2011年11月20日

「7つの習慣」の研修を終えて - アンパンマンと依存の世界を巡る考察

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アプレッソは二代表制で営業・マーケティングはIBMで長年営業をやっていた長谷川、技術や製品計画は私が担当しているのだが、長谷川から、以前受けた「7つの習慣」のトレーニングがとても良かったので、会社のためというよりも社員一人一人の人生にとってプラスになるだろうから受けてみてはどうか、という提案があり、社員全員で受講することになった。第一弾ということで私を含む役員・マネージャー全員が先日、研修を受けてきた。

この研修はフランクリン・コヴィー・ジャパン社が開催しているもので、書籍「7つの習慣」に基づいた内容のものとなっている。書籍の副題が「個人、家庭、会社、人生のすべて − 成功には原則があった」とされているだけあってその内容は仕事に留まらず個人間の人間関係や家庭生活など人生の様々な場面で共通して通用するものとなっており、ライフハックや成功の秘訣本、ハウツー本、自己啓発的な内容の書籍等を胡散臭く感じやすい私から見ても納得できる内容ばかりで、厚みがあり、奇をてらわず王道を真っ直ぐに貫いており、書籍が30ヶ国語に翻訳され世界で2000万部以上売れたり、名だたる企業が社内研修に「7つの習慣」研修が採用しているのも納得できる内容であった。

二日間に渡る研修の中で、受講した社員からは「これ、自分のことだ」、「奥さんに読ませたい」、「あの人にこの研修をぜひ受けてもらいたい」などの声が研修の最中にも相次いだ。それぞれが、自分や周囲の人々に心当たりがあったのだろう。私も例外ではなく、研修の中で紹介されるモデルの中で、あの人はこの点が本当に優れている、逆にあの人はこの点で損をしているな、などと具体的にいくつものシーンが思い起こされた。

次々と頭をよぎる回想の中で、「あれ、おかしいな」と思いあたる人物が一人いた。国民の多くが知っているであろう、アンパンマンその人である。

「7つの習慣」に通底するキーワードとして、「効果性の高い人(Effective People)」という言葉がある。書籍の原題も「The Seven Habits of Highly Effective People」だ。

「7つの習慣」の原則やモデルに照らし合わせると、アンパンマンは「効果性の高い人」と言い難い。しかしアンパンマンは国民的ヒーローであり、子供たちはアンパンマンが大好きだ。

他方、「アンパンマンが好きなのは3歳までなのよね」というような話が育児仲間から漏れ聞こえてくることがある。なぜなのだろうと以前から不思議に思っていたのだが、「7つの習慣」の研修を通じて、その理由が少し理解できたように思えるのだ。

以下、「7つの習慣」が示す行動や態度と、アンパンマンの行動との相違を「P/PCバランス」と「第三領域」の二つの視点から評価し、さらに「自立・依存・相互依存」の観点から、アンパンマンの世界について考察していく。

1. P/PCバランス
P/PCバランスにおけるPとPCとは、それぞれP=Production(目標達成)、PC=Production Capability(目標達成能力)を指す。「7つの習慣」ではイソップ童話の「金の卵を産むガチョウ」の話が例示される。金の卵はPであり、金の卵を産むガチョウはPCである。仕事で言えばPは成果であり、PCは成果を出すことができる能力と言えるだろう。成果を求めて成果を出す能力を殺してしまっては先がない。例えば成果を出せる人に連続して徹夜をさせれば成果を出せなくなり、Pを求めるあまりPCを失うことになる。「金の卵を産むガチョウ」ではより多くの金の卵を求めるあまり、殺して腹を割けばもっとたくさんの金の卵が得られるだろうとガチョウを殺してしまい、二度と金の卵が得られなくなる。

「7つの習慣」の主張は短期的なPを求めすぎず、中長期的なPCを担保するべき、というものだが、アンパンマンはこの習慣に反した行動をしばしば取る。具体的には、自らのエネルギーの源である「アンパンでできた顔」を困っている人やお腹が空いている人にすぐ分け与えてしまうのである。緊急時とは言えない程度に多少お腹が空いている人を見かけてアンパンマンが「ほら、アンパンだよ」と顔の一部を剥ぎ取って分け与えてしまい、その結果、もやはアンパンマンだけが頼みの綱、という絶体絶命の状況で顔のアンパンが十分でないために力が出せず、アンパンマン本人だけでなく関係者全員が窮地に陥ることがしばしばある。

