このところ知人からよく、「小野さんはプログラマーから経営者になった」と言われる。これはまさにその通りで、かつてソースコードを美しくリファクタリングすることに情熱を燃やした私は、いまは組織をより良いものにしていくことに情熱を燃やしている。つまりリファクタリング対象がソースコードから会社に変わったのだ。

そんな私が今やや苦戦しつつもやりがいを感じて取り組んでいるのが、「2つの異なる文化の共存協調」だ。具体的には、大企業的な文化とベンチャー的な文化を共存させ、かつ協調させようにしようとしている。ウォーターフォール的な文化とアジャイル的な文化の共存協調、と言い換えることもできるだろう。

2000年からの今日に至るまで16年間アプレッソというベンチャー企業で事業をやってきたので、ベンチャー企業のことはそれなりに経験してきているし理解しているつもりだ。そして、2013年にセゾン情報システムズとアプレッソが資本業務提携してからはセゾン情報システムズの仕事もするようになり、HULFTとSIの事業とで構成された1,000人規模のミッドレンジのIT企業がどのような規範と行動様式を持つのかも間近で見てきた。

アプレッソでかなり自由にやってきた私にとって、当初、セゾン情報の動き方は不慣れであり、また動きが遅く感じることもあった。だが少しすると、こうした動き方や文化にも相応の合理性があり、アプレッソで取り入れることが望ましいことも少なからずあることも分かってきた。

例えば、HULFTは日本では8割のシェアを持ち、とりわけ金融の分野では圧倒的なシェアを持っている。アジア全体で見てもシェアは46%に達し、世界でも現在4位で、もうすぐ3位まで手が届くところまで来ている。成長を続けているHULFTだが、HULFTの競争力の源泉は圧倒的な安定性であり、とにかくHULFTに任せておけば大丈夫、という安心感である。これはセゾン情報の中でこそ、またウォーターフォールの中でこそ生まれた強みだと言える。

一方、DataSpiderという製品が生まれ出てくること、さらにクラウドやIoTにも迅速に対応していくことも必要、というような観点では、アプレッソのような自由度の高い文化の方に軍配が上がる。

こうした2つの異なる文化を行ったり来たりする中で私が行き着いた結論は、「どちらかを正解とせず、双方を併せ持ち、双方を認め、双方が協調することでこそ事業の競争力が高まる」というものだった。

2年ほど前にこの話をガートナーのアナリストにしたところ、「ガートナーではその考え方を『バイモーダル』と呼んでいて、これからの組織のあり方として位置づけています。」というコメントをもらった。調べてみたところ最近日本語でも「バイモーダル」の記事がいくつか出てきているようである。せっかく言葉があるようなので、このバイモーダルという言葉を使いながら私の考えていることを説明してみたい。

バイモーダルは、「ふたつの流儀」を意味する。

モード1は失敗が許されない領域に適した安定性重視のソフトウェアを開発するモードである。モード2はスピード重視で、時代の変化にいち早く対応する必要のあるソフトウェアを開発するモードである。

モード1モード2
性向安定性重視速度重視
開発手法ウォーターフォールアジャイル
管理部門IT部門が集中管理ユーザー部門が分散管理
対象業務予測可能業務探索型業務
例えるなら武士:領地や報酬を死守忍者:何が有効なのかを探る
誰のためのもの運用者(オペレーター)革新者(イノベーター)
重視すること効率性、ROI新規性、大きなリターン
車の運転で言うとリスクを抑えて安全運転スピード重視で運転
経営トップダウンボトムアップ
強み統率力、実行力機動力、柔軟性
※ 一部ZDNet「経済のデジタル化がもたらす企業ITの“バイモーダル”が目指すもの」から引用

モード1とモード2とは根本的に異なる考え方なので、ひとつの組織の中に共存させようとすると、次のような双方向の拒絶反応が起きやすい。

  • モード1: モード2を落ち着きなくチャラチャラした無責任で軽い存在だと煙たがりがち
  • モード2: モード1を古臭く動きが遅い足手まといの恐竜の化石のように感じてしまいがち

一方、それぞれのモードには代えがたい次のような強みがある。

  • モード1: 方針が確定した後に軍隊的統率力で実行する力には眼を見張るものがある
  • モード2: 方向性が見えない状況での探索能力や機動力には眼を見張るものがある

このように、それぞれの強みがありながらも文化的対立が起きやすい両者を共存させるには、双方に敬意を払いつつ、間を取り持ち調整を行う存在が必要だ。この存在にも名前がついており、守護者(ガーディアン)と呼ばれている。

モード1とモード2を共存させ、調整役としてガーディアンを設置する。なんだかまるでデザインパターンのようではないか。

とりわけ当初は苦戦したところもあるが、バイモーダル戦略を明確に意識し始めてから2年、いまセゾン情報ではこんなことが起き始めている。

  1. Slackが導入され、エンジニアだけではなく役員やスタッフも自由に意見交換を行っている
  2. モード2の比率を高めるためにテクノロジーとイノベーションを司る「テクノベーションセンター」が設置された(そして私がCTOとしてそのセンター長も務めている)
  3. 2015年秋にラスベガスで実施されたAWS re:inventにて、世界で9社のみが受賞した”Think Big Award”を受賞
  4. HULFTのソースコードは国産メインフレームのアセンブラのコードなども含めてGitで管理されている
  5. HULFTの安定性をIoTの世界にも提供するHULFT IoTプロジェクトが発足、再来月製品版もリリースされる
  6. 服装に関する規程が廃止され、服装は自由に
  7. 毎月TGIFイベントが開催され、ピザとビールを片手にLT実施
  8. デュアルディスプレイやフルフラットになる椅子の試験的導入開始

アプレッソの方でも、モード1の良さを取り入れるべく、HULFTの絶対的な安定性に学び、その良さを取り入れるべく、「HULFT品質プロジェクト」が発足した他、セゾン情報の営業のモード1でのオペレーションが功を奏して売上利益ともに過去のベストレコード更新が続いている。

というわけで、バイモーダルパターンを適用すべく、経営のリファクタリングを鋭意実行中の今日このごろである。楽しい。