2008年09月16日

「悪女の美食術」福田和也

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週末に探し物で本棚をあさっていたところ、福田和也の「悪女の美食術」という本に目が止まった。タイトルに惹かれたので最初の方だけ軽く見てみようとパラパラと読み進めていると、レストランガイド的な内容のものかと思いきや、食を巡る美学と文化に関する大変興味深い考察が展開され、なおかつ数十ページに1回程度、電車の中で読んでいても声を上げて笑ってしまうことを禁じえないような、思い当たる節があり、かつユーモラスな表現が散りばめられており、一気に最後まで読みきってしまった。

本書で扱っているのは、「一人で食事して迫害されない方法」、「ワリカンの嘘、オゴり得、オゴられ損」、「不本意な食事から空腹を守り抜く」といったもので、美食術というより、食文化を巡る、福田和也ならではの挑発的考察とでも言うべき内容となっている。

例えば、一人で外食することをテーマとした第一章には、次のような箇所がある。

 たしかに、一人で食事をするのには、相応の意識が必要なのですが、しかし、あまりに意識的であっても、困る場合があります。つまり、「私は、一人で食事してるのよ、何か文句ある?」という態度が、あまりにも先鋭的に周囲に放射されてしまうと、これはこれで他の客にとっては迷惑この上ない。
 先年、大阪の高名なフランス料理店でのことです。ここにいました、そういう人が。相応の格式のある店、しかもフランス料理を、しかも若い女性が一人で、ディナーをとる、というのが並々ならぬ覚悟がいることはわかります。見方によっては、きわめて勇気がいることでしょう。
 ただ、この人は、勇気と覚悟を、あまりにもあからさまに、かつ強力に放射していたのですね。
 <中略>
 たぶんムートン・カデを眼前に据え、やや猫背になりながら、きわめてゆっくりと、つまり自分はオタオタして急いで食べたりはしないのよ、じっくり楽しむのだから、という気合を丸出しにして、ことさらにゆっくりと、給食を残して居残りさせられた小学校一年生のように反芻しつつ食べ、時に大げさに感きわまったような表情をつくります。
 ようやく一皿を食べ終わった後、次の料理が出てくる間、つまりは一人で食事をしている時にもっとも遣る瀬無い時間も、彼女はごまかしはしませんでした。文庫本を取り出して読んだりはしません。ずっと上目づかいに虚空を睨んでいるのです。
 その姿を見て、同行していた人が、云いました、「タリバーン」。かの、アルカイーダとともに、アフガニスタンを支配していた原理主義者たち。
「悪女の美食術」 p.25 虚空を睨む一人ディナー より

他にも、付き合いで不本意な食事をとることになった際、どのように食べたふりをして空腹を守り抜くか - 例えば弁当の場合、他の人が食べ終わるころあいに、実は自分は手をつけていない弁当の蓋をそっと閉めるとか - についての姑息かつ実践的なテクニックが、立食パーティー、弁当、中華、和食、フレンチといった料理のジャンルごとに詳細に紹介されていたりと、まったく飽きずに読み進められ、なおかつ、料理の満腹感さながらに、充実した読後感を味わえる一冊となっている。

自宅での食事についても言及されており、骨董などの器を自宅で使う意義、そしてそれを始めるための入門的解説なども掲載されており、食にある程度関心のある人であれば、ぜひ一読をお勧めしたい一冊である。



悪女の美食術
悪女の美食術
posted with amazlet at 08.09.16
福田 和也
講談社
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おすすめ度の平均: 4.5
4 食への揺るぎなきこだわりを感じる
5 美食とは何か
5 最高に面白いです。




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lalha at 13:26 │生活  │Comments(0)TrackBack(0)

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