AdSense や各種アフィリエイト、オークションサイトが登場したことで、
物を書く人や情報提供サイトを運営する人、個人で物を仕入れて販売する人たちは
今までにないまったく新しい仕事の仕方の選択肢を手に入れた。

会社に所属したり会社と契約したりしなくても、
コンテンツやサービスを提供したり、
個人で仕入れた物品をネットで販売したりすることによって、
それだけで十分に生活することができる収益を手にする人が出てきている。
会社に勤務しながらも、
個人でのネットでの収入が家計のポートフォリオの中で無視できない
位置を占めてきている人もすでに数多く存在する。

賃金水準が相対的に低い国では、
AdSense による収入が天から舞い降りた奇跡のように扱われているという。
日本でもネットでの収入で毎月数百万円を稼ぐ人があらわれてきている。

これらのネットで提供される仕組みは、
個人が企業で働く意味を改めて考えさせるきっかけを作ったし、
さらには地域や国を越えたネットで集まる富の再分配まで実現しつつある。

しかしここで行われていることは、実は2つしかない。
一つは、マッチング。そしてもう一つは、金銭の授受の代行

これらの恩恵を受けることができるのは、
ネットに関係する人や、表現するコンテンツを持つ人たちだけではないはずだ。

この先10年で、「あちら側」と「こちら側」を仕事や収益の面でつなぐ架け橋が、
きっとつくられる。


企業で働くことの意味
現在では一般に、仕事の単位は粗粒度である。つまり一粒が大きい。
これは具体的には、ある企業 = 一つの粒 に所属することであり、
特に規模の大きな会社においては、この会社を選んだのであれば
他の会社と二束わらじを履いてはいけないという規則を設けているケースが多い。

何らかの形で企業に所属しなければならなかったのは、

1. 企業の信用 (= 歴史と評価)
2. 企業のお金の流れを管理する能力 (= 財務部門)
3. 企業の顧客を集める能力 (= 営業部門)

などを、個人ですべて引き受けていくことが難しかったことが理由として大きい。

今ネットの世界で起こっていることは、これらすべてを、企業に所属せずとも、
個人が手に入れることができるようになっている、ということだ。

お金の流れは、
PayPal のように決済を支援してくれるサービスが存在し、
AdSense や amazon アフィリエイトにおいても、
個人が一々財務的手続きをせずとも自動的に振込みが行われる
仕組みが何年も前から稼動している。

信用や営業については、
権威や肩書きがなくとも良いコンテンツやサービスを提供していれば
きっと誰かがどこかで見てくれていて、その評価が自然と伝播していく姿を、
私たちはこれまで少なからず目撃してきたはずだ。

今日ではまだネットの仕組みを使って新しいワーキングスタイルの選択肢を手にしている人は
限られているが、これらの恩恵によって働き方のスタイルが大きく変わり得る仕事は
限りなく広いと私は思う。


ジョブ端末
それでも会社との新しい関わり方をする人たちを、「こちら側」の人はきっと「あちら側」と見るだろう。

この感覚を大きく変えるきっかけとなるのは、現在の ATM のようにコンビニに設置される「ジョブ端末」になるだろう。

コンビニでお金を下ろす感覚で、自分の適性にマッチした仕事をタッチパネルの操作で引き受ける。

引き受けることができる仕事は、一つの会社が把握できる範囲に限られたものだけでなく、大小様々な依頼主と仕事を請け負う側とが、ネットの仕組みによってダイナミックにマッチングされる。

仕事の期間や大きさは、「ジョブセット」を選択することで自分で調整することができる。
2時間の仕事、成果を達成すれば何時間でも良い仕事、1ヶ月の仕事、1年の仕事(今で言う年俸契約)、3年以上の仕事(今で言う多くのケースにおける就職)等々。

仕事の完了が確認され次第、仕事の報酬をジョブ端末から、ATM でお金をおろすような感覚で引き出せる。

今日のような働き方も、何かあったときの交換可能性等の理由により、
選択肢として確実に残っていくだろう。
それを求める会社はジョブセットを長めに設定するし、
そこでの安定を求める個人はやはり長めで大き目のジョブセットを選択するだろう。

しかしどのような働き方を選ぶにせよ、
「こちら側」での仕事の仕方に慣れ親しんできた人は、
その選択肢の豊富さと、どこに行くかを自ら選べることと、
自分の信用が会社の権威によってではなく、Yahoo! オークションの取引評価の蓄積のように、
自分と関わってきた人たちの自分への評価の積み上げで行われることに衝撃を覚える。

そして、今まで決して出会うことのなかった依頼主との出会いに、
ロングテールのビジネスのインパクトを身をもって痛感することになる。

このようなショッキングな体験によって、「こちら側」と「あちら側」は次第につながっていく。


整いつつあるこれからのネットの仕組み

Amazon Mechanical Turk はソフトウェアで行いたい処理のうち、
コンピューターが得意な処理はコンピューターが、人間が得意な処理は人間が行うことで、人とソフトウェアとの新しい融合の形を実現するものだ。

このような仕組みの登場は、
今ネットの世界で起こっているワーキングスタイルの変化の波を、
さらにはネットで集まる富の再分配の波を、
今まで届いていなかったところにまで押し広げるきっかけとなる可能性を秘めている。

Web サイトでリクエストが上がっている仕事の例は、
「好きなレストランの名前を上位3つあげてください」とか、
「ブログを書いている時にストレスに感じることをレポートしてください」とか、
現在ではまだそういう簡単な仕事のみだ。

しかし今後は、リクエストとそれに対する対価がはっきりする仕事であれば、
様々な種類の仕事がこのような仕組みの中で提供されていくだろうし、
そしてこれらは、PC や携帯電話だけではなく、
ジョブ端末のような「こちら側」の機器からも利用できるようになっていくだろう。


これから先10年の新しいワーキングスタイル

この先10年の新しいワーキングスタイルの特徴をまとめると次のようになる。

1. 仕事の単位が細粒度になり、個人も企業もその大きさを柔軟に設定することができる。
2. 仕事を求める人と仕事を提供する人とが企業の枠を超えてダイナミックにマッチングされる。
3. 個人の能力の評価は、上司や部下によってではなく、成果を受け取った相手からの評価の蓄積によって行われる。
4. お金の流れを管理する会社は、仮想的組織の財務部門として機能する。
5. ソフトウェアの一部として仕事がリクエストされ、ソフトウェアの一部として仕事の成果が受け取られるケースが出てくる。


この先10年で、働き方の選択肢は、きっと大きく変化していくはずだ。