2005年12月23日

East Meets West

ランドスケープデザイン◇今回の記事は、ランドスケープ専門雑誌「ランドスケープデザイン」マルモ出版とのメディアミックスにより、2005年12月号「ランドスケープデザインno.46」と同時掲載になっています。





<今回のネットワークメンバー>
7509e125.jpg伊藤慎一朗
(いとう しんいちろう)
英国在住:colour: urban design limited所属
海外ランドスケープレポート1



04-PETER OWENS.jpgPeter Owens
(ピーター・オーウェンズ)
英国在住:colour: urban design limited所属




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◇今回は、英国グリニッジ大学への留学の末、今年10月にランドスケープデザイナーとしてニューカッスルのランドスケープ事務所colour:urban design limited に入社した伊藤慎一朗さんと、同社ディレクター、ピーター・オーウェンズさんを交えて<英国のランドスケープ事情>について話した内容をここにまとめました。



〜ガーデンデザインから英国留学へ〜

宮川:
 伊藤さんは、日本の大学でランドスケープを学び、それから英国での留学、そして就職と夢を着実に実現していった中でその苦労も多くあったと思うのですが、まずは、伊藤さんが英国の地にランドスケープを目指した経緯を教えてください。

伊藤:
4-02.jpg 大学時代から私は、世界中のランドスケープやガーデンデザインに興味があり、デザインの経験を積んでいく上でグローバルな感覚を養いたいと考えていました。
ちょうど日本の大学在学中に英国のガーデンデザイナー、ロビン・ウィリアムス氏と出会う機会があり、英国のデザインやその背景に興味が向いたことも影響していると思います。
 特に留学先にグリニッジ大学院を選んだ理由は、ある雑誌に英国のランドスケープアーキテクチャー学科系大学の中で最もアーティスティックな教育を行う大学として紹介されていたことです。私自身が最も足りないと思っていた部分であり、日本やアメリカンランドスケープとは別のランドスケープデザインをもっとおもしろい側面から考えられるのではないだろうかという好奇心がありました。

宮川:
「ランドスケープをしよう」での<海外留学レポート>でも伊藤さんの英国での授業風景などを紹介してもらっていますが、ずいぶんと日本やアメリカともその内容が違っているように感じました。
実際に伊藤さんは日本と英国でランドスケープデザインの教育を受けてきたわけですが、どのような違いやお互いの特徴を感じましたか?

伊藤:
 同じ日本でもランドスケープの教育理念は様々だと思いますが、端的に表現してしまうと日本が合理的・実践的な傾向の強い教育体制であったのに対し、英国では抽象的な思考や創造力を重視する教育体制であったと思います。

4-03.jpg グリニッジではほとんどの講義において主は生徒でした。日本のような講義形式は少なく、あらかじめ用意されたサブジェクトを講師がかかげ、それについて生徒同士が話し合い、それを講師が中に入ってリードして理解を深めていくといった形式の講義が多かったです。
 1年目は芸術学系のレクチャーが多く、色彩の体系的なスタディ、ヌードデッサン、グラフィックデザイン、写真の撮り方や現像、美術館めぐりなどがありました。これはランドスケープアーキテクトはアーティストでもあるという教育理念に基づいているのだと思います。特にレクチャーをする教授陣が彫刻家や音楽家などあらゆるジャンルの芸術家にとても精通していることには感心しました。
 2年目のマスターコースのおおよそ半分のプロジェクトはグループワークで、アーバン・ディヴェロップメントや現存するランドスケープ・ガーデンデザインのリサーチ等がありました。

4-04.jpg 実際に英国のランドスケープデザイン事務所で仕事をするうえで、グループでの協調性が特に重要視されていて、企業のだす求人票にも必ずチームプレイヤーであることが強調されています。

 卒業式の時に気づいたのですが、卒業証書にはMaster of Artsと書いてあり、グリニッジ大学院においてのランドスケープアーキテクチャーというカテゴリーは芸術学部の傘下にあるのだなというのを実感しました。

4-05.jpg


〜英国のランドスケープ環境〜

宮川:
 教育方法でも多くの違いがありますね。特にアートと積極的に結びついていて大変新鮮に感じました。残念ながらガーデニングブームで英国庭園の情報は頻繁に入りましたが、まだまだランドスケープの情報は入りにくいのが現状です。

伊藤:
 私はまだ実際に仕事を始めたばかりなので英国の状況といってもあまりよくわかりません。私の働いている事務所のディレクターであるピーターを紹介します。
 日本ではまだ多くのランドスケープの仕事が公共事業に偏っていてほとんどが入札によって獲得され、デザイン的な価値も評価されにくいといわれていますが、英国の場合はどうなっていますか。

