[対談企画] マルヤガーデンズとランドスケープマネジメント
◇ 今回のmediamix記事は、2010年6月23日発刊「LANDSCAPE DESIGN (ランドスケープ デザイン) vol.73」
九州南部に位置する鹿児島は、今、来年の新幹線全線開通という交通インフラの革新を前に都市の構造が大きく変化していることが感じられます。中央駅周辺の再開発が進められるとともに、緑化フェアも同時期に開催され、鹿児島のまちづくりは都市の大きな変化の中で活気を見せています。そうした中、鹿児島の老舗デパート跡に、まったく新しいコンセプトをもった複合商業施設「マルヤガーデンズ」が4月に誕生しました。
「マルヤガーデンズ」では、鹿児島ではまだ珍しい壁面緑化や屋上緑化が施されているほかに、各階に周辺地域で公益的な活動を展開するコミュニティの方々が自分たちの活動を展開することができる区画(ガーデン)が設けられています。


そのコミュニティをマネジメントするのが、全国各地でパークマネジメントや参加コミュニティによるまちづくりを成功させてきたstudio-Lの山崎亮氏です。
今回、山崎氏もはじめての商業施設でのコミュニティマネジメントとなります。その活動が鹿児島のまちづくりにどのように広がっているのか取材しました。(宮川)
1.マルヤガーデンズとコミュニティづくり
−「マルヤガーデンズ」は、鹿児島市の中心市街地にある有名百貨店が撤退した跡地に再生したこともあり、鹿児島市民からも特に注目されている商業施設ですが、今回のマルヤガーデンズでのコミュニティガーデンのプロジェクトは、どういう形で誕生したのでしょうか。
studio-L 山崎亮(以下、山崎):
まずは社長の玉川さんが建築の改修設計をみかんぐみの竹内さんに相談いたしました。設計を検討する中で、全館のディレクションを担当する人が必要だという話となり、結果的に、竹内さんが紹介したD&DEPARTMENTのナガオカケンメイさんがディレクションを行うことになりました。
そのナガオカさんが単なる商業施設ではなく、地域コミュニティが関わることのできる商業施設を目指したいということで僕に連絡がきました。これがコミュニティに関するプロジェクトが始まったきっかけです。−今回、studio-Lにとっても初めての商業施設でのコミュニティマネジメント活動でしたが、studio-Lは、地域コミュニティに対してどのような役割(マネジメント)を担ったのでしょうか?また今回、短期間に地域コミュニティがまとまった印象がありますが、どのようにつながりを深めていったのでしょうか。
山崎:
studio-Lの役割はコミュニティの関わること全般になります。ナガオカさんが全館のディレクションやサインや広報などを担当、竹内さんが建築設計を担当、僕がコミュニティマネジメントを担当。そういう役割分担がはっきりしていました。
ナガオカさんから最初に相談されたときは、美術館をサポートするボランティア団体のようなものを育成できないか、という内容だったのですが、オープンまでにそれほど時間があるわけではなかったのと、ひとつの団体ではやれることが限られてしまうことが気になったので、まずは既存の団体をマルヤガーデンズへ呼び込むことが先決ではないかと提案しました。
新たな団体を一から生み出して、その団体がプログラムを企画したり実施したりできるようになるまでには結構時間がかかります。そのうえ1団体でやれることは限られる。ということで、既存のNPO団体やサークル団体を調べたところ、鹿児島市内外にたくさんの団体を見つけることができました。
そこで、その事業内容を調べてマルヤガーデンズに関わってもらいたい50の団体を抽出してヒアリングして回り、そのうち40の団体はマルヤガーデンズが目指す方向性に合致していたので、マルヤガーデンズで何かやってもらえないかと誘ってみました。この誘いに応じてくれた団体が30団体。この団体とワークショップを4回実施しました。
ワークショップでは、マルヤガーデンズが何をしようとしているのか、各団体がどんなことをしている団体なのか、マルヤガーデンズで各団体が何をしたいと思っているのか、それを実現するためにはどんなルールが必要なのか、具体的にオープニング時にはどんなプログラムを実施しようと思っているのか、そのための準備はどのように進めるべきか、マルヤガーデンズ側が用意すべき必要備品はどのようなものか、などについて話し合いました。
以上がオープンまでにstudio-Lが担当した内容です。


