。
 女のため息のような歌声は、よく聞けば文献の中に出てくる古代種の使っていた
言葉のかけら。
「その歌、どこで」
「お、元気出てきたね。マスターがね、お客さん元気なくて死にそうな顔してる
から、景気つけてやってくれ、って心配してたよ」
 カウンターの向こうのマスターが苦笑いしてみせる。
 けれど、ガストは女を睨むように見つめていた。
「さてっ、元気よく飲んでいってね、お客さん。ここは料理もおいしいよ」
 ガストは、立ち上がりかけた女の腕をつかむ。
「なーに、まだ歌ってほしいの?」
「どこで、その歌を」
「母さんから習ったんだったかなあ。ずっと昔から、歌ってる」
「歌は、この酒場でだけ、歌うのですか」
「ううん、立ち寄ったところで歌わせてもらえれば、どこででも。回復の歌、
治療の歌だけじゃないよ、流行の歌でも懐メロでも任せてちょうだい」
 詰め寄ろうとしたガストに、女は一歩後ずさる。
「向こうで歌ってくるから。十分聞いてってね」
 つるっとすり抜けた女を、ガストは瞬きもせず見送っていた。
 酔客の歓声と拍手の中、女はやや下品な流行歌を歌い、酔客のだみ声にあわせて
ギターを爪弾き、一昔前の流行歌を歌った。
 さっき、ガストに聞かせた、調子外れの、知らない言葉のおかしな歌は、
なかった。
 一区切り歌い終えると、女はつぶれて眠っている酔客の耳元に、何か囁いて回る。
 最後にカウンターにきて、ガストを覗き込んだ。
「お酒飲めないのに、まだいたの?」
「歌を、聞いていましたから」
「ありがと。リクエストしてくれればよかったのに」
 女はカウンターに頬杖をついて、もういっぱいミルクセーキを頼む。
 今度はラムを一垂らし。
「あの」
「なーに」
「寝ている人に、声をかけていましたね、あれは」
「酔いざましの鼻歌。聞きたい?」
「はい」
 女は、ガストの耳に鼻先がつくほど近くで、舐めるように、息を吹き込む。
 途端、椅子から滑り落ちかけたガストを引っ張りあげた。
「もー、さっきから手が掛かるお客さんだなあ」
「あなたが、いたずらするのがいけないんです」
「こんなの冗談のうちにも入らないでしょ」
 カウンターの向こうで、マスターが顔を押さえて笑っているのが見えて、
ガストは顔を赤くする。
「さっきから、何で構うんですか」
「首吊りそうな顔で、水ばっかり飲んでるんだもの。心配で外にたたき出せないし、
中置いといても酒場の雰囲気悪くなるから」
 ガストは、瞬きして、それから戸棚のガラスに映った自分を眺める。
「…首吊りそうな顔ですか」
「飲んで気晴らしするならまだいいけど、一口も飲まないから」
 心配してたんだよ、と、女は首を傾げる。
 ガストは、つばを飲み込んでいた。
 茶色の長い髪と、緑の大きな目をした女は、町の女のようなあか抜けた化粧を
した美女ではない。
 けれど、素朴で健康的な魅力と、成熟した女の色気が滲んでいた。
「ずっと、ここで歌ってるんですか?」
「立ち寄り先の一つなだけ。ほかの町でも歌ってるよ」
「だいたい、流行歌?」
「知らない歌歌っても、酔っぱらいには聞こえないもんね」
 女は、ゆっくりミルクセーキを飲んでいく。
 ガストは、よく動くのどから目を離せずにいた。
「さて、歌い終わったしおあしももらったし、お客さんもちょっと元気になった
みたいだし、ここらで退散いたします」
「明日もくるかい」
 マスターが声をかけると、女は首を傾げる。
「それが星の導きなら」
「はいはい」
 それ以上マスターは聞かず、女も腰を上げる。
 ギターを担いで、出ていく女を見送ってから、釣りはいらないと紙幣をおいて
ガストは立ち上がる。

 人のいない道に立ち尽くし、女は空を見上げていた。
 視線の先は、一面の星。
 ガストも思わず星空を見上げる。
 やがて、女がガストに気がついた。
「お客さん、おなかいっぱい食べた?」
「いただきました、それより、あなたはこれからどこへ行くんですか」
「そうねえ、星を見ながら、大地に抱かれていようかな」
 野宿とも言います、と、女は笑う。
「宿代が、足りないのですか」
「そうでもないけど、星がきれいだから」
 ガストは、財布から紙幣をつかみ出し、女に差し出す。
「少ないですけど、先ほどの歌のお礼です。宿代の足しにでも」
 女は受け取ってから、紙幣を星明かりに透かしてみる。
「ちょっと多いなあ」
「いいんです、貴重な歌を聴かせていただいたお礼ですから」
「あなたに特別に歌ったんじゃないよ?酔っぱらいにでも、通りすがりの
行き倒れにでも歌ってる歌だよ」
「私には、初めて出会った、貴重な歌だったんです」
 そう?と、女は笑って、紙幣をポケットに入れる。
「歌、好き?」
「正直、歌自体には興味がありません。流行歌は、聞いているのが苦痛でした」
「ひどいなあ」
「けれど、先に歌ってくださった回復の歌や治療の歌、あの節回しと歌詞に非常に
興味があります。是非もう一度歌っていただけませんか」
 女は、ガストを睨み、それから、そっぽを向く。
「変な人」
「変でも何でも構いません、私は、私が探しているものを今見つけたかも
しれないのです。もう一度歌ってもらえませんか」
「今日の歌はもうおしまい」
「じゃあ、明日にでも」
「朝日が出たら、別の町に行くの」
 それじゃ、と、食い下がるガストの顔を、女は手でふさぐ。
「明日の朝まで、あなたのために歌ってあげてもいいけど」
「お願いします」
「私、高いよ」
「構いません、足りない分は後で送金します」
 旅暮らしなのに、どうやって受け取るんだか、と、女は笑い、ガストの腕をとる。

 宿のベッドの上で、ガストは目を丸くしていた。
 ギターを置いた女は、上着を脱ぐようにするりとワンピースを脱ぎ捨て、
ブーツを脱ぎ捨てる。
「な、何ですか」
「着てる方が好き?」
「そうじゃなくて、あの、歌を」
「歌うよ、あなたの体力が続く限り、歌ってあげる」
 下着だけはつけたまま、女はガストをベッドに組み伏せる。
「英雄の歌で励まさないと頑張れないほど、お年寄りじゃあないよね。早くおいで。
夜が明けちゃうよ」
「待ってください、違うんです、誤解です」
「女駄目なの?」
「そうじゃないですけど違います!学術的な目的で、私は」
 女は、ガストの首をくすぐりながらシャツのボタンを外す。
「ごちゃごちゃ言ってると、あなたが私に歌わせられっぱなしで終わっちゃうよ」
「私は違うんです!!」
 なんとかガストは体を起こすが、女は膝の上にまたがったまま。
「すみません、服を着てください」
「寒くないから、大丈夫」
「私が大丈夫じゃないんです」
 仕方ないなあ、と、女は上着だけ羽織る。
「いつも、こんなことをしているのですか」
「一晩中歌聴きたい、って言われたらね」
「そんな符丁知りません」
「知らなくても、宿に連れ込めたら、気がつかなきゃ」
 だめだなあ、と、女は笑ってガストの頭をたたく。
「一晩中二人っきりで歌だけ聴きたい熱心な人なんか、一人もいなかったから」
「じゃ、私が最初の一人です」
 むすっとガストはシャツのボタンをとめる。
「学術的な興味で、歌を聴きたかったのです。最初の契約通り、知っている歌を
聴かせてもらえませんか」
「しないの?」
「性行為ならしません」
「つまんない」
 ガストはそっぽを向く。
 すぐにでも、この部屋を出ていき、この女のことを忘れてしまいたいのだが、
さっき聞き流した、この女の頭の中にしかない歌に、古代種の言葉のかけらが
入っている。
 高貴で知的で現生人類からしたら、神に近いような偉大な古代種の知識の
かけらを、熱心に研究している自分がまだ掴めずにいる知識を、目の前にいる
半裸の売春婦が価値もわからず知っていることが、ただただ不快だった。
 けれど、ここでこの場から立ち去れば、歌は聴けない。
 旅をしているこの女に再び出会うことも、かなり難しいだろう。
「…歌、聞かせてください。私は、ずっとその歌と言葉を探しているんです」
「この宿壁薄いから、夜中に歌ったら周りに迷惑」
「構いません、小声で歌詞だけでも」
 女は、脱ぎ捨てた服を身につけ、ギターを抱え直す。
「外、行こう。小声じゃ歌った気にならないから」
 言い捨てて、女は返事も待たずに廊下に出る。
 あわててガストは上着を羽織り、どうしようか一瞬迷った後に、荷物も担いで
女の後を追った。

 田舎町から、少しだけ歩けばもう建物も見えなくなる。
 石畳も街頭も途切れる頃、女は追いついてきたガストの手を取る。
 ガストの知らない言葉で歌うようにつぶやくと、青い火の玉が沸きだし、足下を
照らした。
 何事、と、ガストが目を丸くするが、女は笑顔でささやくように歌い続けている。
 やがて、草地に腰を下ろし、ギターを爪弾く。
 ささやきだった歌はやがて腹の底からの声となり、聞きなれない旋律は
甘ったるく、切なく、朗らかに、時に激しく調子を変えていく。
 何の歌か、どんなことを歌っているのか、時々、ガストは聞き出そうとしたが、
女は首を振るだけで歌い続けた。
 やがて、ガストも黙り込んで歌に聴き入り、つい一緒に口ずさもうとして、
慣れない旋律に全くあわせることができず、女に笑いながら蹴飛ばされる。
 息継ぎ以外少しも休もうとせずに、女は歌っていた。
 朝日に顔をしかめてガストが目を開けると、女は顔中で笑って、でも、まだ
歌っていた。
 枯れ草に鼻をくすぐられ、くしゃみを一つしたガストは、決まり悪そうに、
顔をこすり、それから、笑った。
「聞き惚れました」
「子守歌なんか歌わなかったのに」
 女はギターを降ろし、大きく伸びをする。
「久しぶりに好きなだけ歌ったよ」
「ご存じの歌は、これで全てでしょうか」
 まさか、と、女は笑う。
「毎晩歌っても、一週間くらいかかるんじゃないかな」
「どこでそんなに習ったんですか」
「母さんが歌ってたのもあるけど、私が作ったり替え歌したりしたのもあるよ」
 途端にガストが苦い顔をしたのを見て、女は笑う。
「私が作った歌なんか、聞きたくなかった?」
「いや、そうじゃないんです、ただ、調査する上では分ける必要があるので」
「学者さんは難しいねえ」
 女はあくびをして、草の上に寝そべった。
「あのう」
「もう今日は、歌わないよ?」
「歌っていた言葉の意味は、おわかりなんでしょうか」
「なんとなく。でも、訳しても謎かけみたいになってて、何のことだか
わからないのもたくさん」
 ガストは、女を覗き込む。
「ミッドガルに、来てもらえませんか」
「何で?」
「あなたの歌を録音して、訳していただきたいのです」
 女はむすっとふくれて見せて、寝返りを打つ。
「いや」
「お願いです、あなたの貴重な歌を記録させてください、私が長年求めていた
答えが、あなたにあるのかもしれないのです」
 女は背中を向けたままで、首を振る。
「もちろん、謝礼をいたします、旅暮らしをしなくてもいいように、住む場所も
用意できます」
 女は起き上がってふくれっ面をガストに向ける。
「だめ、口説き下手。最低」
「口説いてるんじゃありませんよ」
「口説きもできない男なんていや」
 ガストがどうしようと口ごもると、女は手を伸ばして額を叩いてみせる。
「嘘でもいいから、歌手デビューさせるからミッドガルにおいでとか言って
みなさい」
「ですが、正直なところを申し上げて、それほど上手な歌では…」
 女は拳骨で殴りかかる真似をし、ガストは大げさに逃げ出す。
「もう行く。もっと口説くの上手になってから、出直しておいで」
「それでは、連絡手段を教えていただけませんか」
「旅してるから、そのうちばったり会うんじゃない?」
「おうちは」
「この星の全部が私のうち」
 ガストの困り顔に、女は笑う。
「あなた面白い。何の勉強してるか知らないけど、次に会えたら別の歌教えて
あげるよ」
「その、次に会えるのがいつか…」
「自分の連絡先教えなさいよ」
 そうでした、と、ガストは名刺を差し出す。
 女は、名刺を裏表眺めてからしまい込み、改めてガストを覗き込む。
「私の歌しか興味ない?」
「え?」
「口説くなら、名前くらい聞いておかなきゃだめでしょ」
 女は笑いながら立ち上がった。
「私はイファルナ。覚えてね」
 ガストがぽかんとしている間にイファルナは走るように行ってしまった。
 しばらく、ガストは草地に座ったままでいた。
 一晩中聞かされたはずの歌を、寝ぼけ頭はほんの少しも思い出すことができず、ただ、怒ったり笑ったり表情豊かな彼女の顔ばかり浮かんでくるのだった。

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February 14, 2009

甘い休息

 バレンタインデーです、面白いチョコがいっぱい売ってる週間です。
 高級チョコもいいのですが、チロルチョコの詰め合わせが熱いです!

 ヴィンさんの日ということで番外行きます。
 例によって本編とはつながらなくていいです。
 本社勤務のタークス時代で行きましょう。

 神羅製作所七不思議の一つ、総務部調査課。
 誰もが存在を知っているのだが、どんな仕事をしているのかは、誰に聞いても
よくわからない。
 下手に興味を持ってかぎ回ると、何故か転勤その他異動の辞令が届くらしい。
 いや、それ以前に、興味を持った時点で存在を消されるとか何とか。
 出入り口はただ一つ、三階男子トイレ個室の天井板を剥がして天井裏の
トラップを交いくぐった先。
「さらにさらにその天井裏には、秘密を探りに侵入し、トラップにかけられて
命を落とした者がごろごろ、それを食べて育った巨大な人食いネズミがぞろぞろ
いるんですって」
 事務嬢は屈託なく笑い、手元のお菓子を差し出す。
 いらない、とヴィンセントは手を振り、隣の椅子に腰掛け、机に突っ伏す。
 奥まった殺風景な部屋は、総務部調査課。
 噂ほどに恐ろしくもないし、出入り口もきちんとあるが、それでも一般の社員が
出入りする場所ではない。
 事務嬢は手袋をして手提げ金庫から札束を取り出し、数枚抜き出して机に並べる。
 ぐんにゃり机に突っ伏しているヴィンセントの内ポケットを勝手に探って、
抜き取った財布の中身を空にしてから、新しい札を入れる。
「レシート、領収書、他提出物と証拠品は?」
「ポケットに使用済みハンカチとティッシュがあるけど、お嬢さんは触るな」
 ヴィンセントはげんなりと起き上がり、事務嬢に向き直る。
「あのね」
「はい」
「両手でこうやって力一杯絞っても、もう小便も出ない」
 体の前で雑巾を絞る手つきをしてみせるヴィンセントに、事務嬢は笑い、お茶を
一杯入れてくれる。
 社員の噂はともかく、神羅の裏仕事全般を請け負うのが総務部調査課、
通称タークス。
 少数精鋭のエージェントが、体を張って戦い、有能な内勤部隊が彼らを効率よく
サポートしている。
 仕事帰りに疲れた顔で立ち寄るエージェントたちが、どんな仕事をしてきたのか、
内勤部隊は手に取るように知っていた。
「優しく絞ってあげたら、元気になる?」
「いつからそんなサービスが?」
「口先だけです」
 口先だけなんて、そんなはしたない、と、大げさにヴィンセントは
恥ずかしがって見せ、事務嬢はファイルの角でヴィンセントの頭を叩く。
「下ネタ言う顔じゃないでしょ」
「下ネタ聞かされて実践させられてばっかりで、心が荒んでるんです」
「合コンで笑いをとれるようなネタなら聞いてあげてもいいよ?」
「こんなの聞かせたらお嫁にいけなくなるから、だめ」
 心底疲れているらしいヴィンセントは、口元は笑っていたが、赤い瞳はぎらぎら
燃えるままだった。
 事務嬢はヴィンセントのスケジュール表を確認する。
 顧客訪問が不自然に時間をおいて、五件並んでいた。
「お得意様回りだけだから、頑張れ」
「だから、もう絞っても何にも出ない」
 冷めたお茶を飲み干し、ため息をこぼしてヴィンセントは机に突っ伏した。
 事務嬢はカレンダーとヴィンセントのスケジュール表を見比べた。
 綺麗な顔と綺麗な体、抜群の腕前と頭脳を持ったヴィンセントは、秘密裏の
仕事に関わることが多いのだが、2月14日を挟んだ一週間は顧客訪問ばかり。
 お一人様一時間半程度、重要顧客には泊まりがけ…
「…聞いていい?」
「答え全部下の話だよ」
「この一週間、全部下の話?」
「全部報告したら、お嬢さん妊娠するくらい下の話」
 きゃー、と、事務嬢は顔を赤らめ、それから、ヴィンセントをのぞき込む。
「大変だねえ」
「大変だよ、女の子は演技でなんとでもなるけど、男は本気の証拠に立てて
見せなきゃ始まらない」
 はぁ、と、ため息をもらして、ヴィンセントは体を起こし、大きく伸びをする。
「休ませてもらって愚痴ったから、HP戻った。ありがとうね」
「ほんとに駄目だったらキャンセル入れますからね」
「プロなので何とかします」
 事務嬢は立ち上がりかけたヴィンセントのポケットに手を突っ込んで、汚れた
ハンカチを清潔なハンカチに取り替え、身の回りと持ち物チェック。
 それから、大きな紙袋を引っ張りだし、ヴィンセントに押しつける。
「何?」
「預かり物です。社内の女子から、聖ヴァレンタイン様へのお供え物」
 紙袋の上には、何ページにもわたる名簿。
 ヴィンセントは軽く目を通してから、名簿ごと紙袋を事務嬢に押し返す。
「…私は社員の顔全員分把握してるけど、この子たち私を知らないだろう」
「それが企業秘密を交いくぐって、結構有名なんだなあ。超男前エリートの
ヴァレンタイン様。神羅の守護神、聖ヴァレンタイン様が調査課におわす限り、
みんな安全に仕事ができるって」
 ありがたやありがたや、と、事務嬢はヴィンセントを拝んでみせる。
「…そんな立派な仕事じゃない。エロおやじの性欲処理と、人殺しと、泥棒だ」
「それを一身に引き受けるエージェントがいることを、みんな知ってるし、
表沙汰にできないけど感謝してます、って」
 ヴィンセントは、鼻先をひっかき、それから、もう一度紙袋をのぞき込んでから、
チョコバーを一つだけ拾い出す。
「調べて、個人情報に関わる物は処分して、名簿も始末してくれ。あとで、
総務経由でおやつ差し入れしておいて」
「すべて終わってます、危険物、毒物検査済み」
「私の非常食に、カロリーだけ高くて腹持ちがいいのを三つ残して、後内勤さんと
表総務とエージェントのおやつに」
「了解」
 仕事の速い事務嬢に、ヴィンセントは笑い、すぐに寝ぼけた顔を引き締める。
「30分後に次の予定です。玄関に送迎車が待機しています」
「了解」
 チョコバーを無理矢理口に押し込んで飲み込み、事務嬢が差し出す手鏡に
にーっと笑って口元チェック。
「いってきます」
「いってらっしゃい」
「神羅の繁栄と、神羅に勤めるお嬢さんたちの貞操を守るため、この身を捧げて
参ります!」
「ありがとう、聖ヴァレンタイン様!」
 背を伸ばし、胸を張り、ヴィンセントは廊下に出ていった。
 事務嬢は、机の上の紙袋をながめて、ため息一つ。
 社員女子からのお供え物は、半分本当で半分嘘だ。
 ヴァレンタインという名の有能な男前がいることは、結構知られた事実だが、
彼が何者でどんな仕事をしているか理解している者は、チョコを渡した中に
何人もいないだろう。
 渡されたチョコの半分以上は、ヴァレンタインという名にひっかけて、
恋愛成就のおまじない代わりのお供え物。
 残りのほとんどは、実際タークスに世話になったが、表沙汰にできない者からの、
感謝の印。
 何、毎年のことだから、ヴィンセントも嘘半分は重々承知だ。
 事務嬢は、紙袋を探って、底の方に潜っていた包みを掘り起こす。
 冗談半分、または軽い気持ち、そして、身元を明かせないが心から送って
くれた人たちが、タークスに関わって危険な目に遭わないよう、個人情報が
わかる物はすべて外したが、これだけカードがついたままだった。
 いや、チェックがすんでから、事務嬢が滑り込ませた包みだった。
 事務嬢は、カードを外して、しばらく字面を眺めていたが、やがて、細かく
破ってゴミ箱に捨てる。
 神羅の裏仕事を一手に引き受けるタークスは忙しいのだ。
 ヴィンセントや他のエージェントが走り回って身を粉にして働いているのに、
内勤部隊がぼんやり物思いに耽っている暇などなかった。

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February 10, 2009

慈愛に満ちて温かく

 寒くなってまいりました!
 作中では季節感適当ですが、全く気にせず生キル力参ります。

【粗筋】
 お騒がせヴィンさんおうちに連れ戻されました。
 ニブルヘイム経験者は宝条とヴィンさんが同居してることに違和感の一つも
感じないようです。

 第一線から離れているとはいえ、ヴィンセントはタークスの一員だ。
 いついかなる時でも隙がないのが生活の基本であり、ステータス。
 宝条は鼻で笑って、傍らのヴィンセントを覗き込む。
 だらしないくらい無防備に眠りこけるヴィンセントの肌は、まだ少し熱っぽい。
 いくらか寝汗をかいてはいるが、拭いて着替えさせるほどでもない。
 起こさないようにそっと抜け出して、宝条は台所へ向かう。

 ヴィンセントが起きて来たのは、日もずいぶん高くなってから。
 大あくびをしながら台所を覗き込む。
「…仕事は」
「今日は君の子守という重大な任務のため、自宅勤務だ」
「そうか」
「そうだ」
 台所の椅子に座って、そのままヴィンセントはテーブルに頬をつける。
「何か食べるか」
「いらない」
 突っ伏すとテーブル一杯に広がる伸び放題の髪を、宝条は無造作にかき集め、
輪ゴムでまとめてテーブルから放り出す。
 と、のろのろとヴィンセントが恨めしげに顔を上げた。
「この間切ったばかりなのに」
「薄毛治療に役に立って、大もうけできるかもしれん」
 むーっとヴィンセントはふくれっつらのまま頬杖をつく。
 宝条はことこと煮えていた鍋の中を覗き、マグカップに注いで持ってきた。
「チキンスープの上澄み。味付けしてないから、お湯だと思って一口どうだ」
 少しだけ生姜と野菜の香りがついた温かいスープは、苦もなく飲み込める。
 もう一杯マグカップにスープを注いで、宝条はヴィンセントの鼻先にスプーンを
突きつける。
「…何」
「煮たリンゴの潰したの。味見だけしてくれ」
 ふんわり甘酸っぱい煮リンゴをほんの一口。
 味わう間もなく飲み干すと、宝条がにやっと笑い、次のスプーンが来る。
「茹でたジャガイモ。飲み込みづらかったらスープで緩めるから」
「茹でたニンジン」
「チキンスープのお粥」
「みかんの果汁」
 律儀にスプーン一杯ずつ。
 全部飲み込むと、胃が仕事を思い出したのか、唐突にきゅう、と音を立てた。
「絶食の後に無理しないほうがいい。お代わりはもう少ししてからな」
「うん」
 寸胴鍋に、ごろりと丸鶏と野菜が沈んでいる。
 スープだけもう一口もらって、ヴィンセントはため息をこぼした。
「フライドチキンの骨にお湯かけて、冷めた頃に飲むと丁度いいんだ」
「…人の渾身のチキンスープを残飯整理と一緒にしないでくれ」
 宝条は鍋にジャガイモやらタマネギをごろごろと追加し、コンロの火を弱める。
「目眩は」
「ない」
「吐き気」
「腹減った」
「足元ふらつかないか」
「大丈夫だった」
 よろしい、と、宝条は鷹揚にうなずき、ヴィンセントの頭にタオルを載せる。
「食事の支度が出来るまで、風呂入って来い。お湯張ってあるから」
「…やっぱり目眩とふらつきがあるから一人では入れない」
「嘘付け」
 笑って宝条はコンロの火を止め、ヴィンセントを風呂場まで押したり引いたり
なだめすかして連れて行き、汗ばんだパジャマを脱がせる。
 軽くお湯で体を流しただけで、あとは湯船に押し込んで頭からお湯をかけてやる。
 手のひら一杯に泡立てた石鹸で、指先から揉み解していくと、それだけで
湯の色が変わっていくが、気にせず容赦なく宝条は肌にこびりついた汚れを
撫でさすってこすり落としていく。
 最初、ふざけたり宝条を引きずり込もうとじゃれていたヴィンセントは、やがて
とろんとして体の力を抜き、湯船に背中を預けて目を閉じる。
「沈まない程度に寝てていいよ」
「難しい事言うな」
 何、腹が浸る程度しかお湯を張っていない。
 背の高いヴィンセントが沈んで溺れるほうが難しいに違いない。
 かさついてくすんでいた肌は、水分を得て汚れを拭われてすぐに、磁器のような
艶を取り戻す。
 傷は、ほとんどなかった。
 裸足で歩き回って、足を少しだけ傷めていたが、洗えばわからなくなる程度。
 触れれば吸い付くほど柔らかい肌は、むしろ以前よりもきめ細かい。
 手を止めていた宝条に、ヴィンセントが眠たそうに目を開ける。
「このまま楽しいことする?」
「考え事してただけだ。ここでしたら風邪ひくから駄目だ」
 石鹸と汚れを洗い流し、洗い立てのバスタオルで水気を拭うと、ヴィンセントは
火照って潤んだ目でほっとため息を漏らす。
「さっぱりしました」
「仕上げはパウダーとオイル、どっちがいい」
 なんだか今日はサービスいいな、と、ヴィンセントは笑う。
「懇切丁寧にオイルでお願いします」
「よろしい。丁度講習を受けてきたところだ」
 無添加無香料の何とかオイルだと、御託を述べながら宝条はヴィンセントの肌に
オイルをのばしていく。
 愛撫よりも心地よいマッサージをする宝条だったが、今日はさらに気持ちがいい。
 何の講習を受けてきたんだと聞いてみる前に、ヴィンセントは睡魔の誘いに乗っていた。

「そのまま寝るか?飯は?」
 遠くで宝条の声がして、ヴィンセントは目を開ける。
 今のソファで、パジャマを着せられ、毛布にくるまってうたた寝していたらしい。
「…寝てた」
「君大きいから、寝返りさせて着替えさせるの大変だったぞ」
 顔をこすりながらヴィンセントは体を起こす。
 風呂から上がってかなりたつのに、体がふわふわと暖かかった。
「…マッサージうまくなったな」
「講習受けたからね。ただ、君のように大きな子は想定していなかったから、
勝手が違うところがかなりあったな」
 ぼーっとしたまま、ヴィンセントは宝条を見つめる。
 起きたときから、ほんのわずか違和感がある。
 病み上がりなので優しくしてくれているのとはまた違う。
 なんだか、こう…
「何の講習」
「ベビーマッサージ」
 即答した宝条に、ヴィンセントはこめかみをさする。
 ああ、それで全て合点が行く。
 さっきの胃慣らしの食事は離乳食なのか。
 風呂で優しく洗ってくれたのも赤ちゃん用の洗い方か。
 おむつはしていないだろうか、と覗き込んでみたが、さすがにそれはなかった。
「オイルマッサージまでしてもらったのに、欲情もしないと思ったら」
「単なるガス欠だ、それに、マッサージだけで欲情されていたら、世の中の
マッサージ師の貞操は大変だろ」
 肩貸そうか、と、覗き込んだ宝条に、ヴィンセントは首を振って立ち上がる。
 立ち上がってみると、確かにガス欠らしく、ふらふらと足下がおぼつかなかった。

