2005年08月23日

世界に翔び立つ若者たちのランドスケープ 伝統の庭・伝承の心

no,44◇今回の記事は、ランドスケープ専門雑誌「ランドスケープデザイン」マルモ出版とのメディアミックスにより、2005年8月号「ランドスケープデザインno.44」と同時掲載になっています。




<今回のネットワークメンバー>
松崎竜王(アメリカ在住:ima+design所属)
伊藤慎一朗(イギリス在住:Colour Urban Design Ltd所属)
狩谷龍俊(中国在住:同済大学所属)

 今回の記事は、世界に翔び立った米、英、中国で活躍する3人の若者ランドスケープアーキテクトと、<伝統の庭・伝承の心>についてインターネット上で生で議論したものをとりまとめたものです。
 それぞれの経験と世界での体験を踏まえて改めて感じる日本の伝統のうつくしさとは、そしてそれを世界に活かす方法とは、今の若者の声を聞いてください。(宮川)


<ランドスケープを話そう「ランドスケープと伝統の庭」>

2-01.jpg狩谷:
 私は、中国の古典庭園を専門に研究したいと思い、こちらで大学を探しました。しかし、日本とは異なり造園や庭園といった分野が独立し学科となっている大学は少なく、それらの多くが建築の分野に含まれています。そのため庭園を専攻しているものの、学科が建築であるために授業の多くも建築分野でした。

 卒業論文では、中国庭園の調査及び研究などから、その概念を抽出し、現代に活かせる新しいランドスケープデザインが創出できないかという内容でまとめています。


松崎:
 私もランドスケープをする上で、新しい空間に活かせる古典的概念を有効に使えればと常々思っています。そして、これからの日本庭園並びに、中国の庭園や、韓国の庭園といった様に、アジアにおける全ての庭園がどの様に近代社会に融合していくのか、私にはとても興味があります。そしてこの先もずっと、我々に変わらぬ美しい庭園(自然)の姿を見せ続けていてほしいと願っている次第です。

 その為にも、この分野に興味を持ち、庭園の整備の技を受け継がれている方達とも、もっと交流がもてたなら、我々ももっといろんな面で貢献できるのではないでしょうか。例えば先ほど述べた、新しい空間に活かせる古典的概念を有効に使える術を我々が身に付けられるかもしれません。

 アメリカには、我々日本人の祖先が築いた日本庭園や、アメリカ人の方達が造られた日本庭園が数多くあります。しかし、もともとの風土の違いがあるので、その土地土地の環境に順応させる様に、庭園が造られていると思います。

 そして、これからもそういう周りの環境に適応できる様な庭園が造られていく事でしょう。やはりそれは、アジアの庭園に元来由来する、サステイナブルな環境をいかに作れるかという考え方の一環なのだと思います。

2-04.jpg しかしながら、アジア諸国に昔からある庭園については、そのまま残すと言う事に意義がある様に思いますし、本当の意味で自然と一体となった庭園の情景は、ある一種の空間のアイデンティティーだと思いますので、これからもずっと受け継がれていってほしいものです。

 あともう一つ付け加えるとすれば、アジアの庭園には、我々を癒してくれるヒーリングガーデン的な要素がたくさん含まれていると思います。私は、ヒーリングガーデンや園芸療法に興味がありまして、いろいろとそちらの視点から庭やランドスケープを見たりします。

 味気ない言い方をしますが、自然に癒されると言うのは、人間も自然の一部であるので、自己治癒能力が働いて癒される事だと思います。しかし庭園は、人工の自然ですが、我々を癒してくれて、時には懐かしさを覚えさせてくれますよね。

 私が思うに、自然を全身全霊で感じられる能力が、元来アジア人の中にはあり、それを形にする技を庭職人達は持っていた。だから、自然と我々祖先の心を融合させたアジアの庭園は、我々みんなの心に安らぎと感動を与えてくれるのだと思います。

 我々現代人一人一人が、どこまでそういう形や技を継承していけるか分かりませんが、みんなで手を合わせてやって行けば、なんとかできますよね!


