2006年04月23日

海を越えて見つけた私のランドスケープ

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6-00.jpg◇今回の記事は、ランドスケープ専門雑誌「ランドスケープデザイン」のマルモ出版とのメディアミックスにより、2006年4月発刊「ランドスケープデザインno.48」と同時掲載になっています。




<今回のネットワークメンバー>
promieko石原(DiPippo)見衣子 (いしはらみえこ)さん
GGLO(シアトル)所属:ランドスケープ・デザイナー)
海外ランドスケープレポート1


prokentKent Scott(ケント・スコット)さん
GGLO(シアトル)所属:ランドスケープ・アーキテクト)




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◇「ランドスケープをしよう」をホームページとして開設してからまもなく、海外からはじめてのメールが届きました。その差出人はランドスケープ先進国アメリカのUnibersity of Washingtonで当時ランドスケープを学んでいた石原見衣子さんでした。
 それから石原さんと情報交流を重ねながら、私の「ランドスケープをしよう」も成長していきました。
 今回はそんな石原さんと「ランドスケープをしよう」の交流を起点にアメリカで見つけたランドスケープについて語り合います。


海外留学と「ランドスケープをしよう」との出会い

宮川:
 石原さんは始めて私のホームページ「ランドスケープをしよう」にメールをくれた海外のランドスケープ留学生でした。あれから随分、時間がたち、お互い立場も状況もずいぶん変わりましたが、改めて当時の石原さんの留学時の状況とメールを頂いたきっかけをお話しください。

石原:
6-02.jpg ランドスケープのことを殆ど知らずにアメリカに渡った私にとって、インターネットは役に立つツールでした。
1999年秋学期のある日、パソコンから課題のためのインターネットサーチをしてた時に、ふと日本のランドスケープ事情は今どうなってるのだろうと思い、「ランドスケープ」でキーワードサーチをしてみたら「ランドスケープをしよう」に出会いました。以前同じキーワードでサーチしたときには出てこなかった新しいHPでした。
 当時日本のランドスケープの知識がなかった私には、宮川さんのHPはわかりやすく心理的に身近な資料でした。
 それから宮川さんに質問のメールを送ったことがきっかけで交流が始まりました。UWのランドスケープアーキテクチュア学科にいた頃、ベルリンのスタジオに参加する前に久しぶりにロンドンに立ち寄り、同じ留学レポートを掲載している伊藤さんに旬のプロジェクトサイトを案内してもらったり、街をカメラ片手に歩きながら大学のことなどを語り合ったり、お互いに励まし合ったりと、思い出に残る良い機会がありました。


〜現在の就業環境〜

宮川:
 現在、アメリカの大学を卒業してアメリカ・シアトルの総合設計事務所GGLOで活動されていますが、アメリカの事務所での活動や特徴について紹介してもらえますか?

石原:
6-03.jpg 今の事務所の強みは、小さすぎず大きすぎない人員規模と、内に抱える建築、インテリアデザイン、ランドスケープアーキテクチュア、都市設計、事業開発課の総合力、様々なプロジェクトの種類とスケール、そして持続可能な設計/計画に総部門で力を入れていることだと思います。
 社内のプログラムとしては、メンタープログラム、木曜デザインクリッツ、ランチプレゼンテーションなどが設けられ、その他建築家やインテリアデザイナーから、共通のプロジェクトを通して学ぶことも日常レベルであり、刺激のある仕事環境となっています。設計上の質問や調整も、同じ建物内で行き来して、肩と肩を並べて図面にスケッチをしたりしながらコミュニケーションをはかり、建築、ランドスケープ、そしてインテリア共に調和の取れたより良い解決策をつくれるのも長所の1つです。
社外で市や大学が行っているイブニングレクチャーも私にとっては良いプログラムです。

宮川:
 社内外を問わず広く学べる機会があるということですね。それに人との関わり合いをとても重要視していてとても素晴らしい!

石原:
 他にもアメリカのランドスケープの状況をお話ししたいと思うのですが、日本も含めた海外勤務の経験があり、私の上司であるKentから、アメリカと日本のランドスケープの一般的な就業環境や業務の違いについてより詳細に教えてもらおうと思います。

Kent:
 この20年間、私達の事務所では公共事業の占める割合が増大してきました。現在の私達の事務所の公共事業の契約は仕事の約35%を占めます。この数字はアフォーダブル住宅(適切な負担で利用できる良質の住宅)の供給を主な任務とするNPOの仕事を含みます。
 私達の主なプロジェクトは多目的プロジェクトに留まっていますが、その焦点はコミュニティデザインの全ての面と建築環境(敷地と建物)を含むまでに広がりました。

石原:
 私自身、この事務所で焦点をあてている幾つかの項目の中でも、コミュニティや多くの人たちが関わり合うということに関心をもってきました。これらは私たちの事務所の仕事に対する大きな考え方になっているのでしょうか?