 食卓に着くと、暖かいチキンスープがでてくるが、やっぱり上澄みだけ。
 胃慣らしに、と、飲み干すとマッシュポテト、いや、茹でて潰しただけの
ジャガイモがでてくる。
 うーんと睨んでいる目の前で、宝条は茹で上がったニンジンを潰していた。
「…宝条先生」
「ん」
「つぶさなくても食べられます」
「そりゃお利口さんだ。でも潰しかけの方が見た目が悪いからな」
 なめらかに潰したニンジン、塩気なし。
 じゃあ次はバナナとパンのミルク粥だ、と、いそいそと立ち上がる宝条を、
何とかヴィンセントは引き留める。
「あのな、しばらく食事していなくて食欲戻ってくるまでに時間がかかっただけで、
私は歯があるし、何でも飲み込めるから」
「病み上がりだから消化がいい物の方がいいだろう」
「そうなんだが、ちょっと、その」
 ヴィンセントは、口ごもる。
 たぶん、おそらく、今出てきたのは赤ちゃん用の離乳食だ。
 ジャガイモもニンジンも茹で立てだし、スープはコンロでことこと煮えている。
 赤ちゃんが産まれる前にはしゃいで買い込んでしまった離乳食が賞味期限切れに
なって、急いで片づけているのでは多分ない。
 けれど、嫌がらせでも何でもなく、ヴィンセントを赤ん坊扱いしているのなら、
何か理由があるはずだ。
 ヴィンセントは、息を整える。
 何かあったなら、宝条家の崩壊の引き金を引いた自分が知らん顔をしている
わけにはいかない。
「…赤ちゃん、なんかあったか」
 途端に宝条が振り返る。
 温かいバナナミルクパン粥をヴィンセントに突き出し、自分は椅子に座り込んだ。
「すごいぞ」
「なにが」
「連続寝返りすれば移動できることを覚えた」
 ヴィンセントは赤ん坊に接したことがない。
 最初は首が据わらないとか、おむつをしているとか、母乳やミルクで育つとか、
一般的な知識しかないので、宝条が何を言っているやら見当すらつかない。
「放っておけばころころ転がっていくんだが、三回転くらいで、気持ち悪くなって
泣き出すんだ」
 ほら、と、宝条はスプーンにお粥を乗せて、ヴィンセントの鼻先に突き出す。
 甘い香りのお粥は、そう悪いものでもなかった。
「大人はちょっと気に入らない味でも、口の中に入れたら人前では吐き出せないが、
まだ行儀作法も常識も知らない赤ん坊だから、嫌な物は遠慮なくべーするんだ」
 それほど嫌でもなかったので、ヴィンセントはもう一口口に入れてもらい、笑った。
 赤ちゃんに何かあって、心の整理がつかなくて手近なヴィンセントを赤ちゃん
扱いすることで、バランスを保っているのかもしれない、とふと思ったのだ。
 けれど、嬉々として語る様子からして、赤ちゃんに触る機会が増えて、覚えた
ことを実践してみたいだけなのだろう。
「元気なんだな」
「24時間ぎゃんぎゃん泣き続けても体調に問題ないくらいは元気だ」
 バナナミルクパン粥がもう一口くるが、ヴィンセントは皿ごと受け取って自分で
口に運ぶ。
「大きくなったから自分で食べられるよ」
「今日は胃慣らしでやめとけよ。食欲と胃の限界は違うからな」
 甘いお粥を一口で食べたヴィンセントは、くつくつ煮えるチキンスープを
覗き込み、骨付き肉を拾い出す。
 では遠慮なく、と、一口かじったとたん、動きが止まった。
 冷や汗が吹き出し、目が回る。
 深呼吸しても生唾を飲み込んでもどうにもならない。
 呆れ顔の宝条が洗面器を出してくれたが、何とか断り、這うようにトイレに
向かう。
 しょんぼり台所へ戻ると、食べかけの皿は片づけられ、残っているのは
湯冷ましが入ったコップだけ。
 ゆっくり飲むと、空になった胃にじんわりしみこんでいく。
「0歳児」
「すみませんでした、調子に乗りすぎました」
「次やったらミルク生活だからな」
 それだけは勘弁してください、とヴィンセントは平謝りし、宝条はにやにや笑う。
 湯冷ましをもういっぱいお代わりし、みかん果汁をコップ一杯飲んだところで、
ヴィンセントは遠慮なく大あくび。
「赤ちゃん、歯を磨いてあげようか」
「お利口ちゃんだから自分で出来る」
 スペアミントのきつい香りで口を洗いすすぐと、ほんの一瞬目がさえるが、
眠気を飛ばすほどの威力はない。
 ベッドに潜り込むと、宝条が覗きに来る。
「だるいか」
「眠いだけ」
 手を引くと、ベッドに上半身だけ持たせかけるが、添い寝する気はないらしい。
「今日はうちにいるのか?」
「君が寝付いたら、タークスと兵団に挨拶して、薬取ってきて、セフィロスの
顔見てくるんだが」
 ヴィンセントは苦笑し、頭まで毛布をかぶってみせる。
「もう寝た、みんなによろしく伝えてくれ」
「0歳児だから放っておけないなあ」
 寄り添った宝条は、毛布の上からヴィンセントの背中を軽くたたく。
「しばらく安静にしてれば落ち着くと思うんだ」
「うん」
「どうにもならなかったら、病院に行くからな」
 ヴィンセントは毛布に潜り込んだまま、返事をしない。
 宝条の手は、ゆっくり背中をさすっている。
「嫌な思いさせて、悪かった」
 返事は、しない。
 けれど、うなずいておく。
「あのさ」
 うなずいたが、宝条の言葉が続かない。
 しばらく待ってから、毛布から顔を出してみる。
「どうした」
 宝条は口ごもり、それから、ヴィンセントの顔に毛布をかぶせる。
「何」
「…いたずら、されなかったか」
 何のいたずら、と、顔を出してみると、宝条が耳まで赤くなっている。
 ヴィンセントはかすかに笑い、宝条をつついた。
「何のいたずら」
「その、別に、何にもされなかったならそれでいいんだ、されたってわざわざ
気にする必要もないし覚えている価値もないし」
「どんないたずら」
 噛みつきそうな顔で睨んでいる宝条の頬に、ヴィンセントは手を添える。
「暴力とか拷問とか嫌がらせじゃなくて、どんないたずらされたか、気になるか」
「縛って拘束するだけで暴力行為であり拷問だろう、それはもう把握してるから、
それ以外に、意地悪されなかったか、と、その」
 ヴィンセントに鼻先がつくほど引き寄せられた宝条は、しまった、と顔を
しかめる。
「…0歳児、寝ろ」
「もう少し大きい子だから眠くないんだ。さて、裸で拘束されてたら、どんな
いたずらされたと思う」
「平気でそんなこと言ってるんだから、何にもなかったんだな、よし、
事情聴取おしまい、寝ろ」
 くすくす笑いながらヴィンセントは宝条をベッドに引きずり込む。
「私が何も答えていないのに、勝手に終わらせるな。どんないたずらされたと
思って心配しててくれたんだ?」
「…その、なんだ、きつく縛って痛い目に遭わせたり」
「それだけ?」
「寝かせきり放置で、食事どころか排泄も自由にさせなかったり」
「それはあった」
 よしよし、可哀想なことした、と、宝条はヴィセントの頭をなでて
すり抜けようとしたが、上手に押さえ込まれて身動きができない。
「…子守歌歌ってやろうか」
「赤ちゃんじゃないから眠くない。何心配してくれた」
「苦痛がなかったかと食事と排泄の問題だけだ」
「嘘つけ」
「元気余ってるならごろごろしてないで会社行けよ!」
 しばらく無駄な抵抗をしていた宝条は、やがて、力を抜き、ため息をもらす。
「…ひどいことされたなら、傷を無理につつくのも気の毒だから、言葉を濁して」
「うん」
「君をいじめる意志はないんだ、ただ、正確に事実を把握しないと後の治療に
差し障りがあるから」
「うん」
 宝条は口ごもって、それから、ヴィセントの顔に毛布を掛け直す。
「…拘束されて身動きとれない間に、性的ないたずらされなかったか」
 毛布の中で、ヴィンセントはくすっと笑う。
「そんな暇潰し、誰もしてくれなかった」
「…何だよ暇潰しって」
 宝条は、毛布の上から、ゆっくりヴィンセントの胸をまさぐる。
「動けないのをいいことに、べたべた触ったり、その、犯したり」
 きゅう、と、ヴィンセントは鳴く。
 びくっと止まった手に、体をすり寄せる。
「どんな風に触ったと思う」
「だから、視聴覚をふさいでおいて、逃げられにようにして、敏感なところを、」
 毛布の隙間をかいくぐり、パジャマの裾から潜り込んだ手は、ヴィンセントの
肌をひっかき、くすぐる。
「誰だかわからない相手にくすぐられて、我慢できないけど逃げ出せなくて、
じたばたしてるのを皆で笑い物にしたり」
 脇から背中まで辿る手に、ヴィンセントはきゅう、と声を漏らす。
「抵抗できないのをいいことに、露出させられた性器をいじって、勃起したり
分泌したところを皆で笑い物にしたり」
 こうやって、と、宝条の手が届く前に、ヴィセントの方は準備完了。
 くすくす笑いながら、宝条は形だけ確かめるようになぞっていく。
「…なんでこんなに元気なんだ」
「バナナ粥が効いたんだ」
「そんなわけあるか」
 これはこれは見事な分泌量だ、と、真面目腐って宝条はつぶやき、毛布をはぐ。
「なんにもされなかったのか?」
「私の方が、一度くらいそういうことがあるんじゃないかと期待して待って
しまったくらい、何にもなかったよ」
 それはおかしいだろ、と、宝条はヴィンセントのパジャマをはだけ、胸も腹も
むき出した。
 毛布で蒸されて上気した顔を、ヴィンセントは腕で覆う。
「おかしいだろ。こんなのが無抵抗で転がってたら、誰だっていたずらするだろ」
 片手でしごき、なぞられてヴィンセントはまともに返事が出来ない。
 腕を払いのけて、口を吸い、結び目が出来るほどに舌をむさぼる。
 脇の下をくすぐり、乳首に甘く歯をたてて、ヴィンセントに遠慮なく声を立て
させても、宝条はじわりじわりとしごき続ける。
「怒ったり、他言したりしない、心配してるだけなんだ、監視カメラないところで、
意地悪されたんじゃないか」
「ないっ、て、ば」
「性的刺激があれば化けるんじゃないか、自分の射精だけじゃなくて、異物の
挿入や他者の射精で何か結果が出るんじゃないか、って、いや、どんなに
いたずらしても何もおこらなければ、それはそれで、いいデータだから」
 お説教はいいから、早く、と、ヴィンセントが身をよじるが、宝条の手は
ゆっくりとしか動かない。
「あるいは、こうやってじらせて、何日もかけて、我慢させたあげく、何か
白状しろといじめるとか」
「もう勘弁してくれ」
 宝条はにやにや笑いながらヴィンセントを背中から抱え込み、じっくりと
しごきにかかる。
 男根をなぞり、会隠をくすぐって、肛門まで辿り着くとヴィンセントはのけぞり、
反射的に足を閉じようとする。
「痛いか?」
「いや。入れるのか」
「指だけ」
「遠慮するな」
「指だけ入れて、いく瞬間どうなるのか知りたい」
 ヴィンセントはうなずき、足を広げ、体を宝条に預ける。
 細く、節くれ立った指が一本、探るように滑り込んでくる。
 熱く脈打つ体内をしばらく堪能した後、唐突に指は抜き取られ、声を漏らす
間もなく、二本になって割り込んでくる。
 じわじわと体内を探っていく指の動きにあわせて、止まっていたもう片方の
手も男根への責めを思い出し、動き始める。
 体内をかき回され、えぐられた刺激か、時間をかけて徹底的にしごかれた刺激か、
頭では判断がつかなくなった頃、吠えるように声を漏らし、ヴィンセントはいった。
 こっちに飛ばすなら先に言っとけ、と、宝条が怒りながら眼鏡と顔を
拭いているのを、なんだかいい気分でみながら、あくびを一つ。

「いたずら、されなかったんだな」
「一番ひどい事してくれたのが宝条だ」
 じゃ、もうしない、と、宝条がそっぽを向き、ヴィンセントが笑う。
「心配してくれたんだな」
「心配じゃない。君が拘束されてレイプされているんじゃないかとついうっかり
想像してしまい、興奮してしまっただけだ」
「変態」
「そうらしい」
 ヴィンセントはベッドに腰掛けている宝条に寄りかかる。
 重い、と、宝条は難なく潰れ、文句をこぼした。
「縛ったり叩いたりがお好みですか」
「基本的には嫌いだ、男色並に受け入れがたい趣向だ」
「…」
 ヴィンセントが体を起こして覗き込むと、宝条はそっぽを向く。
「本当に実際君がひどい目に遭っていたら、それは面白がっちゃいけない
ものなんだが、けど、その、推測しているうちに脱線してしまい」
「心配してくれたんだな」
「検査入院させたの私だしな」
「ありがとう」
 背中から覆い被さるように抱きつくと、宝条は耳まで赤くなる。
「お好みなら、今度お縛りして遊んでみますか」
「生意気言ってないでさっさと寝ろよ0歳児。私は日が暮れる前に会社に
行かないといけないんだよ」
「0歳児にいやらしい事したのはどこのお父さんだろう」
「君にお父さん呼ばわりされる筋合いはないぞ」
 しばらくふざけた後、0歳児じゃないけれど赤ん坊のように手の掛かる
ヴィンセントは目を閉じる。
 寝息を確かめ、毛布を肩までかけなおし、足音を忍ばせて出ていった。

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January 21, 2009

二人っきりの部屋で

 おひさしぶりでございます。
 前回が何の話だったかうろ覚えなのに便乗して、ちょっと時間戻して別のことを
先に語ってしまおうかと思います。

【粗筋】
 宝条夫妻は一身上の都合で、念願の赤ちゃんを手放すことになってしまいました。
 奥様は産後の肥立ちが悪く遠い病院で療養中です。

 神羅本社には厳重なセキュリティで守られたエリアがいくつもある。
 その中でも特に部外者が入るのが困難な一角に、かすかに甘ったるい匂いのする
部屋が一つ。
 セキュリティチェックを済ませれば廊下には注意書きの嵐。
 室内履きに履き替えた上で手洗いうがい必須、上着は脱いで推奨の室内着を
羽織ること。
 呼気にアルコールが含まれる場合即刻退場、禁煙、PHSはセキュリティエリア外に
置くか完全電源OFF、ラジオや音楽プレイヤーは事前に内容の審査を受けたもの以外
持ち込み禁止、録音、撮影は事前に計画提出した上で可能(当日の状況により許可が
取り下げられることあり)。
 はいはいと呟きながら宝条は慣れた手つきで手を洗って室内着に袖を通しながら
控え室を覗き込む。
「今、顔見てもいい?」
「ちょうどよかった、今ならオムツ替え体験が出来ますよぅ」
 またか、と宝条は笑いながら保育士お姉さんに茶菓子の袋を渡しながら保育室の
扉を開ける。
 ベビーベッドの中の赤ちゃんは、熱心に自分の足の指をしゃぶっていた。
 つつくと、緑の瞳で宝条を見上げ、ぽかんと開けた口から足が離れる。
 よしオムツだと、宝条が腕まくりする前に、今度はもう片方の足をしゃぶろうと
赤ちゃんは転がり、丁度いいところにあった手を口に突っ込んで、ご満足。
 その間にオムツ替えさせてね、と、仰向けにしようとすると、邪魔するなと
顔を真っ赤にして怒り出す。
「お姉さん先生、怒ってます、どうしたらいいですか」
「強行突破してください、問題ありません!」
 せっかく自力で温めたウォータークッションをむしりとられた赤ちゃんは、
ますます怒って抗議するが、暴れた隙におしゃぶりお手手を放してしまい、
今度は困って寝返りをうとうとするが、慌てて宝条が押さえ込む。
 と、たちまちご機嫌を取り戻して、よだれだらけのお手手で宝条の服を掴む。
 ああ可愛い可愛いと抱っこしたいが、手元は容量一杯のオムツと使用済み
おしりふきで大変だ、とりあえず待ってくれと言ってはみるが、敵にはまだ言葉は
通じない。
 何とか片付けて一息つく頃には、赤ちゃんは宝条の胸に顔を押し付けて、
遠慮なくよだれのしみをつけて、寝入っていた。
「博士が上手にオムツ替えてくれるから、助かるー」
「私が来る時間まで貯めてないか?」
「そんなことないですよぅ、『超高性能4回までもれないちゃん』ですからねっ」
 保育士は新製品の紙オムツパッケージを見せてくれる。
 ほぼ毎日面会に来るので、保育士たちとはすっかり顔なじみだ。
 病気を抱えて生まれた赤ちゃんを、会社ぐるみで研究し、治療するため、いや、
研究目的で誕生させられた子供を会社所属にするため、宝条は子供を手放した。
 夫婦共に親権はなく、顔を見る程度の面会のみ許されてはいたのだが、毎日
来るものだから多忙な保育士たちに仕事を押し付けられてしまい、宝条も大喜びで
手伝ってしまっている。
「博士はオムツ替え平気ですよねー」
「大人の下の世話も経験あるからね、赤ん坊のオムツ程度なんともないよ」
 宝条はいい気持ちで寝ている赤ちゃんをそーっと撫でる。
「…オムツ外した途端に、チーするのはやめてくれないかって思うんだけどね」
「外すと涼しくて気持ちいいみたいですよ。蒸れるのかな、きついのかなって
思ったけど、違うみたいだしー」
 それはそれは晴れ晴れとした顔でするんですよ、と、保育士が真面目くさり、
宝条が声を殺して笑うと赤ちゃんがびくっと起き上がり、あくびを一つ。
「あのですね、主任が博士に聞いてくるようにって言ってたんですけど」
「はいはい」
 あくびをしたついでに、室内着のボタンにしゃぶりついてみた赤ちゃんを
慌てて引き剥がし、さっきおいしくいただいていた手を近づけてやると、今度は
宝条の指を舐めている。
 さてどうしようと固まったが、見ていた保育士が笑っているだけなので
宝条は赤ちゃんのお好きなようにさせておくことにする。
 なに、さっきオムツを替えてしっかり手は洗ってある。
「一通りセフィロスちゃんの世話できるようになりましたか?」
 宝条は少し考え込む。
「…全世界乳児世話検定とか保育士の試験に受かるほどじゃないが、オムツ替えて
風呂入れてミルクやって寝かしつけて着替えさせるくらいなら…」
「離乳食始めてますけど、食べさせてくれたことありましたっけ」
「…食べさせてるんだか、べーされてるんだかわからんが、スプーンに乗せて
口に運んだことは…」
 保育士お姉さんはメモを取ってにっこり笑う。
「これは一人じゃ無理だな、って心配なことありますかー」
「えーと、爪切るのと…そうそう、食べてもいい食品の見極めして離乳食を
手作りして完食してもらうのと、布オムツに挑戦と」
「しなくていいでーす。ちょっと待っててくださいね」
 保育士お姉さんは控え室に電話をかけに行ってしまった。
 宝条は首を傾げながら、セフィロスを抱き上げる。
 おしゃぶりを取られたとまた怒っていたセフィロスは、高い高いされてはしゃぎ、
声を立てて笑った。
 数分で戻ってきた保育士お姉さんは、時計と宝条を見比べる。
「あのですね、主任がすぐに来るんでお話しする時間いただけます?」
「構わないけど、なんかあったかな」
 大丈夫、と、お姉さんはセフィロスを宝条から抱き取り、連れて行ってしまった。
 間もなく保育室主任が顔を出し、微笑んで見せた。
「お話いいですか?」
「はぁ」
 子育て一段落したくらいのお母さん主任は、控え室でお茶を出してくれた。
「セフィロスちゃん、元気に育ってますよ」
「ありがとうございます、皆さんが可愛がってくださるおかげです」
 お母さん主任はお茶菓子を出そうとして、あらら、と笑う。
「博士に持ってきてもらったお菓子よね、ごめんなさい」
「みんなの栄養補給ついでに私も摘まむ分を持ち込んでるだけですから」
「そう?じゃ、一緒にいただきましょうか」
 お茶を一口、お菓子を一つ。
 一息ついたところで、主任が口を開く。
「セフィロスちゃん、時々検診受ければいいくらいに元気になって」
「本当に御世話になりっぱなしで」
 宝条が頭を下げると、主任は慌てて手を振る。
「お話これからなんですよ、元気になったんで、専属のお医者さんいらなくなって、
チーム人員がかなり入れ替わったんです」
「あ、私も送別会のお誘いもらってますが…」
 主任はがっくり肩を落とす。
「医者と専任の看護師が全員帰っちゃって、実質看護師の研修受けた保育士か、
保育士の研修受けた看護師だけになったんです」
 宝条は目を丸くする。
 セフィロスのチームには入れてもらえないのだが、スタッフとは皆知り合いだし
関わってはいけないことになっていても、完全に接触を絶つことなど不可能。
 通りすがりに挨拶して軽く情報交換するくらいには親しくしていたのだ。
 そういえば、ミッドガルへの引越しが終わる頃から知った顔が減っていったっけ。
「…このまま解散して、セフィロス返してくれるって事は」
「ないです。ただ、医療チームを24時間貼り付けておく必要がなくなっただけ」
 そうですか、と、宝条はお茶を一口。
 それくらいなら後日正式に発表があるだろう。
「正式には、医療チームがいなくなるだけなんですけど」
「何かあったら駆けつけたり、こっちから駆け込むことは可能なんですよね」
「その辺は心配してないんですよ、セフィロスちゃん元気すぎてお医者さんたち
暇で仕方なかったんですから。けどねえ、私たちが大変なの」
 主任はため息を漏らし、カレンダーを眺める。
「博士、今日の夜ご予定は?」
「うちに帰って寝るだけですが」
 冷めたお茶がなくなり、自分でつごうと腰を浮かせた宝条は、一歩たじろぐ。
「…あの、入院中の妻がいるので、デートとか無理です」
「あらら、私みたいなおばちゃんでもデートの対象になるの?嬉しいこと。でも、
私とじゃなくてね、セフィロスちゃんとなの」
 何を言われているのかわからず、宝条はすとんと腰を下ろす。
 と、主任は神妙な顔で宝条を覗き込んだ。
「医療チームが異動したらね、うちの保育士たちがごっそり辞めることになっちゃったの」
「そりゃおかしいです、みんな頑張ってくださってるのに、不当解雇ですよ」
「それがね、医療チームの先生と結婚したり仲良くなって引き抜かれちゃったり
なのよ、やめないでって頼んだって、こればっかりは、ねえ」
 主任は、シフト表を広げて宝条に見せた。
「無理に辞めないでって引き止めても、彼氏さんがここの事情に詳しくて、しかも
よその病院に席があるなら、ここの情報が漏れてしまうでしょう?せっかくご縁が
あったのに、別れて仕事に専念して欲しいとも言えないしねえ」
 宝条は、ため息を漏らす主任とシフト表を交互に眺めていた。
「それでね、辞めるのは仕方ないから、今新しい保育士を教育してるんだけど
やっぱり今日明日ってわけにはいかないのよ、一人で任せたり、夜勤するには
まだまだ時間がかかるから、今いるスタッフが頑張ってるの、けど、もう限界」
 ああ、だからこのごろ顔見に来ると、山のようにお手伝いが出来るのか。
「それでね、博士だったらお医者さんだしセフィロスちゃんの子守慣れたし、
もしかしたら助っ人お願いできないかなーって」
 宝条は唾を飲む。
「あの、私は面会くらいしか出来ないことになってるんですが」
「お父さんとして接しちゃいけないだけ。善意の助っ人だからいいのよ」
 主任は身を乗り出して宝条の手を取った。
「今日駄目なら明日でも明後日でも。一日だけ都合つけてもらえれば、それだけで
私たちなんとか立て直せるから、お願いします」
「…けど」
「一晩中セフィロスちゃんと水入らず。興味ありません?」
「私で、できるかどうか…」
「出来なかったら、朝までセフィロスちゃんとえんえん泣いてればいいです。
早番のお姉さん先生が助けに来てあげますから」
 宝条は吹きだし、笑う。
「今夜にでもお願いします」
「そうこなくちゃ!」
 主任が軽く資料を広げて説明をしている最中にノックの音がし、お姉さん先生が
顔を出す。
「セフィロスちゃんねんねですー」
「今夜宝条博士入ってくれるって」
 きゃー、と、お姉さん先生は歓声を上げた。
「博士かっこいい、男前!」
「嘘つけ」
「ううん、他の先生にも頼んだんだけど、専門外だとか人事が悪いとかで
誰も話も聞いてくれなかったのに。もうね、宝条博士に抱かれてもいいわ」
「奥さん入院してるから、冗談でも駄目」
「じゃ、抱いてあげるー」
 ぎゅっと抱きつかれて、宝条は大げさに悲鳴を上げる。

 主任と保育士と額をつき合わせて、簡単に手順をおさらい。
 面会ついでに手伝ってきたことばかりで、後は緊急時の連絡先と避難経路の
確認だけ。
「…大丈夫かな」
 保育士が宝条の手をしっかり握る。
「大丈夫じゃない時は、すぐ助けを呼んでください。こんな事で呼ぶなって
叱られるくらいが丁度いいから。自分で頑張ろうとしないこと」
「はい」
「ねんねしなくとも、疲れたら勝手に寝るから。食べなくてもミルク飲まなくても
一晩くらいどうってことないから」
 困った顔の宝条に、主任は笑う。
「どうしても外出する必要があるときは、警備さんに声かけてからね。ベッドまで
様子見に来てくれるから」
「…連れ出して散歩とか」
 駄目です、と笑って主任は散らかした書類をまとめる。
「お願いしますね」
「あ、はい」
 主任と保育士が手を振りながら出て行くのを、宝条はしばらく見送っていた。
 そして、一人きりになった保育室を眺める。
 とりあえずマニュアルでも確認しよう、と、座りかけたところで、保育室から
泣き声が聞こえる。
 さあ抱っこかオムツかミルクかと駆け寄ると、セフィロスは泣き声を出したのは
もう忘れたらしく、寝起きに熱心に足をしゃぶっている。
 ベビーベッドの柵にもたれて、宝条はしばらくセフィロスを眺めていた。
 と、見ているなら遊べと怒り出し、はいはいと宝条は頬を緩めて抱き上げる。

 毎日顔を出して、ちょっとだけ手伝って帰っていく宝条を、覚えているのか
いないのか、たくさんの人に世話されているから警戒心がないのか、セフィロスは
終始ご機嫌だった。
 離乳食が気に入らないと口から出したり、しっかり飲み込んでからやっぱり
気に入らなかったと吐き出して、自分でびっくりして大泣きしたり。
 上手に寝返りできて、腹ばいでじわじわ移動することも出来るのだが、急に
うつ伏せから仰向けに戻れなくなったり、なんだか手足が絡んでしまって
どうやったら戻せるのかわからなくなって泣き喚いたり。
 お風呂に入ってとりあえず挨拶代わりに泣いて暴れて、慌てた宝条の手から
すり抜けてしまい、湯船に落ちかけて宝条の心臓を三秒くらい止めてみたり。
 そういえばそんなに泣くほどのことじゃなかったと思い出したのか、今度は
上がるのが嫌だと泣いてみたり。
 泣いて暴れて忙しいが、その合間に笑ったり言葉にならない声を漏らして
甘えたりしてるのだから、多分機嫌がいいのだろう。
 宝条は大あくびをして、仮眠室のベッドに潜り込む。
 クマのぬいぐるみと枕と一緒に連れてきたセフィロスは、手をしゃぶりながら
宝条を見上げている。
「今日は疲れたなあ」
 頬をつつくとセフィロスは笑い、よだれだらけの手を伸ばす。
 握手してから手を拭ってやるうちに、セフィロスは目を閉じた。
 簡単に眠るじゃないか、と、宝条は安心して横たわる。
 こんなに長い時間一緒にいるのも、一緒に寝るのも、初めてだなあ、と、呟く。
 ルクレツィアも一緒だったら、と、思っただけで、鼻がつんとする。
 保育士チーム、本当に忙しくてどうしようもないのだろう。
 一応医師の資格がある宝条を都合よく使っただけ、逆に宝条まで使わねば
シフトが回らないと訴えていくのだろう。それはそれでいい。
 目を閉じたセフィロスの、色素のない肌に、ぽやぽやとやっぱり色素のない髪が
生えてきていた。
 宝条は、誰とも似ていない頼りなく白い髪に触れる。
 誰が選んでくれたのか、華やかで明るい色合いのベビー服は、白い赤ちゃんに
よく似合っていた。
 なんだか、泣けてしまいそうだったけれど、ここはセキュリティエリアの奥深く。
 警備員室もかなり遠い場所。
 大声を出して赤ちゃんのように泣いてみても、笑うものなどどこにもいなかった。