−これまで中心市街地の活性化や地域コミュニティのネットワークづくりは、主に地方自治体の中で行ってきましたが、今回のプロジェクトはかなり先進的な試みを民間企業がビジネスモデルの中で行ったことは、とても画期的なことだと思います。今後、こうしたコミュニティと民間のビジネス活動との関係に今後どのような可能性があると思いますか。
山崎:
NPOやサークル団体、個人など「新しい公共」の担い手が活躍できる場を提供することは、確かにこれまで行政が担ってきた役割です。ただし、今後行政は財源が縮小するなかで、できることとできないことをはっきりさせることが求められています。
一方、それを民間が担うという可能性が見えてきたのが今回のプロジェクトです。民間が公共的な役割を担うことは、単に「持ち出し」の費用がかかるだけでなく、結果的に「地域にとって無くてはならない存在」になることにつながるというメリットがあります。
近江商人の思想のように、三方よし(売り手良し、買い手良し、地域良し)でなければビジネスは持続可能にならない。地域も満足するようなビジネスを展開することが重要です。
マルヤガーデンズの10のガーデンが地域コミュニティのために解放されていて、利用しやすい費用で自分たちの活動をPRしたりワークショップを実施したり演奏会や展示会を開催したりすることができます。そして、お客様はそれらを見て楽しむことができる。
これまで商業施設へ来なかったであろう人たちもコミュニティの活動を目当てにマルヤガーデンズへ来てくれることになると思います。
また、こうした取り組みはいずれ「活動する側」にとっても「それを楽しみにマルヤガーデンズへ来る側」にとっても、マルヤガーデンズが自分にとって「無くてはならない存在」になることを助長するだろうと思います。
民間が公共的な役割を果たすことの重要性は、「地域にとって無くてはならない存在になること」にあると考えています。


−今回のマルヤガーデンズのプロジェクトで誕生したコミュニティが今後自立してコミュニティ活動を継続・定着させるために今後どのようなことが必要になってくるのでしょうか。
山崎:
1番目はコミュニティ同士のコラボレーションプログラムを開発すること。
単独で活動するのもいいが、ほかのコミュニティとコラボレーションすることによってさらに豊かなプログラムが誕生するだろうと思います。
2番目はコミュニティとテナントとのコラボレーションプログラムを開発すること。
コミュニティ同士のコラボレーションでは生み出せない価値をテナントとコラボして生み出すことができるだろうと思います。
3番目は既存のコミュニティだけでなく、1人だけど何かしたいという人たちに集まってもらって、新しいコミュニティ(マルヤガーデンズオリジナルコミュニティ)をうみだすこと。
ほかで活動していた人がマルヤガーデンズで何かするというだけでなく、マルヤガーデンズがあるからこそ誕生したというコミュニティを増やしていき、こうしたオリジナルコミュニティが、マルヤガーデンズでコミュニティが活動する際の基準をつくりあげてくれるものと考えます。
−コミュニティの人たちの反応や具体的な活動の広がり、関係者の声なども含めたマルヤガーデンズのプロジェクトをお話してもらえないでしょうか?
山崎:
ワークショップを実施しているときは半信半疑だった人が多かったようです。オープンした後、ガーデンで活動している人たちを回るとみんな口々に「本当にこんなことができるとは思っていませんでした!!」とおっしゃっていました。確かに信じられないことだったのでしょう。
鹿児島の一等地、天文館の三越が新しくなるという場所で、テナントが借りれば坪何万とするような家賃のガーデンを、自分たちが決めた金額で借りることができるというのは、疑いたくなるような話です。また、必要な備品があればマルヤガーデンズ側がある程度は揃えてくれる。オープンしたらこれまで体験したことのないくらいのお客様が自分たちの活動を見に来る。体験しに来る。すでにほかの団体から「どうやればガーデンを借りられるのか」という問合せがたくさん寄せられています。


