ふろむださん、いや私にとっては一世を風靡したブログ「分裂勘違い君劇場」の著者 fromdusktildawn さんと言う方がしっくりくるのだが、氏の新著「最新研究からわかる 学習効率の高め方」を1巻から5巻まですべて読んだ。fromdusktildawn さんはやまもといちろうさん、shi3z さんと並んで私が「こんな文章が書けたらどんなに素晴らしいだろう」と尊敬する、私にとっての Web 論壇の三大将軍の一人だ。(shi3zさんとはよく喧嘩もするが)

書籍のテーマは「学習」について。

こんなにも誰もが無関係でいられないテーマは他になかなかない。それなのに私も含め、あまりにも多くの人が「学習」について踏み込んで調べたり考えたりすることができていないことを思い知らされる一冊だった。

「大学受験で志望校に受かったから、まあいいや」
「子どもの成績も悪くないし、まあいいや」
「習得しようとしていた技能も身についたし、まあいいや」

このように、「まあいいや」で済ませてしまいがちなのだ。

例えば勉強とテストのどちらがどの程度効果的で、どんな順序で学習を進めていけば良いのか。学習の際に間隔を開けることに効果がある、というのはなんとなく聞いたことはあるが、実際のところ定量的にみるとどんな効果があるのか。さらに学習する対象が未知のもの既知のものとでどう変わってくるのか。既知のものでもすぐ思い出せるものとそうでないものとで効率的な学習はそれぞれどんなものなのか。

「学習」に関する一部の「一般書」と多数の「学術論文」を平易な表現にかみ砕きながら解説し、読者が論文すべてを自ら読まずとも、その要点を理解していく形で本書はスタートする。

しかしここからの展開がさすが「分裂勘違い君」である。論文で提示された内容について、ありとあらゆる角度から想定される反論、さらにその反論に対しての反論、さらに、、、という対話が口語形式で次々と展開されていく。ある論文と別の論文の一見すると矛盾する内容が、別の視座から見ると実は整合しているというアウフヘーベンなども交えながら、単に論文を解説することに留まらず、徹底的にあらゆる角度からの反論を検討しながら本書は進んでいく

そして2巻の終盤、ついにこれまで紹介された論文では触れられることのなかった「fromdusktildawn モデル」とでも言うべき「想起度ポンプモデル」が提示される。「おおっ、なるほど!!この考え方を伝えたくて本書を書いたのか。」と読者が納得してこうべを垂れようとしたまさにその直後、「山を登り切ったわけではない。これでようやく土俵ができた」と、さがってきたこうべを直撃する強烈なアッパーカットを見舞われることになる。え、、、これが結論で終わりじゃなかったの……?

そして「学習」そのものについてさらに解像度を高めた考察が展開されていく。「運動」の学習は?数学のような論理的思考についての学習は?英語の場合には?英語も単語だけでなく発音やリスニングそれぞれの学習は……?理論だけでなく実際にどんなツールをどんな風に使うと良いのか?
特に英語学習についてはかなり丁寧に解説されているので、英語を学習中の方には特にオススメである)

そしてまとめの位置づけの5巻まで読み終わるころには、頭の中をマイクロディベートでぐちゃぐちゃに引っ掻き回されたからこそ切り開けた地平、あたかもぼうぼうに生い茂った草むらを超強力な草刈り機で広大な領域を全部刈り取りきったからこそ開けたような視界を、読者はいつのまにか手に入れることができている。

もうひとつ特筆すべきは、本のスタイルについてだ。

本書は本文中でも宣言されている通り、「PCで読むために最適化」された本だ。

私も直近でダイヤモンド社から「その仕事、全部やめてみよう」という紙の本を出したところなのでよく分かるのだが、「紙に印刷される」前提で作られた本はテーマを定め、そのテーマについてできるだけ無駄なく、読者の時間を取らせることなく構成されることが一般的だった。

だが本書は、これまでの書籍とは一線を画すスタイルで構成されている。考え得る反論が省略されずにページ数を割いて展開され、そして時に脱線して論文の話から急に実践的なツールの使い方などに入って行ったりもする。だから本書の読書体験は、「本を読んでいる」というよりも、あたかも「詳しい人たちが議論している会議や飲み会の中に入り込んでいる」かのようなのだ。

もちろん、「学習」に関する論文を多数読んでいるわけではない私のような読者も多い。だからそれぞれの論文がなんだったのかすぐに戻って参照できるように、ご丁寧にPDFリーダーの目次の使い方まで紹介されている。でも実際の会話ってこんな感じで展開していくよね?と思わされる、新しい種類の読書体験なのだ。

おそらくこの「新しい本のスタイル」に対して、従来の常識に鑑みて違和感や抵抗感を感じる読者もいるだろう。だが、私が思うに、おそらく著者の狙いは二つある。ひとつは「学習」についての読者の理解を深めること、そしてもうひとつは「新しい本の在り方」自体を提示することだ。だから最初不慣れに感じても、後者のメッセージを受け止めるためにも、ぜひ印刷せず、指定された通り、最後までPCで読んでみてほしい。


読了後の感想だが、私は本書の内容を踏まえて、我が家の3人の小学生の子どもたちと、勉強の仕方について話をしようと思った。なぜなら、おなじ時間をかけて勉強をするなら、効率的な方が良いに決まっているからだ。そしてそのための方法が研究され、考察され、そしていまや自分はある程度それを理解したのに、応用しない理由などどこにもないからだ。

何かを「学習」しようとしている人、家族の誰かが「学習」する状況にある人は一読の価値のある本だと思う。



こちらは本書の中でたびたび登場し、検証されていくメンタリスト DaiGo さんの本。

科学的に正しい英語勉強法
メンタリストDaiGo
ディーエイチシー
2018-03-12