「7つの習慣」が唱える「効果性の高い人」の観点からは、アンパンマンは自らの顔のアンパンを与えて周囲の人の空腹を満たすこと(P)より、顔のアンパンさえ充実していればほぼ無敵とも呼べる力を出せる能力(PC)に力点をシフトして行くべきであると考えられる。

2. 時間管理の第三領域
「7つの習慣」では重要度と緊急度の二つの軸に基づき、第一領域から第四領域までを次のマトリックスで定義している。

緊急
緊急でない
重要
第一領域
危機や災害
切羽詰った問題
締め切りの迫ったプロジェクト
会議や報告書
クレーム対応
第二領域
準備
予防
計画
人間関係作り
レクリエーション
価値観の明確化
自己啓発・能力開発
重要でない
第三領域
不必要な中断
不必要な報告
意味のない会議、電話、メール、報告書
他人のささいな事柄
雑事
第四領域
ささいな事柄、見せかけだけの仕事
無意味な電話、メール、郵便
時間の無駄遣い
「逃げ」の活動
テレビの見すぎ、インターネットのやり過ぎ、休憩のし過ぎ


そして、第一領域の時間を適切に確保するためには、第三領域をいかに縮小させられるかが鍵である、と説く。一見、第四領域が一番無駄が多いようにも思えるが、第四領域がまったくない状態はあまりにも息苦しいものだ。絶え間なく緊急の要件が続くようだと疲弊してしまうこともあるだろう。

翻って、アンパンマンの劇中での時間配分を見ると、その多くが第三領域に割かれていることが分かる。第三領域の「緊急だが重要ではないこと」とは、些細な用事での中断や報告のことを指すが、アンパンマンは重いものを運ぼうとして困っている人を見つけるとすぐ助けに行ったり、雑用に近いリクエストでも求められればどんなところにでも即座に駆けつける。顔さえ万全であれば「元気百倍、アンパンマン!」の一声でほとんどすべての難局を乗り切れる稀有な能力を持っているにも関わらず、どんな些細なことでも、助けを求められると絶対に断らずに駆けつける。これはメジャーリーグの4番バッターを呼びつけてフロアの雑巾がけや社員全員へのお茶を入れを命じるようなものである。だがアンパンマンはそれに応じる。

3.依存・自立・相互依存モデル
「7つの習慣」は、「依存・自立・相互依存」モデルに立脚している。7つの習慣の実践が、依存から自立、自立から相互依存という成長の過程に深く関係しているのだ。

例えば、第一の習慣「主体性を発揮する」の中では、効果的な人は「自分の選択によって私がある」のに対し、非効果的な人は「周囲の状況によって私がある」ことが説明される。端的に言えば効果的な人は自分のせいにし、非効果的な人は人のせいにする。

だが乳幼児などの物理的にも精神的にも「依存」に位置する状態では、人のせいにするしかない。自分では状況を変えられず、親に頼るしかないからだ。

推定年齢60歳超(妖精という説もあるので年齢についての予測は的外れかもしれない)のジャムおじさんを含む、アンパンマンを取り巻く人々は、困ったことがあると、「困ったときは、さぁ、みんなで、アンパンマーン」とすぐにアンパンマンに助けを求める。

アンパンマンの世界観が幼少期の依存の世界を前提としたものだと仮定するなら、これまでに言及してきたアンパンマンが「効果性の低い人」であることも説明がつく。依存の世界では、非効果的な行動こそが行動原則となるからだ。

大人から見て一見「非効果的」なアンパンマンの行動は、「依存」のステージにある乳幼児にはむしろ安堵感を与えるものなのだろう。

これこそが正解、と言い切るつもりもないが、子供たちがアンパンマンの世界に惹かれる理由と、卒業していく理由とが、少し理解できたような気がした。



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lalha at 23:55 │仕事  │Comments(1)TrackBack(1)

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1. ブログの紹介  [ 「7つの習慣」道場 ]   2013年02月02日 04:00
おはようございます。ブログの紹介です。小野和俊のブログIT系の経営者で、会社での研修で7つの習慣を学んだそうです。アンパンを事例に7つの習慣を書いています。それでは、また明 ...

この記事へのコメント

1. Posted by キノコ   2015年06月15日 22:51
こんばんは。ブログ拝見しました。

アンパンマンとは斬新な切り口ですね。
アニメやドラマにも7つの習慣視点で見たら全く違って見えるかもしれません。

斬新な視点をありがとうございました。

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