「…寝られなかったんですか?」
 宝条は、充血して真っ赤な目で、ぼーっとうなづく。
 膝の上のセフィロスは朝から元気いっぱい。
 這って転がりだそうとするのを宝条が何とか引っ張り上げる。
「…寝たと思ったら、五分くらいで再起動して、転がって落ちそうになって。
無視すると叩くし蹴飛ばすし頭突きするし頭突きして痛いって泣くし」
 交代に来た早番の保育士は、ぶーぶー怒っているセフィロスを抱き上げる。
「お風呂入れたらひっくり返って溺れかけるし、温まったらチーして
引っ掛けてくれるし」
「ベビーバス?」
「一緒入った」
 まあまあそれくらいで勘弁してやって、と、保育士はセフィロスをあやす。
「離乳食食べさせたら、半分ぐらいで全部吐き出したくせに、私の弁当に興味
持って、手伸ばしてくるし絶対無理なもの食べようとするし」
「なんか食べちゃいました?」
「入ってた苺をスプーンで潰してから食べたんですが、他にも、いろいろ
舐めてるんじゃないかと」
 保育士は片手でセフィロスを抱いて片手でメモを取る。
「変わったことありました?」
「どれが変わったことだかさっぱりわからない…」
「なんにもなし、と」
 宝条は笑い、あくびをかみ殺す。
「なんだか、散らかしてしまって迷惑をかけただけかも知れない、申し訳ない」
「いいえ、助かりました、夕べの子、うちに帰るの三日ぶりだったんですよー」
 ねー、と、保育士先生はセフィロスに笑いかける。
「で、夜勤どうでしたか?」
「疲れました」
 間髪いれずに返事すると、保育士は笑う。
 宝条は肩をすくめて頭を下げた。
「いつも本当にありがとうございます」
「いえいえ。でね、また夜勤やって欲しいなー助けてー、ってお願いしたら、
頼まれてもらえます?」
 宝条は、カレンダーを見ながら眉をひそめ、しばらく考え込む。
「妻が病気で、見舞いに行ったり介護したりする必要があるのと、もう一人面倒を
診る病人が増えるから…日常業務もあるから…」
「いいんです、無理なさらないで」
 頷いた宝条は、ため息を漏らして顔を上げる。
「どう頑張っても、月20日が限度だと思います」
「…夜勤専門でもそんなに頑張りませんって。月一くらい助けてもらえれば」
「そんなに間が空いたら手順忘れるじゃないですか!」
 ねー、と、頬をつつくと、もう保育士に抱っこされたら宝条など忘れてしまった
らしいセフィロスは、ぶーっとふくれて見せ、保育士が笑った。
「本気でまたお願いしますからね。後で主任と相談してくださいね」
 さーて、と、保育士は立ち上がり、宝条も腰を浮かせる。
 腕まくりしてエプロンをつけかけた保育士は、思い出したように振り返り、
にやっと笑った。
「普段ね、セフィちゃんベッドで一人でねんねしてるんですよ」
「え」
「保育器のころから一人寝してたのもありますけど、私たちも夜中に起きなければ
いけないことがあるから、添い寝してられないんですよ。お風呂も、いちいち
私たちまで入ってたら時間かかるから、ずっとベビーバスなんです」
 宝条は瞬き一つ。
「離乳食やミルクも、セフィロスちゃんの分終わってから、休憩室や食堂に行って
食事します、おやつも休憩室。手を伸ばせるようなところで食べないんです」
「…違反、しましたか」
「ううん、そうじゃなくて」
 保育士は目を細めて宝条の背中を叩いた。
「夜勤したら可愛がり放題ですよ、博士」
「…耳で聞いてるときは、ものすごい魅力的なんだけどね」
 またね、と、セフィロスに手を振って宝条は保育室を出る。
 変な姿勢で眠ったので、体の節々が痛み、寝不足で頭がふらふらする。
 けれど、体の隅々までふんわり温かく、力がみなぎっているような気がした。

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December 27, 2008

雪に燃える

 年末お忙しい中皆様様いかがお過ごしでしょうか。
 ということで(何がだ)、ちびたんずで冬休み参ります。
 …サザエさん状態だと年中行事があれなのですが気にしない気にしない。

【活躍するお友達】
ちびたん:四種変身を使いこなすぞ、あんころ餅より絶対つぶあんのぜんざい。
セフィちゃん:剣道と魔法頑張り中、きな粉餅と納豆餅でがっつりいくぞ!
宝条お父さん:仕事と子育て両立中、御雑煮と醤油海苔巻きが基本。
ヴィンセント:睡眠学習に挑戦だ、バター&メイプルシロップで失敗したらしい。

 一歩踏み出すと、世界は真っ白でした。
 真っ白な世界は真夏よりも眩しくて目にしみます。
 あまりの眩しさにフリーズしていたちびたんとセフィちゃんでしたが、鼻が
つんとして喉にねじ込んでくる冷気に叩き起こされ、何とか再起動。
 装備していたゴーグルを下ろして、深呼吸してもう一回くらっとしてから、
何とか体勢を整えます。
「雪ーー」
「さむーいー」
 空は晴天。
 遠くの山も近くの足元も、ロッヂの屋根も分厚い雪に覆われて真っ白です。
 ちびたんもセフィちゃんも、ミッドガルで試着した時には、笑うしかないほど
派手なウェアで着膨れていたのですが、この真っ白とぎらぎらの乱反射の中では
地味すぎます、もっと派手にしてもよかったくらいです。
 冬になればミッドガルにもちょっとは雪が降らないこともないのですが、山脈の
加減で、雪が降るよりも冷たい風が襲ってくるほうが多いのです。
 たまに降っても、電車が止まったの人が転んだのとニュースで流れておしまい。
 神羅ビルの屋上を走り回って、埃だらけの雪だるまを作れたらラッキーです。
 さらさらの粉雪は、手袋の上から握っても力が入らず砕けてしまいます。
 大はしゃぎしながら雪にまみれる子供達に、突然白い影がのしかかりました。
「熊出たーー」
「熊じゃないだろ、よく見ろ」
 べろべろと顔をなめまわす白い獣は、よく見れば多分犬です。
 そして、犬と一緒に子供達を覗き込んでいたのは、かなり熊っぽいのですが、
多分雪焼けした人間のおじさんでした。
 よく見ればウェアの胸に神羅兵の身分証がついてます。
「雪に埋まってるとこいつに助け出されてしまうからな、ほどほどに遊ぶように」
 熊でっかい犬が、熊おじさんと一緒に吠え、子供たちははい、といいお返事。
「ミッドガルからだろう?よく来たなあ」
「スキーしに来たんだよ」
「オレスキー初めて!」
 熊おじさんは履いてきたスキーを外し、ロッヂの扉を開きます。
 むわっと吹き出す熱気の中に、宝条博士とヴィンセントと、それから大荷物を
まとめている神羅兵の一団。
「補給お疲れ様です、神羅山岳部伍番隊長であります。神羅山岳部の中でも
雪山に特化しております」
 ここはミッドガルから距離的にはあんまり離れていない、山を一つ越えた先。
 ミッドガルに近い側はスキー場開発が進んで、観光客が押しかけているのですが
一本道を外れるとまだまだ未開発の険しい山が続いているのです。
 神羅山岳部は、山岳救助隊のヘルプとして、また、自らのレベルアップのために
交代で山に入っているのでした。
 ロッヂの側には、ここまで運んできてくれた飛空艇が停泊中。
 隊長はミッドガルから来た神羅兵と荷物を確認し、思い出したように博士に
向き直ります。
「補給についてきたということは、博士たちもキャンプに参加ですか」
 冗談じゃない、と、宝条博士は全身で否定します。
「子供たちが雪見たいというので、便乗しただけだ。この飛空艇で一緒に帰るよ」
 博士が大声を出した途端、扉が勢いよく開きます。
 熊犬がどっさりと博士に覆いかぶさり、しりもちをついたところに子供達が
のしかかります。
「帰るのやだー」
「まだスキーしてないよ!」
 隊長が笑いながら博士を掘り起こします。
「荷物運びと交代で三日くらいかかるから、その間ゲレンデで遊んでくるといい」
「わんこも一緒でいい?」
「ちゃんと餌やって面倒見てくれな」
 ひゃっほぅ、と、もう飛び出しそうな子供達を犬と隊長が素早く押さえ込みます。
「隊長の言うこと聞かないで暴れる子供は、雪中特訓に連れて行くぞ」
「特訓何するの?」
「オレ強いよ!」
 荷物をまとめている神羅兵が、にやーっと笑います。
「どんなわがままな新米でも、根性叩きなおされてよい子になれる特訓だよ」
「すごいじゃん」
 セフィちゃんが神羅兵に振り向くと、笑い顔のまま、神羅兵は遠い雪山を
眺めます。
「五年前、自分もやんちゃしていた頃がありました…」
「今じゃ立派になったもんだ」
「山岳部と雪中特訓のおかげであります」
 屈強な神羅兵の泣き出しそうな遠い目からして、それはそれは恐ろしい
特訓だったに違いありません。
 セフィちゃんは雪まみれでも寒くなかったのに、鳥肌を立てて一歩たじろぎました。
「オレ、も少し大きくなってから特訓に行くね」
 隊長はふんと笑って子供たちの頭をかきむしります。
「じゃあ、ゲレンデまで連れてってやろう。スキー教室に預けるから先生の
言うことをよく聞くんだぞ」
「はーい」
 ロッヂを出ると、山岳部隊が他にも数名、荷物担ぎに降りてきていました。
 子供たちと犬と、寒いから嫌だと抵抗していたヴィンセントも積み込んで、
隊長は雪上車を走らせます。
「歩いて戻ってこれない距離じゃないが、方向見失ったら簡単に遭難するから、
迎えに来るまでは勝手に帰らないようにな」
「…スキー場でも遭難するのか」
 ヴィンセントが呟くと隊長がうなずきます。
「開発してるのはスキー場内だけ、滑走禁止区域に入ったら、原生林だからな。
装備した登山客もいけないような場所に落っこちてることも多いぞ」
 だって、と、助手席のヴィンセントは後ろの子供たちに振り返りますが、
子供たちは真っ白い世界にはしゃぐのが忙しく、あんまり聞いてないようでした。
「捜索隊や救助隊がそろってなくて、各地の山岳部が応援に来てるような状況だ。
くれぐれも無茶しないように」
 わん、と、熊犬が吠えたので、子供達もいいお返事をしますが、多分半分も
聞いてなかったのでしょう。
 しっかり子守します、と、ヴィンセントが肩をすくめて見せました。

 スキー教室で、スキーの履き方と転び方、リフトの乗り方を教わりました。
 きゃーきゃー騒ぎながらリフトに乗って、初心者コースから転がり落ちると、
なんだかもう、怖いものなしです。
 鼻息荒く上級者用コースに行きたい子供達を、何とかヴィンセントはストックで
引っ掛けて止めます。
「今日は初心者コースで基本のおさらいだ、もう少ししたらご飯食べに行こう」
「オレジャンプ台やりたい」
「ぼくでこぼこの所やりたいの」
 こうやって、こうやって、と、それぞれに真似っ子して見せる子供たちは
微笑ましくとても可愛いのですが、ヴィンセントはにっこり笑って、却下します。
「初心者コースで一度も転ばずに降りてこれるまで、駄目」
「なんだよー、痛くなく転ぶ技なんだよ?」
「転ばないと曲がんないじゃーん」
 そーだそーだと反抗する子供達に、どっさりと熊犬がのしかかります。
 その巨体は、子供二人を簡単に突き飛ばして雪の中に埋めるのに十分でした。
 雪に埋まってから引っ張り出されて、雪を払うまでには何を文句垂れていたのか
忘れてしまったし、どうでもよくなってます、さすがは神羅山岳隊の誇る救助犬。
「じゃーさ、このゲレンデから外に行かないから、自由にしてもいい?」
「1300にこの乗り場に来ないと、ご飯抜き」
 わーいと子供たちはリフトに並びに行きます。
 やれやれ、と、ヴィンセントが肩を落とすと、熊犬が足元にしゃがんで見上げて
いたのでした。
 犬なのでリフトには乗れませんが、さっきスキー教室に参加したときは、
リフトより早く駆け上り、昇降口でみんなを待っててくれました。
「あの子たちの子守してくれないか」
 指差しても、犬は見上げるだけで動きません。
 特におやつも持ってないが、と、ヴィンセントは考えます。
 三人のうち、一番救助が必要と判断されたのでしょうか。
 それはそれで間違ってませんが、さてどうしたものかとヴィンセントは犬の頭を
撫でます。
 と、犬は突然駆け出します。
 豪快に雪に埋もれたスキーヤーを難なく掘り出し、吠えて知らせます。
 よくやった、と、ヴィンセントがいささか危なっかしく近寄ると、雪だらけの
お姉さんは潤んだ目でヴィンセントを見上げていました。
「あ、」
「怪我はないだろうか」
「あの、足、捻ったみたいなんです」
 スキーを脱がせ、肩を貸してリフト乗り場まで連れて行こうとすると、
お姉さんはよほど具合が悪いのか、ぐったりヴィンセントにしなだれかかったまま。
「歩けない?」
「足、痛くて…ごめんなさい」
 寒いのか熱があるのか、ほっぺた真っ赤です。
 けれど、抱きかかえて移動するには、初心者ヴィンセント、スキルが足りません。
 ストックを杖に、何とか二人で転ばずにリフト乗り場まで送り届けます。
「ありがとう…」
「今救護を呼ぶから」
「お茶、しません?」
 足を捻ってこれから病院に行くのに、いつお茶するつもりでしょう。
 ヴィンセントが首を傾げていると、犬がまた吠えます。
 よしきたと駆け寄ると、次は電話番号のメモを握らされました。
 犬が掘り出すまでもなく、ヴィンセントが一歩踏み出せば、なぜか目の前に
転んだり動けなくなってるスキーヤーがいるのです。
 助けた時は手を貸し、抱きかかえないと動けないほど重症らしいのですが
いざ送り届けると今度は手を放してくれなかったり、恐怖のあまりか、
抱きついたまま離れなかったり、こちらが困るほど感謝して、ホテルの部屋番号を
知らせるのディナーをおごるのと迫ってきたり。

 何往復かするうちに、ヴィンセントのスキースキルもがってきたようです。
 なぜか、さっき助けたばかりの女の子が、元気よくリフトに乗ってたように
見えましたが、気のせいでしょう。
 みんなゴーグルや派手過ぎウェアで見分けがつかないのですから。

 ロッヂに残った博士は、神羅兵や隊長、山岳部隊と話しながら、大鍋を
見張っていました。
 くつくつと煮えているのはミネストローネ。
 レーション続き、野菜不足の山岳隊員の栄養補給に丁度いいでしょう。
「山向こうに、ウータイの山岳部隊がいるんですよ」
「大丈夫なのか?」
 ミッドガル、というより神羅は前から緊張関係にあります。
 大きく戦争するまでにはいたっていませんが、なんだかんだと衝突が続き、
きっかけさえあればどこで火花が散るかわかりません。
 けれど、隊長はにやっと笑いました。
「奴らの小豆のスープが死ぬほどうまいんです」
「…おしるこ」
「それ。あと米の甘いスープ」
「甘酒」
 荷物運びしていた神羅兵も、喉を鳴らします。
「雪山にいる限り、所属は違いますがお互い様ですからね。臨時に協力して
遭難者救助したり、合同で飯食ったりしてるんです」
「温かい甘いスープってのが破壊力強いんですよねー」
「…しるこくらいなら今からでも何とかなるぞ」
 隊長は、大きく手を振ります。
「いや、今回は奴らにミッドガルのうまいものを食わせて降参させますんで」
「レーションだと、開けるのだけ珍しがって、後は一言もなかったですしね」
 そんな重大な任務なら、もっとうまそうなもの担いでくるんだった、と、博士は
ぼやきます。
 鍋の面倒見る間も、長期間の山篭りで体調崩したり凍傷になった隊員の手当てで
休んでいる暇はあんまりないのでした。

 風が、雪を蹴散らしながら流れていきます。
 遠くにいろんな色が動いているのが見えますが、さて1m先なのか500m先なのか
さっぱりわかりません。
 手をつないでいるちびたんの顔も、よく見えないのですから。
「…リフトどっちだっけ」
「わかんない」
 ちょっと風が出てきたな、と思ったのでした。
 初心者用ゲレンデで三回ほど滑ってたっぷり転んだので、さてご飯食べに
帰ろうか、と、セフィちゃんは立ち止まりました。
 ちょっと後ろからちびたんが滑ってきて、セフィちゃんが手を振って。
 スキー板をまっすぐそろえてたちびたんはまっすぐセフィちゃんに突っ込みます。
 おっと危ない、と、余裕で避けたセフィちゃんでしたが、ついうっかり山側に
転ばずに、ふもと側に転んでしまいました。
 そのまま、二人仲良く転んだところまではよかったのです。
 スキー板を蹴飛ばして、二人並んで腹ばいに転んで、やっちゃったねえ、と、
笑って起き上がろうとしたら、またずるっと滑りました。
 ほんとに、ついうっかり。
 空飛ぶ変身ヒーローはこんな感じ?と、ポーズをとってみたら、それはそれは
素晴らしい加速がついたのです。
 木や岩を綺麗に蹴飛ばして避けて、ジャンプして綺麗に二人そろって着地を
決めたら、もうどこにいるか全然わからなくなっていたのでした。
「…どっち行く?」
「迷子になったときは、じっとしてた方がいいんだよ、大きい声で助けを呼ぶの」
 自信たっぷりにちびたんが言うと、セフィちゃんもうなずきます。
 ちびたんは、すうっと冷たい風を吸い込み、軽く咳払い。
 空に向けて力いっぱい吠えようとした途端、慌ててセフィちゃんはちびたんを
雪に押し込めます。
「だめだよ、大きい声出しちゃゃ!」
「だって迷子だもん、助けてしなきゃ」
「雪の中で大声出したら雪崩になって埋まっちゃうんだよ」
 へー、と、ちびたんは自信たっぷりのセフィちゃんを見上げます。
「おしゃべりするくらいはいいの?」
「いいよ。でも、大声は駄目なんだよ」
「じゃーさ、どれっくらい大声出したら?」
 そこまで来ると、セフィちゃんにもわかりません。
 なんかそう聞くと試してみたくなります。
 わっ、と、声を出してすぐ黙れば大丈夫でしょうか。
 声を出さないで暴れるのはどうでしょうか。
 大体雪崩ってどんなもんでしょう。見てみないとわかんないです。
 よし、いっちょ吠えてみましょう、と、ちびたんが構えなおした途端。
 ぱふっと雪玉がちびたんの頭に当りました。
 木から落ちたのかな、と、思うと、また一つ。
 セフィちゃんのゴーグルにも当ります。
 すぐに向きの変わる風で、一歩前も見えないのに、ぴったり当るってのは、
偶然じゃないのでしょう。
「だれかいるのー?」
「大声出すな。その場でじっとしておれ」
 周りの木から、ばさばさと雪が落ちます。
 肘を引っ張られて、振り向くと、ロープを持たされました。
「二人連れか」
「うん」
「元気を出してついてくるがいい」
 吹雪で居場所がわからなくなっただけだったみたいです。
 そんなに歩く前に、犬の吠える声がしました。
「ははは、神羅の犬め、気がつくのが遅いわ」
 連れ帰ってくれたおじさんは、犬を撫でてから子供達に
振り返ります。
「今後は十分に注意して遊ぶがいいぞ」
「はーい」
「さらばだ」
 現れたときと同じように、おじさんは雪にまぎれて消えてしまったのでした。
 子供たちは犬に引っ張られながら待合室に戻ります。
 なんだかぐったり疲れ果ててベンチに座ってたヴィンセントが、雪まみれの
子供達に今頃びっくりして立ち上がったのでした。

 吹雪は、そんなに長く続きませんでした。
 ロッヂに戻って、子供たちはちゃんと迷子になったこととスキー板を
なくしたことを報告します。
 当然叱られ、監督不行き届きのヴィンセントも叱られたところで、隊長が
これ以上はないほど苦い顔をしていました。
「…誰に助けてもらったって」
「わからんっ」
「剣道のお師匠さんみたいな喋り方してた!」
 隊長ははぁ、と、ため息一つ。
「…坊ちゃん達、あれがウータイ忍者だ」
「忍者!」
「すげー!」
 忍者がなんだかもよくわかってないようですが、単語だけ知ってる子供たちは
大喜びで、忍者ごっこと称して雪玉投げに励みます。
 山岳部隊と神羅兵たちは相談しながら、今回のお礼にウータイになにあげようか
算段し始めました。
 宝条博士は、叱られてうなだれてから、まだ立ち直れていないヴィンセントを
覗き込みます。
「無事に帰ってきたんだから、もういい。次は気をつけてやってくれ」
 ヴィンセントは、力なく首を振ります。
 なんか、頬や首に赤い跡がいくつもいくつもついているじゃありませんか。
「しもやけか、怪我したか」
 くすんと鼻を鳴らしてヴィンセントは首を振りました。
「…私は、まじめに救助活動をしていただけなんだ、なのに、怪我人は一人も
いなくて私はなぜか追い回されて付きまとわれて」
「何言ってるんだかさっぱりわからん。何してたんだ」
 わからない、と、ヴィンセントは顔を覆います。
 困ったねえ、と、犬が顔を舐めてくれました。

 吹雪なんか嘘のように晴れ上がった空。
 真っ白い雪に埋まった世界も、そろそろ夕日に染まって行きます。
 風邪引かないように遊んだら、温かいご飯食べてぐっすり眠りましょう。

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laboratory1 at 19:12|PermalinkComments(2)TrackBack(0)この記事をクリップ!12:冬休み | 11:おまけコーナー

December 09, 2008

揺ぎ無いものを探して

 生キル力参ります。
 このところ更新が早いのですが、単に空き時間があるだけです(断言)。
 青春18きっぷ期間が明日から。年末にかけてまた行方不明になる可能性大です。

【荒筋】
 検査入院中だったヴィンさん、デスギガスに変身してとんずらこきますが、
神羅兵兄さんの活躍により、無事保護されました。

 ミッドガル全域が雨模様。
 机上の計算では完璧だった排水設備は、バケツをひっくり返したような
土砂降りの前に簡単に屈服し、道路はいつも通りに冠水する。
 景気良く空を照らし、地上を揺るがす雷程度、驚くのはミッドガルに来て
半年未満のおのぼりさんだけ。
 慣れた市民は雷警報が出た時点で外出を控え、自宅でろうそくか石炭ストーブを
頼りに、まったりと過ごすことに決めているのだ。

 冠水した道路を長靴で歩いて帰ってきた宝条は、家の前に止めてある軍用の
スクーターを覗き込む。
 神羅兵団のステッカーが貼られてはいたが、形式は神羅で発表している家庭用
お気楽スクーター。
 なにやら可愛らしい外観に頬を緩めてから、宝条は扉を開く。
 雨合羽も長靴も脱いだ頃、衛生兵が顔を出した。
「お帰りなさい、勝手に上がらせていただきました」
「ああ、構わない。それよりありがとう」
 玄関に常備のタオルと雑巾で、何とか足を拭き終えるのを、衛生兵はじっと
眺めていた。
 宝条が顔を上げると、脂汗をにじませた顔でうつむく。
「…あの」
「私の独自の習慣だから、破られたところで怒ったり文句言ったりしないから
心配ない。基本土足で問題ないから気にしなくていい」
「すみません、泥靴で上がりました」
「問題ない。基本この家は土足だ」
 でも、気がついたなら、足拭いてスリッパ使ってくれ、と、宝条は付け足す。
 何、靴履いて家の中に入ってはいけない風習もあれば、人前で靴を脱ぐことが
裸になるより恥ずかしい風習もあることくらい、宝条だってわかっている。
 幸いこの家の絨毯は土足仕様。足跡や泥水程度、掃除すればいいだけのこと。
 風呂場でしっかり足を洗ってきた衛生兵は、スリッパを突っかけて戻ってきた。
「すみません、知らなかったもので」
「人の土足はどうでもいいんだが、自分の土足はどうしても出来ないんだよ、
非科学的だが、民族風習の呪縛は恐ろしいものだ」
 きょとんとしている衛生兵の肩を叩き、宝条は荷物を抱えて奥に入る。
「捕り物お疲れさま。みんな怪我なかっただろうか」
「大雨にやられたんで、パンツ絞れるほど濡れたくらいですかね」
 上着もズボンも手で絞ったのだろう、いたるところくしゃくしゃの衛生兵は
屈託なく笑い、宝条の部屋を開ける。
 枕を抱え、毛布にくるみこまれた大きな塊が一つ。
 毛布の隙間からは、半分閉じかけた真っ赤な瞳が覗いている。
「骨折や外傷、腫れはありませんでした、足の裏に少しだけ傷がありましたが
洗って消毒してあります。あと、少し熱がありました」
 赤い瞳は、眠たそうに瞬き一つ、二つ。
「何か薬は」
「足洗ったときにオキシドール少し。まだ食欲がわかないようなので、解熱剤は
使ってません。スポーツドリンクだけ好きなだけ飲ませてます」
「ありがとう、適切な処置だ」
 宝条が毛布をずらすと、ギィの眠たくて恨めしい顔が覗く。
「見つけたときから、眠くて眠くてひっくり返りそうなのに、寝ないんですよ」
 鼻を摺り寄せるように顔を寄せて、おかえり、と、呟くと、ギィも何か呟く。
 肩を叩いてやると、重いまぶたが一度は閉じるが、また、弾かれたように
目を開けて、瞬きをする。
「何で頑張って起きてるんだ、君は」
「疲れすぎて興奮しすぎて寝られないのかもしれません。睡眠導入剤ありますが」
 衛生兵は薬箱を出すが、宝条は軽く手を振る。
「こっち、私の部屋だから、寝心地悪いんだろうよ。玄関脇がヴィンセントの
部屋なんだ、連れて行くからちょっと手を貸してくれ」
 宝条は毛布をめくって、ギィを起こそうとする。
 と、眠くてよれよれのギィがしっかり目を開けた。
 宝条を押しのけるようにして、体を起こす。
 どうした、と、覗き込むと、言葉を持たないギィはもたもたと寝巻き代わりの
Tシャツを脱ぎ捨てる。
 発達しすぎた肩と首が抜けずに困っているのを衛生兵が助けると、今度は
トランクスを脱ぎ捨てた。
 見事な筋肉で覆われた裸体は、熱っぽい湯気をまとわりつかせている。
 起き上がり、ベッドにどっしりと座ったギィは、肩を揺らしてひゅうひゅうと
息をこぼしながら、宝条をまっすぐ見ていた。
 吐き気がするのか、トイレに連れて行こうか、と、宝条が口を開こうとした途端。
 甲高い金属音が宝条と衛生兵の耳を劈く。
 ギィの姿が薄いガラスのように砕けて埃になり、後に残ったのはヴィンセント。
 全身に噴出した脂汗に、埃と鉄錆と、伸び放題のくしゃくしゃの髪とわずかな
無精髭だけまとわりつかせ、ヴィンセントはぜいぜいと荒い息を整えていた。
 ほんの数秒でおきた変化に、ぽかんと口を開けていた宝条の目を覗き込み、声を
出さずに、何か呟き、首を傾げる。
 ああ、と、意味もわからずに宝条が返事をしたのを確認すると、ヴィンセントは
そのまま大の字になって、ベッドにひっくり返った。
 唾を飲み込んで、やっと我に返った宝条はヴィンセントを覗き込む。
 大口を開けたまま、およそエリートタークス様が絶対にしないだろう大いびきを
かいて、ヴィンセントは気持ちよく眠りに落ちていた。
 汗を拭いて、パジャマを着せて汗だくのシーツを替えるためにごろごろと
転がしてみても、ふにゃふにゃと寝言を呟くだけ。
「私さ、ヴィンセントが元に戻るの初めて見たよ」
「あれ、俺結構見てますよ。タイミング合わなかったんですね」
 寝心地を整えてやると、いびきをかくのも面倒になったのか、ヴィンセントは
静かに寝入る。
 脈も熱も、急いで薬を使わなければならないほどの異常ではなさそうだ。
 宝条と衛生兵は、そっと部屋を出る。
「保護した後も、車の中では寝ないで頑張ってたんで、別の診療所や兵営に
連れてっても余計緊張するだろうって、博士の家に連れて帰ってきたんですよ」
「急のことだったんで、部屋割り説明しなくて悪かった。ヴィンセントの部屋は
玄関の隣だったんだ」
 だが、衛生兵は首を振る。
「一週間以上使ってない寝床と、今朝飛び起きた寝床の違いくらいわかりますよ。
そっちに先にギィを連れてったんですけど、ベッドに腰掛けるだけだったんです。
リビングでもごろごろするけど、眠くて潰れそうなのに寝ないし。博士の部屋まで
連れてきたら、限界だったのか寝心地よかったのかわからないけど、横になって
落ち着いてくれたんで」
 ふぅん、と、宝条は首を傾げて生返事だけしておいた。
 衛生兵は気にせず、話を続ける。
「今のところ、食欲ないのと熱っぽい以外、目立った異常はありません」
「左腕、どうだった」
「腫れもありませんでした。みんなで腕相撲して遊んでも、ご機嫌でした」
「そうか」
「お使いでも雑用でも、用事あれば今の内に」
 宝条は首を振る。
「ありがとう、もう大丈夫だ」
「では、自分はこれで!」
 びしりと敬礼をして歩き出そうとした衛生兵の腹が、きゅう、と鳴る。
 堪えきれず笑った宝条に、衛生兵は頬を赤くした。
「有り合わせしかないが、宿舎に帰るまでの燃料補給していかないか」
「ご馳走様です!」
 ルクレツィアの実家からもらった特上ベーコンとチーズ、新鮮卵の目玉焼きと
レタスをこれでもかと挟んだサンドイッチに、衛生兵は大喜びしてしっかり
燃料補給を済ませ、そろそろ小ぶりになってきた雨の中、帰っていった。
 雨模様でとっくに空は暗くなっていたので気がつかなかったが、もうすっかり
夜が更けていたらしい。

