2020年04月23日
[対談企画] 新・ランドスケープアーキテクトが「技術士」になる方法
◇ 今回の対談記事は、2020年4月23日発刊「LANDSCAPE DESIGN No.132」(マルモ出版)に掲載された「新・ランドスケープアーキテクトが「技術士」になる方法」のWEB版となります。(一部内容の変更があります)
今回、マルモ出版のご好意により、MEDIAMIXとして本記事の対談内容の同時公開が実現しました。
世界ではランドスケープアーキテクト(以下、造園家)の活躍の場が、都市や農村、森林領域にも広がりつつあります。しかし国内では、公共事業の技術評価や造園コンサルタントの領域が限定的であるため、造園家が活躍すべき広い領域への事業参入は難しい状況となっています。
今回、造園家のための技術士取得書籍である「ランドスケープアーキテクトが『技術士』になる方法」の著者である和田淳さんと、造園家の立場で技術士の複数分野に合格されている宮川央輝さんに、造園家がより幅広い領域で、技術士資格を取得すべき必要性と、その取得内容について語り合ってもらいます。
はじめに
司会:マルモ出版編集部(以下、司会):
宮川さんは和田さんとの奇跡的な出会いがあったと聞きましたが、そのことからお話してもらえますか。
宮川:
私は、29歳の時に初めて技術士試験に挑戦しました。当時、私の周りには技術士の方が誰一人おられず、そんな時に、和田さんの著書「ランドスケープアーキテクトが『技術士』になる方法」に出会いました。この本がなければ、右往左往するだけで、まともに対策もとれなかったと思います。以降、この本の著者は私の恩人となりました(笑)。
その後、どうしてもお礼を伝えたかったので、ネットで所在を調べて連絡させて頂きました。そして、昨年末、森林部門の筆記試験に合格して口頭試験のために上京した際に、初めてお会いすることが出来ました。
和田:
宮川さんから突然ご連絡をいただいた時は、この本の事をすっかり忘れていたもので、ただビックリしました。私が考えもしなかった時と場所で、恩人になっていたとは(笑)。
この本は22年前の転職期間中に執筆したもので、宮川さんという才能豊かな方の、技術士受験の起爆材となっていたことに、いまさらながら執筆してよかったと感じています。
1. 造園家による技術士取得の必要性
司会:
宮川さんは、既に複数、技術士を取得している訳ですね。お二人は、造園家にとって技術士という資格の必要性について、どの様にお考えですか。
宮川:
私は建設、農業、環境、総合技術監理の4部門7分野で、技術士登録しています。
この技術士資格は、公共事業の入札基準において特に高く評価され、建設コンサルタントに対して、部門分野ごとに取得が求められ、実質的な参入の要件になっています。
技術士の試験は合格率15%前後と、難関国家資格の1つとして扱われています。最近、社会基盤整備において環境との結びつきが強く認識されており、造園家にとって今が技術士を取得するチャンスだと思っています。
和田:
私も、造園家が活躍できる領域を広げるため、技術士の資格は必要不可欠であると考えています。
技術士と同様な資格として、一般社団法人建設コンサルタンツ協会が実施するシビルコンサルティングマネージャ(RCCM)と、一般社団法人ランドスケープコンサルタンツ協会が実施する登録ランドスケープアーキテクト(以下、RLA)の資格があります。
どちらも特徴ある有意義な資格ですが、国や自治体のプロポーザルにおいて、技術士資格の方が高く評価されています。
宮川:
逆に言うと資格さえ取れれば、これまで造園家が参入できなかった、河川分野での川まちづくりや、道路分野でのウォーカブルシティを支えるストリートデザインなどについて、造園家が活躍できる領域を広げることが可能となります。
現在ではRLAによって、造園家の領域や資質の向上も担保されるようになりました。そのため、RLAで造園家としての力を伸ばすとともに、さまざまな分野と連携・協力し、それぞれの分野で広く責任を果たせるランドスケープ技術士を目指して欲しいと思っています。
2.時代とともに変化した技術士試験
司会:
現在の技術士試験は、和田さんが受験された時と大きく変化し、宮川さんが受験されている内容と異なっていると聞きます。そのことについて教えてください。
宮川:
私は平成16 年から昨年まで、技術士試験を受験しています。特に現在と過去との大きな違いは、最大の難関であった経験論文が、今は受験申し込み時に経歴と一緒に「業務内容の詳細」として事前提出することに変わりました。