Kent:
 私達の事務所の仕事は、アイデアと末端ユーザーに基礎づけられたデザインに焦点をあてています。私達はパブリックプロセスを多くのプロジェクトの価値とニーズを評価するために用います。
 私達所内でのプロセスは、積極的な話し合いとプロジェクトを進めるためにデザインコンセプトを応用することが要求されます。時にはパブリックプロセスの結果がコンセプトになることもあります。
 私達の仕事は、これらの重要なアイデアを明白かつ微妙な方法で反映し、様々なスケールで材料、アート、物語りを通して表現されます。
 私は、私たちの事務所がアイデアとプロジェクトに関わっている、または少しでも関わる可能性のある人々に耳を貸すことに対して焦点をおいていることに誇りをもっています。

宮川:
 話をうかがっていて、日本とアメリカでのランドスケープの就業環境やプロセスの違いを感じます。特にアメリカ、メキシコ、エクアドル、フィリピン、韓国、そして日本でランドスケープのプロジェクトに関わった経緯をもつKentさんは、日本のデザインプロセスをどのように感じたのでしょうか?

Kent:
 日本で日本企業で働いたことがあるにもかかわらず、私の日本のランドスケープアーキテクチュアに対する印象は明確ではありません。
 概して、一般国民と歩行者に対してアメリカよりも大きな関心、意識、そして理解があるように見えます。またアメリカに引けを取らない、印象的な大胆なデザインを見たこともあります。
 私は日本のデザインプロセスには確信がありません。話し合い若しくは仕事の過程における透明性に欠けているように思われます。
 アメリカのランドスケープアーキテクチュアは長所もありますが、未だに20世紀半ばから受継いだ幅広いデザインやデザインプロセスなしの植栽に苦しんでいます。


〜現在のアメリカのランドスケープの動向〜

石原:
6-04.jpg 2005年の「全米で最も住みやすい都市(City Livability Award )に選ばれたシアトルにいて感じることの一つに、スプロール現象と公共空間への公平なアクセシビリティ、そして公共交通輸送機関に配慮した計画/開発/設計の重要さがあげられますよね。

Kent:
 公共交通輸送機関とそれに伴う開発の手法は国内でも様々ですが、一般的に西海岸と北東部では田舎の土地の保護と公共交通輸送機関開発を管理する土地利用を実施するために全力を挙げてます。それでも悲しいことに、相当の課題が残されています。そして、今日受継いでいる政策や仕事は恐らく近い将来の難題となるでしょう。

石原:
 個々の物理的スケールが大きく、様々な人種と価値観が混在するアメリカは、歩みよりやコンパクトシティなども含めたアメリカなりの方策が必須でしょう。
 
宮川:
 お話しの中で<人種と価値観>を意識する場合、9.11が非常にセンセーショナルな転換を迎えたように思いますが、あれから現在までのランドスケープの変移というのはありましたか?

Kent:
 9.11は政府関連の設計プロジェクトをより防衛度が高く必須事項の多い(制限の多い)ものに変えました。シアトルの新しい連邦政府建築が良い例です。建物は城塞のようですが、姫路城ほど優雅ではありません。
 9.11はまた多くの依頼人の考え方を変えました。私の視点では、テロリズムの世論は、多くのアメリカ人に、より強く浸透した恐怖感を助長しました。これはデザインに影響してきました。
視線、見通し、地形、植栽などはかつてデザイナーにとって順応性に富むツールでしたが、9.11以降多くの依頼人が知覚的に安全なデザインを不必要なまでに欲しがるようになりました。

石原:
6-05.jpg 9.11の跡地を取り巻く環境は、人間が土地とその土地に在る/在ったものとの体験またはその他の方法で得た関係と、時間との結びつきに抱く混在的な想いをあらわにしたように思えます。
読み聞きするよりも、現場に立ち直感的に体験することの大切さ、その工程を助けるランドスケープアーキテクチュアの役割の重要さを感じました。跡地のプロジェクトは、ヒストリカル・カルチュラル・ソーシャルランドスケーププロジェクトだと感じました。

宮川:
 私たちランドスケープアーキテクトは、社会変革や環境・経済など多くの課題やニーズに立ち向かうことが求められていますが、現在のアメリカのランドスケープムーブメントはどんな方向に向かっていると思いますか?

Kent:
 同業仲間は、設計、研究、植栽など、様々な方向へ向かっています。私はサスティンナブルデザインとサスティンナブルな考え方を通して与えられる機会に興奮を感じます。
大半の依頼人は、彼らのプロジェクトがサスティンナブルであることをLEEDや他のシステムを使って認証されることを要求します。この要求は、デザイナーに、デザインや自然のシステムだけでなく、ライフサイクルコストや副産物としての消費エネルギーなど、より包括的に考えることを強います。
 さらに、サスティンナブルデザインは主に学究的、政策的に基礎づけられたアイデアを議論する手段を与えてきました。たいていの場合アメリカの市の1/3を占める公道用地(ROW)は大変素晴しい資産であり、この混在能力に溢れた空間がストームウォーターの管理や歩行者、そして新しい輸送機関のための場所としてようやく認識されてきました。