 小さめに切ったサンドイッチを皿に並べ、蜂蜜レモンとスポーツドリンクを
抱えて、宝条はヴィンセントの眠る部屋を覗く。
 抱きかかえた枕に顔を埋めて気持ちよさそうに眠るヴィンセントに、頬を緩め
額に手を当て、脈を取って、毛布だけかけなおして、そっと部屋を出る。

 二度目に部屋を覗くと、ヴィンセントは寝返りを打って宝条に顔を向ける。
「いいよ、寝てて」
「ん」
 熱っぽい体は水を飲んだ分汗をかくらしい。
 顔と首の汗を拭くと、ヴィンセントがくすんと鼻を鳴らした。
「どこか辛いか」
「混浴したい」
「だから、混浴は、公共の浴場で男女の区別なく一緒に入浴することであって」
「知ってる」
 ヴィンセントは宝条の首に腕を回す。
 丁度背中が浮いたので、宝条は濡れタオルで背中と脇を拭ってやった。
 それでもまだヴィンセントは首にしがみついたまま。
 宝条は、背中をさすって、熱っぽい頬に顔を押し付ける。
「悪かったな」
「何が」
「検査で嫌な事されたろ。気がつかなくて、止められなくて、悪かった」
 ヴィンセントはわずかにうなずく。
 宝条は空いた手で、届く範囲だけ汗を拭い、汚れたタオルを何とか回収する。
「ちょっと、きつかった」
「ごめんな」
「うん」
 宝条は、ベッド脇の椅子にしっかり腰を下ろす。
 一度宝条から離れたヴィンセントは、自分で起き上がる。
「あのさ」
「うん」
「縛り上げて観察してくれなんて、頼んでなかったんだ」
 ヴィンセントは、表情を変えずにうなずく。
 そのまま、宝条も、ヴィンセントも黙り込む。
 しばらくたってから、ヴィンセントがぶるっと肩を震わせ、宝条が我に返って
愛用の綿入れを肩に着せ掛けた。
「何か食べるか」
「蜂蜜レモン、温めてくれないか」
 サンドイッチは一かじりだけしてあきらめたらしく、歯形だけ残っていた。
 温めた蜂蜜レモンを、一口ずつ飲んで、ヴィンセントはため息を漏らす。
「おかゆかスープがいいか」
 ヴィンセントはのろのろと首を振った。
「今、いらない」
「そうか」
 ゆっくり、ゆっくり蜂蜜レモンを飲み干して、ヴィンセントはベッドに寝転ぶが、
目は開けたまま。
 宝条が毛布をかけてやろうとすると、首を振る。
「眠くない」
「何言ってるんだ、くたくたのくせに。さっきも一時間くらい落ちてたぞ」
 眠くない、と、ヴィンセントはふくれっつらをして枕を抱く。
「横になって体休めてるだけでもいいよ、熱下がったら風呂入って体洗って
さっぱりしてから寝ればいい」
 ふくれっつらのヴィンセントは、宝条の腕に手を伸ばす。
「眠くない」
「興奮してるんだよ、睡眠導入剤使うか?」
 駄々っ子は宝条の腕を引いて、唇が触れるほどに顔を近づける。
「…っこ」
「何?」
 ヴィンセントの眠たくて熱っぽい頬は、更に紅潮し、目は潤んで半ば溶けている。
 聞き取れなかった宝条が顔を近づけると、顔を舐め、唇を押し付けてきた。
 拘束されていた間、体を洗えなかったのだろう。
 雨や体を拭いたくらいでは流せない、野犬のような体臭が立ち込めるが、
不快ではなかった。
「寝られるまで、抱っこ」
「…駄々っ子め」
「うん」
 宝条は、ヴィンセントを抱きかかえ、背中を撫でる。
 髪を撫で、背中を撫でて、しばらく脈を聞き、体温を肌で測る。
 それから、ヴィンセントの顔を覗き込んだ。
「あのな」
「…わがまま言って見ただけだ。もう寝る」
「君に言ってなかったし私だけのこだわりなんでどうにでもなるんだが」
 うん、と、ヴィンセント顔を上げる。
 宝条はヴィンセントと離れてから、咳払いを一つ。
「君の部屋、向こうだ」
「うん」
「こっち、私とルクレツィアの部屋なんだ」
 ルクレツィア、と聞いた途端、ヴィンセントの眠くてよれていた背中が伸びる。
「彼女の同意は取っていないから、私が勝手に決めてることなんだが、その、
この部屋は夫婦の寝室として、」
 瞬時に目が覚めて駄々っ子気分も飛んだらしい。
 ヴィンセントは跳ね起きてベッドから飛び出していた。
「ごめん、わるかった、気がつかなかったんだ」
 飛び出したはいいが、足腰が眠くて仕方ないらしい。
 そのままぺたんと床に座り込み、宝条が慌てて綿入れを肩にかける。
「いいから寝てろ」
「ごめん、甘ったれて、つい」
「君が潜り込んでも別にいいんだ、実質今私一人の寝床で、不精して汗臭くて、
彼女が急に帰ってきたら叱られて拒否されること間違いないから」
 引っ張り上げようとしても、しょんぼりしたヴィンセントは首を振るばかり。
「ごめん」
「いや、その、こっちの部屋で君の要求に応じられないと説明したかっただけで」
 参ったな、と、宝条は額を押さえ、ヴィンセントがくすっと笑う。
「…向こうで寝るよ」
「怒ってるんじゃないんだ、ほんとだぞ」
「わかってる」
 肩を貸して部屋まで送り届けると、ヴィンセント倒れるようにベッドに潜り込む。
「こっちの部屋寒いか?暖房入れようか」
 ヴィンセントは遠慮なしにあくびをしてから、宝条の手を引く。
「…だっこ」
「うん」
 上着だけ脱いで、ベッドの中に潜り込むと、ヴィンセントはしがみつくように
宝条に顔を寄せる。
 薄い胸に顔を押し付けると、それで落ち着いたのか、ため息を漏らす。
「…汗臭い」
「君が駄々こねるからまだ風呂入ってないんだよ」
「うん」
 ヴィンセントが、くすくす笑って体を揺らす。
「うちに、帰ってきたとき」
 あくびをかみ殺しながら、ヴィンセントが呟いた。
「新築の匂いで、シーツが洗い立てで、洗剤の匂いだった」
「今一人で忙しいけど、それなりに洗濯はするよ」
 うん、と、ヴィンセントは宝条の胸に頬を摺り寄せる。
「洗い立ての匂いしかしないから、病院に連れ戻されたのか、知らないところに
連れてこられたのかわからなくて、怖かった」
 あ、と、宝条は声を漏らす。
 ヴィンセントは宝条に顔を押し付け、くすんと鼻を鳴らす。
 引っ越したばかり、ほんの二日しか過ごしたことのない家だ。
 変身後の曖昧な記憶と思考では、宝条の匂いしか判断材料がなかったのだろう。
 宝条はヴィンセントの背中を撫でながら、苦笑いする。
「目印になるほど臭いか」
「落ち着く」
「なんだ、それ」
 ヴィンセントはくすくす笑う。
「前に、ミッドガルにいたとき、お前の布団に潜り込んで寝てたから、同じ匂いで
ほっとした」
 じゃ、これから香水でもつけよう、やめてくれ、と、しばらくつつきあってから
やがて、ヴィンセントは今度こそ落ち着いて、眠りについた。
 大きな体を丸めるように、しがみついているのが窮屈そうで、なんとか
のびのび寝かせてやろうと宝条はしばらく苦心してみたが、捗々しい改善を
見ないまま、自分も睡魔に囚われていく。

 雷雲はどこかにいってしまっていたが、雨は夜通し降り続いていたらしい。
 ミッドガルの町はいつになく早仕舞いして、静かに眠っていた。

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laboratory1 at 18:20|PermalinkComments(3)TrackBack(0)この記事をクリップ!5:生キル力 

December 05, 2008

神の鉄槌、地を轟かせ

  生キル力参ります。

【粗筋】
 ヴィンセント、病院から自主退院してどこかに行っちゃいました。
 タークスの同僚と宝条で病院に駆けつけて迷子の捜索にあたります。

 神羅兵隊長は、顔をしかめて空を見上げていた。
 午後になってから曇ってきた空は、まだ日没には早いが日差しを遮る。
「嫌な雲だな」
「雨になる前に連れて帰れればいいんですが」
 同じように神羅兵が空を見上げると、隊長は首を振った。
「今の内に装備変えとけ、ゴム長とゴム引きの雨合羽。雨の前に雷が来る」
 うわぁ、と、トラックの中の神羅兵たちが悲鳴を上げた。
 急に暗くなった町に、ぽつぽつと街灯がともっていく。
 鼻を突くオゾンの匂いに隊長は顔をしかめ、トラックの運転席を覗く。
「連絡は」
「先ほど、ミッドガル市警との連携協力ができたと報告がありました。最新情報が
市警からも届くそうです」
「見つかったら絶対手出しせず、野次馬の整理だけしてもらっとけ」
「了解です」
 山岳地帯の大都会ミッドガルは、天候が乱れるたびに雷神の標的となり、
神の怒りを一身に浴びてしまう。
 都市開発部門で、何とか雷対策を考えているらしいが、実現までにはまだ時間が
かかるらしい。
「ヴィンセントさんならミッドガルの雷が怖いのは知ってるはずだけど、ギィに
なっても覚えててくれますかね」
「今心配しても雷は避けてくれない。何事も起こらない内に迎えに行くだけだ」
 ニブルヘイムに詰めていた神羅兵10人のうち、ミッドガルにいて動けたのは
隊長と衛生兵を含めて6人。
 タークスから出動要請があったときに、ニブルヘイム経験者以外ならいくらでも
動ける者がいたが、隊長が断った。
 大勢の神羅兵で動けば、テロリストかモンスターかと市民が動揺する。
 動揺したところに、今は言葉が通じず、迷子になってうろついているギィが
鉢合わせるのは、どちらにとっても楽しいことにはならないだろう。
 神羅兵の出番は、ヴィンセントが見つかった後。
 意思疎通が出来ずに連れ戻すことが出来なかった場合の、速やかな保護。
 トラックの荷台には、着替えや乾いた毛布、温かい飲み物が準備してある。
 その脇に、どうにもならなかったときのために、麻酔銃。
 それから、市民の安全を優先するしかなくなった時のための武器。
 隊長は、もう一度空を見上げた。
 雷を溜め込んだ雲は、鈍く光りながら標的を探しているように見えた。

 連絡が入るまでには、それほど時間がかからなかった。
「伍番街外周、一般企業のスクラップ置き場だそうです」
「何でまたそんなところまで迷ったんだか」
 まだ開発中の伍番街は、資材とスクラップと空き地ばかりだ。
 神羅兵たちが到着すると、青ざめた顔の警官が振り返り、ため息を漏らした。
「あれ、ですよね、今はおとなしいんですが」
「暴れましたか、どなた怪我は」
 警官は首を振る。
「かなり前からじっとしてるんですが、近づけないんですよ」
「近づかなくていいです、あとは我々が」
 管理が悪く、不安定に積み上がった鉄くずは、乾いた風に揺られて、耳障りに
軋み、錆を撒き散らす。
 潰れた車に寄りかかるようにして、ギィが座っていた。
 赤く、どす黒く汚れた白い体に、神羅兵がぎょっとするが、警官が手を振った。
「鉄錆です、自分らもこの辺パトロールした後は、制服がすごいことになります」
 タイヤに座ったギィは、車に寄りかかってはずり落ち、跳ね起きてはうつむき、
気を取り直して起き上がっては仰向けにひっくり返っては、別の鉄くずに頭を
ぶつけて飛び起きる。
「…眠いんだな」
「しばらくあんな感じです」
 では自分がお迎えに、と神羅兵が立ち上がった途端。
 眠くて仕方ないギィが目をむき、歯を食いしばって睨んでいた。
 青白く輝いた鉄くずの城は、地響きに揺れ、火花を散らす鉄粉を撒き散らす。
 一瞬、城と一緒に輝いたギィは、満面で笑ったように見えた。
 衝撃でひっくり返された神羅兵たちの耳鳴りがやむ頃には、ギィはまた、
眠たそうにふらふらと揺れていた。
 スクラップ置き場はまだ帯電し、蛇のように走る火花はぶつかったもの全てを
青白く発光させながら逃げ回っている。
「…雷、来たか」
 隊長は予備の雨合羽と長靴を警官に渡すが、警官は合羽だけ受け取って首を振る。
「あいつです。ちょっとでも近づくと雷で攻撃してくるんで、手が出せない」
 空は、鈍い光を溜め込んでごろごろと鳴り続けている。
 鉄くずの城を走り続けた光の蛇は、やがて力を失い、消えていく。
 日光はとっくに雷雲に遮られ、眠たいギィは鉄くずにまぎれて見えなくなった。
「サーチライト使いますか、暗視スコープ使いますか」
「いつ雷くるかわからない時に、暗視スコープは無理だ。脅かしてしまうが、
ライトつけろ、居場所さえわかればいい、顔に当てないように狙え」
 雨合羽を羽織った警官をトラックに逃がしてから、神羅兵はサーチライトを
スクラップ置き場の地面に当てる。
 血を浴びたようなギィの体を明るい円の中に捕まえた途端、世界が光に満ちた。
 内臓がひっくり返って口から飛び出しそうな地響きと轟音に、鉄くずの城から
光の竜がまっすぐ空に駆け上り、ミッドガル中に雷を降らしていった。
 数秒の後、我に返った神羅兵は、地響きで照準がずれたサーチライトを動かし、
ギィを探す。
 まだ輝きながら揺れてきしんでいる鉄くずの城の麓は、崩れたスクラップで
埋め尽くされているらしい。
 サーチライトの狭い円をいくら動かしても、ギィの姿を見つけられないのだ。
「俺、行きます」
 飛び出そうとした神羅兵を、隊長が遮り、拾い上げた鉄くずを放り投げる。
 まだ帯電している地面から火花が散り、鉄くずははじかれて跳ね回る。
「まだだ、待て」
「けど、ギィが」
 隊長はうなずくが顔はまっすぐ鉄くずの城を見つめている。
「生き埋めになるほど崩れてない。それに」
 振り返った隊長は、にやーっと笑って見せた。
「さっきこんな顔してご機嫌だったぞ、あれは、雷無効どころか吸収してる」
 やがて、サーチライトの円の中に、ちらりとギィの顔が見えた。
 自分で覗き込んでおいて、明るさにびっくりしたのか、すぐに円の中からは
いなくなったが、神羅兵たちをほっとさせるには十分だった。
「…さて、どうしますか」
「少し待ってれば寝付きそうだが…」
 隊長は、雨合羽のフードを取って空を見る。
 空を暴れまわっていた光の竜は、もう仕事を終えて天に帰り着いたのか、雲は
鈍く光を残しているだけ。
 オゾンと鉄の匂いで一杯だった空気に、すーっと水の匂いが混ざってくる。
「雨が降ってくる前に終わらせよう。俺が行く」
「援護します」
 隊長はギィの着替えを抱え、雨合羽を脱ぐ。
「制服見てもわかってくれなかったら仕方ない、俺のことは二の次でいい。
スリプル、麻酔銃の順に使い、市街地まで行って暴れるようなら武器を使え」
「もう一人、行きましょう」
「大勢で行っても脅かしてしまう。すぐ戻る」
 ヘッドライトと、背後からのサーチライトを頼りに、隊長はスクラップ置き場に
足を踏み入れる。
 一歩ごとに火花が散るが、ゴム長に踏み散らされて消えてしまう。
 明るかった時に見ておいた、ギィが寄りかかっていた潰れた車を探していくと
足元から光の蛇が飛び出し、弾けて消えた。
 一瞬の光の中に、ギィの赤い瞳が照らし出され、隊長はほっとして笑った。
「ギィ、帰ろう」
 向こうからは見えているのかいないのか、ぐるぐるとうなり声が漏れる。
「忘れちゃったか、一緒に格闘の稽古したろう?」
 手を差し伸べると、大きな節くれだった手のひらが、探るように掴んでくる。
 力は込めていなかったが、肌を走る静電気に、隊長の手が一瞬こわばる。
 驚いて離れた手を、隊長はしっかり握り返した。
「そのびりびり技、後で教えてくれよ」
 腕を辿って体を見つけ、後はご挨拶にしっかり抱いて背中を叩いてやる。
 すかさず、あばらを軋ませるほどのお返しベアハッグが来て、それから、ほっと
ギィがため息を漏らし、肩の力を抜いた。
 よしよしと背中を撫でていると、ぽつりと雨粒。
 おや、と、ギィが顔を上げると、堪えきれなくなった雲から雨が溢れだす。
 隊長は、ギィに着替えを着せ掛けようとして、手探りで触れた体がもう雨に
濡れているのを確かめ、苦笑い。
「体拭いてから、着替えような」
 シャワー代わりとばかりに本降りになった雨に、俺は合羽脱がなきゃよかったよ、
と隊長は吠え、ギィも真似するように吠え、ぐしゃぐしゃと隊長の頭をかきむしる。
 トラックまで戻ると、神羅兵たちと警官が、ぎょっとして二人を出迎えた。
 隊長も、素っ裸のギィも、頭から被った鉄錆が雨で流れて血まみれにしか見えない。
「俺のは鉄錆だ。ギィは怪我してないか見てやってくれ」
 汚れを拭ってもらったギィは大あくびしてトラックの幌にもたれるが、目は
閉じず、トラックの中をぼんやり見回していた。
 下着や上着を着せ掛けられようとして、自分で出来ると手を伸ばすが、眠くて
どうにもならずに、手伝ってくれる神羅兵に笑われる。
「こんないい体見せ付けて歩いてたら、町のお姉ちゃんがきゃーって言って
失神しちまいますよ」
 わかっているのかどうか、ギィはこっくりうなずき、目を閉じかけて体を起こす。
 怪我がないか調べていた衛生兵が、左腕を調べ終え、ギィに毛布をかけた。
「博士が、腕折れてるって言ってませんでしたっけ」
「大丈夫だったか」
「なんともないです。ただかなり熱あります」
 寝てていいよ、と、声をかけても、ギィはぼんやり瞬きをするだけ。
 温めたスポーツドリンクを一気に飲み干して、後は眠たくて、時々こぼしながら
常温のジュースを飲んで、口まで持っていったビスケットやチョコレートを
もたもたとしゃぶる。
 起きているのがだるいのか、いつの間にかずり落ちて荷台に寝そべっていたが
誰かが覗き込むと、寝てないよ、と目を開けて答える。
 雨は、トラックの幌を突き破る勢いで降り続けている。
 連絡が済んだ隊長が、荷台を覗き込んだ。
「お巡りさん、どこまで送りましょう」
「いや、自分で帰れますよ」
「雨降ってるし、市街地まで一緒ですから」
「すみませんね」
 ずっとギィを珍しそうに見ていた警官は、四番街の交番で降りた。
 隊長はトラックを降りて、警官に耳打ちする。
「モンスターや化け物じゃありませんから」
「あ、いや、でもね」
「後で、今回の騒動について、神羅の責任や賠償を含めて相談をさせてください。
それまで、他言不要でお願いします」
「だけど、あれ野放しにしておいたら、いくら神羅さんでも」
「あれじゃなくて、うちの社員ですから」
 歯切れ悪く神羅兵のトラックを見送る警官が、交番に戻る前に、滑り込むように
車が止められた。
 驚く暇もなく出てきたのは、書類ケースを抱えたタークス。
 そつなく挨拶したタークスは、即警官を交番に押し込む。
 扉を閉める前に、走っていくトラックを一瞥だけ。

 土砂降りの雨音だけが、町を満たす。
 遠くの空が、未練たらしく雷を撒き散らしていたが、もう、ミッドガルに
降らせる分は残っていないようだった。

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laboratory1 at 16:13|PermalinkComments(1)TrackBack(0)この記事をクリップ!5:生キル力 

December 03, 2008

自分の目で確かめるまでは

 11月30日で4周年だったのですがっ
 遊んでばっかりなので話を先に進めます。

 生キル力参ります。

【粗筋】
 ヴィンさん検査入院しましたが、変身珍しがられて、退院させてもらえません。
 遊び相手がいない宝条は、看護師さんのナンパに余念がありません。

 病院から乗せられたタクシーは、神羅製作所の正面玄関に停まる。
 ぼんやりしていた宝条は、運転手に声をかけられてから、我に返った。
「ここでいいですか」
 我に返った宝条はうなずいて、財布を開く。
 お釣りを受け取って、さてどうやって荷物を持っていこうか考えていると、
タクシーの窓が外からノックされる。
 運転手が振り返る前にノックの相手は難なく扉を開き、車内に身を乗り出す。
「宝条博士、乗り換えてください。至急」
 ダンボールをどうやって外に引きずり出すか苦心中だった宝条は顔を上げる。
 見覚えのある制服はタークスのものだ。
 顔は、思い出せない。
 もっとも、宝条に見分けがつくタークスはヴィンセントと主任くらいなのだ。
 後の連中は常に隠密活動中なのだから、顔を見知っているほうがおかしい。
「何の用だか知らないが、私は荷物を研究室に届けて、厳重に管理しないと
ならないんだ」
 知らない人についていってはいけませんと、うるさいタークスにしつけられたし、
と、つけたしてみると、タークスの目が笑う。
「荷物は我々で預かって管理できます。協力願います」
 宝条は首を振り、タークスから見えないように荷物を背後に押しやる。
「誰にも見せてはいけない資料が入っているんだ、管理ついでに確認したり
整理されたら困る」
「時限爆弾と賞味期限30分以内の生ものが入っていない限りは荷主の希望通りに。
ただ、ここで悠長に遊んでいる暇がない。他人に聞かれたくない緊急事態なんだ、
荷物抱えてこっちに移ってもらえませんか」
 タクシーの運転手が、出発できずに困っている顔が、バックミラー越しに見えた。
 宝条がしぶしぶ体をずらすと、すかさずタークスは反対側に回り込み、ドアを
開けて荷物を担ぎ出す。
「中は見るな!」
「科学部門の博士の席に置きますか、封をして調査課特製金庫で預かりますか」
 仕事中のタークスは、どんなに面がよくても、どんなに笑顔が柔らかくても、
底の知れない恐ろしい目をする。
 宝条はのろのろと首を振って、タークスから目をそらせた。
「厳重に預かってくれ、科学部門の連中にも間違っても見られたくない」
 待機していたほかのタークスが荷物を抱えて車内に消え、宝条はまた車に
押し込まれていた。
「何だ、緊急事態って」
「ヴィンセントが自主退院した」
 がくん、と、背もたれに押し付けられるほどの乱暴な加速で、車は走り出す。
 宝条はぽかんとして、バックミラー越しにタークスを覗き込む。
「…さっき病院に行ってきたんだが」
「その病院からの救援依頼だ、一般の警察に連絡したり隠し立てする前に神羅に
相談したことだけは評価しておく」
 シートの背もたれにつかまって、何とか宝条は体を起こすが、タークスは正面を
睨んだまま、車を走らせる。
「自主退院って、さっきは面会も出来なかったんだが」
「単刀直入に言えば逃げたんだ。元々病院嫌いだから」
 そうか、と、宝条は納得して肩の力を抜いて、それから目をむいて跳ね起きた。
「相談に行こうかと思ってたんだ、ヴィンセント、病気を珍しがられて監禁されてるかもしれん」
「だから、もう監禁されてるのに飽きて逃げたんだって」
 信号待ちの間に、タークスは振り返る。
「まず病院に行く。博士は関係者に話を聞いて状況判断して欲しい。それにより
人の手配、捜索方法を検討し、速やかにヴィンセントを連れ戻す」
 信号がもう変わる。
 タークスは正面に向き直り、できるか、と、バックミラー越しに首を傾げる。
 宝条は、一つ深呼吸をして、うなずいた。
「…さっき病院に行ったばかりなんだ」
「聞いた」
「説明だけされたんだが、今どうなっているのかはっきり確かめられないまま、
帰ってきてしまった」
「逃げる元気は有り余ってたみたいだな」
 バックミラー越しにタークスが目を細めていた。
「病院嫌いで有名なんだ。何月何日まで病院で待機、と、主任命令でも出さないと
勝手に帰ってくる」
 死地でも病院でもお楽しみでも、自分の用事が済んだら、速攻帰還がタークスの
モットーだ、と、本気だか冗談だかわからない表情でタークスは呟き、大きく
ハンドルを切る。
 さっき出てきたばかりの病院が目の前にあった。

