Eric Sink on the Business of Software」読了。献本感謝。
みんな大好きジョエル・スポルスキーも大絶賛の本書であるが、とても面白かった。
そして、本書で指摘される図星としか言いようのない的を得た指摘の数々がつぼにはまり、読みながら頻繁に声を出して大笑いしていたので、家の中で不審がられた。

私たちは、独創的なアイデアでソフトウェア業界の勢力図を書き換えてしまった人たちや、一夜にして巨万の富を手にした人たちにばかり興味が向きがちだ。

しかし、著者はそれに対してはっきりと「No.」を突きつける。
自分たちのソフトウェア製品を持ち、しかし大企業化を志向しない企業のあり方を、著者は「小さなISV」と呼ぶ。

「小さなISV」の中では、「倍々ゲームの成長率」が重要なのではなく、顧客が満足し、様々なプロセスに磨きをかけながら、自分たちがつくりあげていきたいソフトウェア製品を、丁寧につくりあげていくことができる。

それを私たちがなぜしようとしないのか、著者は次のように分析する。

1. 私たちはそれを見たいと思わない
(巨大なマーケットばかり意識して、ニッチマーケットで優れた製品をつくりあげていくことが選択肢に入らない)

2. 小さな会社じゃ誰も褒めてくれない
(メディアは小さな会社のことをあまり取り上げない。しかし、小さなISVは顧客に近く、技術を磨き、社員を大切にしながら、高い収益を上げていくことができる)

3. 私たちはすべてを白か黒かで見ている
(特にギークは、ものごとを0か1かで見たがるので、大成功するか、やらないかのどちらかしかないように考えてしまう)

実は、この「小さなISV」というコンセプトは、私自身にとっての長年の課題、というか悩み、に対して、一つの方向性を与えてくれたところがある。

私がアプレッソでDataSpiderの仕事を始めてから約8年になるのだが、データ連携の案件ではかなり高確率でDataSpiderを採用するかの話がでるようになってきていて収益も出ているし、まだまだ直したいバグとか対応したい機能とかはもちろんたくさんあるのだが、エンジニアをはじめ、アプレッソのチームメンバーと一緒に仕事をしながら、本人としては結構楽しくやっているのである。

が、私が周囲からよく言われることの例として:

・(Googleを脅かすようなことをやらずに)こんなことやってていいんですか
・(売上何百億の会社を目指さずに)こんなことやってていいんですか
・(ウェブサービスやiPhoneをやらずに)こんなことやってていいんですか
・(大ヒットを目指して博打的に事業を連発せずに)こんなことやってていいんですか

といったような指摘がある。

いつか気が変わって上のようなことも目指すこともあるかもしれないので完全に否定はできないが、今のところあまり上のようなことを志向しておらず、こうした指摘を受けるたびに、自分は何かいけないことをして怒られているかのような気分になることがあった。

一般に、「あなたはこのままでいいのです」という風に自分肯定的に受け取れる言説に感銘を受けることの危険性は理解しているつもりだが、本人はあまり違和感なくやっているのに、周囲から上のようによく言われる私としては、「小さなISV」できちんと顧客の求めるプロダクトを開発し、ブラッシュアップしていくことがソフトウェア開発者の目指すべき姿の一つ、と言ってもらえたのは、嬉しかったところがある。

そしてもう一つ、本書を語る上で絶対に外せないキーワードがある。それは「小さなISV」よりさらに小さい、「マイクロISV」である。

具体的には、一人から数人程度の組織でソフトウェアを開発し、それを販売していく、というモデルだ。日本では「秀丸」を開発しているサイトー企画などがこのモデルにあたるだろう。

ソフトウェアプロダクトをつくる会社を立ち上げるとなると尻込みしてしまう人も多いかもしれないが、「会社に勤めながら、空いた時間でソフトを作る」ということであれば、リスクも少なく、自分でもできるかもしれない、と感じる人は数多くいるだろう。

本書、というか著者の姿勢が非常に面白いのは、失敗したことも含めて、すべてさらけ出してしまう点だ。

この「マイクロISV」について、コンセプトや気をつけることなどを紹介するに留まらず、著者は自分で「Winnable Solitaire」というソリティアの亜種を開発し、実は結構成功するんじゃないか!?などと予想したり、そう思える理由を箇条書きにしたりしながら、結局うまくいきませんでしたという事の顛末が仔細に紹介されており、「マイクロISV」なら自分もやってみようか、と少しでも思う人なら、このパートだけでも読む価値がある。

「小さなISV」と、それをより極端にした「マイクロISV」。
この二つのキーワードは確実に、今後私がソフトウェア開発を考えるときのキーワードの一つになるだろう。

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