伊藤:
 それは私も同感です。私に自然を全身全霊で感じられる能力があるわけではないですが、庭職人である父の仕事を小さい頃からみてきた影響からか、身体全体で感じる心地よい樹木の配置、石の配置というのが感覚的に備わっていると思います。

 それは言葉で表現するにはとても難しく、特にこちらでデザインプロジェクトをするときに説明できなくて悩んでいることです。科学的、生態学的なデザインアプローチの強いデザインオフィスでは、説明のつかない感覚的なアプローチはなかなか通じません。フォーカルポイントを中心軸から少しはずす感覚やフォーマルな軸線を崩す感覚、不安定の安定性などといった感覚は世界中の人に通用するわけではなく、日本人だからこそ心地よく感じとれるものかもしれません。

2-02.jpg


宮川:
 私もその事について、いろいろと感じることがあります。話しをきいて「作庭記」を思い出しました。「作庭記」は11世紀に書かれた日本で最初の作庭本です。そこでは庭園をつくる上での助言としてこう書かれています。

「まずはじめに、地の勢いと水の勢いを考慮する。次に昔の上手な作品に学び、自分が知る名所の美しさを思い起こす。自ら選んだ敷地のうえにその記憶を自由に蘇らせ、自らの心の動きを最も素直になぞらえ、自分自身の庭園にする」

 ・・・これらは現代のランドスケープデザインにも通じる極意ですよね。時代や境界を超えて私たちは自然の美しさと向き合い、空間を創出していくものだと思います。

伊藤:
 英国では数年前から日本庭園がブームなっています。しかしながら、そのほとんどはいわばファッションであり、日本「風」庭園であり、伝統的日本庭園というにはほど遠いものが多いのが現状です。景石、飛石があるだけで英国では日本庭園になってしまいます。もちろんその背景には英国で日本庭園をつくれる人材が育っていないこと、日本とは気候、風土の異なる土地なので、植栽や施工面での違いがあることなどの問題点が多くあります。

 しかし、私としてはそれが日本庭園であると誤解してほしくありません。自然の風景をナラティブに小さな空間としてまとめてきた日本と広大な自然風景を絵画的につくりあげてきた英国では景観の捉え方が大きく異なります。日本文化に親しんでいる英国人が多いことはとても嬉しいことなので、今後はもっと精神的な部分でこの日本文化を伝える事ができたらと思っています。


狩谷:
 伝統の庭園と近代社会との融合という言葉を聞いて、以前、大学院の教授が語られていたことを思い出しました。

 それは、「文人がいなくなった現代において、今後どのように中国庭園が発展していったらよいのかと頭を悩ませている。そこでその発展のため、いま中国では修復や施行に携わる作業員たちが自ら思考を練り、中国庭園の近代化に努めている。」と。

2-05.jpg しかしこれらにも問題があります。それは、中国は急速に発展しているものの、庭園継承という面においは作業員の中で理論や歴史を知るものが非常に少なく、だいぶ強引な修復ならぬ、改園が行われているという点です。そして歴史を持つ各庭園、建築がその被害にあっています。

 「修復」という名目で完成した園内では、景観や歴史的意味が矛盾を引き起こし、結果その質が下がっています。これらのことからも園を正しく継承することが、新しく作り出すこと以上に難しい事が分かりました。また今後、実際現場にでる作業員や設計士の再育成が非常に重要な意味を持つと言うことも実感しました。

 アジアのヒーリングガーデン。そうですね。特に中国庭園においては、大自然を人の手によって表現し、その虚構の空間に人々は癒しを感じます。このような点も面白いですよね。


伊藤:
 松崎さんが日本庭園技術のことについて話されていましたが、今日本ではランドスケープアーキテクトと造園家の職能のことについて色々と言われています。しかし私は造園家とランドスケープアーキテクトとは少し違うと思います。日本の造園家はデザインとさらに繊細な施工技術に長けた世界でも独立した特別な職能だと思います。

