初対面の人との会話で最近印象的だったのは、「何階建てですか?」という質問だった。曰く、自社ビルとして何階建てのビルを持っているのかということで、彼の考え方としては、自社ビルを建てるくらいの収益がある事業をやっていない人間にはあまり興味がない、ということである。

私の会社はそもそも自社ビルを持っていないので彼の基準からいくとその時点でNGだったわけだが、この発言をきっかけとして改めて考えたのは、企業や個人がその目指していく方向を検討していく際に、次の3パターンのうち、どの方向を目指そうとしているのかをはっきりと意識していく必要があるな、ということだった。

【企業・個人の目的】
1. 金をつくろうとしている
2. 富をつくろうとしている
3. 金と富をつくろうとしている

ここでいう富とは、ポール・グレアムが「ハッカーと画家」で言っているような、人に何らかの幸福感を与えるものすべてである。例えばそこには祖母の肩叩きをすることも含まれるし、大切な人のために料理に腕を振るうことも含まれるし、困っている顧客にアドバイスをすることも含まれる。学術的な発明や発見も含まれるし、道に困っている人に行き方を教えてあげることも含まれるだろう。

企業で活動していると陥ってしまいやすいのが、ボランティアではなく、利潤追求団体として企業という前提のもとに、自分たちの活動の方針を決める際に、それが富をうみだすのかどうかという視点を忘れて、金になるのかどうかということばかりを考えてしまうことである。

例えばはてなダイアリーは、無償で表現の場所を提供することで、たくさんの富をうみだしている。しかし運営母体のはてなに収益が上がる広告は基本的には表示されず*1、はてなダイアリーは金をうみだしていない。世の中に対していかにインパクトを与えようと、冒頭の質問に対しては答えは「No.」である。はてなはきっと、これからも自社ビルなんて建てないだろう。

上記のように考えて、つい先日、ベンチャーキャピタルのとある役職のある方に、「富はうみだしているけれど、金はそこそこしかうみださないベンチャーをどう見るか?」と聞いてみた。その答えとしては、売上を急上昇させていかないとIPO(株式公開)できない。IPOしないと資金調達ができないし、10年は存続できても、30年は存続しないのではないかと。IPOしないと存続できないかどうかということ自体にもクエスチョンではあるが*2、とにかく金をうみだすかどうかということばかり考えてしまいやすい世の中である。自分がどのような富をつくったのか、あるいはつくろうとしているのか、そしてそれが本当に金と結びつく必要があるのか、ここ数週間そのことばかり考えている。



*1 この伊藤さんのエントリーはさくらインターネットに移行しました、という趣旨のものだったが、個人的にははてなダイアリーが金ではなく富を産み出すことに特化していることをサラッと言った点が一番印象に残った。

*2 例に出すまでもなく、サントリーの事例等があるし。



ハッカーと画家 コンピュータ時代の創造者たち
ポール グレアム Paul Graham 川合 史朗
オーム社
売り上げランキング: 3574