 神羅の総務部から来ました、と、挨拶すると、スタッフはほっと肩の力を
抜くが、すぐ後ろにいた宝条を見て息を飲む。
「約束が違うじゃありませんか」
「博士?捜索の情報収集に必要なのでご同行願いました。なにか問題でも」
 タークスの冷たい視線は、麻痺睨みか何かの効果があるのだろう。
 可哀想に一般人のスタッフは怖気づいてしまい、まだ本題にも入らないうちに
顔色をなくしてしまっている。
「社員がご迷惑おかけいたしました。退院手続きは私が代行します。検査と入院の
費用は現金で清算しますので、検査結果を全て返却お願いします」
「じ、事務の手続きは後で構わないのですが、検査結果は解析がまだなので、」
「解析はこちらでいたします」
 タークスは身をかがめるようにして、スタッフを覗き込む。
「私の一存では、お返事できませんので、あの、」
「では、先に宝条博士をヴィンセントが逃げた現場に案内願います。その間に
検査結果を持ち帰れるようにしていただければ結構です」
 丁寧に静かに喋っているが、選択肢はない。
 神羅の直属でもない病院の一スタッフが、タークスの制服が何を意味するのか
知るはずもないのだが、迫力に気おされて、言葉も出なくなってしまっている。
「もし、そちら様でご希望であればのお話ですが」
「すみません、ちょっと、相談をしてまいりますので、あの」
「今後、何らかの事故で、今回の検査データが外部に流出されたり、心無い
医療関係者が勝手に自分の研究に流用しないとも限りません。未然に事故を防ぎ
この病院を守るために、神羅から専門の書類整理班を派遣できますが。勿論、
出資者としての善意からの申し出ですので、費用はいただきません」
 ひぃ、と、みっともない悲鳴を漏らし、スタッフは逃げ出した。
 タークスは何事もなかったように宝条に振り返る。
「自分は検査結果の受け取りと退院手続き終わり次第状況確認に行きます」
「…病室がわからないんだが」
 タークスはにやにや笑って、廊下の向こうを指差す。
 逃げ帰ったのとは別のスタッフと、もう少し偉そうなのが駆け寄ってきていた。

 大柄なスタッフに連れて行かれたのは、病棟を二つ抜けた先。
 隔離病棟らしく、入り口と各部屋ごとに厳重なロックがかかって外気と
遮断されている、いや、されていたらしい。
 ガラスの扉は粉々になって、床に散乱していた。
 金属の扉もひしゃげてロック部分からまだ火花が飛んでいる。
「…自主退院されまして」
「いいよ、大暴れして脱走したって言えば」
 宝条は他の部屋を覗く。
 埃っぽく、明かりもついていないところからして、他に隔離が必要な患者は
いなかったようだ。
「旧病棟です、感染症患者が多い時に開放しています」
「逃げた時に、他の方に怪我をさせたりは」
「その場にいたスタッフが突き飛ばされたくらいです」
 ヴィンセントの病室だった部屋は、扉が一つだけ、窓もない。
 ペンキを塗っただけの壁に、診察台のようなベッドが一つ。
 天井に監視カメラが複数取り付けられていたが、全て動作が止まっていた。
 唯一の扉は、ひしゃげて曲がり、頼りなく蝶番にぶら下がっているだけだ。
「…叩き壊したか」
「電子機器もやられています。直前までの記録映像がありますが」
 宝条は一瞬ためらってから、うなずく。

 まだ使えるのは、解像度の低い小さなモニタのみだった。
 元の画像がよほど鮮明なのだろう、それでも真っ白い体のヴィンセントが、
ベッドに横たわっているのははっきり見えた。
 顔半分を覆うようなマウスピースは、何重にも紙テープで固定されたまま。
 汚れたアイマスクと伸び放題でくしゃくしゃの髪が、顔に汗で貼りついて、
表情は見えないまま。
 後ろ手に手首を固定され、足首を縛られたまま。
 ほんの少し違うのは、ベッドには固定されていないこと。
 手足を動かせないのが辛いのか、ヴィンセントは何度か寝返りを打ち、やがて、
ベッドから転げ落ちる。
 しばらく、そのまま床に伏していたヴィンセントは、やがて大きく体を捻る。
 ビデオには、音声は記録されていなかった。
 けれど、鮮明な画像は、ヴィンセントの体から脂汗が噴出すのを捉えていた。
 身をよじって苦しんでいたヴィンセントが、唐突に体を起こす。
 左腕が、以前病気で潰してしまい、干からびたように変形してしまった左腕が、
ねじれて見えた。
 その左腕と固定されていたはずの右手が、顔をかきむしるように、アイマスクを
むしりとる。
 充血して濁った白目の中に、血をこぼしたような瞳がぎらぎらと浮かんでいた。
 マウスピースをむしりとる間も待たずに、ヴィンセントは体を折り畳むように
丸める。
 音のない映像だったが、ぜいぜいとヴィンセントが息を荒げているのが
確かに聞こえた。
 乱杭歯と右手の爪が足首の戒めをむしりとるのに、ほんの数秒。
 筋肉の塊に姿を変えたヴィンセントは監視カメラの前に仁王立ちになり、
まっすぐに睨みつける。
 唐突に、映像は途切れた。
 砂嵐の画面を睨んでいるだけだ、と、宝条が我に帰るのは、更に数秒後。
「…カメラがいかれました。電子ロックもいかれて、スタッフが駆けつけるまでに
もう逃げてしまっていました」
「カメラや電子ロック、わざわざぶん殴って行ったのか」
「はっきり調べていませんが、外観に変化がないので、過電流によるショートじゃ
ないかと思われます」
 宝条は、べったり脂汗のにじんだ眼鏡を、白衣の裾で拭う。
 それから、今頃気がついたのか、汗だくの顔も白衣の袖で拭った。
「修理費神羅に請求してくれ、怪我人は」
「なかったです」
 よかった、と、宝条はため息を漏らす。
「落ち着いたら後で関係者と打ち合わせをする予定だが、現場の方にはいろいろ
苦労をおかけした、申し訳なかった」
「…いえ」
「彼の回復と予後の幸福のため、大事にしたくない。事実確認はするが、
糾弾したり訴えたり制裁を加えるような真似はしたくない。だからそちらさんも」
 宝条は口にチャックを閉めてみせる。
 スタッフは苦笑いするように、同じ仕草をして見せた。
「ご協力ありがとう。迷子拾いに行ってくるよ」
「こちらも不手際で、すみませんでした」
 手際の問題じゃないがな、と、宝条は苦笑いする。

 病院のロビーに戻ると、大荷物を抱えたタークスが公衆電話に取り付き、
ひっきりなしに電話をかけていた。
 宝条に気がつくと、足元にあった荷物を持て、と、あごで示す。
「何をのんびり茶をすすってたんだ」
「そんな暇あるか」
 こっちは家捜しまで終わったぞと、電話を終えたタークスは宝条を睨む。
「どんな具合だかわかったか」
「化けて、力ずくで外に出てる」
 多分これ、と、宝条はギィの写真を差し出すが、タークスは首を振る。
「まっすぐうちに帰ってるか、迷子になってどこかに行くか、手当たり次第人に
襲い掛かるか、毒そのほか大量破壊可能な技を持っているか」
「…なんだと思ってるんだ、あんたの同僚だろうが」
「以前も今も、有能なタークスのエース様以外の何者でもないな」
 睨みあっていても、事態は進展しない。
 荷物を抱えて車に戻ると、タークスは運転席で地図の確認を始める。
「一緒に住んでいるんだっけ」
「こっちの社宅では二晩泊まっただけだから、覚えているかどうか」
「気に入ってたら、帰っているかもしれない。鍵を開けて中で張り込んでも
構わないか」
 宝条はうなずく。
「前のアパートには、もう他の住人がいるんだが、念のため詰めておく」
「…多分、今、ピッキングなんか出来るような器用な指してないぞ、それから、
左腕折れてるかもしれない」
「手足の一本くらい、折れても食い千切っても、タークスは任務完了したら
帰ることになってるんだ。指先効かなかったら、扉叩き壊す」
 地図を辿るタークスは、宝条の顔を見ない。
 電話をかけては、人員配置をしていく。
 宝条は、身を乗り出し、タークスの肩を叩いた。
「待て」
「足が遅いんだ、力あるけど動きが遅い。言葉通じないけど、手取り足取り
誘導すれば何でも出来るんだ、それから、」
 タークスは空いた片手をすっと宝条の喉に伸ばす。
 ぎり、と、指先に力が入り、冷たい目が黙れと睨みつけていた。
 やがて、電話を終えると、指先から力が抜ける。
 宝条は咳き込み、がんがんと痛む頭を押さえ込んだ。
「非、戦闘員に、暴力振るうな」
「電話中に話しかけるな」
「電話前に聞いて、欲しい、大事な、事なんだ」
「同僚だ、いちいち説明されなくとも会えばわかる」
 宝条はもう一度咳き込んでから、深呼吸する。
「説明してもわからないくらい変わってるんだ、変身が解けるまで、会っても
わからない」
 あんたんところの主任もわからなかったんだ、と、宝条が呟くと、タークスは
唇を噛み、目をそらす。
「…先週会ったばかりだ、一年以上会ってなかったが、変わっていなかった。
そんなに変わるわけがない」
 しばらく、宝条は黙り込んでいたが、やがて、顔を上げる。
「捜索に、ニブルヘイムに詰めていた神羅兵を呼んで欲しい。兄さんたちは
経過を知ってるから、わざわざ写真を見せて回らなくてもいいし、ヴィンセントも
懐いていて警戒しない」
「ヴィンセントは、タークスだ。身内の面倒は身内で見る」
 吐き出すように言って、それから、タークスはいきなり、クラクションを
力任せに殴りつけた。
 歯軋りして、ハンドルに顔を伏せる。
「…おい」
「…信じないからな」
 タークスの喉から、声が漏れる。
「後で、特殊メイクだの、特撮だのって白状しろよ。人間があんなに変わる訳が
ないんだ」
 のろのろと起き上がったタークスは、真顔で宝条を睨む。
 けど、おねえちゃんたちは顔を塗りたくって、もっとすごい変身するが、と
呟いてから、ため息を漏らした。
「ニブルヘイム勤務の神羅兵と、後は」
「鉢合わせたら、仲良くしようとしてベアハッグしてくる。怖がったり抵抗すると
肋骨いかれるから気をつけてくれ」
「…想像つかない」
「いいから」
 気を取り直したらしいタークスは、電話しながら無線で連絡を取り直していく。
 移動しながら、宝条と荷物を神羅製作所正面玄関まで送り届ける。
「じゃ、会社でも自宅でもお好きなところで待機してください」
「頼むよ」
 と、タークスは心底嫌そうな顔で宝条を睨んだ。
「同僚の面倒を見るのに、なんであんたに頼まれなきゃならん」
 むっと宝条が黙り込むと、タークスは肩をすくめて笑った。
「急いで捕まえてくる、早く直してやってくれ」
「当たり前だ」
 じゃ、と、手を振って、タークスの車はまた街に消えていく。
 見送った宝条はため息を漏らし、それから、大荷物を何とか抱え上げて玄関へ
向かった。
 なんだかどっと疲れが出て、座り込んでしまいたかったが、荷物を整理するまで、
いや、迷子のヴィンセントが帰ってくるまで、自分一人気を抜くわけにも
いかなかった。

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laboratory1 at 20:02|PermalinkComments(1)TrackBack(0)この記事をクリップ!5:生キル力 

November 17, 2008

最重要の検査

 ご無沙汰いたしました、生キル力参ります!
 ガスト博士とかセフィロスちゃんとかやりたいネタはあるのですが、まず
ヴィンさんから行きますです。

注意:直接的ではありませんが暴力的な表現があります。
嫌いな方は飛ばしてください。

 ミッドガル神羅製作所本社。
 科学部門の研究ブースで、宝条は机にしがみつくように書類整理に専念する。
 やらなければいけない研究は山積みなのだが、その研究を進めるために片付ける
書類が一山、許可を申請する書類が一山、明日までに提出の報告書がまだ数枚。
 ぼんやりしている暇すらないのだが、宝条は頬杖をついてため息を漏らす。
 一週間前、ヴィンセントを病院に連れて行った。
 ニブルヘイムでジェノバ由来のウィルス感染して以来、大病したり意図せず
姿を変えてしまったりと安定しないヴィンセントを、検査入院させたのだ。
 まだ人類に知られていない病気であるのは間違いないが、基礎的な検査データが
取れていないことには今後の治療計画も立てられない。
 検査と同時に、経験豊富な医者に見せることで、打開策のヒントが得られるかも
しれないと、期待はしている。
 診察室で、宝条は担当医と念入りに話し込み、経緯を説明し、資料を渡した。
 けれど、ヴィンセントはずっと無言のままだった。
 個室に案内され、担当の看護師に検査スケジュールを説明されている間も
ヴィンセントは上の空。
 宝条につつかれても、相槌も打たなかった。
「…具合悪いのか」
「いや」
 二人になってから初めて、ヴィンセントは口を開く。
「スケジュールどおり終われば一週間。人間ドックでする程度の検査を、詳しく
する程度のことだ、怖がるほどのことはない」
 ヴィンセントはのろのろと首を振る。
「明日、来る?」
「私か」
「うん」
 宝条は検査スケジュールと、入院のしおりを交互に見比べ、それから苦笑いする。
「君、面会時間終わるまでずっと検査だ。食事する暇もないぞ」
「…夜は検査がないから、うちに帰ってもいいだろか」
「ちょっと我慢しろよ。順調に終わればすぐ帰れる」
 データが出たら、私が頑張る番だ、と、宝条は自分の薄い胸をどんと叩き、
ヴィンセントがかすかに笑った。
「…帰りたいなあ」
「心配するな、このスケジュールだと、何か考えてる暇もなく一週間終わるさ。
過労で入院継続にならないようにだけしとけ」
 ヴィンセントは笑って、それから目を伏せ、面会時間が終わるまで、宝条に
寄りかかっていた。
 宝条は、初心者向け検査ガイドブックを開きながら、一つ一つ検査概要を説明し、
検査の心構えと注意事項を説明しながら、もたれかかるヴィンセントの背中を
撫でていた。
 担当医師や、関わる可能性のあるスタッフには、ヴィンセントの病状について
細かく説明してある。
 いつ何時姿を変えてしまうかわからないこと、変わってしまえば言葉は全く
通じないが、知っている人間に危害を加えることはなく、いずれ元の姿に戻ると
資料を交えて、何度も、丁寧に説明し、理解を求めてきた。
 この病院自体は、神羅も出資している伝統ある大学付属病院。
 優秀なスタッフと充実した設備で、安心してヴィンセントを任せられるはずだ。
 宝条は、病院のパンフレットを見ながら、ぼんやり思い起こしていた。
 あれから、七日たった。
 病院からは、特に連絡は来ない。
 公衆電話があるはずなので、ヴィンセントも暇で仕方なければ電話を
よこすだろうが、それもない。
 宝条は、山積みの書類を、何とか雪崩を起こさないように積み直してから、
受話器を取った。
 受付が出てから、用件を伝えると、しばらく待たされてから担当者につながる。
「検査入院しているヴィンセント・ヴァレンタインのことなんですが」
「事前に登録しているコードをお伝え願います」
 宝条は書類に記載の長い長いコード番号を伝える。
 ヴィンセントの病状には機密事項も含まれる。
 煩雑だがチェックがあるのは仕方なかろう。
「現在検査継続中です。面会はお控えください」
「スケジュール通りだと、今夜はあいていそうですが、差し入れ持ち込んで
面会するのは無理ですかね」
「事前のスケジュールからはかなり遅れているようです。食事、面会共に管理が
必要ですので、しばらく控えてください」
 宝条は、ボールペンの先で頭をかく。
「遅れてるってことは、週末に退院できますか?」
「まだわかりません。おって連絡いたします」
 事務的に伝えてくれた受付嬢は、しばらくたってから、呟く。
「あの、週明けまで、面会禁止で決定しているみたいです。退院は少なくとも
週明け以降になりますね」
 宝条はとっさにカレンダーを見て、それから、電話口に頭を下げる。
 頭を下げても受付嬢には伝わらないことを思い出し、ありがとうと声をかけた。
「あの、それから、正式決定ではないので内緒なんですけど」
「はいっ」
「今日面会にいらっしゃらない時は、博士に電話連絡することになってるんです。
なので、面会は出来ないけれど、来ていただいたほうがいいかもしれません」
「ありがとう」
 宝条は受話器を置き、深呼吸を一つ。
 それから、早急に片付けるべきレポートに手を出した。
 面会禁止なら、弁当は不要。
 後は受付嬢と担当看護師用の差し入れおやつの買出しと病院にたどり着くまでの
所要時間を瞬時に算出し、レポートにかけられる時間を割り振る。
 スケジュールの遅れや、面会禁止、入院期間の延長など、気になることは
いくらでもあったが、思考回路の端に追いやって、優先すべきことだけに集中する。

 面会時間が始まる頃には、誰も文句がつけられないほどには仕事を終わらせて
宝条は会社を飛び出す。
 受付嬢とナースステーションにお菓子を配り歩き、お茶まで出してもらって
すっかりくつろいでいる頃、呼び出しの内線連絡がかかり、宝条は腰を上げる。
 案内された会議室に行くと、何度も顔を合わせた担当医師と、それからまだ
会ったことのなかったスタッフが、既に席についていた。
「連絡しようとしていたところにおいでいただいたんで、早速ですが検討会を
開催します」
 大きなスクリーンと、プロジェクター。
 写真がはみ出しているファイルが置かれているが、個々配られる資料は無し。
 宝条は部屋の中を見回したが、名札の名前までは近眼の目では捉え切れなかった。
 スクリーンに、唐突に写真が投影される。
 担当者がピントを合わせてはみたが、写真自体がピンボケでぶれているようで
はっきりはわからない。
 けれど、宝条は瞬き一つせずに、ぼけた写真を見つめていた。
 ヴィンセントだ。
 ただし、普段のヴィンセントではない。
 全身を毛で覆われ、角と鬣と牙と爪を持った、大きな獣。
 四つん這いで鬣を逆立て、牙をむき出して睨んでいる姿に、宝条は唾を飲む。
 資料用に、何枚か渡した中に、こんなに怒っている姿の写真はなかったし、
宝条も実際に見たことが無い。
 遊べと甘ったれてくるか、勢い余って転んでいるか、退屈して寝そべって
いるくらいしか見たことが無い。
 ぶれてはいるが、火を吐きそうに怒っていることだけははっきりわかる写真が
切り替わり、今度は、ピントのあった写真。
 床に力なく横たわった、ヴィンセントだった獣。
 目も口も半開きで、不自然な格好で突っ伏しているところからして、麻酔銃でも
使ったのだろう。
 宝条が手を上げて意見する前に、写真は切り替わる。
 仰向けで手足を広げて横たわった全身写真。
 目、角、口の中、尻尾、鬣、それぞれの詳細な写真。
 近くで見て触ってよく知ってはいるが、カメラを構えると遊ばれて壊されるので
ろくに写真など取れなかったっけ。
 よく撮ったものだと頭では思う。
 けれど、胃袋が煮えくり返って背中がみしみしと焼きつき、きしんでいた。
 何があったのか、想像はつくのだが、言葉が口から出る形にまとまらず、宝条は
スクリーンを睨んでいることしか、まだ出来ない。
 無言のまま、写真は続く。
 まだ麻酔が効いて眠っているらしい獣の脚をベルトで縛ってから、口に頑丈な
マウスピースがつけられる。
 スクリーンに映し出されたのはそこまで。
 担当者がプロジェクターのスイッチを切る。
「では、改めて状況説明をさせていただきます。5日前の午後休憩時間中に
廊下で転倒し、直後に変身。興奮状態のため、麻酔を使って捕獲しました」
 宝条は深呼吸しながら、混乱する頭を冷ましていく。
 化ける可能性があることは、病院スタッフにも十分説明したことではないか。
 それを治療するヒントを得るための検査入院ではないか。
「どなたか、怪我は」
「幸い、接触前に眠らせて捕獲することが出来ました」
 ヴィンセントが、無闇に襲い掛かってはいけないとわかっていて自制できたのか、
スタッフの対応が迅速的確だったのかはわからない。
「それで、今は…」
「捕獲後、安静にして3時間20分後、人間態に戻り、意識も回復しました」
 宝条はため息を漏らす。
 それから、黙って頭を下げた。
「では、次です。長いので必要な部分のみ再生します」
 今度はビデオ映像。
 おそらく天井に固定されたカメラで、部屋の埃一つまで見えるほど、鮮明な
高画質で撮影されていた。
 わずかに聞こえる音は、おそらく空調の音。
 時々、軋むような音が混ざる。
 宝条は、ぽかんと口を開けて、映像を見ていた。
 呼吸確保用のチューブが入った、大きなマウスピースがテープで何重にも
固定されていた。
 マウスピースとテープで歪んだ顔を、更に隠すようにアイマスク。
 くしゃくしゃの伸び放題の髪が、べったりと額や頬に張り付いている。
 白い、体。
 磁器の肌に、ガラスを削ったような筋肉、さほど濃くはない体毛。
 胸と腹が上下し、時折筋肉に力が入るので、生きているのはわかる。
 けれど、手足をぴんと伸ばされたまま関節と、胸、腹、首を分厚いベルトで
固定され、ほんのわずかも動くことができないようだった。
 ベルトと、マウスピースと、アイマスクでだけ体を覆われているのは、わざわざ
聞かなくともわかる。ヴィンセントだ。
 気がついた途端に宝条の体から冷や汗が吹き出す。
「大変高性能な伸縮素材で固定してあります。縦方向は完全に固定されているため
関節を曲げることが出来ず、力を入れることが出来ません。しかし、横方向には
伸縮可能なため、締め付けて対象に傷をつけずに保護することができます」
 それでは、と、映写担当のスタッフが先に送ろうとしたところで、宝条が
立ち上がる。
「なんで拘束してるんですか」
「これから説明します。あ、この時点で、捕獲してから4時間後です。撮影準備に
時間がかかりました」
 宝条が突っ立っている間に、映写担当者が資料を映し出す。
 その後ろでは、映像が高速で早送りされていた。
「捕獲し、眠っている間に固定し、限定された環境の部屋に移送しました。目的は
外部要因が変身に関連するかの検査です。室温25度、湿度60%、微風。外部からの
音は遮り、更に耳栓もしています。部屋は撮影に十分な照度がありますが、
アイマスクで光も遮断しています。四肢を完全に固定していますが、締め付けては
いないため、苦痛はほとんどありません」
 どれだけ早送りが続いているのだろう。
 固定カメラで、固定されたまま写されているヴィンセントは、早送りされる
映像の中で、もぞもぞと動き続けていた。
 音も光もなく、指一本動かせないまま、どれだけの時間固定されていたのだろう。
 やがて、映写担当が早送りを止める。
「わかりにくいのですが、痙攣を起こしています」
 外れないベルトから逃れようと、もぞもぞ動いていたのとは、明らかに違う、
不規則な痙攣が、全身に広がり、ヴィンセントのうめき声が漏れる。
 背を反らせて身をよじろうにも、ベルトがどんな動きも許さず、ヴィンセントを
ベッドに縛り上げたまま。
 磁器のようだった肌が、くすんで脂汗で汚れ果てていることまで、高画質の
映像は映し出す。
 痙攣して血の気が引いて青ざめてしまったのも、突然血を浴びたかと思うほどに
紅潮したのも、筋肉がたちまち形を変えていくのも。
 アイマスクが濡れて、吸収し切れなかった水分が滴り落ちていた。
 マウスピースの奥から漏れるうめき声は、唐突に音を失い、あえぎ声に変わる。
 身をよじることも、背を反らすことも、ベルトから逃れることも出来ない
ヴィンセントの背から、湯気を立てて赤い翼があふれ出す。
 人を包み込めるように大きな翼が、しっかり固定された体とベッドの隙間に
おとなしく収まるわけがなく、めきめきと音を立ててひしゃげ、折れ曲がりながら
姿を現していくのを、宝条は呆然と見つめていた。
 ほんの数分で、ヴィンセントは姿を変えた。
 黒い、悪魔のような体はどこか華奢で、か細く見える手足は相変わらずベルトに
縛り上げられたまま。
 ベッドとベルトの隙間からやっとのことで現れた翼は、折れ曲がり、破れて
ぐったりと垂れ下がっていた。
 まるで、出来の悪い蝶の標本のようだと、宝条は人事のように思う。
 目がひりひりと痛んでから初めて、瞬きをしていなかったことに気がついた。
 マウスピース越しにひゅうひゅうと漏れるあえぎ声は、やがて力を失っていく。
 手足にこもっていた力が抜け、ヴィンセントの体から、力が抜けた。
 唐突に、映像が途切れる。
「この直後、カメラが壊れてしまって、撮影の続行が出来ませんでした」
 写真が数枚。
 ベルトを外されてぐんにゃりと伸びているヴィンセント。
 ベッドにうつ伏せにされた背から伸びた翼を、スタッフ数人で広げた写真。
 マウスピースとアイマスクを外した写真。
 写真に写っていないところで、麻酔を使っていたのだろう。
 半開きのまぶたから覗く赤い瞳に、光はなかった。
 肌の具合まで鮮明に撮られた写真が数十枚続いて、映写は終わった。
「この後、5時間12分の安静後に人間態に戻っています。この後は現在に至るまで
変身はありません」
 拍手が起こるが、宝条は呆然としたままだった。
「今回の検査結果によれば、外部刺激は変身の要因として重要ではないことが
考えられます。また、時間は不特定。安静にあったことから、筋肉にかかる負荷や
疲労も重要ではないでしょう。あとはホルモンや精神的な影響が関係するかを
調べていきましょう」
 宝条は、何とか言葉を探す。
 変身を何とかするために、検査入院しているのだ。
 勉強だけはしたが経験は学生並の宝条ではなく、現在最前線で活躍している
先生方が丁寧に調べてくれているのだ。
 原因を絞っていかなければ根本的な治療は始まらないままだ。
 けれど、宝条は声も出せないままだった。
「今回は機材の破損があるため、検査の続行が出来ませんが、いずれ他の三種類も
変身の過程を撮影し、解析に役立てましょう。また、今回は固定していたため
翼が変形してしまっていました。次は固定なしの環境を用意します」
 わずかに、宝条がため息を漏らした。
 それから、素っ裸で縛られて晒し者にされていたヴィンセントを思い出し、
のろのろと首を振った。
「…今は…」
「安静にしています」
「会えますか」
「ベルトを外した状態で鎮静剤の効果が切れたときに、少し混乱があったため
隔離環境で眠っています。意識が回復して、意思の疎通が出来るようになるまで
面会は控えてください」
 宝条は力なくうなずく。
「しかし、こんなことが現実にあるんですね。とても興味深い体質です。
検査終了後も是非研究継続しましょう」
「…今回は、検査が目的だったので、改めて…」
 そうですか、と、スタッフが分厚いファイルと封筒を用意する。
「予定外に固定検査が割り込んだため、通常の検査がまだ終了していません。
意思の疎通が出来るようになってから通常検査を再開するため、来週一杯は
入院が必要です。すぐに出た結果だけ渡しておきます」
「面会できるようになったら、知らせてもらえますか、意思疎通できなくとも
構わないです。夜中でも朝でも」
「暴れるんですよ。落ち着くまでは刺激しないでください」
 どれくらい暴れたんだろうな、と、宝条は呟く。
「固定検査の映像どうします、変身部分のみ編集すればいいですかね」
「…寝てるだけのところもお願いします」
「実質、四日目の最終30分だけですけどね」
 よっか、と、宝条は口の中で繰り返す。
 四日間縛られたまま。
 外部刺激の中に、食事は含まれていたのか聞かなかった。
 今ビデオに映っていなかった部分で、解いてもらって食事をしていたのか。
 トイレに行って、体を洗って、あと数時間頑張ってと励まされて、頑張ったのか。
 それとも。
 スタッフは、なんら悪びれた様子もなく、大量のビデオを渡す。
 大量の資料とビデオを抱えきれず、段ボール箱に詰め込んでもらってから、
宝条は立ち上がる。
 話は出来なくとも、顔だけでも見て帰りたかったが、病室を探す前にスタッフに
玄関まで送り出されてしまった。
「護師さんにおやつ預けてあるんで、落ち着いたら食べさせてもらえますか」
「今一般の看護師の立ち入れるエリアにはいないので、難しいですね」
「…すぐ一般の病室に戻れますね」
「一般患者と同じ扱いは出来ませんよ」
 宝条は音を立てて息を吸う。
 何か誤解をしたかもしれない、と、聞きただそうとしたが、口が開く前に
スタッフが冷たい目で覗き込んでいた。
「人間と同じ体格で、人間の機材を使えるから、病院で検査しているだけですよ」
「お前一人の意見なら、何も聞かなかったことにしてやる。あれはただの病人だ」
「もう、人間じゃないです。現実を見ないと、研究進みませんよ」
 現在関わった全員の一致した意見ですよ、と、スタッフは薄く笑う。
 宝条は、深呼吸してから眼鏡越しに睨み返した。
「連れて帰るよ、あんたたちには預けておけない」
「ご心配なく。貴重な研究材料ですから、危害は加えません。そもそも、
神羅製作所だけでは医療技術が追いつかないから、手に負えないのでしょう?」
 呼んであったタクシーが到着する。
 荷物ごと車内に押し込まれた宝条は、何とか逃れようとするが、スタッフは
運転手に声をかけて、出発させてしまう。
 運転手に声をかけて、止めてもらうことも、引き返すことも出来たが、宝条は
我に返っても、そのままぼんやりと車に揺られていた。
 頭に血が上ったままでは、抗議するにも連れ帰るにもうまくいかない。
 宝条は、背もたれに体を預け、ぐったりとため息を漏らす。
 信頼できる病院としてヴィンセントを預けたのだが、奇跡であり悪夢であるあの
変身を目の当たりにして、一部のスタッフの頭に血が上ったのか。
 知識も技術もまだ足りない宝条が知らないだけの、一般的な検査方法で患者の
扱い方なのか。
 それとも。
 宝条は冷や汗を拭う。
 ニブルヘイムでヴィンセントを見慣れた人員の感覚が、既に一般人とずれていて、
あれは、既に人間社会で受け入れられないほど、変わり果てているのだろうか。
 宝条はぼんやりしながら、窓の外の町を見ていた。
 どこから沸いて出るのか、大勢の人間が行き交い、車が走り抜ける。
 タクシーに酔ったのか、血圧でも上がりすぎたのか、気分が悪い。
 何とか落ち着いて、対策を立てないと、と、思いはするのだが、見せられた
映像と資料と、スタッフの薄ら笑いが空回りするだけで、何一つ思いつかなかった。

