2024年11月13日

ランドスケープ研究:「技術士を知ろう」造園・ランドスケープに活かす技術士資格

s-20241113_083502◇ 今回の記事は、日本造園学会誌ランドスケープ研究88巻3号の「社会連携の最前線から」に投稿した記事をWEB用に編集して公開するものです。

◇日本造園学会「ランドスケープ研究」
https://www.jila-zouen.org/journal/lrj/contents
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1.はじめに
 2024年4月,「技術士を知ろう」と題して,東京農業大学造園科学科JABEEコースレクチャーの講師を務めた。

 現在,ランドスケープの業務に関わる資格といえば,造園施工管理技士登録ランドスケープアーキテクト(RLA),そして技術士が主に挙げられる。特に造園部門における建設コンサルタント登録には,技術士建設部門都市及び地方計画の資格登録が必要である。現在では大学等の高等教育機関において,技術士の第一次試験が免除されるJABEE認定プログラムが実施されるようになった。

図-1

図−1 東京農業大学造園科学科JABEEコースレクチャー

 私はランドスケープアーキテクトとしての業務経験によって,技術士建設部門の都市及び地方計画,道路,河川・砂防及び海岸海洋,建設環境,環境部門の自然環境保全,農業部門の農村環境,森林部門の森林土木,そして総合技術監理部門の計5部門8科目を取得してきた。これにより都市及び地方計画の造園コンサルタント登録領域以上にランドスケープ技術の活用が図れたと考えている。

 私はこれまでの技術士受験体験やテクニックをランドスケープ雑誌や自ら運営するホームページ等で公開し,その啓蒙にもあたってきたが,今回の東京農業大学造園科学科でのJABEEコースレクチャーでは,学生や教員の技術士資格に対する関心の高さを強く感じる機会となった。ここで教育や研究現場においても技術士資格の実態や活用を議論する場を設けたい。
 本稿では,ランドスケープの技術者教育や業務で活用できる資格として,技術士の資格取得とその展望を今回のレクチャーの内容を交えて述べる。


2.技術士を知ろう
 今回の「技術士を知ろう」のレクチャーでは,「JABEEと技術士」「社会システムと技術士」「ランドスケープと技術士」の3階層に分けて技術士に関する説明を行った。

(1)JABEEと技術士
 最初にJABEEプログラムを修了した際の資格上のメリットを解説した。この指定教育課程を修了することにより,合格率40%程度の技術士補となる資格を有することができる。本資格は技術士二次試験の受験要件となっているため,技術士を目指さなければ取得メリットはほぼないが,実務経験が必要な技術士へのチャレンジを学生時代から取り組むシステムとなる。
 また技術士は幅広い技術分野に対応しており,科学技術の応用面に携わる技術者にとって最も権威のある国家資格といわれている。その一方で,医者や弁護士などの業務独占資格ではなく,資格名を名乗れる「名称独占資格」であり,その厳しい義務と責務を果たす中で<信用>は大きく高まるが,資格そのものが持つ恩恵は少ない。その上,技術士二次試験の合格率は,実務経験をもつ技術者が受験して十数%と狭き門である。
 それでもここで技術士取得を強く勧めたいのは,この<信用>が,この国の公共事業と社会システムにも強くリンクしているからである。

(2)社会システムと技術士
 次に,技術士資格の評価が実際の社会でどのように用いられているか紹介した。特に技術士の45%が登録する建設部門はその評価が高い。前述した通り,建設コンサルタント登録には技術士の資格登録が必要である。そして企業内の技術士数が自治体による企業の技術力の評価にも大きく関わる。ある自治体では,企業評価の総合点数において,有資格者数の係数が最も大きく,さらに技術士が他資格と比べて5倍以上の評価が得られる。また,技術提案による総合評価方式の入札においても,指名要件段階や,技術評価段階において,管理技術者・担当技術者の技術士資格の有無で他資格と比べて5倍以上の評価が得られる事例もある。
 以上はあくまで公共事業における評価の一例ではあるが,国の施策を理解する技術士に高い評価を与えていることがよくわかる。また,業務のたびに、自らの技術力やキャリアの証明が労力となるが,技術士資格の提示は,企業の看板を通さずとも自分の技術を個人資格で証明できる効果的な手法となっている。
 また個人的にも,技術士資格は業務・技術者同士での信頼獲得や,転職・休職時の不安軽減,さらに博士後期課程社会人選抜入試要件において修士相当として活用することができた。

(3)ランドスケープと技術士
 私が初めて技術士(建設部門:都市及び地方計画)を取得した時,率直に「これって造園・ランドスケープの一部分でしかないし,ランドスケープ資格って言えないよね?」と感じた。
私がこれまで関わってきたランドスケープ業務は,水辺や農林,街路等の領域に跨るものであり,都市域の公園緑地だけのではない。ただ当時はRLAのようなランドスケープを示す資格は国内にはなく,ランドスケープの知名度も現在より低かった。
 そこで私は,この国の科学技術資格の中で最も権威あるという技術士資格をつかって「ランドスケープ資格」というものを表現できないか,その挑戦を思いつき,その後十数年かけてその実現を図った。
 表-1は,私がこれまで取得した技術部門とその経験論文のテーマである。技術士試験では技術部門における業務経験が必要であるが,造園・ランドスケープ領域だけで5部門8科目は取得可能であることが実証できた。
 なお,5部門以上の取得者は2021年時点で全国10万人の技術士に対し50名と少なく,いかに造園・ランドスケープが幅広い技術領域を横断的に扱う難しい技術であることが実感できる。

表−1 造園・ランドスケープ業務経験で取得した技術士5部門8科目と経験論文テーマ
表-1

 また,技術士資格が社会システムに大きく関わると述べたが,ランドスケープアーキテクトがさらに他の技術士部門も複数取得することにより,ランドスケープの技術をより広い領域で活用・活躍することが可能となると考えている。
 特に造園・ランドスケープは,多様な空間要素や課題に対する理解と共感によって発展を遂げてきた。ランドスケープアーキテクトが自らの立場を確固とした上で,既存の造園領域を越え,他の技術分野の立場を体系ごと理解して計画・研究を行うことが今後の国土形成にも不可欠であり,技術士資格はその展開の実現に効果的な手段になると私は考えている。

 現在では,ランドスケープ資格としてRLAが整備されており,造園・ランドスケープの技術を体系的に獲得できるようになった。国土交通省登録資格にも登録されており,今後の発展も期待できる。また,RLAと技術士は目的が異なるため,成長に応じた選択肢が得られたと考えている。これらの仕組みを理解し,個々の評価やスキルアップ,そして産官学のランドスケープ全体の発展に資格制度を活用してほしいと願っている。


3.おわりに
 現在,私は技術士受験を終えて,ランドスケープ技術士育成のための指導ボランティアを開始している。今年も7月上旬に技術士二次試験が実施されたが,試験後に指導した受験者から「全問立ち向かう事ができた」との連絡が届いた。個人的な感想であるが,ランドスケープの技術者は技術士試験とも相性が良く,業務で得た力を試験に発揮しやすいと考えている。私もこの指導経験を活かしてランドスケープに特化した技術士試験対策も構築し,その支援を行いたいと考えている。本稿がランドスケープ技術士を目指すきっかけになれば幸いである。
 最後に,今回JABEEコースレクチャーを通して,多くの学生にランドスケープと技術士の話をする機会を与えてくれた東京農業大学造園科学科の福岡孝則先生,金澤弓子先生に深く御礼申し上げる。

以上


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