スマートフォン向けのニュースアプリSmartNewsが、先日第三者割当増資によって4億2千万円の資金調達を行い、話題になっています。

SmartNewsを開発している株式会社ゴクロの取締役の鈴木健さん(以下健さん)は大学時代の弁論部の先輩で、卒業後も仕事や各種プロジェクト、ネットゲーム、飲み会などで時折接点があるのですが、この記事などを見ていると、SmartNewsの長所と、健さんのこれまで取り組んできたこととのつながりが改めて感じられ、スティーブ・ジョブスの"connecting the dots"という言葉を思い出します。

健さんは以前、エンタープライズ向けの自動組版ソフトを開発する会社で何年か仕事をしていたことがありました。

また、「タコツボ化しない情報収集」は彼が関わっていた一連の未踏ソフト関連のプロジェクトのテーマのひとつで、情報が氾濫する時代に、いかに各個人にパーソナライズした情報を適切に届けるか、ということは、健さんが長年追い求めてきたテーマのひとつでした。SmartNewsを支える技術であるCrowsnestがリリースされた時も、ああ、健さんは引き続きこのテーマに取り組んでいるんだな、と思ったものでした。

一年半程前に「最近どうよ?」と喫茶店で世間話をした際、彼は「スマホがPCを超えるポジションを獲得しようとしている。今はスマホでメジャーになるアプリをつくる千載一遇のチャンス。」と語っていました。

同じタイミングで「スマホで何かメジャーなアプリをつくるチャンス」と思っていた人は多数いたかと思いますが、そこで実際にアプリを作って成功させたことの背景には、組版などの一見関係無さそうなものも含め、これまでの経験が活きている。まさに"connecting the dots"です。

でも、今では健さんの"dots"がつながってひとつの成果として結実してきているけれど、ひとつひとつの"dot"に取り組んでいた頃は、すべてが輝かしくきらびやかだったかというと、決してそんなことはないように思えるんですよね。

組版のソフトについては、その頃(2000年代中頃)はすでにエンタープライズからWeb系に世の中の技術者の注目が移ってきていて、もちろん組版のソフトウェアが世の中に提供した価値は確かにあるわけですけれども、その時代の花型の産業だったかと言われると、そうではありません。そこに健さんは何年も身を置いて、組版の仕事に取り組んできたわけです。

後にCrowsnest、SmartNewsにつながる情報収集についても、同じく2000年代中頃に未踏ソフトウェアのプロジェクトとしてやっていた頃は、周囲の知人に「使ってみてよ」と言って紹介していたけれど、その頃のサービスはまだUIもこなれておらず、あまり使いやすくなく、みんな割とすぐに離れていってしまった。でもその後も健さんはこのテーマに取り組み続けていました。

もし健さんが、流行り廃りや、ちょっとやってみてうまくいくかどうか、という基準で自分の身の置き場所を器用に変えていくような人だったら、身を置いていたひとつひとつの場所がSmartNewsや「なめらかな社会とその敵」などの形で後に実を結ぶ”dot”にはならなかったのかもしれないな、という風にも思えます。

時代の流行に合わせてミズスマシのように器用にスイスイと居場所を変えていくのではなく、一見地味だったり、その時は上手く行っていないように思えることに対して、世間の評価に惑わされず、時間をかけて丁寧に取り組んでいくこと。そしてそれが後に、"connecting the dots"として実を結んでいくこと。そんなことを考えた金曜日の夕方でした。



なめらかな社会とその敵
鈴木 健
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