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laboratory1 at 16:58|PermalinkComments(2)TrackBack(0)この記事をクリップ!5:生キル力 

October 13, 2008

とびっきりの花束を

 年に一度の降誕祭でございます、ヴィンセントお誕生日ばんざい。
 年を数えなくなっても実年齢が何歳になってもいいじゃないか。

 ではおまけコーナーのちびたんで参ります。ちょっと久しぶりー。

【登場人物】
ちびたん:変身と射的が得意、お菓子のおまけは先に開けちゃうぞ。
セフィちゃん:剣と魔法のお稽古中、好きなものは後に残しとくんだ。
宝条お父さん:研究と管理職と子育てに奮闘中、欲しいものはとりあえず確保。
ヴィンセント:寝すぎで節々が痛いぞ、好きなものは起きる前に食べられてるし。

 神羅製作所科学部門研究室は、世界の秘密までがっちり握ってる超重要部署、
当然セキュリティが厳しく、部外者が気軽に入れません。
 でも、入り方を知ってる身内にはゆるゆるです。
 セフィちゃんなんか、危険物エリア以外素通しです、社員通行証の顔写真なんか
まだ歯が生えたばかりの赤ちゃん顔のままです、これはこれでうけるんですけどね。
 忙しい研究員さん事務員さんを潜り抜けてたどり着くのは、宝条お父さんの席。
 赤ペン片手に書類を睨んでいるお父さんを、椅子ごと半回転。
 膝の上に座ってほっと一息したセフィちゃんは、お父さんを見上げます。
「忙しい?」
「明日遅くならないように、今日二日分仕事をしているのだよ」
「んじゃ、いい」
 お父さんはすり抜けようとするセフィちゃんの襟首を、掴みます。
 用事がなくて遊びに来たときは、二人そろってやたら大騒ぎするのに、本当に
緊急に手を止めて構わなければいけないときはしおらしいのです、いつもそうです。
 …二人?
 セフィちゃんは困った顔でお父さんを見てました。
「ちびたん知らない?」
「かくれんぼは時間と範囲を決めてやりなさいとあれほど」
 お父さんが頭を抱えます。
 ちびたんもセフィちゃんも、社内を知り尽くしています、最先端の技術と知識に
まみれて育っているので、頭だってばっちりです。
 大人の入れない、いや、入らないところも駆使して通路に使ってくれます。
 真剣かくれんぼするたびに行方不明になり、捜索隊を出してもらったりするので
最近は「時間制限30分、それまでに見つからなかったほうの負け」の特別ルールで
遊んでいるはずなのですが、夢中になるとそんなこと忘れてしまいます。
 けれど、セフィちゃんはぶーっとふくれます。
「オレ剣道のお稽古に行ってたの、帰ってきたらちびたんいないの!」
  お父さんはセフィちゃんの襟首捕まえたまま立ち上がります。
 今日中に訂正したり差し戻したりする必要のある書類が積み上がってますが、
後で何とかしましょう。
 魔晄炉一基ずつ抱えているようなパワフル子供たちです、前兆のあった時点で
対処しておかないと、何をやらかすかわかりません。
「いつまで一緒だった」
「おやつ一緒に食べたよ」
「いそうなところ見たか」
「仕事のところだけ最後に見たんだよ」
 一応子供部屋に寝室に社員食堂を覗いてみて、寝てるヴィンセントの毛布を
はいで、ベッドの隙間も覗いてみましたが、見当たりません。
 床に落とされたヴィンセントは顔をこすります。
「…何」
「ちび知らんか」
 ヴィンセントが本格的に起きるまでにはまだ時間がかかりそうです。
 二度寝した時に風邪引かないように、引っぺがした毛布は返して、お父さんと
セフィちゃんは次へ行きます。
「どこか遊びに行くとか言ってたか?」
 お父さんが聞いてもセフィちゃんは首を振るばかり。
 いつも仲良しの二人ですが、一緒じゃない時間も意外とあるのです。
 警備員詰め所に連絡をすると、すぐに迷子センターに連れてってくれます。
 壁面一杯のモニタ、部屋にぎっしりの計器は頼もしい限りです。
「GPSとPHSの回線状況を駆使して、市内のどこにいても探し出してみせますよ」
 迷子センターの所長の頼もしいこと、ついセフィちゃんも探してもらいたくて
部屋から出ようとしますが、そこは警備員お兄さんにとっつかまります。
「発見しました。弐番街の…」
 オペレーターさんがちびたんを見つけてくれたのは、やっと目が覚めた
ヴィンセントが迷子センターに顔を出す頃。
 おぉ、と、お父さんがモニタを覗こうとすると、オペレーターが首を傾げます。
 唐突に、別の場所を監視していたオペレーターが声を上げましたが、また
見失ったのか、困っています。
 とりあえず、社外にいるのはわかりましたが、それだけです、移動速度は
大したことないのですが、現れたり消えたりで、さっぱり居場所がつかめません。
 と、ミッドガル市全体のモニタを眺めていたヴィンセントが呟きました。
「今日は風が強いから、追跡難しいだろ」
 オペレーターが振り返ります。
「ミッドガル全域、アンテナが故障するほどの風速ではありませんが…」
 ヴィンセントはかすかに首を振って、天井、いや、上を指差します。
「ミッドガルのよい子達なら、地上をおとなしく歩いているだろうが、ちびたんは
空を飛べるから」
 途端、あぁとオペレーターさんたちから悲鳴が漏れ、宝条博士は額を押さえます。
 四種変身を自在にこなすだけではなく、能力の一部だけを使うことも出来る
ちびたんは、一人にさせとくといつどんな動きをするやら見当もつきません。
 迷子センター所長が、がっくりと肩を落として宝条博士に頭を下げました。
「…我が社の迷子追跡システムを装備中のおともだちなら、市内にいる限り
見つけ出すと豪語しましたが、まだまだでした」
「いや、空飛ぶ子供は他にいないから、気にしてくれるな」
「既に人は出して、目視で捜索に当っていますので、どうぞご心配なく」
 丁重にお願いしてから、一行は廊下に出ます。
 外はそろそろ日が傾いてきていました。
 窓を開けると、強めの風が吹き込んできます。
「散歩に出て、いい風に出会ったから気持ちよく飛んでみているだけだと思うが」
「…気持ちよく飛んでどこまで行くかだ」
 博士は呟いてから、心配そうなセフィちゃんの頭を撫でます。
「ここはいいから、戻って遊んでろ。すぐ帰ってくる」
「…うん」
 元気の出ないセフィちゃんは、ヴィンセントに連れられて部屋に戻ります。
 博士は、風の強い外をしばらく眺めていました。
 ちびたんもセフィちゃんも、遊びに熱中しすぎて迷子になったり帰る時間を
忘れることは多々あります。
 けど、セフィちゃんはおなかがすいたら自分で帰ってきます。
 本気で帰れなくなったら、電話をするなり周りの人に声をかけるなりして、
何とか帰ろうと努力をします。
 ちびたんは、おなかがすいたら自力で狩をしてしまいます。
 変身できることもあり、好き嫌いの範疇が人類を越えているため、何でも食べて
空腹を満たすことが出来ます。
 外でも寒くても足場が悪くても、どれかに変身すれば休む場所を確保できます。
 戦闘能力も回避能力も高いので、野生のモンスターなど敵にもなりません。
 ちょっと怖いとしたら、言葉巧みに騙されて誘ってくる怖い人間の大人くらい。
 指折り数えても、何の心配もありません。
 だからこそ、心配で仕方ないのです。
 一人で野性の中で生き抜く能力を持ったちびたんが、町の中で暮らすのも、
人と付き合いながら生きていくのも面倒になって、人でいたことも忘れてしまい、
きれいさっぱり獣になってしまったら。
 セフィちゃんも、ヴィンセントも、お父さんも忘れて、心も通じない獣に還って、
戻ってきてくれなくなってしまったら。
 ぐすっと鼻をすすったお父さんは、我に返ります。
 縁起でもないことを連想するもんじゃありません。
 あのうるさくて手のかかるちびたんが、そう簡単にお父さんの子供であることを
卒業してくれるもんですか。
 迷子センター隊員と、応援に借り出された神羅兵が出動していくのが、窓から
見えました。
 お父さんは窓から手を振って、それから背筋をしゃんと伸ばします。
 さあ帰ってきやがったらきっちりお説教する準備をしておかないと。
 それから、たまってる仕事もぱりっと片付けなきゃいけません。

 社員食堂が、徹夜社員用朝食サービスを始める時間。
 にわかに玄関が慌しくなりました。
 心配して寝られないので、結局徹夜して仕事してた宝条博士は、お粥の丼を
片手に窓の外を覗きます。
 と、バイクに跨った神羅兵兄さんが、博士に気づいて手を振ります。
「賞金首とっ捕まえましたよぅ」
「あー、後で徹夜組にお祝儀出すから。悪かったなー」
 神羅兵兄さんの陽気な声は、博士の心配なんか軽く吹き飛ばしてくれました。
 お粥+梅干を一気にすすりこんで、博士は外に出ます。
 ついでに、セフィちゃんと、セフィちゃんの子守してるはずが先に寝たらしい
ヴィンセントもたたき起こしました。
 トラックの荷台で、神羅兵兄さんの膝を枕にちびたんは気持ちよく寝ていました。
「どこまで行ってた?」
「多分記録更新ですよ、グラスランドの草原で、ムーとにらめっこしてました」
 捕まえたけど、夕飯にしようか可愛がろうか迷ってるところだったのだそうです。
 当然、神羅兵兄さんがお菓子をちらつかせただけで飛びついてきました。
「おなか一杯になったら疲れが出たみたいで、話聞く前に寝ちゃったんですよ、で、
起こさないようにとろとろ走ってきたらこんな時間になりまして」
「もう世話焼かせないように、叱っとくから今回は許してやってくれ」
「いやいや、こっちは心配ないっす。あんまり叱らないでやってくださいね」
 神羅兵兄さんが肩を揺すると、ちびたんは一回目を開けましたが、またご機嫌に
眠ってしまいます。
 兄さん達は笑いながら、ちびたんを抱っこして部屋まで連れ帰ってくれました。
 それから、ぎっしり何か詰まったリュックサックを置いていきます。
 もう、ヴィンセントもセフィちゃんも着替えて起きてきていました。
「無事?」
「市外まで行ってたとさ」
「ちびたんすげー。オレも行ってみていい?」
 間髪入れずにお父さんとヴィンセントが怖い顔をしたので、セフィちゃんは
ぶんぶん首を振ります。
 と、ちびたんがごろごろと寝返りを打ってから、目を開けます。
 一通り辺りを見回して、顔をこすります。
「はよー」
「おはよう」
 むすっと不機嫌なお父さんを押しのけて、ちびたんは床に降り、泥のついた
リュックサックを開きます。
「暗くなる前に帰ってきなさい、それから、PHSの電波が届かないところまで
黙って入っちゃ駄目だろ」
 うんうんとちびたんは聞いているのかいないのか、リュックに頭まで突っ込む
勢いで、中を探ります。
 やがて、中からつかみ出したのはたっぷりと泥を抱えたマンドラゴラ。
 くたっと萎れているのをちびたんは覗き込み、困った顔でお父さんを見上げます。
「枯れちゃった…」
「そんなに簡単にマンドラゴラが枯れるか。水やればすぐ元通りだ」
「そっか!」
 元気よく廊下に飛び出そうとしたちびたんの襟首を、ヴィンセントがすかさず
捕まえます。
 妖草マンドラゴラは、グラスランドの草に混ざって繁殖しているモンスター。
 危険度は高くありませんが、何せ数が多いので困った奴らです。
 こんな室内で元気よくマンドラゴラに騒いでもらっては困っちゃいます。
「お水は後でいいから、夕べどうしてたんだ、みんな心配していたんだぞ」
 ちびたんはヴィンセントを見上げ、セフィちゃんを見て、それからお父さんを
見てからマンドラゴラを覗き込みます。
「…お花」
「うん?マンドラゴラの花か、珍しいな」
 ちびたんは萎れたマンドラゴラをかき分けて開きかけたつぼみを探り出します。
「お小遣いでお花買おうかと思ったけど、でも、お店にあるの、あんまり
かっこよくなかったから、かっこいい花取りに行ったの。そしたら、遅くなった」
 それでいい?と、ちびたんはみんなを見上げます。
 なるほど、マンドラゴラはいくらでもグラスランドにいますが、花をつけて
いるのはめったにありません。
 探すのに夢中になって時間を忘れてしまったのは、わかりました。
 けど、誰にも内緒でそんなの熱中するほど、何でお花が欲しかったのか、
そこのところをきっちり説明しないと、ちびたんこの場から逃げられません。
 ちびたんはしばらくもぞもぞした後、マンドラゴラをお父さんに突き出します。
「あのね!」
「何だ」
「ぼくの誕生日、ありがとう」
「は?」
 お父さんはきょとんとして、腰を落とし、ちびたんを覗き込みます。
 セフィちゃんは、チラッと時計とカレンダーを確認します。
 そうそう、今日はヴィンセントの誕生日です。
 大きいヴィンセントもちびたんも、今日がお誕生日に決めてあるのです。
「いや、誕生日忘れてないぞ、今のお話終わったら、お誕生日するから」
 ちびたんはぶんぶんと首を振って、それから、まっすぐお父さんを見つめます。
「ぼくのこと、生んでくれて、お父さんになってくれて、ありがと。みんなと
遊んだり、お勉強したり、テレビ見たり、おやつ食べたり、楽しかったり
できるように、生んでくれてありがとうです」
 お父さんは、瞬きもせず、ちびたんを見ていました。
 何を言ってくれたのか、全部頭の中で唱えなおして噛み砕いて、ごくんと
飲み込みます。
 それから、うん、と、うなずいて、マンドラゴラを受け取りました。
 なんか、マンドラゴラはつんと刺激臭が強くて、お父さんは眼鏡を押し上げて
顔をこすりますが、泥もたくさんついていたので、顔中すごいことに。
「…こちらこそ、元気に育ってくれてありがとうな」
 へへ、と、ちびたんは笑います。
 なんか、いろいろお説教しなきゃいけないはずでしたが、まあ、いいでしょう。
 せっかくのマンドラゴラが萎れる前に、暴れだす前に、いい植木鉢に植えて
たっぷり水をやらなきゃいけません。
「今回は勘弁するが、遠くに行く時はちゃんと誰かに言っていくんだぞ」
「はーい」
 いいお返事のちびたんの頭を、お父さん、泥んこの手でぐりぐりかきむしります。

 さあ、始業時間までに、マンドラゴラを何とか落ち着かせてしまって、それから
心配してくれた皆さんにごめんなさい回りです。
 夕方になったら、お父さんは早上がりして、みんなでお誕生日会。
 もう、ついでです、夕べご迷惑かけた皆さんも招待して、みんなでパーティに
してしまいましょう。
 宝条お父さんとちびたんは、ぐちぐち小言言ったり、いろいろ言い訳したり、
小突いたり蹴飛ばしたり膝かっくんしたりしながら、朝の廊下を歩いていきました。

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laboratory1 at 00:53|PermalinkComments(4)TrackBack(0)この記事をクリップ!9:誕生日週間 | 11:おまけコーナー

September 30, 2008

対処しづらい間歇現象

 ちょいとご無沙汰いたしました!
 生キル力続きます。
 そいでもって、書き上げたらお返事します!!

【荒筋】
 ヴィンセントミッドガルに到着しました。
 誰一人疑問すら感じず宝条の新居(社宅)に引き取られて近況報告です。

意:同性同士の性表現あります。お楽しみなほどはありません。

 
 久しぶりの神羅本社ビルは相変わらずごった返していた。
 ヴィンセントは、道一本離れた路地から、本社玄関を見物する。
 知った顔がいくつかはあったが、それ以上に知らない顔がひしめいている。
 服装、社章、それから荷物や口調で社員かどうかは大体見分けられるだろう。
 大体この時間にまだお客さんは来るまい。
 きたとしてもよほど付き合いの深い取引先か、ビル内への納入業者だ。
 しばらく朝ラッシュの玄関を見物してから、ヴィンセントは歩き出す。
 表玄関からの出入り禁止は受けていないが、通りなれた通用口へ向かう。

 調査課の扉を開くと、主任がむっとした顔で出迎える。
「明日から仕事できるか」
「明日から検査入院なんで、今日は顔だけ出しに」
 大げさにがっかりした顔でメモを握りつぶす主任に、ヴィンセントは微笑む。
「お役に立てませんで」
「全くだ。役に立たないからさっさと主任研修終えてここ座れ」
 主任は椅子を引っ張ってきて。返事をしないヴィンセントを手招きする。
「おかえり」
「遅れました」
「ちゃんと話が出来るようになってよかった」
 真顔の主任に、ヴィンセントはかすかにうなずいた。
 顔を見て話をしたのは、ずいぶん前。
 電話で指令を受けたり報告をすることはあったが、その度に喧嘩していたっけ。
 反芻するように思い出していたヴィンセントは、怪訝そうに主任を覗き込む。
「…つい最近会ったような気がするのだけど」
「見舞いに行ったよ。会話にはならなかったけどな」
 化けている時だ、と、ヴィンセントの曖昧だった記憶が噛み合う。
 ああ、と、ため息と一緒に声を漏らしたヴィンセントの頬は、瞬時に血が上り、
食いしばった歯からは牙が覗きそうに力がこもっていた。
 炎を湛える瞳のヴィンセントの感情を読みきれず、主任は火のつきそうな
ヴィンセントを無遠慮に見回して、それから鼻先をつつく。
「力んだら、化けるのか」
「…わからない」
「じゃ、わざわざ怖い顔するな。私が行った時にはまだ会話が出来なかった。
それだけだ」
 うなずいてヴィンセントは両手で顔を覆う。
 ゆっくり、ゆっくり深呼吸して、体の緊張を逃がしていく。
 火がつきそうに煮え滾っていた体は一気に冷えて、肌に冷や汗が滲み出していた。
「すみま、せん」
「構わないが、今のは化けそうになったのか、それともただかっとなっただけか」
「…みっともないところを見せて、恥ずかしいのと、頭に血が上ったのと」
「私もびっくりしてかなり動揺してるのを見せてるから、それで相殺しとけ」
 息を整えながら、ヴィンセントはうなずく。
 顔を拭った手のひらに、冷や汗がまとわりついていた。
「まあ、病気だからな。完全に治るか、治療しながらでの現場復帰に問題ないと
許可が下りるまでは、おとなしくしとけ。席は空けとく」
 ヴィンセントはうなずき、主任は立ち上がる。
「お前がいない間に新人入ったから、顔合わせとけ。道端で鉢合わせても、
頭ぶち抜くんじゃないぞ」
 その日は特に急ぐ仕事もないようだった。
 いかついのやら頭脳戦専用やら、個性的な顔ぶれと握手して挨拶して、最近の
ミッドガルのことなど言葉を交わしていた頃。
 はじかれたようにヴィンセントが立ち上がった。
 何事だ、と、後輩が顔を上げる。
 ヴィンセントは、かすかに首を振り、口を開くが、声は出なかった。
 さっき収まった冷や汗が、またあふれ出し、顔から、首筋から滴り落ちる。
「…医者呼びますか」
 かすかに首を振ったヴィンセントはきびすを返し、部屋を飛び出した。
 主任がどこかに電話しているのを見ながら、後輩たちはヴィンセントを追った。

 トイレの前はざわついていた。
 呼び出された宝条は、人を掻き分けて見知った主任の顔にたどり着く。
「トイレに立てこもってるんですか?」
「腹具合悪くて長いだけなら、放っておくんだがな」
 トイレの前に、新人タークスがぼんやり座り込んで、頭を抱えている。
 怪我がないか宝条が覗き込むと、涙ぐんですがり寄る。
「オレ人前でカラオケしたくないんです、接待とかすごい苦手なんです、けど、
一人カラオケならすげえです、はっきり言って自信あります!」
 力強く笑って立ち上がり、ボールペンをマイクに握り締めて歌いだそうとした
新人タークスを、宝条は軽くひっぱたいておく。
「豪快に混乱してますね。薬使いますか」
「いや、仮にも戦闘員、後でビンタだ。症状はもう見なくていいかな」
 宝条がうなずいて後ずさると、大声で歌っている新人君にベテランタークスが
いい音でビンタを食らわせてたたき起こす。
「具合悪そうにして部屋から出て行ったのを追いかけたら、混乱した新人だけが
へばっていて、ヴィンセントは見つからないんだ」
 一応覗いてみたが、男子トイレには誰もいなかった。
「化けたところ、誰か見てますか」
 リサイタルを終えた新人君は、覚えていないらしかった。
 宝条は軽く手を振る。
「予想はついてます。多分見た目や服装はあまり変わっていない。ただ、目を
合わせると混乱したりステータス異常起こすから、にらめっこしないように」
 そのうち飽きて帰ってくるから、と、言いかけた宝条は、主任に腕を引かれる。
「攻撃性は」
「攻撃はしないんだが、目を見た者がことごとく酔っ払って大変なんだ。それから
喋らないし言葉通じないだが頭がいい」
「…どれくらい」
 真顔で詰め寄る主任に、宝条は一歩引く。
「タークスが出来ることは全部出来るんじゃないか?鍵なんかいくらかけても
全部破られたし」
 主任がもう一歩詰め寄ると、宝条は肩をすくめるように小さくなる。
「もう一度聞く。今までの経験から考えて、このまま捕獲しなかった場合どんな
危険が考えられる」
「…ヴィンセントは大丈夫だろうが…」
「社員、御取引様、お客様、道端の市民、建物、調度、そのほか何でもだ!
考えられるリスクを全て説明しろ」
 わかったわかったと宝条は主任を押しのける。
「病気での行動とはいえ、本人の名誉に関わることだから」
 よし、と、主任は封鎖中の男子トイレに宝条を押し込み、扉を閉める。
「お前よりもヴィンセントとの付き合いが長いんだ、余計なことは口外しない」
 宝条はしばらく視線を泳がせた後、腹を据えたのか、言いにくそうに呟く。
「よそ者を混乱させて、性的に絞りつくしてしまった」
 再起不能にはならなかったが、と、念のため付け加えるが、主任は怪訝そうに
宝条を見ているだけだ。
「…その、なんだ、混乱させられた相手が、同性同士にもかかわらず、目の前に
いたヴィンセントに挑んでしまい、結果、ヴィンセントはけろっとしてるが
襲った方が疲れ果てて」
「わかってる、そうじゃなくて、それくらいなら普段のヴィンセントでも」
 宝条は首を振る。
「見境ないんだ、外だろうが道端だろうが。どんな相手で何人でも、男に興味が
ないとしても、じゃなくて、女子でも!」
「…見境ないのはまずいな」
 主任と宝条は軽く打ち合わせて、トイレを出る。
 もうすっかり目を覚ました新人君を含むタークス、それから警備員が、主任の
手早い指示で散開して行った。

 そろそろ日が落ちる頃。
 売店で食糧を買い込んで研究室に戻ってきた宝条に、主任から内線電話が入る。
「見つかりましたか?」
「…いないな。とりあえず社内ではそれらしい報告が上がってきていない。明日に
持ち越すようなら外にも捜索範囲を広げる予定で応援を頼んでる」
 宝条はため息を漏らす。
 まだ被害者が出ていないらしいことだけが幸いだった。
「見かけは、変わらないんだな」
「目が大きく見えて、表情がないくらいだ」
「癖、行動パターン、好物、何でもいいからわかることを言え」
 てきぱきと畳み掛ける主任の声は、何の脅迫も含まれていないのに、逆らえない。
「自分の視線が人を混乱させるのを自覚してる。顔見知りに攻撃しない」
「よし、引き続き捜索を続ける。何か思い出したらすぐに知らせろ」
 連絡はそこで途切れた。
 宝条は食料を詰め込んだ袋ごと、廊下に出る。
 足手まといだから手伝うなと釘を刺されたのだったが、のんびりランチを
楽しんでいる気分でもなかった。
 廊下を辿って、中庭に出る。
 以前、宝条が気に入って休憩場所に使っていた頃から誰も手入れしていないまま、
鬱蒼として湿っぽい空気に満たされ、増築のせいか薄暗くなっていた。
 あまり快適な場所ではなくなったな、と、通り過ぎようとした時。
 がさりと音がした。
 更に薄暗い隅っこに、丸まったブルーシート。
 その隙間から、赤い瞳が宝条を見ていた。
 宝条が笑って近づくと、赤い瞳はまたブルーシートの中に隠れてしまう。
「みんな心配してる、帰ろう」
 声をかけても、出てこない。
 それじゃ、と、シートの隙間から食料の入った紙袋を差し入れると、中を
確かめてからきちんと受け取った。
「ここ湿っぽくて飯がまずくなるから、どこか移動しよう。落ち着くまで仮眠室
借りておこうか」
 ブルーシートの中のヴィンセントは答えない。
 けれど、腹が減っていたのだろう。
 夢中で食べている音だけ、いつまでも続いていた。
 ぽろぽろとこぼすごみを、宝条は拾って白衣のポケットに突っ込む。
「私の飯なんだがなあ」
 なんかくれ、と手を差し込んでも、何も乗ってはこない。
 引っ込めようとすると、食べる手を休めたヴィンセントが、一度
握り返し、それから突き放すように押し出す。
 宝条は笑って、ブルーシートの上からヴィンセントを小突いた。
「私は電話してくるから、そこにいてくれ」
 離れると、ヴィンセントは立ち上がろうとしたが、ブルーシートの片方は
放置された建材の下敷きになっていて、動かない。
「すぐ戻ってくるから」
 言い聞かせても、今のヴィンセントに言葉はわからない。
 ブルーシートを引っ張ったり引っかいてはみるが、そう簡単に破れる代物でも
なかった。
 片端を押さえている建材が軋み、宝条は振り向く。
 目算した限りでは、崩れて他に影響するほどの量ではない。
 ただヴィンセントが下敷きになったら、少しくらいは痛い思いをするだろう。
 他の方法で連絡をしようか、と、戻った途端。
 ブルーシートからすり抜けて、ヴィンセントが突っ立っていた。
 思わず、宝条は頬を緩める。
 首から上は、昼食の入った紙袋ですっぽり覆われていた。
「変わった帽子だな」
 はい、と、ヴィンセントはごみと、少しだけ食べ残した食料を渡してくれる。
 食べられるものを口に入れてしまい、手が空くと、ヴィンセントは宝条と
手をつなぐ。
 紙袋には、目の部分だけ小さな穴が開いていた。
「サングラスあるよ」
 せっかくの覗き穴から見えるように、サングラスをちらつかせてみたが、
ヴィンセントは首を振る。
 宝条からも、他の通行人からも、ヴィンセントの顔は見えないが、本人は
覗き穴越しの視界が気に入ったらしく、そのまま宝条が電話をかけに行っても
とりあえず主任が様子を見に駆けつけたときも、紙袋を取らないままだった。
「何で紙袋」
「丁度いいサイズだったみたいですよ。ポリ袋だったら通気孔確保が大変だった」
 ヴィンセントは首を傾げて主任を見ているようだが、主任の側からはなるほど
ヴィンセントの瞳を見ることは出来なかった。
「…前に見たときは獣だったな」
「後二つありますよ」
「早く治してやってくれ」
 宝条がうなずくと、主任はもうヴィンセントに振り向かずに廊下を歩いて行った。
 主任が見えなくなるまで見送っていたヴィンセントの手を引くと、首を傾げる。
「私も帰るから、帰って休もうな。疲れただろ」
 返事はなかったが、手を引くと逆らわずについてくる。
 車で家まで送り届けてもらうまで、紙袋にぎょっとされても、普通に
話しかけられても、ヴィンセントは人形のようにおとなしいままだった。

