2008年08月06日
ソフトウェアビジネスのスケーラビリティと経営戦略
後半のリーダー論については100%同意するとして、それ以外にshi3zさんが指摘しているのは次のような点だ。
(1) ビジネスにおける戦闘の主役は営業マン、代理店ビジネスの会社は最前線で仕事をしているとは言えない
(2) ITビジネスの世界では競争意識がなければ成功できない。外の敵とどう戦うかを意識しないと、江戸幕府のように敗北する
(1) ソフトウェアビジネスのスケーラビリティと経営戦略
> ビジネスにおける戦闘の主役は営業マン、代理店ビジネスの会社は最前線で仕事をしているとは言えない
もともとはアプレッソも直販メインの会社で、私も含めてエンジニアが製品の説明にお客さんのところに出向いて、DataSpiderの説明をしたり、目の前でDataSpiderを使ったシステムのプロトタイプをペアプロでつくったりしていた。この仕事の仕方は、現場の喜びと悲しみを直接肌で感じるための最短のパスだったし、これからどういうものが求められていくのかという、現場でしか感じられないインスピレーションが沸くことも多々あった。その意味で、shi3zさんの言うとおり「最前線感」はあったし、shi3zさんが言っていることもよくわかる。
3年くらいこのモデルを続けて改めて痛感したのは、ソフトウェアのビジネスは、パッケージビジネスであれ、ウェブのサービスであれ、スケーラビリティがなければある程度以上伸びない、ということだった。
汎用的に使えるソフトウェアを開発しても、お客さんごとに毎回訪問してソフトウェアの説明をし、トラブル発生時にも毎回直接対応していくモデルだと、原材料なしに複製可能というソフトウェアの産業的特性が十分に活きてこないし、突発的なトラブルによって新バージョンの開発予定がずれ込んで新機能を待っていた多くのお客さんに迷惑をかけてしまう、というようなケースも出てくる。
そこで、ある程度案件の状況に左右されず新機能や新製品の開発を進めることができ、なおかつ現場の声が聞こえなくならないよう、直接販売をある程度残しつつ、間接販売をメインに据える、というのが、ソフトウェアビジネスのスケーラビリティを考慮した上でのアプレッソの経営戦略だった。
上記の点を考慮すると、shi3zさんが推奨する「ソフトウェア開発をしている当事者が弾の飛び交う現場に直接出て行く」というモデルのビジネスは「最前線感」を得ることはできるし、はっきり言って楽しいのだけれど、同時に「ゴールキーパーまで相手のゴールに攻め込むフォーメーションなきサッカーチーム」のように、単純に経営者が役割分担とリスクヘッジという経営判断を怠っているケースがあるので、要注意である。
もっとも、shi3zさんと口頭で話しているときに、間接販売とかも考えなきゃねーという話をしていたので、shi3zさんが上記の内容をまったく考慮していない、ということはないのだろうけど、開発者が直接出ていくのが正しい、というのが常に成立するわけではない、ということについてはここではっきり言っておきたい。
(2) ITの世界の江戸幕府というメタファーについて
> ITビジネスの世界では競争意識がなければ成功できない。外の敵とどう戦うかを意識しないと、江戸幕府のように敗北する
ITに限らずあらゆるビジネスには競争が発生する、というのは当然こととして、ここでshi3zさんが引用している江戸時代の日本の事例は、現在のITの世界に適用する例としては適切ではない。
というのも、ソフトウェアが地域限定的な競争力を持ち得るのは、地域固有の会計基準に対応していたり、地域固有の言語に対応していたり、地域性に基づいた機能を持っているときだけなのであって、OSやデータベース、ミドルウェアなどの地域性が直接的に関係しないソフトウェアにおいては、流通経路についてもたいてい日本にも代理店があったり、ネットでライセンスを購入できたりするので、鎖国状態を形成すること事態が不可能だからだ。
誤解を招く書き方をしてしまったのかもしれないが、一つ前のエントリで私が言おうとしたのは「競争は良くない」ということではなく、「戦争状態だ!危機感を持て!武器を持ってゲリラ戦を戦い抜くんだ!」というノリで肉食獣的にやっていくのは、私は自分がそのノリでやっていく気にはあまりなれないし、競争力のあるソフトウェアをつくろうとするための一つのアプローチに過ぎないんじゃないの?ということだ。
■ 関連エントリ
・ベンチャー企業の始め方
・人月ビジネス、プロダクト、ウェブのサービス
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