Peter:
4-06.jpg 英国ではクライアントは基本的にプライベートのものが大半をしめます。そして価値のある良いデザインにニーズが集まっています。デザインプロジェクトを獲得するにはたくさんの方法があり、どのデザインオフィスも独自の獲得のしかたをしています。
 私達のデザインオフィスの場合はたくさんのクライアントとのパートナーシップを大切にすることで仕事を効率的に獲得しています。もちろんクライアントは常に市場のニーズや機能性を満たすために良いデザイナーを注意深く探していますので、私達はそれに付加価値をつけたデザインプランを提供するように心がけています。


伊藤:
 勤務時間に関してはとてもメリハリがあって、しっかりと個々のライフスタイルが尊重されていると思いますね。
 オフィスの会話の中では家族で何をして過ごしたという話がけっこう多いですね。良く同僚から週末は何をして過ごすの?と質問されます。よく考えれば日本で働いていたころは一度もされたことがない質問でした。
 同僚の様子を見ていると仕事はあくまでもライフスタイルのごく一部といった感じで、日本のサイクルに慣れている私には最初はうまく答えられませんでした。(笑)しかし最近は何か仕事以外で新しいことをはじめようという気になってきましたね。

ピーター:
 そうですね。仕事とは効率的で創造的でそして持続可能であることが大切だと思っています。個々人が個性を発揮するためには仕事とライフスタイルのバランスをしっかりと確立することが必要です。
 私達は週に37.5時間の勤務時間を常に目標にしています。金曜日の午後からは働きません。約2.5日間の週末の休みで、次週からのエネルギーを蓄えます。
もちろん私達はクライアントから提示されたデッドラインを守らなければならないので、メジャープロジェクトが重なるときなどは、残業もしますが、なるべく早く帰宅することを心がけています。

伊藤:
 それと、英国のランドスケープの資格に関してですが、私の場合は英国のランドスケープインスティチュートが指定する大学院を卒業しているので、2年間のデザインオフィスでの経験後、英国のランドスケープアーキテクトの試験であるPPE(Professional Practice Examination) を受ける資格があります。
 試験までの2年間は毎日の仕事内容を時間単位で記録することが義務付けられています。それぞれの仕事をカテゴリーごとにわけることで、2年間でどのレベルのどのカテゴリーの仕事をどれほどしたかが明確になります。試験は筆記試験(論文形式が主)と口頭面接の二つから構成されています。


〜East Meats West〜

宮川:
 今回特に事務所のディレクターであるピーターさんに聞いてみたかったのは、ビザなどの制限もある中、日本人である伊藤さんを雇用しました。これは同時多発テロ以降の情勢等も重なり、ビザ取得までのリスクも大きかったと思いますが、それでも日本から来た伊藤さんを選んだ理由を教えてください

Peter:
 私たちの事務所は、今後ヨーロッパ圏だけではなく、よりグローバルな活動を行っていきたいと思っています。そのためにはチーム内でもグローバルな感覚を養わなければなりません。彼を雇用した理由は三つあります。
 一つめは、彼のランドスケープデザインに対する熱意と姿勢、そしてそれがグローバルな活動をしていくチーム内でとても重要であったこと。
 二つめは、現実的にオフィスの仕事で必要とされるスキル、例えば彼は明確なデザインアプローチと多彩なグラフィックスキル、それから実践的な植栽デザインの知識を持ち合わせていました。
 そして最後に、日本やそれ以外の国でのグローバルな経験、その背景から感じられる独自のデザインスタイルにとても興味を惹かれたことです。彼なら何か特別なものをこのチームにもちこんでくれると感じたんですよね。常に革新的なアイデアを求めているデザインオフィスにはとてもよい刺激になると思いました。
 それから私は特に近代の日本のガーデン、ランドスケープデザインにとても興味があり、いつも新たなデザインアプローチを学びたいと思っています。そしてそれらは実際に私のデザイナーとしてのスタイルをとりかえしがつかないくらい変えてしまいました。今後、彼とのコミュニケーションを通して日本のガーデンやランドスケープデザインについてより多くのことを学べると思います。


〜ヨーロッパランドスケープ〜

宮川:
 日本でもグローバルな感性やヨーロッパのランドスケープムーブメントに非常に大きな関心をもっています。しかし、残念ながら非常に断片的な情報しか理解していません。ピーターさんから見て現在のヨーロッパ独自のランドスケープムーブメントをどう感じていますか?

Peter:
 ヨーロッパ全体を一言でまとめることはとても難しいですが、特に目につくような大きなデザインムーブメントはおきてないと思います。しかし、皆さんもご存知のように今まで多くの創造的で革新的なランドスケープデザインがヨーロッパの国々で発展してきました。

4-07.jpg フランス、特にパリはアートに関しては常に革新的で感動的なアイデアが眠っています。Parc de la Villette (1988)や最近ではParc André Citroënなどがとても良い例でしょう。オランダでは都市計画とモダンアートとを連結させたような刺激的なデザインが生まれています。スペインにおいても同じようなことが言えると思います。エコロジカルデザインの視点では常にドイツが一歩先を進んでいますね。


〜英国でのランドスケーププロジェクト〜

宮川:
 ヨーロッパの中でもそれぞれの特徴があるようですね。特に英国でのランドスケープデザインの特色としてどういったものが挙げられるでしょうか?またその中でどういったものを大切にされていますか?