また、現在の技術士第二次試験は、必須科目(2時間)と選択科目(3 時間半)と時間的にも短くなっています。ですから和田さんが受験された時より、かなり状況は変わっていますね。
和田:
うーん。あの経験論文の記述にどれだけ苦しんだものか。無くなったことで、受験者の負担を軽減することが出来ましたね。
しかし、経験論文は提出方法が変更されても、口頭試験での評価の重要な資料となります。また、技術士論文は、準備と思考にどれだけ時間をかけて記述しているかが評価されることとなります。
昔の話ですが、経験論文を作成し、先輩のアドバイスなどを受けて10 数回書き直しました。なんとなくですが、書き直すたびに、どう修正すればいいのかが分かってきた記憶があります。皆さんには業務内容の詳細についてもなおざりにするのではなく、熟考いただきたいものです。
宮川:
まさにそのとおりですね。特に試験月が7月と、昔に比べて1ヶ月早くなっています。受験申込時には、確かに経験論文の添削も受けた上で提出したほうが良いので、早めの準備が大事だと思います。
そして出題形式も変化が見られます。論文構成も細かく指定されるようになって、記述の自由度が無くなっています。その分、設問の条件にしっかり呼応して回答できるかが、合否に大きく関わっていると思います。
和田:
そうですか。今、私が受験したならば合格できそうにありませんね。情報社会の昨今においては、国、自治体、民間の日々の動向が情報開示されており、専門論文を記述するに際しても、多くの情報の中から的確に必要な情報を捉える事が求められるのでしょうね。
3.受験の問題点と資格対策のコツ
司会:
造園家にとっては、技術士のどの部門を選択されるか、どの専門分野を選択されるかが重要なポイントとなるのでしょうか。
和田:
多くの造園家の方々は、建設部門と環境部門のどちらかを選択されており、その中でも建設部門の都市及び地方計画を選ばれる方が多い傾向にあります。
造園家が担うべき国土交通省や自治体の関連するプロポーザルや業務履行において、技術士の資格要件の殆どが建設部門:都市及び地方計画であり、最近では建設部門:建設環境を併記される場合も多くみられます。
このため、受験される皆様の実績や未来に向けた展開に基づき、建設部門の建設環境などの各分野や、環境・農業・森林などの他部門を選択することも考えられるべきです。
宮川:
例えば、ルーラルランドスケープを目指したい造園家が、河川や農村部で自然と共生した空間を創造したいと願っても、公共事業での発注において、建設部門の都市及び地方計画の資格だけでは参入できないことがあります。
私は他にも1級ビオトープ管理士も取得して、その知識や技術も習得しましたが、実際の受注においては参加資格や技術力評価に該当しないことが多くありました。
和田:
ご自分が「10 年後・20 年後、造園家としてどの様に活躍をしているのか」を夢見ることが重要となります。自分がこうなりたいと強く思うと、それは実現するというじゃありませんか。私は歳を取ったため夢を抱くことはなくなりましたが(笑)、皆さんにはどんどん見てもらいたいものですね。
宮川:
私はその和田さんの夢に誘われた人間ですよ!(笑)
技術士は、公的資格として領域を広げ、専門や業種を超えてさまざまな部門の技術者とつながるパスポートになりますので、夢を叶えるため技術士資格を取るという選択肢は、大いにあると思っています。
司会:
これから技術士を受験される方に、受験対策のコツといいますか、考えるべきポイントを教えてもらえますか。
宮川:
まずは「技術士ってなに?」ということから、探るといいと思います。技術士は、幅広い技術分野でリーダーシップを発揮するための資格であり、そのために必要な能力が求められています。
ここでよく勘違いされるのですが、技術士が求める経験や能力は、決してビッグプロジェクトを指すものでも、困難な業務を指すものでもありません。私がこれまで取得した部門分野で、記載した「専門とする事項」と「経験論文のテーマ」をまとめてみましたので参考にしてください。
どの部門分野に対しても、造園家の皆さんが日頃業務を履行されている内容とそう変わらないと思います。それでも十分に技術士にふさわしい経歴として評価を受けてきました。
和田:
宮川さんの経験論文のテーマを見させてもらい、やはり造園家の皆さんは多部門多分野の受験が可能であることを実感いたしました。造園家の皆さんが日頃実施されている業務実績が、そのまま多部門多分野の受験実績となることを、もっと知ってもらう必要がありますね。
宮川:
はい、そうですね!
