が、1-14051G23327
何か目に見えない力が常に、エドワードの動きを邪魔したり、しばらく目的地のことを忘れさせたりするのだった。エドワードはいつもアセけているときにやって来た――一度エドワードが口にした奇妙な言葉をかりるなら、アセナスが「自身體脂肪分自身の体のまま出かけているとき」に。必ずアセナスはエドワードがわたしに会いに来たことをあとで知った――召使たちがエドワードの出入りを見はっていた――が、どうやら断固たる処置をとるのは不得策だと思っていたらしい。   わたしがメイン州から発信されたあの電報をうけとったのは、エドワード・ダービイが結婚してから三年以上がすぎた八月のことだった。エドワードとは二ヵ月会っていなかったが、「仕事」で出かけているということを聞いていた。アセナスも同行しているはずなのに、油断のない噂によれば、窓に二重のカーテンをおろした二階の部屋に誰かがいるということだった。召使が買物しているところも目撃されていた。そんな頃、チェサンクックの警察官からわたしに電報がとどいた。興奮して支離滅裂なことを口走りながら、森からよろめきでた薄汚い狂人を保護したが、その狂人がわたしの保護を求めているというのだ。エドワードだった――ようやく自分の名前と住所を思いだすことができたのだった。  チェサンクックはメイン州の、荒涼とした、深い、人がほとんど足を踏みいれたことのない森林地帯に近い村で、車でそこ客製化へ行くには、まる一日というもの、凄然とした風変わりな景色のなかを、激しく揺られながら進まなければならなかった。エドワード・ダービイは村の診療所の一室にいたが、逆上と感情鈍麻を交互に繰返していた。すぐにわたしを認め、わたしのほうにむかって、意味のないたわごとを一気にまくしたてはじめた。 「ダン――後生だから! ショゴスの窖《あな》なんだよ! 六千段下に……忌《い》むべきもののうちで最も忌むべきものが……彼女《あれ》に連れて行かれるつもりなんてなかったのに、気がついたら、ぼくはあそこにいたんだよ――イア! シュブ=ニグラス! ――祭壇からいやらしい姿をしたものが立ちあがったんだ。遠吠えをあげるやつらが五百匹もいた――フードをかぶったもの[#「もの」に傍点]が、カモグ! カモグ! って鳴いたんだ――魔女の集会でのエフレイムの秘密の名前なんだよ――ぼくはあそこにいたんだ。彼女《あれ》が連れて行かないって約束した場所に――一瞬まえまでぼくは書斎に閉じこめられていたのに、彼女がぼくの体をして行ったところへ行ってしまったんだ――まったく冒涜《ぼうとく》的な場所、暗い領域がはじまり、監視するものが門を固めている不敬きわまりない場所に――ぼくはショゴスを見た――形を変えていた――耐えられないよ――またぼくをあそこへ送りこむのなら、ぼくは彼女《あれ》を殺してやる――あの存在を殺してやる――彼女を、彼を、あいつを――きっと殺してやる! この手で殺してやるんだ!」  エドワードをなだめるには一時間かかったが、ようやく興奮はおさまった。翌日わたしは村でこざっぱりした服を買ってやり、エドワードを車に乗せてアーカムにひきかえした。エドワードは激しい興奮もおさまり、黙りがちになっていたが、車がオーガスタの町を走っているとき――町を見ることで不快な記憶が甦ったかのように公屋按揭――暗い顔をしてひとりごとをつぶやきはじめた。どうやら家に帰りたくなさそうだった。わたしはエドワードが妻に対して抱いているらしい突拍子もない幻想――どうやら催眠術のようなものによってうけた苦しい体験から生じているらしい幻想――を考慮にいれて、家には帰らないほうがいいだろうと思った。アセナスがどれほどいやな顔をしようと、しばらくはわたしの家に泊めてやろうと心に決めた。そのあと、離婚するのに力をかしてやろうと思った。エドワードにとっては、この結婚を自滅的なものにさせる精神的な要素があったからだ。車がまた広びろとした土地にはいると、エドワードはぶつぶつつぶやくのをやめ、わたしは隣の席で、うたた寝をさせてやった。