2012年03月11日

SIerでのキャリアパスを考える勉強会に参加してきた

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このところ「SIerの今後について」というテーマについて、意見を求められたりディスカッションしたりすることが多く、またエンタープライズ業界に身を置く立場として、売り上げ比・人口比とも業界の大半を占めるSIerが今何に取り組んでいて、今後どのようになっていくのか、というのは私自身関心のあるテーマなので、昨日は「SIerでのキャリアパスを考える」勉強会に参加してきた。

というわけで勉強会の中で印象的だったことや考えたことを書く。

1. 上流も下流も不幸にする日本のSIerの「分断された」システム
勉強会の前半パートではゆもとさんによるSIerの現状分析、ひがさんによるSIerの中でのキャリア戦略が話題に上り、その中でも特に「上流と下流が工程分断されている」ことが現状のSIerを取り巻く諸問題の元凶、という指摘があった。

この「分断」については、中島聡さんの「ソフトウェアの仕様書は料理のレシピに似ている」というエントリが有名だが、今回の勉強会でのゆもとさんの資料でも、こうした業界構造がどのような問題を引き起こすのかがとてもわかりやすくまとめられている。

ひがさんは現状のSIerの業界構造の中では、上流にいても、下流にいても、スキルを伸ばしていくことは難しい、と指摘する。上流では業務知識や仕様をまとめる能力、パートナーに仕事を依頼するスキルはある程度身に付けることはできるがすぐに頭打ちになるし、下流ではプログラミングはできるが、やはりそれもすぐ頭打ちになりやすい。なぜなら仕様通りに実装する仕事においてはスキルを伸ばしたところで人月単価が劇的に上がるわけではないので、会社運営の観点からはエンジニアのスキルアップは重要ではなく、会社側にエンジニアのスキルを伸ばしていこうという意識がないから(!)。

ひがさんからの「SIerの中で、上流でも下流でも、今でもスキルが伸びていると思える人はいますか」という問いかけには、会場から息を呑む音が聞こえてくるようだった。

中島さんが6年前に立てた「仮説」は、まさに核心をついていたのである。

私には、この「自分でプログラムを書かない上流のエンジニアが詳細設計書を作り、下流のエンジニアがコーディングをする」という工程そのものが、根本的に間違っているとしか思えないのだ。
<中略>
日本のエンタープライズ系のソフトウェア業界は、そんな根本的に間違ったソフトウェアの作り方を長年してきたために、まるで建築業界のような下請け・孫請け構造が出来てしまい、下流のエンジニア達が十分な経験も得ることが出来ずに低賃金でこき使われ、業界全体として国際競争力をなくしてしまう、という状況に陥ってしまったのではないか、というのが今回の私の仮説である。

Life is beautiful - ソフトウェアの仕様書は料理のレシピと似ている より


2. 上流も下流も変化しようとしている
一方、後半のワークショップ+ディスカッションパートでは、リーマンショックによる人月単価の落ち込みやクラウドの台頭といった外部要因によって、こうした業界構造にも変化の兆しが現れている、という指摘もあった。

a. 予算カットの結果、上流工程の会社が下流工程もカバーし始めた
不景気の影響で予算がカットされ、これまでのようにマージンを抜いてパートナーに仕事を発注していくことができなくなり、これまで上流工程しかやっていなかった会社が必然的に下流工程も自分たちでカバーしなくてはならなくなり、結果的に「工程の分断」が起こらなくなった。

b. 下流工程の会社が、コアコンピタンスを磨く方向に舵を切り始めた
特に際立った強みのない会社には仕事が入らなくなってきており、自分たちの強みを明確に位置づけ、磨いていかなければならない、という危機感がある。この結果、従来は「一般的な下請け・派遣」だった会社に、業界の中での自社のポジションを明確化しようというインセンティブが生まれている。

c. 上流・下流の会社とも、エンジニアのスキルを磨こうという意識が高まってきた
これはひがさんが指摘しているような従来の「エンジニアのスキルアップは会社としてはさして重要ではない」という業界構造がそもそもイビツだったわけだが、最近ではSIerの中で、エンジニアのスキルを重視していこう、という意識が高まってきている、という意見があった。アジャイルな開発手法に切り替える会社も増えてきている、とのこと。

他にも大掛かりな取り組みとして、富士通の三万人SE職務転換大作戦等が有名だが、上流・下流問わず、SIerも変化しようとしている。

3. Web業界の話
Zyngaの山岡さんからは、昔SIerにいて、今Web業界にいる立場からのプレゼンテーションがあった。業界構造については、Web業界でも大手は下請けに外注するSIer的なピラミッドモデルを採用するところも出てきているとのこと。が、SIerのそれと同じく「料理をつくったことのない人がレシピをつくっているのか?」と質問したところ、業界が若いこともあり、プロデューサーとして企画をまとめる人も実装経験のある「料理をつくったことのある人」とのこと。

また、Web業界もそこまでバラ色で受託一切なしかというとそんなことはなく、自社サービスだけで収益を上げるのは本当に難しく、自社サービスの立ち上げに奮闘しながらも、実際には受託で収益を上げている、という会社が多いのが実情、ということだった。

また、採用担当をしていたこともあり、SIerからの転職希望者をどのように見るか、という点について、「SIerでの経歴は評価不可能なので見ません」と言い切っていた。同業種での経験はもちろんのこと、他にも情報発信したり、自分で何かつくっていたりするかを見る、とのこと。

ちなみにアプレッソはエンタープライズ業界のパッケージベンダーだが、うちでもほとんど同じような感じで、SIerでどんなプロジェクトに携わっていたのか、ということよりも、コーディング面接でどんなコードをどれだけ美しく書けるか、何か個人で取り組んでいるプロジェクトや踏み込んで調査している技術があるかを見ており、まあエンジニアとしてのものづくりの能力を見ようとしたらやはりそうなりますよね、と共感したのであった。


勉強会の事前アンケートでは「スキルがつかない」、「技術を極められない」等、「SIerでのキャリアパス」について中の人からのネガティブな意見も多かった今回の勉強会だが、個人としても会社としても変化に対応していかなければならないという問題意識を胸に参加している人も多く、現場視点から見た現状の共有にとどまらず、今後のSIerが向かっていく方向がどんな方向なのかを感じることができる勉強会だった。


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lalha at 13:22 │IT業界  │Comments(0)TrackBack(1)

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1. もしSIerのエンジニアがジョブズのスピーチを聞いたら(1)  [ mark-wada blog ]   2012年04月03日 11:28
最近、いわゆるSIerと呼ばれる業態がヤバそうだという話が聞こえてくる。富士通の...

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