 私は小さいころから日本の施工技術にふれる機会が多かったせいか、英国にいても施工の細かい部分にはすぐに目がいってしまいます。施工の完成度に対する価値観の差は英国と日本では異なると思いますが、私が見る限りでは英国の施工状況は日本に比べると適当なところが多いように思われます。英国の大学の教授陣も声をそろえて自国の施工レベルはhorrible!というくらいです。いかに日本の施工技術が繊細であるかというのは海外にでてはじめて実感することができました。

松崎:
 そうですね。私もアメリカに来て、同じ様な事を感じました。ですから、日本の庭園文化を受け継いで来た職人の方達の意思は、これからも誰かが受け継いでいかなければならないですし、誰かがサポートしていくべきものだと思っています。

 ですが伊藤さんの話でもありましたが、ランドスケープアーキテクトや、それを習う学生と、いわゆるガーデナー(造園家)と呼ばれる職人の方達、そしてそのお弟子さん達の間には、少なからずとも何かの隔たりがあるかの様に思います。もちろんいろいろな能力・技術の面での違いなどがお互いにはあると思いますが、私はそう言う技術面での違いや肩書きでわだかまりが生ずるなら、今すぐにでもそれらを取っ払って、お互いがサポートし合える関係を作って行くべきだと思います。お互いに違う能力があるからこそ、サポートし合えばもっと良い物が作れて、それらを残す事ができるのではないでしょうか。

 そして、日本庭園などの情報、そして、その整備を受け継いできた職人の方達のネットワークに至るまで、我々は同じランドスケープ、庭園、自然を愛する者として、そして良いものを後世に残す為に、これから取り組んでいくべきだと思います。


宮川:
 日本の伝統の庭及びその庭師についてですが、目から鱗というか、なるほどと改めて感心いたしました。どちらかというと、ランドスケープの普及の必要性について、今まで日本庭園的な<箱庭>、<盆栽>的な都市景観の脱却が一つと考えていたので、どちらかというと反対なアプローチばかりとっていたと思います。

2-06.jpg 実はもう一つ、感じたことがありまして、ちょっとその件についてもお話させていただきます。私が国立公園の登山道調査を行っていたときの話ですが、その調査において、原生林の中を調査することがありました。私はその自然林の美しさの中に、日本庭園の樹木の配置や石組み、季節感などを感じることが出来ました。

 私はもともと大阪に住んでいて、京都の庭園等もよく見ていたのですが、日本庭園を今まで固定的なデザインと考えていた節がありました。しかし、改めてこうした日本の原生林を見るという体験をしてみると、日本庭園の美しさというのは、本当の自然の美を表現しているのだ(また、その美を理解しないとわからない)と改めてその価値を感じました。

 もしかすると、日本人がこうした本当の自然とのふれあう機会をなくすにしたがって、日本庭園の価値も失われていくかもしれないという気もしました。

 さて、皆さんの話も踏まえまして、今後、こうした伝統庭園に携わる人たちの考え方や理念を発進することができたらと思います。庭園そのものを紹介するHPというのはいくつかありますが、伝統庭園からランドスケープに伝えるメッセージを発進する必要を感じました。


松崎:
 皆さん、ご協力頂きまして有難うございました。我々の手で、新たな「作庭記」、近代社会に適応できうる「新・真・心・進・作庭記」、そしてネットワークを築いて行きましょう!

2-07.jpg


landscapemediamix at 01:00│Comments(3)TrackBack(0)clip!MEDIA MIX 

トラックバックURL

この記事へのコメント

1. Posted by いとう   2005年12月27日 19:50
先日帰国して京都に行ったときに、弟の紹介で京都の若い庭職人さんたち10人くらいの方と一緒に夜食事をするという機会に恵まれました。最終的にはもっとたくさんの方がいらっしゃったと思うのですが、、、年齢は私と近い方が多かったのですが、皆さんのすごいエネルギーに圧倒されてしまいました。こういう若い人たちの技術で現在の京都の景観が維持され続けているのだなということも実感しました。私なんかには専門用語が多すぎて、ついていけないような話題もありました。
2. Posted by いとう   2005年12月27日 19:51
(続き)
作庭家の斉藤勝雄氏が日本庭園の伝統を維持する3つのものについてこう書かれていました。
(1)古来保存されている庭園作品と、(2)庭造りに関する文献と、(3)それらを身につけ修練を得た庭師とによってのみ伝統は維持されると。なかでも、生身につけた修練こそ最も大切な古人の遺産である。