また、各団体は自分たちで決めたルールをしっかり守って活動しています。ワークショップを通じて、ガーデンの利用料金や利用ルールをみんなで話し合って決めたので、自分たちが決めたルールはきちんと守ろうという意識が高いようです。
今後はワークショップを経験していない新しいコミュニティが関わってくることになります。そのために、ルールが一目で分かるような冊子やウェブが必要になります。
また、新しいコミュニティの活動内容がお客様に迷惑をかけない内容になっているかどうかを確認する「マルヤガーデンズコミッティ」も誕生しました。ここには丸屋本社のスタッフだけでなく、市役所のまちづくり協働課、マルヤガーデンズ周辺地区の商店街組合会長、鹿児島大学の教員、そしてディレクションを担当したナガオカさん、そして山崎が関わっています。
毎月開催されるコミッティにおいて、コミュニティの活動において懸案事項となった項目について話し合うことになっています。
2.これからのまちづくりとランドスケープ活動
−山崎さんは、全国各地でコミュニティマネジメントを通じて集落での地域づくりなどを進めていますが、今回の中心市街地でのマルヤガーデンズとはまた違った課題があると思います。今後ランドスケープがコミュニティ問題や集落を含めた地域づくりに関わっていく中で、どんなことが求められると思いますか。
山崎:
ランドスケープデザインが風景をデザインすることであれば、その方法は2種類あると思います。
1つは風景自体を美しくつくること。
もうひとつは結果的に風景に影響を与える活動自体を生み出すこと。
集落の風景づくりは、そこに美しい石積みを再現しただけでは持続しません。集落が困っていることはそういうこととは別の次元にあります。耕作放棄地や管理放棄林、空き家や空き地、仕事、子育てなど、単に美しい風景を誰かがやってきてつくったというだけでは持続しない(生活に関係の無い)ものになってしまう。
生活における課題を解決しながら風景を生み出すというプロセスが必要です。美しい石積みを再生しようとか、竹林や里山を間伐しようとか、河川を多自然型護岸に変えようとか、外部からきた専門家がその場限りで風景をつくって帰っても、集落の生活における課題を解決しないままでは元の風景に戻ります。
話し合うこと、課題をあぶりだすこと、問題構成を明らかにすること、人間関係を明らかにすること、人目を気にせず生活者自身がアクションを起こせる状況をつくりだすことなどがとても重要です。それが間接的に風景づくりに関係しているとすれば、ランドスケープデザイナーがそのことに関わる意味はあると考えています。
−最後に、これからstudio-Lが目指すランドスケープや試みについて教えてください。
山崎:
国家と個人がダイレクトに契約しなければならない社会は「生きにくい」状況を生み出しやすい。国家と個人の間に「個人の集団」を生み出したいと考えています。
つまり「公」と「私」の間に「共」を生み出して、「私」としての個人は主体的に「共」へと関わることによって「公」に貢献するという構図をつくりだしたい。
個人(私)がコミュニティ(共)の活動を通じて風景(公)を生み出すようなプロセスをデザインしたい。そのために個人(私)の生活を応援すべきであれば特産品開発やパッケージデザイン、都市部での販路開拓、離島カフェなどに携わりたいです。
コミュニティ(共)の活動を支援すべきであればパークマネジメントの仕組みをつくったり、新たなNPO法人を生み出したり、企業とコミュニティとの関わり方を整理したい。住民の参加による総合計画の策定を手伝いたい。主体的な市民を生み出したい。
こうした「共」の関係性は、特に都市部で希薄になった人間関係を回復させることに寄与しています。また、地方自治体の財源が縮小する時代における公共的な事業の担い手になりえます。僕たちはこうした「共」的なコミュニティを生み出したり、既存コミュニティとの関係性を整理したり、複数のコミュニティ間の合意形成を図ったりします。
また、住民参加はかなりのレベルまで来ている地域でも、「行政参加」がマズイ場合ということがよくあります。公共的な事業に対する「行政参加」を充実させたいですね。いまや市民参加はランドスケープ分野だけでなく福祉、教育、環境、産業など、あらゆる分野で求められている。
結果としてできあがるものが風景だから、それぞれの分野が健康でなければ健康な風景は生まれません。そのためには、何よりもまず主体的な生活者(市民)をひとりでも増やすことが重要です。そこで生活する人の意識が変わり、行動を起こさなければ持続的な変化は期待できないし、生きられる風景も望めません。
それを生み出す手伝いであれば、住民参加のプロセスであれ行政参加のプロセスであれ、どんどん関わっていきたいと思っています。
>プロフィール&プロジェクト概要


コメント
コメント一覧 (1)