もちろん、それぞれの部門の技術体系に合わせて書き方も工夫していく必要はありますが、環境や景観、地域性を大切にする視点は、各部門の共通事項だと思っています。
そして技術士は、知識量や経験の量だけが問われる資格ではなく、自身がもつ技術が広く社会に貢献できるかを自覚し、それを誰にでもわかりやすく伝達する意志と能力があれば、技術士としてスタート地点に立てる!と思っています。
和田:
試験官経験者の方の話を伺うと、解答論文の頭2〜3行を読んだだけで、合否が判断できるとのことでした。一日に何百件もの論文に目を通すのですから、卓越されますよね。ちなみに、解答論文は必ず最後まで読み切り、手抜きはされていないとのことです(笑)。
技術士受験をお考えの方は、「これから何か月間かハードな受験勉強期間を克服する」と心に誓い、日常の業務は必ず履行するとともに、その業務の一環として「技術士としてどうあるべきか」を絶えずお考え続けていただきたいと思います。
さらに、ご自分の過去を振り返り、技術者として何を行ってきたかを再認識することも、技術士受験の重要なプロセスとなります。
4. 造園家は複数部門を目指せ
司会:
宮川さんは、技術士の4部門7分野を取得されましたが、なぜ技術士の複数部門にチャレンジされたのか、都市計画分野だけに限定してもいいのではありませんか。
宮川:
私も最初に取得したのは、建設部門の都市及び地方計画でした。しかし、合格の喜びよりも「自分が造園家として叶えたかった領域に比べて資格の範囲があまりにも狭すぎる」と不満を感じました。
そこで、環境部門の自然環境保全、農業部門の農村環境を順に取得しました。
実はこの2つの科目は、コンサルタントとしての技術評価点の対象とならないのですが、造園家として<都市+農村+自然>に責任を持ちたいと思っていたものですから、それを国が認めた資格で表現できたことは嬉しかったです。
また、確かに公共の入札制度上、造園コンサルタントの登録が、技術士建設部門の都市及び地方計画だけとなっています。しかし、それは造園の本質ではありませんし、造園の可能性や領域を制度が狭めていると考えました。それならば、その制度自体を利用して、造園家が他の領域に打って出るための武器として「技術士資格」が活用できないか? そんな逆転の発想から私の挑戦が始まり、造園家として受験可能で、実質的に技術評価を受ける分野を取得してきました。
各部門分野の技術士資格を横断的に取得することで、「造園家が大きな責任を果たすことのできる業務」を拡大することが可能となると考えています。
司会:
造園家の立場で、技術士の複数部門を取得された結果、どのようなことが生じていますか。
宮川:
まず、造園のあり方を、土木をはじめ他の分野の技術士の方々に、説明することが非常に楽になりました。縦割りの技術領域を超えて造園技術の活用を聞いてもらえるようになったと実感しています。
さらに、さまざまな分野の方々との技術交流を育む機会が増えました。そうした交流や視点は、私が造園家としての自信にもなっています。
特に、現代社会では環境や景観の重要性が当たり前のように認識されています。さらにグリーンインフラも本格化しており、「造園家の知恵と技術」そのものが、技術士に求められる「高度な応用能力」だと私は思っています。
だからこそ、造園家の誇りを持って、複数部門の技術士にも挑戦していただきたいと思っています。
司会:
宮川さんは、造園家は多部門分野の技術士を目指すべきとのスタンスでおられますが、その事について、和田さんはどのように考えておられますか。
和田:
私は総合技術監理部門と建設部門しか達成することが出来ませんでした。今からでも多部門分野の技術士試験にトライしてみようかな、体力的に無理かな(笑)。
宮川さんは見事4部門7分野を達成され、まさに造園家の皆さんが「目指すべき目標像」ではないでしょうか。私には困難ではありますが(笑)、多部門分野の技術士資格を取得することにより、造園家が都市及び農村空間の総合プロデューサーとなりうることが可能となるからです。
例えば建築群を設計する際には、マスターアーキテクトの存在が不可欠となります。同様に、都市・農村空間において、造園家だけがマスターランドスケープアーキテクトとして、総合的に空間を判断する知恵を有しているからです。現代社会は環境への負荷を軽減することが最優先課題となっており、これを解決することが出来るのは造園家以外いないと思っています。
宮川:
私も強くそう考えています。また技術士には、アジア太平洋地域で活躍する国際資格、APECエンジニアの道も開かれます。今後、造園家が幅広く活躍するためのパスポートの1つとして技術士多部門の取得を考えてもらいたいと思います。全国の造園家の技術士の方々と新たな挑戦ができることを楽しみにしています。
司会:
今後ともお二人には、造園家が「技術士」になるための支援活動を行っていただきたいと考えております。本対談に対する感想や、具体的な技術士資格取得の支援活動の内容への要望などについて、ご意見、ご感想をお寄せください。
今回、マルモ出版のご好意により、MEDIAMIXとして本記事の対談内容の同時公開が実現しました。
世界ではランドスケープアーキテクト(以下、造園家)の活躍の場が、都市や農村、森林領域にも広がりつつあります。しかし国内では、公共事業の技術評価や造園コンサルタントの領域が限定的であるため、造園家が活躍すべき広い領域への事業参入は難しい状況となっています。
今回、造園家のための技術士取得書籍である「ランドスケープアーキテクトが『技術士』になる方法」の著者である和田淳さんと、造園家の立場で技術士の複数分野に合格されている宮川央輝さんに、造園家がより幅広い領域で、技術士資格を取得すべき必要性と、その取得内容について語り合ってもらいます。
はじめに
司会:マルモ出版編集部(以下、司会):
宮川さんは和田さんとの奇跡的な出会いがあったと聞きましたが、そのことからお話してもらえますか。
宮川:
私は、29歳の時に初めて技術士試験に挑戦しました。当時、私の周りには技術士の方が誰一人おられず、そんな時に、和田さんの著書「ランドスケープアーキテクトが『技術士』になる方法」に出会いました。この本がなければ、右往左往するだけで、まともに対策もとれなかったと思います。以降、この本の著者は私の恩人となりました(笑)。
その後、どうしてもお礼を伝えたかったので、ネットで所在を調べて連絡させて頂きました。そして、昨年末、森林部門の筆記試験に合格して口頭試験のために上京した際に、初めてお会いすることが出来ました。
和田:
宮川さんから突然ご連絡をいただいた時は、この本の事をすっかり忘れていたもので、ただビックリしました。私が考えもしなかった時と場所で、恩人になっていたとは(笑)。
この本は22年前の転職期間中に執筆したもので、宮川さんという才能豊かな方の、技術士受験の起爆材となっていたことに、いまさらながら執筆してよかったと感じています。