職人さんの話を聞いたからといって、伝統技術が身につくわけではないですが、こんな小さなきっかけで出会って、将来の日本のランドスケープについて語り合えるネットワークができたことはとても素晴らしいことだと思いました。
こういう交流をこれからも大切にしていきたいですね。
3. Posted by TF   2006年04月06日 17:57
庭屋として修業中の身です。
新しい作庭記を作るには、私はまだまだ修行が足りませんが、
温故知新。という事で、恥ずかしながら私も作庭記に興味があります。

今、作庭記を古語辞典をめくりながら訳しています。
作庭記の記述があったので、トラックバックさせて頂きました。

よかったら、是非ご覧下さい。

この記事にコメントする

名前:
URL:
  情報を記憶: 評価: 顔   
 
 
 
MEDIAMIX CONTENTS
MAINPAGE
  「ランドスケープをしよう」
 LANDSCAPE TITLE PIC
 http://landscape-project.net


No.23(2010.6.23)
マルヤガーデンズとランドスケープマネジメント
山崎 亮

No.22(2009.2.23)
海外事務所探訪:05
EDAW シドニー事務所

No.21(2008.12.23)
海外事務所探訪:04
EDAW ロンドン事務所

No.20(2008.10.23 up)
海外事務所探訪:03
EDAW ロサンゼルス事務所
Special Interview
Parking Day LA

No.19(2008.8.23)
海外事務所探訪:02
Citera Studio Assosiato

No.18(2008.6.23)
海外事務所探訪:01
mcgregor+partners

No.17(2008.2.23)
「子どもの夢を叶えるランドスケープ」
佐々木 健一郎

No.16(2007.12.23)
「樹木医から見る土のデザインとランドスケープ」
飯田 稔

No.15(2007.10.23)
ビオトープ×ランドスケープ
亀田 聡

No.14(2007.8.23)
テレビの中のランドスケープ
鈴木 心篤

No.13(2007.6.23)
UFUGと世界で活躍する鍵〜コラボレーション・ランドスケープ〜
保清人+UFUGメンバー

No.12(2007.4.23)
Stile italiano! イタリアンスタイル!
安部彩英子

No.11(2007.2.23)
1通のメールからはじまるランドスケープネットワーク
大西陽子

No.10(2006.12.23)
外国人日本庭園デザイナー〜自らの手と土地とともに〜
Jason P. van Herik
(ENGLISH VERSION)

No.9(2006.10.23)
ランドスケープでつなぐ中国の未来、日本の心
秋山 暁

No.8(2006.8.23)
変化をデザインするランドスケープ
DAVID BUCK
(ENGLISH VERSION)
Special Interview
テンポラリーランドスケープ
関×DAVID
(ENGLISH VERSION)

No.7(2006.6.23)
MASS-SUBCONSCIOUS〜土地の記憶と集団の深層〜
関 晴子

No.6(2006.4.23)
海を越えて見つけた私のランドスケープ
石原見衣子,Kent Scott
(ENGLISH VERSION)

No.5(2006.2.23)
人文学からのユートピア・ランドスケープ
山田久美子

No.4(2005.12.23)
East Meets West
伊藤慎一朗,Peter Owens

No.3(2005.10.23)
中国のランドスケープとそのパワー
狩谷龍俊
Special Interview
中国における歴史的建築の保存活動
狩谷×路秉杰

No.2(2005.8.23)
世界に翔び立つ若者たちのランドスケープ
松崎竜王,伊藤慎一朗,狩谷龍俊

No.1(2005.6.23)
新しいランドスケープを発信する情報ネットワークのカタチ
宮川央輝

No.0(web only)
ランドスケープとジャーナリスト
丸茂×宮川
Archives
Recent Comments
Recent TrackBacks