 宝条は扉を開けて玄関の明かりをつける。
 ヴィンセントはチラッと辺りを見回して、壁を蹴るようにして天井近くまで
飛び上がった。
 途端、明かりが消えた。
 宝条は恨めしくヴィンセントに振り返る。
 多分壁を蹴って届いた先は、魔晄ブレーカー。
 引っ越してきた時に復旧の仕方と器具は用意していたが、この暗がりでは
探せるわけがない。
 …明るくとも、どこに置いたかもうわからなくなっているのだ。
「…そういう悪いことすると、飯作れないし風呂沸かせないぞ」
 かさりと音がして、宝条の頭に紙袋が載せられる。
 もうよれよれになっているのが、手探りでもわかった。
 紙袋を捨てたヴィンセントは、明るい時のように部屋に入っていく。
 宝条は、とりあえず懐中電灯を探そうと部屋に入るが、難なくヴィンセントに
抱きすくめられる。
「こら」
 肩越しに、頬に唇を押し付けてくるのを、軽く小突いていなす。
「うちさ、電気通ってないと風呂沸かせないんだよ、ガスと水道が独立してるから
飯は何とかできるけ、」
 首から頬まで熱心に口付けしていたヴィンセントが、宝条の唇に吸い付く。
 火傷しそうに熱い舌が、口の中を好きなように這い回るのを許し、宝条は舌で
ヴィンセントの歯を確かめる。
 牙と呼べるほど形は変わってはいないが、鋭く尖っているように感じる。
 ヴィンセントも宝条の口の中を確かめ終えたのか、ゆっくり唇を離すが、顔を
べったりすり寄せたまま、離れない。
「なあ、君明日から検査だから、あと30分くらいで飯食っとかないと、明日
辛いんだぞ。さっきおやつ食べただけだろ?」
 うん、と、わかったのかわからないのかうなずいたヴィンセントは宝条を部屋の
奥に押し込む。
 バランスを崩して倒れこんだ先は、柔らかく宝条とヴィンセントを受け止めた。
 夕べ一晩いただけなのに、よくこの家の状況を把握しているものだと、宝条は
舌を巻くが、すぐにすり寄ってきたヴィンセントの舌が絡み付いてくる。
 久しぶりに触れる相手に、体の中に火がついて血が滾ってくるが、宝条は
何とかヴィンセントを突き放し、息を整える。
「絶食したいならそれでいいし、風呂は明日の朝でもなんとかなるが、駄目だ」
 突き放したくらいではヴィンセントを振りほどけない。そんな事はわかっている。
 だが、拒否したと声をかけたのに、聞こえた素振りもないのがまずい。
 まだ、ヴィンセントは化けていて、言葉を理解しないままだ。
 何らかの方法で意思疎通が出来るのならば、言葉を越えて睦んでも構わないが、
意思疎通が出来ないままのヴィンセントが、正気なのかどうかがわからない。
 病気で異常な衝動が湧き上がり、自分の意思以外で行動している可能性がある。
 性行為によく似た動作をしているが、実は全く違うことを伝えているのかも
しれないではないか。
 正気だったとしても、ヴィンセント自身が、化けた状態での行動を望んでいるか、
これはまだ確かめていない。
 宝条は、体を全て絡めてしまいたいと抱きついてくるヴィンセントの背中を叩く。
「…だめだ。ちゃんと喋れるようになるまでしない」
 ごそごそしている間に、器用にボタンを外されて、シャツがすっかりはだけて
いたが、宝条は何とか寝返りを打ってヴィンセントから逃げる。
「大体君、その化け方した時、寝たのは知らない奴ばっかりだろ。怖い相手、
敵に対して、混乱させて絞る攻撃だったんじゃないか?」
 背中に、ヴィンセントが貼り付いている。
 宝条の服はすっかりはだけ、ヴィンセントもさっさと脱いでしまったのだろう。
 背中に貼りついた裸の胸の鼓動が、びりびりと伝わってくる。
 言葉のわからないヴィンセントは、腹をまさぐりながら、ベルトを外そうと
指を動かし、宝条は苦笑いしながら払いのける。
「駄目だって。ちゃんと起きたら、ご満足いただけるまで遊ぶから」
 何度目かにベルトを外そうと頑張った指は、ベルトをあきらめて股間をまさぐり、
もう一度つねられて、やっと退散した。
 絡んでいた足が離れ、貼り付いていた胸が、にじんだ汗だけ残して離れる。
 ヴィンセントは寝返りを一つ。
 そのまま、宝条が覗き込んでも構ってこなかった。
 宝条は起き上がって服を直し、懐中電灯を探しに行く。
 やがて物置部屋で探した明かりをともす頃に気がついた。
 ブレーカーを落としてわざと暗くして、宝条がヴィンセントの目を見ないように、
邪眼で酔わないようにしてくれたのだろう。
 何でもわかってるんだな、と、宝条はため息を漏らす。
 うん、と、背中から宝条を抱きすくめたヴィンセントもうなずいた。
 いつのまに、と、振り向くと、唇に吸い付いてくる。
 今度は遠慮なくお互いの口をしゃぶりつくしてから、ゆっくり離れた。
「おはよう」
「一目で化けてるかどうかわかるのか?」
「薄暗いからよくわからん。声かけてみて返事してみたら、起きてるんだろう」
 薄暗くてもわかるほど大げさにヴィンセントがふくれて見せ、それから笑う。
「多分、もう少し前から戻ってた」
「とりあえずブレーカー上げてくれよ」
 はいはいとヴィンセントは玄関に行き、宝条が台所につく頃、無事に明かりが
復旧した。
 さて、と、腕まくりして食事の支度をしようとした宝条は、時計を見る。
 埃を払いながら台所に来たヴィンセントの顔をみて、にやーっと笑って見せた。
「…ごはん」
「タイムアウト。明日の検査終わるまで水も禁止」
 ヴィンセントの喉が鳴る。
「…朝食べたきりなんだが」
「私も今朝からほとんど食べてない。だが、気の毒だから断食つきあってやる」
 すっかり室温に戻った食材を、一応確かめながら冷蔵庫に押し込んでいる間、
ヴィンセントは恨めしく宝条を睨んでいた。
「ついうっかり間違えて食べてしまったら、検査延期か」
「病院は君専用じゃないからそんなに延期してもいられないんだ。胃と腸の
洗浄してでも明日の分は終わらせるからな」
 溶け崩れてしまいそうにため息をつくヴィンセントに、宝条は笑う。
「風呂沸かすから、体洗って寝てしまえ。いろいろ疲れたろ」
 ヴィンセントは大きくうなずく。
 多分、今朝一番に切ってきたはずの髪は、また好き放題に伸びていた。
 髭の方は、数日分の無精ひげといったところ。
 風呂の支度をしてから戻ってきた宝条は、無精ひげを一本抜いてやる。
「洗ってやるから」
 かっ、と、ヴィンセントの頬に血が上る。
 宝条はにやにや笑ってヴィンセントを小突いた。

 湯が熱かったのとそれ以外でふらふらのぼせたヴィンセントは、体を拭くのも
もどかしく、寝室に転がり込む。
 もうパジャマを着込んだ宝条が、タオルを持って追いかけてきたが、体を
拭かせるより前に捕まえて、ベッドに引きずり込む。
 はいはい、と、宝条は好きにさせながら、髪を拭いてやった。
「腹減った」
「仕事で忙しくて何日も断食してることあるじゃないか、一晩くらい我慢しろ」
 ヴィンセントは宝条の腕の中に潜り込むように体を丸め、パジャマに手をかける。
「腹減って寝られないからミルクで我慢する」
「水も駄目なんだから牛乳も」
 言いかけて宝条はタオルを持っていた手を止める。
 熱い舌が男根に絡みつき、指がまとわりついてくすぐっていた。
「…ミルクじゃない」
 くわえたままヴィンセントは首を振り、ややあってからうなずく。
 宝条は歯を食いしばって堪えながら、何とか引き剥がそうとするが、ねっとりと
まとわりつく舌に絡め取られて力が入らない。
 それでも腰を引こうとすると、ぎりぎりで触れた歯に、ほんの少し力がこもる。
「駄目だ、検査で胃の中やら口の中から未消化で出てきたら恥ずかしいだろ!」
 恥ずかしくない、と首を振るヴィンセントの頭を押さえつけ、宝条は堪える。
「だいたい、一晩中頑張ったって腹の足しになるほど分泌できるもんか!」
 吠えた宝条に、ヴィンセントはやっと腫れ上がった男根から離れた。
 よだれと粘液で、脈打っている男根を、ヴィンセントは名残惜しげにくすぐる。
「…カウパーだけなら唾と同じじゃないか」
「それだけ出し続けるような器用な真似が出来るか!」
 息を荒げた宝条は、ヴィンセントの腹をまさぐる。
「せっかく洗ってきれいにしたのに」
「朝出かける前に洗ってくれればいい」
 いきり立った男根を、いかせても離してもくれないヴィンセントの腹をくすぐり、
乳首を探り当て、舐めてやると、甘ったれた息がこぼれた。
「乳首いじりすぎて大きくなってたら、検査してもらう時に恥ずかしいな」
 きゅう、と、ヴィンセントが声を漏らし、のぼせて火照った肌に、更に血が上る。
「キスマークつけたり、引っかき傷残してたり、歯型ついてたら大変だ。いちいち
カルテに書き込まれてしまう。受傷時期、昨晩。受傷場所、乳首、首筋、背中、
わき腹、内腿」
 呟きながら、指でなぞり、唇だけ押し付けていく。
「受傷時間と力加減を考えると、こんな順番に、どれくらい時間をかけて、どんな
体位で、どんな快楽を得たのか割り出されてしまう」
 まだ触れてもいないのにいきり立ち、恥ずかしがって脈打つ男根を無造作に
しごくと、ヴィンセントが悲鳴のようにあえぐ。
 もう、とっくに宝条の男根を掴んでいた指はほどけていた。
 宝条は、潤んだヴィンセントの顔を覗き込む。
 舌だけは遠慮なく吸い合って、あとは肌に一つも痕跡を残さないように、
快楽だけが生じるようにと丁寧に弄っていく。
 風呂場で丁寧に洗いほぐしてきた跡を辿るように、唇と指と手のひらで確かめ、
胸を合わせ、腹を押し付け、肌で鼓動と吐息を聞きながら、足を絡める。
 甘ったれた鼻声を漏らしながらすがり付いてくるヴィンセントを、転がして
折りたたんで押し広げて、全身にくまなく触れた後は、喜んで打ち震えるところを
狙って攻めていく。
 明日から、検査入院だ。
 大勢のスタッフが、ヴィンセントの体に触れ、体の奥深い場所まで探り出して
いくのだ、自身が隠しておきたいことも、自分で気がつかないことも、遠慮なく。
 しかも、いとおしいとも美しいとも感動している暇もなく。
 あ、と、ヴィンセントが声を漏らして起き上がった。
 宝条は我に返り、白い肌を覗き込む。
 白い右胸に、歯型がにじんでいた。
 ヴィンセントは歯形を探り当て、しばらく見ている。
「…悪い」
「構わない」
「つい力が入って。よりによって、どこ行っても見られるところに…」
 ヴィンセントは歯型を撫でて、肩をすくめて笑う。
「宝条に撃たれた跡だって言い訳しとく」
「歯型と弾痕の違いもわからないようなやぶ医者に見せたくないぞ」
「明日の朝まで残るような歯型じゃない」
 これ位なら、と、ヴィンセントは宝条に噛み付き、大げさに痛がった宝条は
お返しにヴィンセントの男根をくわえ、泣き声を上げて降参するまで存分に
責めてやった。
 腹が減ってのどか沸いて辛いのに、これ以上水分を搾り出してどうするんだと
真顔でヴィンセントが逃げ出すまで、夜は続いた。

 くしゃくしゃで汚れ果てていたシーツを替える余力も、風呂に入って洗いなおす
気力もなくなって、二人はぐんにゃりと横たわる。
 ヴィンセントが寝返りを打って、宝条にもたれかかった。
「…始める前に、聞くのを忘れてしまった」
「…朝になってから聞く。腹減った…」
 ヴィンセントは宝条の腹に顔を押し付けて、笑う。
「途中で、化けてしまったらどうしようかって」
「さっき戻ったばかりじゃないか、そんな頻繁に来るのか」
 わからない、とヴィンセントはつぶやく。
「…楽しんでる間に、化けたら、お前が無防備な時に、化けてしまったら」
 宝条の手が、長く伸びた髪をすく。
 髪と一緒にうなじをくすぐり、背中を撫でていくと、ヴィンセントの喉から
声が漏れる。
「とりあえずは…」
「うん」
「痛いところ辛いところがないか確かめるのが先だな」
 ヴィンセントはくすっと笑った。
「怖がって避難しないと駄目だろ」
「もったいなくて避難なんか出来るか。大体さっきも、いつもとに戻ったのか
はっきりわからないままだった。今度こそ明るいところで一部始終見せろ」
 ふくれたヴィンセントは、また頬を緩めて宝条に体を預ける。
「今までの経緯からして、例えばちんこしゃぶったりしゃぶられてる数分の間に、
前兆も過程もなく変身完了できるほど、早くはないだろ。なんかおかしければ
離れて介抱する暇くらいあるさ」
 ヴィンセントはうなずく。
「君自身がどう思ってるかどんな行動をしたがってるかまでは把握してないが、
化けた時の君はむやみに人に危害を与えたことはない。素っ裸でそばにいても
なんら不安はないよ」
 時々、じゃれ付かれて死に掛けてはいるが、と宝条はつけたし、ヴィンセントが
肩をすくめる。
「…病院で、化けてしまったら、どうしよう」
「当然そのまま検査続行だよ。化けた後で数値が変わるのか調べるチャンスだ」
 そうじゃなくて、と、ヴィンセントは言いかけて、それから、うなずいた。
「大丈夫か」
「大丈夫だ。全部まかせろ」
 胸を張っても、貧弱な宝条の体は大してかわりなかったが、ヴィンセントは
ほっとして目を閉じる。
「怖くないか」
「君、化けてると、カメラ目線とかお澄まし顔とか笑顔をわかってくれないから、
どうにも写真写りが悪いんだが、可愛いぞ」
「…そうじゃなくて」
 宝条が聞いても、ヴィンセントは首を振って答えなかった。
 やがて、肩の力が抜け、寝息がこぼれる。
 宝条も、毛布を鼻先まで引き上げて大あくびし、目を閉じた。

 街灯と、夜更かししている家の明かり。
 街灯の続く先に、まだ眠らずに働く町の明かり。
 薄明るい空に、星は見えないままだった。

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September 22, 2008

馴染みの巣箱

 生キル力続きます。
 のんびり日常を書いてたら何年かかるかわからないので、さっさと行くぜと
宣言した気がするのですが、忘れました。
 いいや、せっかく帰ってきたところだしね。

【粗筋】
 ニブルヘイム任務を終えましたが、宝条一家見事に離散しています。
 ヴィンセントは遅れて何とか帰ってきました。

 ネオンの眩しい町中が途切れると、ポツリポツリと魔晄灯がともるだけの静かな
区画が続く。
 立ち並ぶ家からは、明かりと、生活の気配がにじむ。
 ヴィンセントは、時々立ち止まっては辺りを見回し、数歩先に歩く宝条は
文句も言わず、曲がり角や街灯の下で ヴィンセントが追いつくのを待っていた。
「なんか珍しいか?」
「この間まで空き地だったのに」
「そうらしいな、うちもまだ新築だってさ」
 ミッドガルから離れてほんのしばらく。
 色々と変わったことが多すぎて、歩くだけで目眩がした。
 似たような造りの家を数えて、宝条は立ち止まり、ヴィンセントを手招きする。
「ここ。表札出しておくから隣近所に忍び込むなよ」
 扉を開けて、明かりをつけていくと、まだ新築の匂いが立ち込めていた。
 ニブルヘイム勤務が決まってから、宝条もルクレツィアもヴィンセントも、
それまでの住まいを引き払っていた。
「こっちに到着した時は独身寮にいたんだけどね。君の部屋そっちな」
 玄関脇の部屋には、セミダブルのベッドと、先に届いていた荷物。
 トイレは向こう、風呂はそこ、と、宝条は案内し、ヴィンセントは窓を調べ
絨毯をめくって床板をノックし、壁紙をこそっと剥がして配線を調べようと
したところで、いい加減気がついた宝条に叱られる。
「借家なんだから手加減しろ」
「壁紙くらいもっときれいに張りなおせる」
 しゃーっ、と、歯をむき出して怒る宝条に、ヴィンセントは肩をすくめて笑った。
「たいそうな豪邸だな」
「もっとでかい家も勧められたんだが、部屋ばかり多くても、物置になるだけだ。
今も、君の部屋用意してまだ余ってるしな。そっちが私とルクレツィアの寝室」
 既に物置と書庫になりかけている部屋が一つ。
 それから、可愛らしい色合いの壁紙で、まだ物置になっていない部屋が一つ。
 覗き込んでいるヴィンセントに、宝条は特に説明もしなかった。
 ベッドはまだなかったが、タオルやベビー服が、洗って畳んでかごに収まり、
クッションやぬいぐるみが、いつか訪れるはずの主を待っていた。

「眠いなら部屋で寝ろ」
 手早く夕食の支度をし終えた宝条は、居間で寝転んでいるヴィンセントを
踏みつける真似をして、場所を空けさせる。
「今日一日寝てたから、眠くはないんだ」
 寝返りを打ったヴィンセントを更に蹴って押しのけ、宝条は座卓に料理を並べる。
「…布団テーブル懐かしいなー」
「まだコタツにしないぞ、暑苦しいし、こぼして汚すだけだからな」
 台所にダイニングテーブルはあるらしいが、まだ片付け切れていないらしく、
平らな部分が全く見えない。
 クッションを引き寄せて座りなおし、ヴィンセントはため息をこぼす。
 床に座ることも、一緒に食事をすることも普通になって、どれくらいたったか。
「明後日から入院だから、明日中に身支度しといてくれ」
「…調査課に顔出して、主任と打ち合わせして」
「会社行く前に髪切って来いよ」
 ヴィンセントは肩をすくめる。
 伸びすぎた髪が、顔を隠すように零れ落ちた。
「化けて、元に戻ると、伸びてる。髭も、爪も」
 さすがにそれは自力で始末したが、と、ヴィンセントは呟く。
「床屋に行ったら、この間来たばかりだろうと親父がびっくりしていて」
 宝条は、座卓に頬杖をついて黙って聞いていた。
 ほんの短期間に何度も髪を伸ばして見せれば、それは驚かれるだろう。
 町中には、何軒でも床屋があるからいいだろ、とは、言わなかった。
「こっちに来るまでに、二回化けたんだが、はっきり化けてはいないけれど
おかしいことはたびたびあって。その度に、みんなに迷惑をかけていた」
 肩を落としてうつむくと、前髪で表情も見えなくなる。
 宝条は立ち上がって、部屋の隅に積んだままの荷物を開いた。
「飛空艇に乗るときも、化けたら他の乗客が危険だから、拘束しておいてくれと
頼んだんだが」
「長時間縛っておくと血行悪くなるからお勧めしないな」
「…そう言われた。檻もないから、箱にでも入っとくか、って」
 ヴィンセントがやっと笑う。
「これくらいの箱に入れて置けば心配ないくらいの、危険度だって、さ」
「まあ、妥当だな。箱から出てきて構ってくれと遊び始めると手はかかるが。
長旅の間おとなしく箱に収まってる君もあれだが」
 宝条は荷物をあさり終えて振り返る。
 手には、ごついバリカンがぎらぎら光っている。
 ヴィンセントは、髪を押さえて一歩分たじろいだ。
「義父さんに、髭剃りに使えと貰ったんだが、私の髭で試すには何年かかるか
わからないところだった」
「…人間用?」
「羊用。上達すればどんなに絡んだ毛でもつるつるに剥けるぞ」
 宝条はどんと胸を張り、バリカンを構える。
「初挑戦させていただいた羊刈りがあまりにも下手だったので、修行用に貰った
バリカンがこんなところで役に立つとは思わなかった」
「…明日の朝一で床屋に行くから」
「床屋に行くならちょっと刈ってもフォローしてもらえるからいいだろ」
 ヴィンセントはぶんぶんと首を振って全身で拒否し、宝条はわざとらしいほどの
残念顔で、バリカンをテーブルに置く。
「義父さんがせっかく私に期待して鍛えてくれているというのに」
「…義父さん連れてルクレツィアの見舞いに行ったんだろう?ルクレツィアは
少しよくなったろうか」
 宝条は身を乗り出し、ヴィンセントの目を覗き込む。
「家族の顔見たら急に元気出して、病院内案内してくれるし、町に連れ出しても
楽しそうだし買い物するし」
「よかったじゃないか」
 宝条はわずかに顔をしかめる。
「体調はよくて元気でご機嫌だったんだが、少し記憶が途切れていたり、ずれが
あるらしいんだ。義母さんも義父さんも、これくらいなら実家に引き取って
家の手伝いさせてれば落ち着くんじゃないかって言ってくれたんだけどね」
 宝条は苦笑いして肩をすくめた。
 病状と今後の治療を考えると、実家に帰すこともミッドガルに帰すことも、
まだ先の話になるのだろう。
 ヴィンセントはそれ以上聞かなかった。
 宝条は、もう少しルクレツィアの話をし、その後強制連行されたグラスランドの
ルクレツィアの実家の農場でこき使われた話をして、お土産に持たされた、大量の
野菜や肉製品を披露をしつつ、食卓に並べる。
「赤ちゃん元気か」
 途端に宝条ががっくり肩を落とし、恨めしくヴィンセントを見上げる。
「こっち帰ってきてから仕事が忙しくて、休憩時間返上残業MAXで働いてて、
せっかくの面会時間を辞退してばかりなので、ずっと顔見てない」
 ヴィンセントが心配そうに体を乗り出したが、宝条は苦笑いする。
「出足が遅れたが順調に育ってるよ。元気すぎてガストの手に余ってるらしい」
「ガスト博士子守するのか」
 にやーっと宝条が笑い、写真を広げる。
「秘密裏の研究だが、協力者やスポンサーにはそれなりの情報を開示する必要が
あるんだそうで、帰ってきてから御披露目会やら研究発表やらで、大勢の前に
連れ出す機会が多いんだ。その時にはガストが責任者として、セフィロスを
抱っこして見せるパフォーマンスをしてるんだけどさ」
 ヴィンセントが覗き込んでも宝条のにやにやは止まらない。
「まだ泣いて出して寝ることしかしない赤ん坊だから、会場でガストの発表に
あわせてご機嫌よく笑って見せるなんて芸当は出来ないんだ。ぎゃんぎゃん泣いて
スピーチが一言も聞こえなくなったり、会場が最高潮に盛り上がったところで
おむつ交換退場だったりで、大変なんだそうだ」
 ヴィンセントがくすっと笑うと、宝条が目を細める。
「小さく生まれたけど、肝の据わった強い子だ。心配だけど心配ない」
「そうか」
「そうだ」
 宝条はヴィンセントの空いたグラスに酒を注ぐ。
「君も何とかする。そのためにセフィロスとの面会時間削って研究してる。あとは
今回の入院で頑張って我慢して検査されて、正確なデータをよこせ」
「…うん」
 一杯飲んで、ヴィンセントはため息をこぼす。
「…何度も、化けてしまった」
「化けそうになったら言ってくれ、今度こそ撮影して解析する」
「うん」
 注げ、と、グラスを差し出すと、宝条が瓶を傾け、すぐに空になった皿にも
肴を山盛りに乗せる。
「化けなくても、ぼんやりしてしまって、仕事にならなかったんだ。席を温めて
いるだけ、頭数だけの人員になってしまってた」
「そのぼんやりも興味深いよ。化けるのを抑制できて、ぼんやりで済んでいるのか、
それとも何らかの病状なのか調べるから、ちゃんと知らせてくれ」
 ヴィンセントは笑ってうなずく。
「なんでも、調べてくれるんだな」
「調べるさ。精神の変調があるのか体の変調だけか、体調の変調から精神の変調が
引き起こされるのか逆なのか、現在の科学で突き止められる限りは調べる。
些細なデータでも積み重ねれば、真実が見えてくるんだ」
 うん、と、ヴィンセントはうなずいて、手酌で酒を注ぐ。
「調べてくれるか」
「君が泣いて逃げ出してもな」
「うん」
 大あくびのヴィンセントから、宝条は酒のグラスを取り上げ、皿大盛りの肴を
突きつける。
「さっきから君飲んでばかりだ。この皿分は栄養素とカロリーを取得するまでは
寝かせてやらんぞ」
「ぶどうジュースで栄養取ったから…」
「発酵ぶどうジュースは栄養にならん!明後日から入院して即検査なんだ、
明日の夕方以降しばらく絶食なんだぞ」
 それは困る、と、ヴィンセントは顔をこすって皿を受け取る。
「いつまで絶食だっけ」
「順調に進んだら明後日の夜に検査が終わるから、明々後日の朝。その後別の
検査が入るけど、消化器官の再検査があるまでは、食事制限なしのはず」
 全部の検査予定を読み上げてくれる宝条を、ヴィンセントは苦笑いで遮る。
「…それだけ検査したら、治るだろうか」
「検査で結果を出して、その結果から治療方針を検討していくのだから、
検査してるだけじゃ治らないよ」
「わかってる」
 ふくれっ面のヴィンセントに、宝条は目を細める。
「現状を知るため、何をどうしたら正常に戻せるかを知るための検査なんだ、
辛いだろうが君を痛めつける目的でしているのではないことを理解して欲しい」
「知ってる」
「じゃ、いちいちすねるな」
 うなずいてから、ヴィンセントはうつむく。
 腹の内に、検査では見つけられない苛立ちと、言葉にまとめられない不安が
淀んでいる。
 自分の気持ちと自分の体のことなのに、自分でどうしていいのか、どうにも
見当がつかず、更に気持ちがささくれ立つ。
「…疲れたか」
「うん」
「風呂沸いてるから、体洗って寝ろ」
 近い床屋が朝の9時から開店だ、と、宝条は大真面目に地図を広げて見せ、
ヴィンセントはあくびをかみ殺しながら立ち上がる。
「混浴しないか」
「…どこで間違って覚えたか知らないが即刻訂正しろ。男女の区別がない共同浴場で
入浴することが、混浴だ」
「性別関係なく二人以上で性関係を持ったりいたずらしながら入るのは」
 皿を片付け始めた宝条が、しゃーっと歯をむき出して怒ってみせる。
「そんなエロい言葉はないし、君も私も疲れてるからさっさと寝るんだ!」
「二週間も我慢してるのに、このまま病院に行ったら大変だぞ、知らないぞ!」
「禁欲指令は出てないから、一人で抜いとけ!」
 宝条は、大げさにブーイングして見せるヴィンセントにタオルとパジャマを
押し付けて風呂場に押しやる。
「…明日」
 それだけ耳打ちして、後は知らん顔で台所に戻っていった。
 くすくす笑って、ヴィンセントはバスタブに体を沈める。
 初めて来た家の初めて入る風呂は、まだ建材臭くて落ち着かなかったが、
タオルとパジャマは、使い慣れた自分のもの。
 髭剃りも歯ブラシも、知ったブランドの使い慣れた銘柄がそろっていた。
 知らないようで馴染んだ空間で体を伸ばすうちに、苛立ちが湯に溶けて流れていく。
 わずらわしく伸び放題の髪を洗い、体の隅々まで洗い流す頃には、腹の底に
淀んでいた不安も排水溝に流れて消えていた。