1. 造園家による技術士取得の必要性
司会:
宮川さんは、既に複数、技術士を取得している訳ですね。お二人は、造園家にとって技術士という資格の必要性について、どの様にお考えですか。
宮川:
私は建設、農業、環境、総合技術監理の4部門7分野で、技術士登録しています。
この技術士資格は、公共事業の入札基準において特に高く評価され、建設コンサルタントに対して、部門分野ごとに取得が求められ、実質的な参入の要件になっています。
技術士の試験は合格率15%前後と、難関国家資格の1つとして扱われています。最近、社会基盤整備において環境との結びつきが強く認識されており、造園家にとって今が技術士を取得するチャンスだと思っています。
和田:
私も、造園家が活躍できる領域を広げるため、技術士の資格は必要不可欠であると考えています。
技術士と同様な資格として、一般社団法人建設コンサルタンツ協会が実施するシビルコンサルティングマネージャ(RCCM)と、一般社団法人ランドスケープコンサルタンツ協会が実施する登録ランドスケープアーキテクト(以下、RLA)の資格があります。
どちらも特徴ある有意義な資格ですが、国や自治体のプロポーザルにおいて、技術士資格の方が高く評価されています。
宮川:
逆に言うと資格さえ取れれば、これまで造園家が参入できなかった、河川分野での川まちづくりや、道路分野でのウォーカブルシティを支えるストリートデザインなどについて、造園家が活躍できる領域を広げることが可能となります。
現在ではRLAによって、造園家の領域や資質の向上も担保されるようになりました。そのため、RLAで造園家としての力を伸ばすとともに、さまざまな分野と連携・協力し、それぞれの分野で広く責任を果たせるランドスケープ技術士を目指して欲しいと思っています。
2.時代とともに変化した技術士試験
司会:
現在の技術士試験は、和田さんが受験された時と大きく変化し、宮川さんが受験されている内容と異なっていると聞きます。そのことについて教えてください。
宮川:
私は平成16 年から昨年まで、技術士試験を受験しています。特に現在と過去との大きな違いは、最大の難関であった経験論文が、今は受験申し込み時に経歴と一緒に「業務内容の詳細」として事前提出することに変わりました。
また、現在の技術士第二次試験は、必須科目(2時間)と選択科目(3 時間半)と時間的にも短くなっています。ですから和田さんが受験された時より、かなり状況は変わっていますね。
和田:
うーん。あの経験論文の記述にどれだけ苦しんだものか。無くなったことで、受験者の負担を軽減することが出来ましたね。
しかし、経験論文は提出方法が変更されても、口頭試験での評価の重要な資料となります。また、技術士論文は、準備と思考にどれだけ時間をかけて記述しているかが評価されることとなります。
昔の話ですが、経験論文を作成し、先輩のアドバイスなどを受けて10 数回書き直しました。なんとなくですが、書き直すたびに、どう修正すればいいのかが分かってきた記憶があります。皆さんには業務内容の詳細についてもなおざりにするのではなく、熟考いただきたいものです。
宮川:
まさにそのとおりですね。特に試験月が7月と、昔に比べて1ヶ月早くなっています。受験申込時には、確かに経験論文の添削も受けた上で提出したほうが良いので、早めの準備が大事だと思います。
