暖かくなってくると、とかく人間を悩ませるのが蚊の存在である。

私は今年の3月に杉並区の一軒家に引っ越したのだが、裏の家にはかなり大きな庭があるなど、近くに自然が多く、引っ越す前からこの家では蚊の問題がかなり深刻であろうことが予想された。

しかし、私には勝算があった。
何故なら以前ネットの記事で、フィリピンで開発されたというブラウンシュガーとイーストを使った「蚊取りボトル」なるものの存在を知り、蚊がたくさん出るのであればこれさえ使えば、フフフ・・・などと思っていたのだ。これから押し寄せてくる敵の物量がいかに圧倒的なものであろうとも、秘策によって戦況は如何様にでも変わり得る。桶狭間の戦いを前にした織田信長のような英雄的とも言える知的興奮に満たされた私の心はしかし、「蚊取りボトル」を実際に作成し、使ってみたという人々の報告結果の調査によって、一瞬で粉々に打ち砕かれた。日本ではまったく効果がなかった、という報告以外見つからなかったのだ。

だがこのままで終わるわけにはいかなかった。

真偽の程は分からないが、以前、「蚊に刺されるバイト」の話を聞いたことがある。指定された穴に腕を入れるとそこには蚊が大量におり、そこで防虫スプレーや痒み止めの実験をする高給だが体を張ったアルバイトなのだという。大量の蚊に対して何の対処もできなければ我が家がそのバイトの部屋のようになってしまう。

そこで次に私が考えたのは、「殺られる前に殺る」作戦である。

「蚊取りボトル」について調べる過程で、蚊が二酸化炭素に惹きつけられる習性があることなどが分かった。イースト等を使って二酸化炭素を発生させて人間を模すことは難しいとしても、自らが蚊の密集地に出向いていけば良い。何故なら模す必要もなく人間は蚊の餌そのものだからである。

しかし無防備に出向いて行ってしまっては単に痒い思いをして蚊に食料を提供しに行くだけになってしまう。

ここで次なる秘策を紹介せねばなるまい。

それは「電撃ラケット」である。



これはボタンを押すとラケットのネットの部分に電流が流れる、というもので、ボタンを押した状態で蚊がラケットに触れると、蚊は気絶または即死してネットに付着する。電撃の強いものを使うと触れた途端「バチン」という音とともに爆発することもある。これを使うだけで手で捕まえようとするより圧倒的に効率良く蚊が捕まえられる。

電撃ラケットを手にして庭に出向いて行く経験を重ねていくうちに分かってきたのだが、蚊には捕食モードと逃避モードとがあり、どちらのモードなのかで行動が明らかに異なる。

室内のカーテンや庭の植物等を揺すって蚊が見つかる時は、蚊は逃避モードで出現する。逃避モードの蚊の行動は逃げることに行動の主眼が置かれているので、一瞬現れはするものの、そのまま刺しに来たりはせず、またすぐに隠れようとする。この時に捕まえるのは比較的難易度が高い。

しかしこちらが餌として近づいていき、蚊が捕食モードで現れた時には、飛行ルートこそ読めないものの、こちらに向かってくることは確実だ。蚊が接近してまさに我が身に止まろうとしたその時に、体すれすれのところで電撃ラケットを振ると超高確率で蚊を捕獲することができる。

自ら餌として出向き、かつ肌の露出部分を首から上に加えて腕だけにしておき、壁を背にするなどできるだけ死角をつくらないようにする。首の後ろや二の腕など、すぐに蚊の付着を視認できない箇所についてはこまめに手をスワイプさせて蚊が止まっていないことを確認しながら、接近してきた蚊を体すれすれのところで電撃ラケットで撃退する。

慣れてくるとほぼまったく蚊に刺されることなく、刺される前に蚊を撃退することができる。どの程度のペースで撃退できるかは蚊の出現状況によるが、我が家の環境の場合にはそこそこ蚊が大量に出ている時には毎分1匹以上のペースで蚊を撃退することができ、これを週に一度でも二度でも30分なり1時間なりしておくことで、アグレッシブに刺しに来る蚊が家の中に入り込んでくることをかなりの部分、未然に防ぐことができる。また、家に入り込んできた蚊に対しても同様のアプローチで撃退することができる。

最後に強調しておきたいことがひとつある。それは、この一連のプロセスには、日本でも大フィーバー中のポケモンGOと近い楽しさがある、ということである。

「野生のモスキートがあらわれた!」

モンスタボールを投げる代わりに電撃ラケットを振りかざす。「ほしのすな」が手に入る代わりに「あんみん」が得られる。モンスターボールに「画面の左端をスワイプする」というコツがあるように、「捕食モードで出現させて、体ギリギリのところで電撃ラケットを振る」というコツがあり、しかも慣れてくるとプレイヤースキルが上がってきて楽しい。蚊を引き寄せるには自らがルアーとなって蚊の集まりそうな場所に出向いていけば良いのだ。

というわけで攻撃的な個体はゲーム感覚でほぼ事前に殲滅しているので、蚊が大量に発生する環境でありながら蚊にはほぼ悩まされずに快適に暮らすことができている今日このごろである。

蚊にお悩みの方はぜひ、まずは電撃ラケット購入の検討をしてみてはどうだろうか。