 夜半でも、濁ったように明るい空には、ほとんど星は見えない。
 けれど、市街地の明かりは夜中でも青く灯ったまま。
 夜でも眩しい星空のニブルヘイムとはさかさまだ、と、ヴィンセントは笑い、
真新しいベッドに潜り込んだ。
 ここが自分の部屋、ここが自分の家、と、何度か呟いて、枕に顔を埋める。
 遠くに、宝条がまだ後片付けに奮闘している物音を聞きながら、安心して
目を閉じた。

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September 14, 2008

挿絵拝領

 Tiare.(旧 木霊奇譚。)の、こだまねこ様に挿絵を頂戴しました!
 「奉仕作業に勤しみます」に貼り付けてございます。
 いつも仲良くすれ違い勘違いなヴィンさんと宝条、楽しく描いていただきました。

 ありがたいことに、今までにも多くの方に挿絵を頂戴しています。
 私の舌足らずなつたない文章を材料に画像や映像を見てくださる方がいて、
それを描き起こしてくれる方がいるのは、本当に嬉しいです、ありがとうー

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September 11, 2008

はるか遠い所から

 お久しぶりございます。
 気候もそろそろ安定し、サボっているのにも飽きてまいりましたので再開です。

【粗筋】
セフィロスちゃん生まれました。
ヴィンさん変身体質になりました。
とりあえずプロジェクトはニブルヘイムを撤退してミッドガルに戻ります。

 ミッドガルの飛空艇発着所はまだ一般開放されていないにも関わらず、乗客で
ひしめき合っていた。
 荷物の搬入に、乗客チェックに忙しい発着場をすり抜けて、宝条は電話を探す。
 内線番号だけで発信して拒否されてから、ああ、自分はもうニブルヘイムに
いないのだと自覚する。
 発着場を多い尽くすノイズは、人の行き交いと人の声。
 この建物の中にひしめく人間の数は、田舎町ニブルヘイムの人口以上。
 蒸れて濁った空気と絶え間ない騒音をわずらわしいと感じながらも、宝条は
苦笑いする。
 ミッドガルに帰ってきたんだなあと、呟きながら、鞄の中からアドレス帳を
引っ張り出して、電話番号を探した。
 ニブルヘイムから飛空艇でほぼ一日。
 狭い中に座りっぱなしで、節々が痛い。
 航行中は座っているだけ、窓の外の景色に飽きたら寝て過ごす予定だったのだが、
気圧の変化と慣れない密閉空間で、不機嫌極まりない乗客が一人。
 力の限り泣き続けては、飽きて眠り、起きた途端にびっくりして泣き喚く。
 小さく生まれた赤ちゃんが元気にしているものだと、最初は皆ほほえましく
見守っていたが、優しく見守る限界を超えてもまだ泣き喚く赤ちゃんに、乗客の
我慢も限界、お付きの医者が、艇内の平和のため、身体に影響のない範囲で
鎮静剤を使おうかと提案しては、研究者同士寝ぼけ眼で論議が始まり、激昂しては
怒鳴りあいになってまたびっくりした赤ちゃんが泣き出し、と、思い出すだけで
にぎやかなフライトだった。
 しばらくして、ニブルヘイム事業所の総務に電話がつながる。
 宝条だが、と、伝えると、取り次ぐ相手を伝える前に、しばらく待たされる。
 宝条は、受話器を抱えながら、行き交う人をぼんやり眺めていた。
「無事着いたようだな、赤ちゃん元気にしてるか」
 宝条は我に返る。
 ニブルヘイム主任が出ると決め付けていたが、声は聞きなれたヴィンセントだ。
 発着場で急に姿を変えてしまって、結局置いて帰ってきてしまったはずなのに。
「…喋れるのか」
「うん」
「そうか」
 目の前で、生まれもつかぬ獣になっていくヴィンセントの姿は、映像記録こそ
していなかったが、宝条と、他の目撃した人間の脳裏にしっかり焼きついている。
「一時間くらいで、元に戻った」
「早いな」
「時計の文字盤が読めるようになって、発着時間から一時間たっていると気が
ついたから、もう少し前に見た目は戻ってたかもしれない」
「体調は」
「問題ない」
「そうか」
 宝条は電話ボックスの壁にもたれ、ため息を漏らす。
「一時間待ってれば、連れて帰れたんだな」
「…だな」
 ヴィンセントが、喉の奥で笑うのが聞こえ、宝条の頬も緩んだ。
「来週の便で迎えに行く」
「いいよ、自分で帰れる。仕事とか赤ちゃんの世話とか手続きとかあるだろ」
「…考えたくないが、色々ありそうだ」
「早く帰って、手伝うから」
「手伝わなくていい、君は発着場から即病院送りだ」
 病院嫌だとヴィンセントが笑って、宝条も笑う。
 それから、スケジュール帳を覗き込んだ。
「仕事なんかどうにでもなるんだが、来週コレルにルクレツィアの見舞いに行く
予定だったんだ」
「そっちのほうが大事だろ」
「うん。君の子守するより数倍大事だ」
 顔は見えないけれど、ヴィンセントがふくれっ面をするのが見えて、宝条は
肩を揺らして笑う。
「君を病院に押し込んでおいて、グラスランドのお義父さんとお義母さんはじめ
一族郎党引き連れて、ルクレツィアの御見舞いに行く予定だったのに」
 ヴィンセントがくすくす笑っていて、宝条も頬を緩める。
「来週の便で、私は他の人員と一緒に帰れるから。それとも、お義父さん、
お義母さんのご接待の気が重いので逃げ出したいなら、来てもいいが」
「君の子守より、お義父さんにしごかれるほうがましだ」
「婿の義務だろ」
「ああ」
 他愛のないことを、一言二言交わして、電話を置いた。
 回線が切れると、ニブルヘイムは遠い。
 ヴィンセントが目の前で化けたのが、一時の幻のように思える。
 苦しんで姿を変えていったのも、仲違いしたのも。
 宝条は、電話ボックスの壁にもたれて目を閉じる。
 目を閉じても喧騒は耳に届き、体を揺すって一時も静かにならない。
 静かなニブルヘイムが、遠い。
 赤ちゃんが生まれたのも、ルクレツィアが倒れたのも、ヴィンセントが病気に
なったのも、遠い思い出話。
 結婚したのも、三人でにぎやかに過ごしたのも、なんだか夢のように遠い話。
 三人で過ごして四人になったはずなのに、今の宝条は手荷物だけ抱えて、
電話ボックスの中で一人きり。
 何度も何度も深呼吸をしてから、やっと宝条は電話ボックスを出た。
 荷物を受け取って本社に戻って、それからやることは山のようにあるのだ。
 週末にはグラスランドのルクレツィアの実家から、一族郎党引き連れて
お見舞いツアーに出かけるのだ、ぼんやりしている暇はない。

 週末の休みから、一日病欠。
 這うようにして出勤した机に、ニブルヘイム総務からの連絡メモが一つ。
 ヴィンセントの出発が延期になったとだけ、書いてあった。
「何かありましたか」
 電話をかけると、今回はニブルヘイムの総務主任が出る。
「ちょっと仕事が忙しくて、こき使ってる間にフライト時間過ぎててな」
 宝条が無言で待つと、主任がため息を漏らす。
「本人が言ってくれるなと頼むから、報告してないんだが、あれから二回化けた」
「え」
「タイミング不定。五分くらい前に体調がおかしくなって、すぐに化けてしまう。
一時間くらいで姿は元に戻るんだが、立ち居振る舞いまできちんと戻るまでに
半日くらいかかる」
 宝条は受話器を肩に挟みながらメモを取り、カレンダーと見比べる。
「…周囲に被害は」
「あったら、本人の意思関係なく連絡してるよ。本人もびっくりしてその場で
動かずじっとしてるうちに落ち着いたらしい」
 本人に代わって欲しい、と、宝条は言いかけたが、声にならなかった。
 忙しい主任が話し相手になっているということは、本人がまだ喋れる状態では
ないのだろう。
「…来週、飛空艇に乗せてもらえますか」
「そうだな、化けても暴れても、仕事してくれるならいいんだが、仕事覚える前に
元に戻ってしまうから、使い物にならん」
 ため息を漏らす主任に、宝条は肩の力を抜く。
「来週は泣いても化けても暴れても飛空艇に押し込むから、そっちで処理頼む」
「一個連隊呼んでおきます、銃だけ取り上げておいてください」
「で、さっさと治療して、治してやってくれ。色々辛そうだ」
 はい、と、声には出せなかったが、宝条はうなずいた。
 それからしばらく、ミッドガルの様子はどうだ、ニブルヘイムの天気はどうだ、
と、二人はどうでもいい世間話を続けていた。
 先週までは顔を見て話が出来たのに、今は電話線一本でしかつながっていない
場所が、遠くて遠くて仕方なかった。

 翌週の発着場は、よく晴れていた。
 徹夜明け宝条は、よれよれと発着ゲートに顔を出す。
 疲れて降りてくる乗客の中に、背の高いタークスを探すが、見当たらなかった。
 と、顔見知りの乗務員が宝条を見つけてくれる。
「ご無沙汰してます」
「毎週大変だな」
「地面に足が着いていると酔うんですよ」
 嘘つけ、と、笑いながら、貨物置場に誘導されていくと、大きな木箱が一つ。
 宝条は眼鏡越しに乗務員を見据える。
「…お持ち帰り荷物にしては大きいが」
「機嫌がよければ自分で歩いて帰ってくれると思うんです」
 蓋は、かぶせてあるだけで釘打ちはされていなかった。
 覗き込むと、詰め込まれた毛布の中から、真っ赤な瞳が見上げていた。
 毛布を剥ぎ取ると、まだ寝ぼけ顔のヴィンセントがまぶしそうに顔をしかめる。
「…特等席だな」
「悪くない」
 あくびをかみ殺しながらヴィンセントは起き上がる。
「…主任に聞いたか」
「何を」
「なんでもない」
 髭はそっているらしいが、髪はまた、くしゃくしゃで伸び放題だった。
 前髪だけかきあげて、ヴィンセントは箱から抜け出す。
「飛空艇怖がって逃げ回ってると思われたらしくて、箱の中に入れられてしまった」
「賢明な判断だ。今週帰ってこなかったら、私も箱詰めして送ってくれるように
頼む予定だったんだ」
 ヴィンセントはふくれっ面で宝条を睨み、それから、頬を緩めた。
「…向こうで、何度も化けてしまったんだ」
「聞いてる」
「私は、檻につないで送ってくれと頼んだんだ」
 宝条はヴィンセントの肩を叩く。
「冗談半分に箱に詰めるくらいで問題ないと判断されて、最終的に何の危険もなく
到着したんだから、いいだろ、気にするな」
「…ああ」
「ったく、二週間も予定伸ばすから、病院の予約取り直しだ、今日明日はうちで
待機、その後入院してこってり検査開始だ」
「…もう一回ニブルヘイムに送り返してもらってもいいだろうか」
 駄目、と、宝条はヴィンセントを睨み、ひー、とヴィンセントは笑って怖がる。
 目が回るほど賑やかで眩しいミッドガルを、二人は初めて見る町のように
きょろきょろしながら歩いて帰る。
 どうでもいい世間話をして、口喧嘩をして、休憩代わりに飲み屋に立ち寄って、
お帰りなさいと乾杯して、それから、ぐったり溶けてしまうほど肩の力を抜いて、
笑った。
 確かめたいこと、聞きたいことはたくさんあるけれど、今日は顔を見て
無事を確認するだけで、十分だった。

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laboratory1 at 20:11|PermalinkComments(0)TrackBack(0)この記事をクリップ!5:生キル力 

目次

新着順に並べていくとわかりづらそうなので目次です。
どこから読んだらいいかわからなくなったら参照してください。

後で読み返したい方向けにネタばれつき詳細目次も作りました。
用途によって使い分けてください。

・神羅屋敷編
・昔の話編
・冥府魔道編
・生キル力編
・ちびたんず&おまけコーナー編
・番外編

※各カテゴリは、役者が同じ以外あんまり関係ありません。
※戦況によって攻守入れ替わります。

とりあえず新作 (おまけコーナー ちびたんセフィちゃんの動物園)


神羅屋敷】 神羅屋敷篭り中のヴィンセントとたまに来る宝条といろんなお客さん。

村人VSヴィンセント〜よその会社VSヴィンセント〜ヴィンセントVS宝条

01: (宝条)
02:屋敷幽霊 (村人)
03:何の夢を見ている (村人)
04:秘密 (村人)
05:子守唄 (村人) 暴力表現有
06:おあずけ (宝条)
07:冷たい床 (よその会社) 暴力表現有
08:暖かい場所 (宝条)
09:不可解なのは (宝条)


昔の話】 昔の神羅製作所でサラリーマンは気楽な稼業と来たもんだ

ヴィンセントVS宝条〜おっさんVSヴィンセント

01:赤い瞳の悪魔 (宝条)
02:ご指導ご鞭撻のほど (おっさん)
03:規則徹底遵守のほど (おっさん)
04:時間外勤務につき (おっさん)
05:健康保険適用外 (宝条)
06:忘年会二名様ご案内 (宝条)
07:予定表 (主任その他)
08:体調不良につき欠勤 (宝条)
09:休暇明け (主任)
10:福利厚生は充実しているか (新人営業君)
11:個人情報保護規定 (宝条)
12:対人関係を重視しつつ (ルクレツィア)
13:出向は無期限で (よその会社)
14:定年退職後の人生設計は (医者、主任)
15:転勤先の住居事情 (宝条、ルクレツィア)
16:定期健診のお知らせ (宝条)
17:物品購入手続き (宝条、ルクレツィア)
18:相互理解を進めるためには (ルクレツィア)
19:在宅待機 (ルクレツィア)
20:慰安旅行の夕べ (作業員)
21:冠婚葬祭よろずお世話します (宝条、ルクレツィア)
22:計画は慎重に (宝条、ルクレツィア)
23:スキルアップで自己向上 (宝条、ルクレツィア)
24:指揮系統は明確に (主任)
25:転職の理由は人それぞれに (ルクレツィア)
26:身辺調査の上審査します (宝条、ルクレツィア)
27:予告通達 (ガスト博士、ルクレツィア)
28:危機管理体制 (ルクレツィア)
29:関係改善に向けて (宝条、ルクレツィア)
30:迅速な事後処理 (宝条、ルクレツィア)
31:緊急指令 (宝条、神羅兵)
32:医務室にて (宝条、医者)
33:挑戦者達 (宝条)
34:合意を目指して (宝条)
35:深夜残業 (宝条)
36:増員要請 (ルクレツィア)
37:危険物取扱免許 (宝条、ガスト)
38:休暇申請 (ルクレツィア、宝条)
39:本社召還 (主任)
40:個別面談 (宝条)
41:第二の意見 (宝条)
42:健康診断 (宝条、ルクレツィア)
43:内部告発 (宝条、ガスト)
44:条件提示 (宝条、ルクレツィア)
45:平行線をたどる主張 (宝条、ルクレツィア)
46:果てしない野望 (ルクレツィア)
47:ぷりんとくらぶ (頂き挿絵、宝条)
48:屋外営業 (宝条、ルクレツィア)
49:聖ヴァレンタイン (ヴァレンタインデー番外)
50:万策尽きて退路なし (宝条、ルクレツィア)
51:将来展望 (宝条、ルクレツィア)
52:経過観察から始めて実践へ (宝条)
53:カウンセリングの有効活用 (宝条)
54:ストレス社会を乗り切るためには (研究員某)
55:奉仕作業に勤しみます (番外、ミッドガルで宝条と)
56:ただいまといえる場所 (ルクレツィア)
57:和合の要 (宝条、ルクレツィア)
58:雑談から見える真実 (宝条、ルクレツィア)
59:神のまします気配 (ルクレツィア、ガスト)
60:滾る思い (ルクレツィア、宝条)
61:生命の樹 (宝条、ガスト)
62:案外非科学的な (宝条、ルクレツィア)
63:戦力外通告 (宝条、ルクレツィア)
64:偶発の事故 (宝条、ルクレツィア)
65:懸念材料 (宝条、ルクレツィア)
66:期限厳守 (宝条)
67:約束遵守 (ヴィンセント、主任)
68:夢の終わり (宝条)
69:未だ実感が沸かなくとも (宝条)
70:刑罰よりも耐え難い (宝条)
71:沸点を越えた先 (宝条、医者)
72:醒めない夢 (宝条)


小ねた】 一本に数えない程度の小品

01:雁字搦めの気持ち (昔の話 宝条)
02:目の前に揺れるもの (昔の話 宝条、ルクレツィア)
03:ごく微かに密やかに (昔の話 宝条、ルクレツィア)
04:興味を持つ権利 (昔の話 宝条)
05:不定期メンテナンス (昔の話 宝条、ルクレツィア)


冥府魔道】 ニブルヘイムで魔法の研究

01:荒唐無稽な幻 (調査課主任 ガリアンビースト)
02:七転び八起き (神羅兵 ガリアンビースト)
03:一皮むけて (神羅兵 一休み)
04:語らいに血沸き肉踊る (神羅兵 デスギガス)
05:言葉だけでは伝わらず (神羅兵 デスギガス)
06:判断基準は流動的 (ひげ先生 一休み)
07:知識の奔流 (ひげ先生 ヴィンセント)
08:頭と体の境目に (ちょっと神羅兵 ヴィンセント)
09:溢れこぼれて伝わらない言葉 (調査課主任 まだヴィンセント)
10:立ち止まる暇もなく (ニブルヘイムの皆さん 一休み)
11:拡散する悪夢 (ニブルヘイムのお客さん ヘルマスカー)
12:知性の使い道 (ニブルヘイムのおばちゃん ヘルマスカー)
13:煌く混沌の中で (病院スタッフ 一休み)
14:魂まで揺さぶられ (神羅兵他 まだ休み中)
15:覚醒の声 (神羅兵他 カオス)
16:光差す場所へ向かえ (カオス ルクレツィア)
17:一目見たら忘れない (セフィロス ガスト)
18:天を目指す前に (ひげ先生 カオス)
19:安心できるところ (カオス ルクレツィア)
20:風をはらんで空へ (神羅兵 カオス)
21:包み込んで抱きしめて (カオス ルクレツィア)
22:志半ばにして (ひげ先生 カオス)
23:明日の約束 (ルクレツィア)
24:おかえりなさい (ルクレツィア)
25:刺激的過ぎる誘惑  (カオス 神羅兵)
26:滲み込む青さ (ひげ先生 カオス)
27:山の彼方 (ルクレツィア 調査課主任)
28:初めての再会 (ルクレツィア セフィロス)
29:難しいご注文 (ルクレツィア)
30:地に足をつけて (ヴィンセント)
31:些細で大きな隙間 (ヴィンセント)
32:入念な確認作業 (ヴィンセント)
33:消せない傷跡 (ヴィンセント)
34:始まりの予兆 (ニブルヘイム主任、ヴィンセント)
35:長くて短い夢 (ヴィンセント)
36:冥府からの帰り道 (ヴィンセント)


【生キル力】 ミッドガルに戻ってきたら、後は生きていくしか道はない

ヴィンセントと、宝条一家と、それからガスト一家

01:はるか遠い所から (宝条、ヴィンセント)
02:馴染みの巣箱 (宝条、ヴィンセント)
03:対処しづらい間歇現象 (宝条、ヴィンセント)
04:最重要の検査 (宝条)
05:自分の目で確かめるまでは (宝条、タークス)
06:神の鉄槌、地を轟かせ (神羅兵、デスギガス)
07:揺ぎ無いものを探して (宝条、ヴィンセント)
08:二人っきりの部屋で (宝条、セフィロス)
09:慈愛に満ちて温かく (宝条、ヴィンセント)
10:星の声 大地の歌 (ガスト)


ちびたん】 突発ほぼオリキャラ。ヴィンセント量産計画。

ビーカー内保存中のタークスヴィンセント、赤マントのヴィンセント、ちびヴィンセント、宝条

01:ちびたん (モノローグ)
02:あまえんぼ (モノローグ)
03:あかり (モノローグ)
04:つばさ (モノローグ)
05:かみなり (モノローグ セフィちゃん)
06:月明かりを浴びて (プロトタイプヴィンセント)


昔の話の、もっと前】 昔の話、冥府魔道よりもっと前。新人や子供なヴィンセント

01:眠れない町の隅っこで (プレ就職編)
02:躾が肝心 (新人研修編)
03:悪い夢 (まだまだ子供の頃)
04:健全なお取引 (新人色事初仕事)


女体化計画】 突発ほぼオリジナル。code:Vincent

 女工作員ヴィンセント、ルクレツィア(後未定)

01:女体とか(発案)
02:月が沈んでしまうまで (ルクレツィア)
03:雨で濡れてしまうから (ルクレツィア)


番外】 突発。お初の方は、ここで様子見するといいかもです。
 昔の話や冥府魔道とは役者が同じだけです。

01:傾向と対策 (赤マントヴィンセントVSバレット)
02:電飾ちかちかする夜に (クリスマス番外、宝条と子供セフィロス)
03:初日の出 (お正月番外、タークスヴィンセントVS名無しさん)
04:リミットブレイク (タークスヴィンセントVS名無しエージェント エロカワスレネタ)
05:月下美人 (エロカワスレネタ、改造中ヴィンセント)
06:with my little brother (某所への感想文+ちびたん番外) 
07:忘年会のお誘い (タークスヴィンセント)
08:浅い眠り (頂き物イラスト+タークスヴィンセント)
09:中世ファンタジー風 (突発で書きたくなったネタ、今はプロットのみ)
10:慇懃丁寧にひたすらに (頂き物イラスト+タークスヴィンセント)
11:一服頂戴できますか (頂き物イラスト+タークスヴィンセント)
12:Chi・Vi (頂き物イラスト+レポート)
13:小さな贅沢 (頂き物イラスト+タークスヴィンセント)
14:接待カラオケの夕べ (おっさんと営業君とタークスヴィンセント)
15:夏の夜の夢 (通りすがりにサマーセーター)
16:傾向と改善策 (赤マントVSバレット りたーんず)
17:甘い休息 (タークスヴィンセント、バレンタインデー)


おまけコーナー】 ちびたんセフィたんでお送りしますクロスオーバー適当コーナー♪

01:ちびたんセフィたんのおまけコーナー 1 (1、2)
02:ちびたんセフィたんのおまけコーナー 2 (3、4 ゲスト ターヴィンさん)
03:ちびたんセフィたんのおまけコーナー 3 (5 ゲスト 宝条博士)
04:ちびたんセフィたんのおまけコーナー 4 (6)
05:ヴィンさん宝条のおまけコーナー (7)
06:ちびたんセフィたんの夏休み 1 (肝試しー)
07:ちびたんセフィたんの夏休み 2 (海水浴)
08:ちびたんセフィたんの夏休み 3 (夏祭り)
09:ちびたんセフィちゃんの花火大会
10:ちびたんセフィちゃんのキャンプ日和
11:Happy Hallowe'en! (Trick or Treat!)
12:ちびたんセフィちゃんのいい湯だな (銭湯戦闘!)
13:ミッドガル迷宮マップ (デパートへGoGo)
14:暴走の愛 (バレンタインデー)
15:迷子の心得 (知らない人に出会ったら)
16:抱きしめれば伝わります (ヴィンさんとお父さんにぎゅー)
17:ちびたんセフィちゃんの遊園地(壱) (まずはプール)
18:運命の勇者様 (夏の衝撃!二人をめぐる数奇な運命)
19:ちびたんセフィちゃんの遊園地(弐) (お化け屋敷だわーい)
20:ヴァレンタイン様にお願い (ヴァレンタインデー)
21:魂の音色 (お坊ちゃまはピアノ教室に)
22:ちびたんセフィちゃんの動物園 (サンプルさんじゃ足りないの) 


誕生日週間】 ヴィンさんお誕生日おめでとう特集

01:お菓子といたずら (番外 ターヴィンVSおっさん)
02:おいわい (ちびたん)
03:お誕生日でおまけコーナー (とりあえず全員)
04:秘密企画進行中 (昔の話 宝条夫妻)
05:ともだち (ちびたん セフィちゃん)
06:いつか交差するはずのすれ違い (昔の話の、もっと前 プレジデント神羅)
07:大人への飛躍 (ちびたん セフィちゃん)
08:とびっきりの花束を (ちびたん 宝条お父さんたち)


冬休み】 冬なので番外遊びましょうっ

01:ちびたんセフィちゃんの冬休み 1 (策敵!シンライダー!)
02:ちびたんセフィちゃんの冬休み 2 (メリクリメリクリ)
03:伝統の破壊 (昔の話、おせちはつまみ食え!)
04:ちびたんセフィちゃんの冬休み 3 (響け、天使の歌声!)
05:ちびたんセフィちゃんの冬休み 4 (墨滴一閃、印せ今年の希望!)
06:事始めの宵 (昔の話、新年初めて物語)
07:ちびたんセフィちゃんの冬休み 5 (はじめてじゃないけどお使いへGO!)
08:街いっぱいの星 (電気の都のお祭りです)
09:平凡で普通な冬の夜 (宝条夫妻と赤ちゃんとヴィンセント)
10:邪まなる風 (やはり冬はこれでしょう、セフィちゃんメイン)
11:火花吐き散らし (冬の名物第二段、今度はちびたんで)
12:雪に燃える (スキーに行くよ、雪で遊べ!)


頂き物】頂戴したイラスト飾ってあります。

01:浅い眠り(敬助様より)
02:暖かい場所(敬助様より)
03:相互理解を深めるためには(敬助様より)
04:ぷりんとくらぶ(敬助様より)
05:慇懃丁寧にひたすらに(苦無様より)
06:一服頂戴できますか(苦無様より)
07:Chi・Vi(敬助様より)
08:教育的指導(苦無様より4コママンガ)
09:小さな贅沢(ハムコ様より)
10:赤い瞳の悪魔(苦無様より)
11:場外大乱闘変(さかな様より 抱腹ノンストップ小説)
12:挽貝大卵豆辺(さかな様より 絶倒ジェットコースター小説)

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