そして出題形式も変化が見られます。論文構成も細かく指定されるようになって、記述の自由度が無くなっています。その分、設問の条件にしっかり呼応して回答できるかが、合否に大きく関わっていると思います。
和田:
そうですか。今、私が受験したならば合格できそうにありませんね。情報社会の昨今においては、国、自治体、民間の日々の動向が情報開示されており、専門論文を記述するに際しても、多くの情報の中から的確に必要な情報を捉える事が求められるのでしょうね。
3.受験の問題点と資格対策のコツ
司会:
造園家にとっては、技術士のどの部門を選択されるか、どの専門分野を選択されるかが重要なポイントとなるのでしょうか。
和田:
多くの造園家の方々は、建設部門と環境部門のどちらかを選択されており、その中でも建設部門の都市及び地方計画を選ばれる方が多い傾向にあります。
造園家が担うべき国土交通省や自治体の関連するプロポーザルや業務履行において、技術士の資格要件の殆どが建設部門:都市及び地方計画であり、最近では建設部門:建設環境を併記される場合も多くみられます。
このため、受験される皆様の実績や未来に向けた展開に基づき、建設部門の建設環境などの各分野や、環境・農業・森林などの他部門を選択することも考えられるべきです。
宮川:
例えば、ルーラルランドスケープを目指したい造園家が、河川や農村部で自然と共生した空間を創造したいと願っても、公共事業での発注において、建設部門の都市及び地方計画の資格だけでは参入できないことがあります。
私は他にも1級ビオトープ管理士も取得して、その知識や技術も習得しましたが、実際の受注においては参加資格や技術力評価に該当しないことが多くありました。
和田:
ご自分が「10 年後・20 年後、造園家としてどの様に活躍をしているのか」を夢見ることが重要となります。自分がこうなりたいと強く思うと、それは実現するというじゃありませんか。私は歳を取ったため夢を抱くことはなくなりましたが(笑)、皆さんにはどんどん見てもらいたいものですね。
宮川:
私はその和田さんの夢に誘われた人間ですよ!(笑)
技術士は、公的資格として領域を広げ、専門や業種を超えてさまざまな部門の技術者とつながるパスポートになりますので、夢を叶えるため技術士資格を取るという選択肢は、大いにあると思っています。
司会:
これから技術士を受験される方に、受験対策のコツといいますか、考えるべきポイントを教えてもらえますか。
宮川:
まずは「技術士ってなに?」ということから、探るといいと思います。技術士は、幅広い技術分野でリーダーシップを発揮するための資格であり、そのために必要な能力が求められています。
ここでよく勘違いされるのですが、技術士が求める経験や能力は、決してビッグプロジェクトを指すものでも、困難な業務を指すものでもありません。私がこれまで取得した部門分野で、記載した「専門とする事項」と「経験論文のテーマ」をまとめてみましたので参考にしてください。
どの部門分野に対しても、造園家の皆さんが日頃業務を履行されている内容とそう変わらないと思います。それでも十分に技術士にふさわしい経歴として評価を受けてきました。
和田:
宮川さんの経験論文のテーマを見させてもらい、やはり造園家の皆さんは多部門多分野の受験が可能であることを実感いたしました。造園家の皆さんが日頃実施されている業務実績が、そのまま多部門多分野の受験実績となることを、もっと知ってもらう必要がありますね。
宮川:
はい、そうですね!