Peter:
4-08.jpg 21世紀を向かえ英国のランドスケープアーキテクチャーはとても意味のある社会的役割を見出し、そしてとても大きな進歩を遂げたといえます。以前はアーバンデザインの領域において、タウンプランナーや建築家、ランドスケープアーキテクト、エンジニアが競合しあうとても不均整な開発が行われていました。
 それが近年ではアーバンデザインにおいて政治的、専門的な広い受け入れが行われるようになり、そのプロジェクトにおいてどの領域のプロフェッショナルが仕事を共有するべきかが検討されるようになりました。またその他にナショナルロッタリーがミレニアムプロジェクトに資金を供給したこと、十数年前から良い経済状態が持続していることなどがあげられると思います。

4-09.jpg その結果は都市部や学校、病院、住宅ディブロップメントへの多大な投資を可能にし、建築家やランドスケープアーキテクトが今までとは違った最前線の表現に挑戦できるような機会の増加につながりました。
 私たちもこのムーブメントの中で、様々な場所においてそれを実践しています。私たちは新しい審美性の創造についてもとても興味がありますが、常に環境原理との結合を通してデザインすることに努めています。

伊藤:
 最近、英国政府は多くの国家予算を投資して、英国全土の中等学校を刷新する政策を実行しています。そのためオフィスにおいては学校関係や病院関係のデザインプロジェクトが多いですよね。
 私も学校校庭のマスタープランや校庭のデザイン計画を担当させていただきましたが、いろいろとユニークな取り組みで進めることができました。

Peter:
 今回の校庭のデザインは日本のデザイナーである仙田満氏が過去に手がけたとてもユニークな公園のデザインスタディーをもとにスタートし、それに私が小さいころ体験した楽しい屋外空間探検の思い出と学校の校長先生の「プレイグラウンドはどう遊ぶかを生徒に教えるべきではない。」というおもしろい意見なども加えながら、考え方をディブロップさせていきました。
 私は学校の校庭とは創造的でイマジネィティブであり、生徒の社交性を身につける場所であり、体験的で感動的でなければならないと強く思っています。私達がデザインした学校ではきっと生徒達が校庭での体験を通じて、今までとは違った会話を発するようになるでしょう。休み時間に自然とのふれ合いを通じて、クラスルームの雰囲気も良くなるでしょう。たとえ天気が悪くても生徒は生き生きと外にでて遊ぶでしょう。
 英国の変わりやすい天候のもとでは雨が降っても生徒にとっては服を着ているようなもんですからね(笑)。


〜東西ランドスケープの融合と可能性〜

宮川:
 すばらしいお話ありがとうございました。こうした新しいランドスケープムーブメントが英国、そしてヨーロッパ各地で発進され続けていることを再認識させて頂きました。また、今回の二人のようにグローバルな感覚とそれに伴う刺激し会えるチームの形成の必要性も強く感じました。それでは最後にお二人のランドスケープの夢とメッセージをお願いします。

伊藤:
 近年、医療関係では東洋医学が見直され、西洋医学とのコラボレーションにより新たな可能性を見出しています。私はランドスケープデザインにおいても同じような可能性があるのではないだろうかと期待しています。私は日本のガーデンやランドスケープデザインの精神的なものや自然観への理解を求めることで、今ある東西の温度差を少しでも修正することができればと思っています。

4-10.jpg ピーターも新しいデザインアプローチを取り入れることに関してはとても積極的ですので、両者のアプローチを融合、洗練することで新たなランドスケープデザインの可能性を探求していきたいです。
 また英国のランドスケープに関する情報提供や英国と日本のランドスケープデザインに関するコラボレーション・プロジェクト、教育などにも積極的に参加していきたいです。

Peter:フォーム、スタイル、審美性といったランドスケープアーキテクチャーの表現は対象敷地に活力に満ちたメッセージを与えます。しかし、それはうわべだけの表皮のようなものにすぎないと思っています。
 精神と魂のランドスケープとは機能によって形づけられると思います。それは人間と自然の関係そのものです。ランドスケープは私たちが癒されること、学ぶこと、他と共感すること、生活の質を高めること、幸福な思いで生活することを助長し、都市に繁栄をもたらしさえします。これは美しさと自然のバランスが連動しているときにとても強い力を発揮する傾向にあると思います。とても素晴らしいことですよね。
 私はColour-udlの仕事を通してランドスケープデザインの表現の可能性とその境界線の模索、そしてランドスケープデザインがどの様に人間性の造詣を深めていくかをこれからも探求していきたいです。それはランドスケープアーキテクトであるための誇りと醍醐味だと思います。

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