石原:
 そうですね。私も大学時代に学びましたが、この1/3という割合は国土も道路も広く、自動車大国アメリカならではかもしれませんね。これだけの空間、歩行者、そして都会に住む動物や自然のためにも大切に設計していきたいですね。

Kent:
 この他の私が興味深いと思う動向としては、アートのデザインへの統合、社会心理学の公共空間デザインへの適用、そしてデザインアイデアを進展させるためにパブリックプロセスを使うことが挙げられます。

石原:
 私もその3つは大切なことだと思います。小さな頃から親しんできたアートには計算不可能な素晴しい力がありますし、短大時代に興味を持った社会心理学は、私がデザイン上人間を他の種(他の動物種や植物種)と同じように分析する際重要な要素の一つです。そしてパブリックプロセスは、サスティンナブルな世界をつくる幾つもの大切なステップのうちの一つだと考えたいですね。
 
宮川:
 特にアートやデザインは、私たちにおいても大きなエネルギーの源泉になりますよね。特にお二人が今までインスピレーションを受けた空間や影響を受けた人物がいれば教えてください。

石原:
 事務所から1ブロック先にあるGarden of Remembrance(追悼の庭)は、私にとって静岡で時々昼休みを過ごしたポケットパークのような、喧騒な市街の真只中にありながら心を落着かせることのできる隠れ処的空間です。
 日本庭園の散歩道を思い出させるようなグランドカバーに囲まれた飛び石が植栽域のあちらこちらに見え隠れするようにあったり、洗練されたリズムを感じられるこの空間にはインスピレーションを受けてきました。
 誰もがアクセスでき、追悼記の壁がピシッと直線に水と共に走っている、緑に囲まれたこの静かな空間は、メモリアルデーには少女が赤いバラを追悼記の側に一本ずつ供えて気持ちを表現したり、普段人々がひと休みしたり、通り過ぎるのを楽しむことのできる、公衆の健康に大切な役割を担う空間といえるでしょう。
 高校の美術の授業で出会ったアントニオ・ガウディ(スペインの故建築家)からもインスピレーションを受けてきました。
バルセロナ聖家族教会の屋根のモザイクの一部にコカ・コーラのかけらを見て「うーん!」と思ったこともありますが、そこで亀の台座に座って植物の柱に見惚れたり、優れた貯水システムを持つグエル公園でカスタムメイドの座り心地のよい波打つモザイクベンチからお伽話にでてくるような建物を楽しんだり、躍動感のある彼の作品に想像力を描き立てられました。美しいことの重要さを学びました。
 
Kent:
 私はジョーンズ アンド ジョーンズ時代にグラント・ジョーンズ、ジョン・ポール・ジョーンズ、そしてイルゼ・ジョーンズと仕事をしたことを最も光栄に思ってます。彼らの高潔さ、デザインの明晰さ、知識人としての厳格さ、そして事務所の環境は他に見る例が殆どありません。
 海外に住み仕事をした若手デザイナーの私にとって、ジョーンズ アンド ジョーンズは肥えた土壌と稀なマーケットを持つ異質な都市のようなものでした。大切なものは、彼らのプロジェクトよりもアイデアでした。最良なデザインの実現を保証することは、ごく普通のこととして行われていました。
 仕事先のヒューストンで偶然出会ったノグチ・イサムの彫刻の公園は、荘厳なプロジェクトでした。
 また家族で訪れたニューヨークのバッテリーパークで見つけた小さな遊び場では、ニューヨークでのみ、日曜の静かな朝、人が、子供の夢や親たちの想像にも優るような、資本主義の基礎的教訓に挑戦する、この世界的に有名なTom Otternessの彫刻に出会うのです。
 最後に、出産を重ねる私たちの羊から、手入れされた庭、打上げられた海草と風化した丸石のタピストリーと突上げた岩々から成るワシントンの海岸まで、自然が私のインスピレーションの源です。

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おわりに〜ランドスケープを通しての夢とメッセージ〜

宮川:
 世界中の国々を見て回った経験のある今回のお二人の話は、アメリカン・ランドスケープに留まらず多くの示唆にとんだものでした。今後のお二人のプロジェクトにとても興味がありますが、今後の目標や日本の読者へのメッセージを最後にお願いします。

石原:
 人の心に働きかける環境をつくることが私の夢です。土地に根付き持続できる地域づくりを目指して、他のプロフェッショナルと助け合いながらより広い環境のために、いわゆる時をさかのぼるようなシンプルで深くて最終的にはポジティブな体験ができる環境づくりをすることが目標です。
 地元の大学や日本庭園でたまにボランティアをしてますが、日本とアメリカそれぞれの良いところを伸ばし合えるデザイナーになりたいと思っています

Kent:
 私の夢は、より少なくすることで満たされることです。私の目標は、そのままで飾りのない、スティワードシップをしみ込ませ、想像力を掻き立てられるデザインを創るために働きかけることです。
 あらゆる余分に描かれる線、不必要な仕事は、どんなに重要そうに、必要そうに見えても、私達自身の欲望を満足させるためだけのもので、私たちが周りの人々や生きものを助けることからさらに遠くに引き離すのです。


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