もちろん、それぞれの部門の技術体系に合わせて書き方も工夫していく必要はありますが、環境や景観、地域性を大切にする視点は、各部門の共通事項だと思っています。
そして技術士は、知識量や経験の量だけが問われる資格ではなく、自身がもつ技術が広く社会に貢献できるかを自覚し、それを誰にでもわかりやすく伝達する意志と能力があれば、技術士としてスタート地点に立てる!と思っています。
和田:
試験官経験者の方の話を伺うと、解答論文の頭2〜3行を読んだだけで、合否が判断できるとのことでした。一日に何百件もの論文に目を通すのですから、卓越されますよね。ちなみに、解答論文は必ず最後まで読み切り、手抜きはされていないとのことです(笑)。
技術士受験をお考えの方は、「これから何か月間かハードな受験勉強期間を克服する」と心に誓い、日常の業務は必ず履行するとともに、その業務の一環として「技術士としてどうあるべきか」を絶えずお考え続けていただきたいと思います。
さらに、ご自分の過去を振り返り、技術者として何を行ってきたかを再認識することも、技術士受験の重要なプロセスとなります。
4. 造園家は複数部門を目指せ
司会:
宮川さんは、技術士の4部門7分野を取得されましたが、なぜ技術士の複数部門にチャレンジされたのか、都市計画分野だけに限定してもいいのではありませんか。
宮川:
私も最初に取得したのは、建設部門の都市及び地方計画でした。しかし、合格の喜びよりも「自分が造園家として叶えたかった領域に比べて資格の範囲があまりにも狭すぎる」と不満を感じました。
そこで、環境部門の自然環境保全、農業部門の農村環境を順に取得しました。
実はこの2つの科目は、コンサルタントとしての技術評価点の対象とならないのですが、造園家として<都市+農村+自然>に責任を持ちたいと思っていたものですから、それを国が認めた資格で表現できたことは嬉しかったです。
また、確かに公共の入札制度上、造園コンサルタントの登録が、技術士建設部門の都市及び地方計画だけとなっています。しかし、それは造園の本質ではありませんし、造園の可能性や領域を制度が狭めていると考えました。それならば、その制度自体を利用して、造園家が他の領域に打って出るための武器として「技術士資格」が活用できないか? そんな逆転の発想から私の挑戦が始まり、造園家として受験可能で、実質的に技術評価を受ける分野を取得してきました。
各部門分野の技術士資格を横断的に取得することで、「造園家が大きな責任を果たすことのできる業務」を拡大することが可能となると考えています。
司会:
造園家の立場で、技術士の複数部門を取得された結果、どのようなことが生じていますか。
宮川:
まず、造園のあり方を、土木をはじめ他の分野の技術士の方々に、説明することが非常に楽になりました。縦割りの技術領域を超えて造園技術の活用を聞いてもらえるようになったと実感しています。
さらに、さまざまな分野の方々との技術交流を育む機会が増えました。そうした交流や視点は、私が造園家としての自信にもなっています。
特に、現代社会では環境や景観の重要性が当たり前のように認識されています。さらにグリーンインフラも本格化しており、「造園家の知恵と技術」そのものが、技術士に求められる「高度な応用能力」だと私は思っています。
だからこそ、造園家の誇りを持って、複数部門の技術士にも挑戦していただきたいと思っています。
司会:
宮川さんは、造園家は多部門分野の技術士を目指すべきとのスタンスでおられますが、その事について、和田さんはどのように考えておられますか。
和田:
私は総合技術監理部門と建設部門しか達成することが出来ませんでした。今からでも多部門分野の技術士試験にトライしてみようかな、体力的に無理かな(笑)。
宮川さんは見事4部門7分野を達成され、まさに造園家の皆さんが「目指すべき目標像」ではないでしょうか。私には困難ではありますが(笑)、多部門分野の技術士資格を取得することにより、造園家が都市及び農村空間の総合プロデューサーとなりうることが可能となるからです。
例えば建築群を設計する際には、マスターアーキテクトの存在が不可欠となります。同様に、都市・農村空間において、造園家だけがマスターランドスケープアーキテクトとして、総合的に空間を判断する知恵を有しているからです。現代社会は環境への負荷を軽減することが最優先課題となっており、これを解決することが出来るのは造園家以外いないと思っています。
宮川:
私も強くそう考えています。また技術士には、アジア太平洋地域で活躍する国際資格、APECエンジニアの道も開かれます。今後、造園家が幅広く活躍するためのパスポートの1つとして技術士多部門の取得を考えてもらいたいと思います。全国の造園家の技術士の方々と新たな挑戦ができることを楽しみにしています。
司会:
今後ともお二人には、造園家が「技術士」になるための支援活動を行っていただきたいと考えております。本対談に対する感想や、具体的な技術士資格取得の支援活動の内容への要望などについて、ご意見、ご感想をお寄せください。